■オマージュかパクリかの境界線は、設定と手法の線引きによって差別化されるものだと思います
Contents
■オススメ度
二転三転するミステリードラマが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.20(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2024年、日本、104分、G
ジャンル:あるマンションの秘密に迫る配達員を描いたミステリー映画
監督&脚本:水野格
Amazon Link(小説版:Kindle)→ https://amzn.to/47BHBkI
キャスト:
高橋文哉(丸子夢久郎:いわくつきのマンションを担当する配達員)
中村倫也(巻坂健太:几帳面な住人、201号室)
金澤美穂(流川翼:いつも不在の住人、203号室)
北香那(小宮千尋:いわくつきマンションの住人、205号室)
坂井真紀(長谷部弘美:詮索好きのおしゃべりな住人、301号室)
市松(みーちゃん:長谷川の愛猫)
染谷将太(島崎健吾:挙動不審な住人、302号室)
袴田吉彦(沼田隆:引っ越し先を探している住人、303号室)
菊地凛子(寺田雅子:警視庁の捜査官)
田中圭(荒川渉:丸子の職場の先輩、小説家志望)
梅沢富美男(本人役)
三島ゆたか(八谷運輸の配送所の所長)
富岡晃一郎(相馬:駐在の警官)
阿部翔平(刑事)
プリティ望(居酒屋の店長)
島本大毅(居酒屋の店員?)
大山竜一(遅配の文句言う住人)
三浦健人(テロリスト?)
藤山ユウキ(?)
石川ともみ(?)
出井景梧(?)
藤井貴彦(テレビのアナウンサー)
安村直樹(テレビのアナウンサー)
■映画の舞台
東京都:多摩市
アパート「クレマチス多摩」
ロケ地:
神奈川県:横浜市
横浜 民泊 平楽園(クレマチス多摩)
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喫茶TAKEYA
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河口湖音楽と森の美術館
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■簡単なあらすじ
居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼いでいた丸子は、コロナ禍を理由に雇い止めになってしまう
学費の催促状が届く中、ふとテレビ番組で配送業界が感謝されていることを知り、人に感謝される仕事として、そこで働くことに決めた
だが、感謝されるのは一部の美談で、少しでも遅れると罵声を浴びせられ、家にいない住人もたくさんいて、仕事はなかなか捗らなかった
丸子の先輩・荒川は小説家志望の男で、ウェブサイトに「転生もの」の小説を載せていた
だが、それはとても読めたものではなく、ふと目についた「スパイ転生」という小説で暇つぶしをすることになった
その小説はとてもよく出来ていて、丸子はその小説の続きを読むことを生き甲斐にして、応援メッセージを送り続けた
そんなある日、管轄のマンションの荷物の中に、「スパイ転生」の作者と同じ名前の荷物を見つけてしまう
丸子はその荷物が作者のものだと思い込み、喜び勇んで届けに向かう
そして、何かしらのきっかけを得ようと部屋を覗き込む
そこにあったパソコンのディスプレイには「スパイ転生」の文字があり、丸子はますますその人物が作者ではないかと思い込むのである
テーマ:誰かに必要とされること
裏テーマ:何気ないヒント
■ひとこと感想
原作のないオリジナル作品なので、各種レビューやSNSなど以外でのネタバレを拾うことはないと思いますが、本作は出演者も含めて完全ネタバレなしの方が楽しめる内容となっていました
配達員だけが知るあるアパートの秘密というもので、その秘密にのめり込んでいく様子が描かれています
誰かの役に立ちたいと思って始めた運送業で、まさかの出会いがあるというもので、そこから住民たちをよく見ていくと、素行の怪しい人物などがたくさん浮上し、ある時、その目当ての住人が姿を消す、という流れになっています
