■台湾に戻った少女ではない理由に、少女の葛藤が滲んでいるような気がします


■オススメ度

 

親子の諍いをテーマにした映画に興味がある人(★★★)

台湾映画に興味のある人(★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.1.11(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題美國女孩(「アメリカの女の子」)、英題:American Girl

情報:2021年、台湾、101分、G

ジャンル:母の病気の都合でアメリカから台湾に戻った少女を描いたヒューマンドラマ

 

監督&脚本:ロアン・フォンイー/阮鳳儀

 

キャスト:

ケイトリン・ファン/方郁婷(リン・ファンイー:アメリカから台湾に来た少女、13歳)

カリーナ・ラム/林嘉欣(オー・リーリー:乳がんを患うファンイーの母)

 

カイザー・チュアン/荘凯勋(リャン・チョンフェイ/フェイ:ファンイーの父)

オードリー・リン/林品彤(ファンアン:ファンイーの妹)

 

ブランド・ファン/黃鐙輝(リウ:チョンフェイの友人)

 

カイ・ジャイイン/蔡嘉茵(芳儀學校の数学の先生、体罰を加える)

キミ・シア/夏于乔(スー先生:芳儀學校の国語の先生、メガネをかけた担任の先生)

 

ボウイー・ツァン/曾宝仪(カン医師:リーリーの主治医)

 

リン・ジャニー/林真亦(リン・スーティン:ファンイーのクラスメイト)

ウィニー・チャン/張詩盈(スーティンの母)

 


■映画の舞台

 

2003年冬、

台湾:新北市

新店区

https://maps.app.goo.gl/JSzBg5tCxuBokqy89?g_st=ic

 

ロケ地:

不明(おそらく新北市)

 


■簡単なあらすじ

 

乳がんを患った母の治療のために、ロサンゼルスから台湾に戻ったファンイーとその妹ファンアンは、慣れない母国暮らしをすることになった

ファンイーにはロスに親友も愛馬もいて、台湾では浮いた存在になっていた

 

母は手術と化学療法に向かっていたが、自分が死んだ後のことばかり考えている

ファンイーもただアメリカに帰りたくして仕方なく、苛立ちを見せて母親と衝突してしまう

 

父は二人を宥めるものの、その溝はなかなか埋まらず、ファンイーは親に内緒でネットカフェに行き、馬とふれあえる場所を探し始める

そんな折、ファンアンが風邪を引いてしまい、病院で肺炎と診断されて隔離されてしまうのである

 

テーマ:寂しさと怒り

裏テーマ:心を宥めるルーツとのつながり

 


■ひとこと感想

 

アメリカから台湾に戻った少女がなかなかクラスに馴染めないまま成績を落としていくのですが、その背景では母の闘病生活と療法の影響による苛立ちがぶつかりあっています

理不尽に思える帰国の中でも、かつての顔馴染みに再会したりと、少しずつコミュニティの輪に入りつつありますが、台湾にいたくないという感情が周囲にも伝わってしまいます

 

そんな中、化学療法の影響で辛い時期を過ごすリリーは、体のこと以上に衝突してしまうファンイーのことを気にかけ続けます

それらはやがて夫婦喧嘩にも発展し、ファンアンは姉に対して「アメリカに行きたいから別れさせたいの?」と怒りをあらわにしていきます

 

ファンイーが台湾で馴染めない理由は漠然としていますが、彼女自身がそれを言語化できていないというもどかしさを抱えています

乗馬クラブを見つけて馬に接しても、それは彼女の愛馬ではなく、通じるものがありませんでした

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は2003年の冬に台湾で起きたSARS騒動を描いていて、そこで妹のファンアンが隔離されてしまうという後半がありました

台湾にいるファンイーはどこか理不尽な隔離を受けていると考えていて、孤独の寂しさというものを感じていました

 

ファンアンが家族から引き離されて孤独になった時、ファンイーにはとてつもない怖さを感じてしまいます

母と同じように妹も死んでしまうのか

 

そういったものが去来した青春時代は、色濃く残ってしまうものだと言えます

映画は監督の自伝になっていて、彼女の年齢を考えるとファンイー自身になります

監督が20年前に考えていたことが映像化されていて、少女期の繊細さというものが滲み出ていましたね

 

劇的な展開はさほどありませんが、自分に対して物怖じせずに何でもない言う妹の存在は、母以上に大事なものだったのかなと思いました

 


台湾SARS騒動について

 

2003年に台湾で起きたSARS騒動は、3月14日から認知され、347人が罹患し、死者37人(うち自殺1名)となっています

上記は確定症例で、疑いに関しては罹患318名で死者107名という事態になっていて、665名の罹患に対して144名の死者、致死率は20%を超えています

映画の舞台である台北県では罹患281名、死者54名となっており、最大の被害が出ている地域でした

収束は同年の6月で、当局による封じ込めが成功したとも言えます

 

妹のファンアンは疑い症例で隔離され、肺炎の診断で治癒しましたが、市井よりも隔離病棟の方が危険というイメージがあります

台北市でも市立病院3院のほか大学病院での院内感染が報告されていて、医療従事者も103名の感染がありました

4月の上旬に香港で集団感染が発生したマンションの住人が台湾に入国する際に電車を利用し、列車内に居合わせた台北在住の女性が台北の和平医院を診療、この1時間の間に院内感染が爆発的に起こり、2週間の封鎖措置が取られます

