■あなたも知らぬうちに「誰かの尼ロック」になっていると思います
Contents
■オススメ度
関西人情系映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.4.20(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、119分、G
ジャンル:65歳の父と20歳の新婦の結婚生活に巻き込まれる39歳の娘を描いたヒューマンドラマ
監督:中村和宏
脚本:西井史子
キャスト:(わかった分だけ)
江口のりこ(近松優子:竜太郎の娘、39歳、元エリート会社員→無職)
(幼少期:後野夏陽)
(高校時代:別所美紀?)
中条あやみ(相澤早希/近松早希:竜太郎の再婚相手、20歳、元市役所職員)
(幼少期:黒崎紗良?)
笑福亭鶴瓶(近松竜太郎:20歳の女性と再婚する能天気な父、65歳、鉄工所の社長)
(若年期:松尾諭)
中村ゆり(近松愛子:竜太郎の亡き妻)
中林大樹(南雲広樹:優子のお見合い相手、世界を股にかける商社マン)
紅壱子(南雲京子:広樹の母)
駿河太郎(鮎川太一:優子の同級生、おでんの屋台)
(幼少期:宇治本竜ノ介)
高畑淳子(優子の恩師、高校教師)
久保田磨希(昌子:竜太郎の工場の従業員、経理)
佐川満男(高橋鉄蔵:竜太郎の工場の従業員、鉄鋼加工)
朝田淳弥(大塚孝弘:工場の従業員、期待のホープ)
浜村淳(優子の東京時代の会社の社長)
堺和美咲(噂話をする優子の会社のOL)
山本真菜(白石真由美:噂話をする優子の会社のOL)
佐渡山順久(優子の東京時代の上司)
しまずい香奈(優子の東京時代の同僚)
中村凛太郎(葛原:優子の東京時代のダメ出しされる同僚)
真丸(優子の東京時代の同僚)
河井蘭(谷口文:小学校時代のクラスメイト)
橋本季依(岩崎志乃:優子の小学校時代のクラスメイト)
中谷悠希(優子が算数を教える男の子)
岩崎益士(優子が算数を教える男の子?)
寺田光(コンビニの店員?)
後藤健司(竜太郎の友人、商店街のヒゲ親父)
南谷峰洋(竜太郎の友人、商店街のメガネ)
峰松布美(優子の大学時代のボート部の部長)
西村こころ(カフェのウェイトレス)
佐々木瞳(早希の市役所時代の同僚)
バビヨンズちよみ(竜太郎の友人、オレンジパーマ)
代走みつくに(竜太郎の友人?)
華井二等兵(竜太郎の友人、釣り人)
河田直也(テレビ番組のアナウンサー)
上田悦子(会社の表彰式の司会)
竹本玲美(劇中のピアノ演奏)
■映画の舞台
兵庫県:尼崎市
ロケ地:
兵庫県:尼崎市
尼崎城
https://maps.app.goo.gl/M6zG6aJP5J6u4vFr6?g_st=ic
如来院
https://maps.app.goo.gl/PA7nMR4dvPBkZNLr6?g_st=ic
くすのきや食堂
https://maps.app.goo.gl/uBWU992zpb6CNN8r6?g_st=ic
ケーキハウス ショウタニ 武庫之荘本店
https://maps.app.goo.gl/gd4n6QoyZZ8JgXfm9?g_st=ic
第一敷島湯
https://maps.app.goo.gl/7kcaDJYHMjtFtpk17?g_st=ic
灘丸山公園
https://maps.app.goo.gl/EmCGUrqX7gUuNrtNA?g_st=ic
神戸セントモルガン教会
https://maps.app.goo.gl/QU941Ys7qhh71VkNA?g_st=ic
メリケンパーク
https://maps.app.goo.gl/wchhFDLKYzgwQPHU9?g_st=ic
北堀運河遊歩道
https://maps.app.goo.gl/yxWy9ditkJpBHspd9?g_st=ic
尼ロック(尼崎閘門)
https://maps.app.goo.gl/p7cK1gxkVjzczr1X9?g_st=ic
尼崎市立魚つり公園
https://maps.app.goo.gl/3drXkiz9VbiyaY1t6?g_st=ic