冒頭で、とある人物が行方不明になり、その噂が広まって都市伝説になっているのですが、そのあたりも綺麗に回収されていました
映画のジャンルはミステリーですが、途中でコメディっぽくなったり、スリラーになったりと、ジャンルチェンジするのも面白かったですね
ある映画のことが頭に浮かびましたが、そのタイトルを言うとネタバレになるので控えておきましょう
でも、丸子がのめり込む小説のヒロインの名前はその映画に関連していましたね
このあたりは、パンフレットの袋とじ「最終章」を読むとわかりますし、エンドロールでも気づく人がいるかもしれません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ネタバレブログなのですが、さすがに公開初日に完全ネタバレをするわけにはいかないので、できるだけ隠して書いていきたいと思います
おそらく数週間後にアップされる本記事では言及することになると思いますが、その頃にはネタバレが「あるワード」によって拡散されているものだと思います
物語は、ある小説の作者らしき人物がそこに住んでいると勘違いするところから始まり、その部屋には美女がいた!と言う流れになっていて、さらにその女性が何者かにストーキングされているのでは、と言う展開になっていました
その話を職場の先輩・荒川に話すと、小説のネタになりそうと食いついてくると言う流れになっていきます
この先輩が最後には大きな役割をすることになるのですが、配役を考えると単なるコメディ要因であるはずがないのですね
公開初日だけで、各種映画レビューサイトではシークレットキャストが書かれていましたが、本人役で登場は笑ってしまいましたね
なんというか、真剣なドラマだけど笑ってしまう要素があると言う不思議な映画になっていました
最終章のことを考えると「実は全部」というものだと思いますが、このオチは許せないと言う人もいそうに思いました
■縦読み文化と某名作のオマージュ
映画には、関連のなさそうなワードからメッセージを紐解くという流れがありました
目次でネタバレになるのを避けたので「某名作」と書いてありますが、ぶっちゃけると『ユージュアル・サスペクツ』という作品が、この映画の元ネタになっていると言えます
『ユージュアル・サスペクツ』ほどの精度がないのは確かですが、カップの底の文字まで引用してしまうと、ほとんどパクリのようになっていますね
オマージュと言って良いのか微妙な部分があって、感覚的には「カップの底」でアウトだと思います
ある文章にメッセージを挿入する場合には、「縦読み」や「反対から読むと意味が変わる」などの言葉遊びがありますね
読ませたいメッセージを最初に作って、その文字から始まる文章を考えるというもので、ネットの掲示板などで盛り上がりを見せていました
横書きの場合だと「横読み」となり、「斜めに読ませる斜め読み」なんて高度なテクニックもあったりします
ちなみに、この手法はネット発祥ではなく、古くは和歌などにも登場していました
有名なところだと「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」という伊勢物語に登場する和歌は「頭文字だけを読むと『かきつばた』と読める」のですね
また、「いろは歌」では、7文字ごとに区切ると、末尾が「とかなくてしす」と読め、これは無実の罪に落ちた者が遺恨を込めて作った者だという俗説なども生まれるようになりました
言葉遊びとしては面白いので、語彙力をつけるためにも、いろんなお題にチャレンジしても良いと思います
以下、筆者が5分程度で考えてみた「縦読み遊び」になります
「会いたくて震えるという歌詞を聴いて、喉元を通過した炭酸が悪さをした
一昔前の恋心を思い出すたびに、通り過ぎた青春を悔やんでしまう
街頭の灯りが、今消えた
消え去りそうな影を眺めていると、得体の知れない怖さに身がすくんでしまう
たった一言を、あの時に言えなかっただけなのに」
どうでしょうか?