予告なく行われた封鎖によって、1000人強の人が病院内に閉じ込められました

この際に医療従事者57人罹患、7人が死亡、疑いを含めた一般人が97人が感染し、24人が死亡しています

 

台湾での発覚は3月14日で、行政院衛生署疾病管制局実験室の職員が、「自分の父親がSARS症例ではないか」と報告したのが最初とされています

深圳から香港経由で帰宅した父親とその妻が最初の罹患者とされています

この騒動を受けて変化したのが、「握手から拱手の奨励」とか、「貿易ダイヤル1922の設置」などがなされ、衛生署疾病管理局組織条例の制定、伝染病防地法なども公布されることになりました

 

ちなみに現在の新型コロナウイルス感染症の正式名称は「SARSコロナウイルス2」というもので「SARS関連コロナウイルスに属するコロナウイルスのパンデミック」なのですね

でも、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因ウイルスとは異なり、SARSの原因ウイルスである「SARSコロナウイルス」と同種で、関連株のひとつであることに由来しています

コロナウイルスは「オルトコロナウイルス亜科」と言い、「RNA(リボ拡散)を持つ一本鎖プラス鎖RNAウイルスのことで、哺乳類や鳥類の病気を引き起こすウイルスグループのひとつです

いわゆる「風邪」もこのコロナウイルスによるもので、SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルス、SARSコロナウイルス2(新型コロナ)のようなタイプだと致死性を持つとされています

 


劇中引用の「木蓮の詩」について

 

国語(中国語)の授業で使われる教科書に「木蓮の詩」が使われ、その登場人物の心情について教師から問われるシーンがありました

この「木蓮の詩」は、一般的には「ムーラン(ディズニー映画)」などの作品に派生していったもので、原点は「古代中国の英雄的女性」とされています

病気の父の代わりに男装して従軍した女性ということで、異民族と戦って自軍を勝利に導くという内容になっています

陳の釈智匠『古今学録』に収められた「北魏の『木蓮詩』」が最も古い文献と言われています(年代はおよそ西暦550年頃)

 

木蓮は中国の英雄ではありますが、現代の研究では「鮮卑族(中国北部の騎馬民族)」だったという説があります

遊牧民だった設定がいつの間にかなくなって、明の時代には「纒足(幼少期に足に布を巻いて大きくならないようにする風習)」のエピソードが付け加えられ、これは鮮卑族にはなかった風習だったと言われています

 

映画でどの部分が引用されていたかわかりませんが、わざわざこの作品が引用されていたのには意味を感じます

2003年頃にはこの鮮卑族の研究は発表されていますが一般的ではありませんでした

なので、教科書で使われている木蓮は「鮮卑族ではない」ということになり、出自が改変された女戦士の物語ということになります

この改変というものが「装飾されたもの」で、台湾人なのに「アメリカ人に見られている」というファンイーの状況に似ているように思えました

また、台湾という国自体も中国に上書きされている国という部分があって、そう言った体制に対する反発というものが内包されているのかもしれません

映画の舞台は2003年ですが、制作は2021年で、鮮卑族設定が一般的になったのが2019年なので、このあたりに意図が隠されているのかなと勘繰ってしまいますね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は家族の物語で、衝突するけれど収束していく不思議な関係を描いていきます

ファンイーはアメリカと台湾を比べて、台湾の規律を重んじる堅苦しさに悩みを持っています

でも、アメリカで彼女を待つのは「愛馬と親友だけ」だったりするのですね

そして、台湾に来ても、そこで関係性を紡ぐのがスーティンだけだし、そこから派生して乗馬クラブの白馬だけだったりします

 

彼女が作る世界はとても狭いくて、でも深みを感じる関係性を持っていて、そのきっかけ作りに対しても能動的ではありません

ある意味、自分というものをしっかり持っていて、母親にも反発するし、学校でも先生に口答えをします

その行動が台湾には馴染まなくて居心地の悪さというものを感じていました

 

彼女たちのアメリカでの生活がどんなものかは一切描かれないのですが、イメージトしては家族のつながりが強かったように思います

それが台湾に戻ったことでおかしくなっていますが、その原因がそれぞれにあるところがリアルでもあります

疎外感を感じるファンイーと病気で苛立つ母

これまでに上手くいってきたものが崩壊していくのを見ているだけのファンアンは、二人に「それぞれが原因である」とストレートに突きつけます

 

母には「お母さんのせいでみんながおかしくなっている」と言い、ファンイーには「アメリカに帰りたいからパパとママを離婚させたいの?」と言っていました

これによって、二人が素に戻っていきますし、ファンアンが病気になった際には、「母は自分の病気のことを忘れている」し、ファンイーも「自分の周りにあった普通が崩れていく恐怖」を感じています

家族を再構成するのが一番小さくて大きな存在だったというところが心に沁み、このキャスティングだからこそ、このパーソナルで普遍的な物語に命が宿っているのだと感じます

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/381804/review/b8141a79-aff7-43d9-a07e-157257805834/

 

公式HP:

https://apeople.world/amerika_shojo/#trailer

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投稿者 Hiroshi_Takata

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