讃岐うどん はるしん
https://maps.app.goo.gl/3E8C5eDHUB31EM5P7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
兵庫県尼崎に住んでいる鉄工所の社長の娘・優子は、ぐうたらで働かない父を反面教師として、京都大学を卒業し、立派な社会人として東京の企業で働いていた
父・竜太郎は「ワシはこの家の尼ロックや」というのが口癖で、小学校の作文コンクールでは「尼ロックと父」について書かされていた
優子が20歳になった頃、母・愛子は病気で他界してしまい、大学を出てから離れて暮らしていた
社内でも成績優秀で表彰を受けるものの、ある日突然リストラ宣告を受けてクビになってしまう
やむを得ずに実家に帰った優子を、父は「祝・リストラ」と言って笑って出迎え、それから優子は数年もの間、仕事に就くこともなく、ダラダラと過ごしていた
ある日、父から「再婚する」と告げられた優子は、連れてきた女性・早希の若さに「連れ子か、隠し子か?」と迫る
だが、その早希こそが父の再婚相手で、65歳と20歳という組み合わせに驚愕してしまう
早希は「家庭を大事にしたい」と言い、朝食と夕食は一緒に食事をしたいと言い出す
だが、早希のテンションについていけない優子は、幼馴染の太一のおでん屋で酒を引っ掛け続ける日々を繰り返してしまうのである
テーマ:家族とは何か
裏テーマ:人生に起こることは楽しまなきゃいかん
■ひとこと感想
歳の差再婚に戸惑う行き遅れの娘が主人公で、自分よりも二回り近い年下が母親になって困惑する様子が描かれていました
予告編で大体ネタバレしていますが、肝心なところは見事に隠してあるので、結構なサプライズがあったと思います
なので、あまりネタバレなしで鑑賞した方が良い作品だと言えます
映画は、家族の団欒を大切にしたい20歳と、いい加減な父親にうんざりしている娘が衝突する内容ですが、親子喧嘩で修羅場になるという感じではありません
どちらかと言えば「赤の他人なので干渉しないでほしい」というのが本音で、そこにドカドカと踏み込んでくるという流れになっています
予告編でもあるように、父と早希が夫婦になったことで「邪魔者」になるのですが、家族に対する価値観の違いが如実に出ていて、そう言った概念がないのが早希という人物だったように思います
演者も関西人ばかりなので、関西弁の流暢さが凄かったですね
関東の人が聞いて意味が通じるのか分かりませんが、生粋の関西人として気になるようなところはなかったように思います(若干の地域差があって、言い回しが独特なところがありました)
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ネタバレ感想のコーナーではありますが、観た人だけがわかり、観ていない人にはニュアンスが伝われば良いという感じで書くとしましょうか
映画は、家族の団欒を夢見ている若者と、当たり前にあった団欒が無くなって久しい中年が衝突するのですが、家庭に対する概念というものがぶつかり合う内容になっていました
家族は離れたらダメだと思う早希に、離れたら家族ではなくなるのかと返す優子がいて、その言葉が二人の家族観というものを如実に表していたと思います
尼ロックがどのように絡むのかが見どころですが、街にとっての尼ロック、家族にとっての尼ロック、そして会社にとっての尼ロックという感じに、綺麗なまとまりを見せていましたね
親子は似ると言いますが、この絶妙な感じに似ていながら、その根本が違うことがわかるシーンはとても感動的だったと思います
久しぶりに自然と涙が溢れる作品で、良いものを観たなあと感慨深いですね
中条あゆみに20歳は無理というのはわからんでもないですが、25歳ぐらいでも問題なかったんじゃないかなあと思ってしまいました
■尼ロックとは何か
映画に登場する尼ロックこと尼崎閘門(あまがさきこうもん)は、兵庫県尼崎市の尼崎港にある「閘門」のことを言います
「閘門」とは、高低差の大きな水面で、船舶を昇降させるための装置のことを言います
尼崎市では臨海部において、明治後半から工業化が進み、運河を利用した物流が盛んになり始めました
それと同時に工場による地下水の組み上げが続けられて地盤沈下が発生し、市内の3分の1が海面よりも低いゼロメートル地帯となってしまいました
そして、1934年の室戸台風、1950年のジェーン台風などによって深刻な浸水被害が起こるようになりました
これらの浸水対策の一環として、尼崎港の改修が始まり、防潮堤が設置されてきましたが、前述のジェーン台風の被害の経験から、堤防を築く方法ではなく、海岸線全体を覆う大規模な閘門式防潮堤が計画されることになりました
現在では、臨海部の運河および庄下川と逢川と大阪湾を隔てる位置に2基の閘門があり、東側を第一閘門、西側を第二閘門と呼んでいます
扉は扇形をしていて、セクターゲートの開閉によって船舶を通航させるのですが、これはパナマ運河と同じ方式になっています
幅は17m、閘室の長さは90mほどで、深さは6.8mほどあります
施設の見学は可能ですが、平日の団体予約のみとのこと
期間限定で防災展示室や展望デッキに入ることができます
施設に隣接している西側の公園からは、第2閘門の稼働状況が見られるとのことで、一般開放されていない日でも見学するのは可能とのこと
通航に関しての制限などは特に記載がなく、ボートなどで通ったことのある人のブログなどを散策すると、目の前に行ったら開く「らしい」ですね
どこまで本当かわかりませんが、国土交通省のホームページには「施設見学のご案内」ぐらいしか書いていなかったので、真相はわかりません
色々とクリアしないとダメなところはありそうですが、調べ切れないので割愛いたします
■生きていく上で大切なこと
本作は、竜太郎が主人公のように見える作品ですが、実質的には娘・優子が親離れをする物語となっていました
優子から見た父親を前半で描き、後半は彼女の知らない父親像を描いていき、普段何気なく話していた言葉の重みを知る、という内容になっています
竜太郎は「俺は家族の尼ロックなんや」と口癖のように言い、「会社の尼ロック」とも言うのですが、これは「有事の際に動く最後の砦」でもあるし、「有事に向かわないように安全をコントロールする存在」でもあります
娘目線の彼の仕事ぶりは何もしていないように見えますが、役割分担を知っていると、竜太郎の仕事は工場内にはないことがわかります
そんな父親を反面教師として、会社のプレイヤーとし活躍する優子ですが、そんな彼女がリストラの対象になってしまいます
優子は会社で業績を上げてきた人間ですが、広い視野で見ると「いつまでもプレイヤーでいる人間ではない」のですね
いずれ会社を背負っていく人間というものは、部下に仕事をさせるうまさも必要で、他部署間とのつながりであるとか、会社全体の利益というものを見ていく必要があります
社内のある部署で成績を上げても、それは会社の利益のほんのひとかけらでしかなく、彼女が見えていない負の部分(社員が辞めていくことで人材育成費が無駄になっている)というものがありました
そして、彼女がもたらす利益と損失を天秤にかけた結果、京大ボート部の時のようにチームから外されるという結末を迎えます
そんな彼女を「祝・リストラ」と言って迎える父は、「人生に起こることは何でも楽しまなあかん」と言います
そこから自分の実力を過信している優子は泥沼にハマり、やがては「行動だけは父と同じ」ような過程を経ていくように見えます
でも、実際には家庭のお荷物であり、負債以外のなにものでも無いのですが、そんな彼女を父親は暖かい目で見守ります
それは、いずれは自分の工場を継ぐ存在になるのだと予感しているからだと思います
人生を生きていく上で必要なのは、自分の存在意義と必要性が合致する場所を見つけることだと思います
優子の前職は「存在意義も必要性もあった」けど、それが会社の方向性とズレてきて、「存在意義が疎ましく、必要性がマイナス」になっていました
この経験によって、会社の中で必要な要素というものを学んでいくのですが、その後の南雲との出会いで、彼女が「仕事と関わる中で楽しめること」というものを見つけることになります
南雲という聞き上手で、優秀な人材から学びたいという姿勢のある人物と出会えたことも幸いなことであり、彼女の会社における必要なことというものが見えてきた瞬間だったと言えます
優子の特性は、類稀なる知識量と俯瞰して見える業務の実態であると言えます
それを活かせる職種は「現場で実績を上げる社員」では無いのですね
なので、必然として、彼女に覚悟が生まれた瞬間に、鉄工所を引き継ぐという責務が課せられることになったと言えるのでは無いでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、賛否両論の作品になっていて、否定派の多くは「この年齢差の結婚がありえない」という設定に向いていると思います
いくら家庭に憧憬を抱いている20歳でも、定年間近の老人との結婚がありえないという観点なのですが、この時代にこの観点で批判するのはズレていると思います
早希は父親との最悪な関係を過去に持ちますが、同時に父親を支えたいとか、何とかして家庭を維持したいという願望がありました
そんな彼女は、どちらかと言えば「普通の幸せには向かわない人」であり、困難である方向へ向かうことが多いと思います
また、竜太郎が父親には無いものを持っていたこともあって、彼女の中の理想の父親像に近いというところもあったのだと思います
映画は、あえて20歳の美女という設定を作り出し、なぜ20歳が64歳に心を奪われるのかを描いていきます
これまで人生を楽しんで来れなかった女性が、どんな状況でも楽しもうとしている人物に出会うことで、どのようなことも考え方次第で楽しいことだったと思えるようになる
このパラダイムシフトが竜太郎と出会えたことで起こっていて、それを維持したいと思えるようになったのだと考えられます
世の中には色んな存在理由を探している人がいて、それは常識的な関係を凌駕する可能性を秘めています
二人の場合は極端な年齢差が見た目として存在しますが、世の中には「見えない部分でありえない関係」というのは五万とあるので、見えている部分で判断すると、優子のように父親の本質を見ることができなくなってしまいます
映画は、出来としては普通で、うまく作り込んでいると思いますが、やはりメタ構造が奇跡的なものになっていて、それが映画の質を押し上げている部分があると思います
竜太郎の本質を伝える鉄蔵を演じた佐川満男が急逝したのですが、彼が語る言葉にはとても重みがあります
生き残った人はどんなことがあっても人生を楽しまなければいけない
それは竜太郎の言葉ではありますが、佐川満男自身の本音のようにも聞こえてくるのですね
そう言った意味において、あのシーンは色んなものが重なった奇跡的なシーンになっていると思います
また、本作では阪神・淡路大震災が取り上げられていて、このような災害に見舞われる日本人はとても多いのですね
舞台が関西なのでこの地震が取り上げられていますが、関東や東北だと東日本大震災になると思いますし、熊本や新潟、福井などでも同様のことが起こっています
日本は地震列島で、台風などの被害も多い国で、その都度犠牲になっている人がたくさんいる国だと言えます
本作で取り上げられる災害はこの土地だけに起こった出来事でも無いので、同じような境遇に遭われている人はたくさんいます
そう言った意味でも、遺された人に通じる想いというものが重なる部分があって、そこに説教的な思惑が無いことが心を揺さぶる要素となっています
単純な映画の作りとしてはそこまで特筆すべきことがなくても、作品が扱うテーマというのが普遍的なものなので、それを自然と描いていることが感情を揺さぶるのでは無いでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100668/review/03735365/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/amalock/