ある場所で区切って、縦に読んでもらえれば、この言葉遊びの楽しさがわかってもらえるのではないでしょうか
■どこに境界線があったのか
本作の後半では、死んだ丸子が小宮の作り話を聴いているという内容になっていて、その話に込められたメッセージをその場に来た荒川が紐解くという流れになっていました
荒川が仕事を抜け出した丸子を心配して追って来たのですが、丸子が小宮の部屋に着いた直後に島崎に殺されていることになります
島崎は丸子の死体をバスルームに隠し、そこに荒川が来るのですが、映画ではどの地点から作り話を始めたのか分かりにくくなっています
小宮と島崎が潜入捜査官であるという設定もその場のでっち上げで、島崎がお笑い芸人であるというのも即興ということになります
丸子は小宮のことを好きになっていて、あれこれ詮索しているのですが、その段階から嘘が始まっていることになります
小宮が丸子についた嘘もそのまま継続されて荒川に話すことになっていて、そこまでに小宮がついた嘘に島崎が無理やり合わせていることになります
島崎とすれば、小宮を軟禁状態にしていることをバレたくはないのですが、それにしても随分と寛容な犯人のように思えます
荒川は丸子から話を聴いていて、それを小宮の話と照らし合わせることになります
そこで荒川は、小宮の部屋からメッセージを汲み取り、丸子についていた嘘までも見破ることになるのですが、それは丸子が小宮のメッセージを汲み取れなかったこととイコールのように思います
なので、荒川が丸子を心配して来なければ、島崎は逃げ切ることができたのでしょう
この一連の流れは、ネタバラシをされた段階では「そうだったんだ」という感じなのですが、丸子が実は死んでいたというところに無理が生じてしまいます
と言うのも、荒川は丸子の危険を察知して小宮の部屋に来ていて、彼がその部屋にいないことに違和感を持っていたと思うのですね
でも、丸子のことを聞くこともなく、小宮の作り話に延々と耳を傾けています
これは、部屋に入った段階、もしくは丸子の話を聞いた段階で島崎を怪しんでいて、刺激しないようにその場を取り繕っていることになります
そうなると、荒川が部屋に入ってからの視点移動が不思議な感じになっていて、島崎に悟られないように丸子の居場所を探しつつ、島崎の不審な動きに警戒する必要があります
でも、彼自身は緊張感を保ちつつも、小宮の話に傾聴していたので不自然な動きに見えてしまいます
丸子が死んでいなかったと言う流れの方があの場の自然さは保てていて、逃げられないとなった島崎が暴れると言う方がスッキリします
そこで小宮を守るために丸子が犠牲になると言う流れになって、映画全体を「荒川が新しく入った後輩に語る」という構成の方がスッキリしたように思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、過去の名作を引用している作品で、言ってしまえば『シックスセンス』と『ユージュアル・サスペクツ』のパクリにも思えてしまいます
引用やオマージュ、パクリの境界線は微妙なラインに思えますが、実は死んでいたと言う『シックスセンス』はオマージュに感じられても、嘘を気づいてもらうために言葉を部屋から拝借する『ユージュアル・サスペクツ』の方はパクリのように思えます
この違いは何なのかと言えば、実は死んでいたと言う設定の引用と、言葉を拝借すると言う手法の類似と言うふうに、引用の仕方が全く違うところにあります
部屋から言葉を見つけて、それを通じてSOSを発信すると言う設定を引用する際に、『ユージュアル・サスペクツ』と同じような手法を引用をしてはダメなんだと思います
今回の場合だと、小宮の書いた小説を荒川が読んでいて、それを共通言語として用いて、例えば「章のタイトル」を引用するとかの方が良かったでしょう
小宮は島崎の軟禁状態になっていても、平静を装うために小説を書き続けなければなりません
なので、SOSを読者に向けることになっていて、島崎に悟られず、丸子に伝えると言う方法を取ることになります
残念ながら丸子には伝わらず、彼を心配した荒川が小宮の小説を読んでいて、それに気づいてあの場所に来たと言う方がしっくり来るのですね
そこからは、小宮の小説の話をしているけれど、小宮と島崎の設定の話を裏でしているような感じになって、SOSが本当のものであると気づく
その方が「別の何かから嘘を見破る方法を伝える」という設定の引用効果が出て来るのではないでしょうか
部屋の中の本と連動させるのなら、小宮が書いていたキャラクターの名前は「自分の部屋にあった本から引用した」と知らせることになり、それが「小説のある時点から露骨になった」ことを荒川が知ることになります
そう言った観点で物事が進んだ方が知的なのですが、これを映像にすると結構大変なように思えます
これの解決策としては、映画内で小宮の小説を映像化すると言うもので、それを丸子が荒川に延々と語っていくと言う前半が生まれます
それを前提として、荒川が読み始めた部分(=軟禁後の執筆)と言うものを会話劇にして、そこにメッセージが込められていると言う流れになるのですね
そうすることによって、あからさまな映画の引用よりは、より高度な「設定を引用する」と言うものになっていけるように思いました
カップの裏の名詞引用の段階では驚きよりも脱力があったので、それを解消するには、より高度な技術が必要だったのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101789/review/04272537/
公式HP: