■コカイン・ベアの怖さとコカインの怖さを同時に描く必要があったように思いました
Contents
■オススメ度
スプラッター系ホラー&コメディが好きな人(★★★)
コカイン食べた熊に興味のある人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.10.3(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
原題:Cocaine Bear(1985年に実在したコカインを食べた熊のこと)
情報:2023年、アメリカ、95分、R15+
ジャンル:国立公園内で繰り広げられる、コカインでラリった熊に襲われるパニック&ホラー
監督:エリザベス・バンクス
脚本:ジミー・ウォーデン
キャスト:
ケリー・ラッセル/Keri Russell(サリ:言うこと聞かない娘に振り回される母、看護師)
ブルックリン・プリンス/Brooklynn Prince(ディーディー:サリの13歳の娘)
クリスチャン・コンベリー/Christian Convery(ヘンリー:ディーディーの友人)
オールデン・マーティンデイル/Alden Ehrenreich(エディ:最近妻を亡くしたばかりのシドの息子)
オシェア・ジャクソン・ジュニア/O’Shea Jackson Jr.(ダヴィード:シドの忠実な部下)
レイ・レオッタ/Ray Liotta(シド:セントルイスの麻薬王)
マシュー・リース/Matthew Rhys(アンドリュー・カーター・トーンソン2世:森に麻薬をばら撒いたシドの手下)
イザイア・ウィットロック・ジュニア/Isiah Whitlock Jr.(ボブ:国立公園の麻薬騒動を捜査する刑事)
アヨーラ・スマート/Ayoola Smart(リーバ:ボブの後輩の刑事)
マーゴ・マーティンデイル/Margo Martindale(リズ:国立公園の保安官&管理官)
ジェシー・タイラー・ファーガソン/Jesse Tyler Ferguson(ピーター:国立公園の動物管理官)
クリストファー・ヒヴュ/Kristofer Hivju(オラフ:森でピクニックするカップル)
ハンナ・フックストラ/Hannah Hoekstra(エルザ:森でピクニックするカップル)
アーロン・ホリディ/Aaron Holliday(口ひげ:国立公園に出没する悪ガキトリオ、銀髪の男)
J・B・ムーア/J.B. Moore(ベスト:国立公園に出没する悪ガキトリオ、盗み癖のある男)
レオ・ハンナ/Leo Hanna(ポニーテール:国立公園に出没する悪ガキトリオ、太っちょのパーマ)
カヒョン・キム/Kahyun Kim(ベス:救急隊員)
スコット・ザイス/Scott Seiss(トム:救急隊員)
アラン・ヘンリー/Allan Henry(コカイン・ベアーのモーションキャプチャー)
■映画の舞台
1985年9月11日、
アメリカ:
ジョージア州
ミズーリ州セントルイス
テネシー州ノックスビル
ロケ地:
アイルランド:ウィックロー州
Powercourt/パワーズコート
https://maps.app.goo.gl/b2WrqRHRFAaZEsXD9?g_st=ic
Avoca/アボカ
https://maps.app.goo.gl/U2Rd5yz36dvL24Rd9?g_st=ic
Dublin/ダブリン
https://maps.app.goo.gl/FydUSa4Nt8kuztb87?g_st=ic
Barnaslingan/バーナズリンガン
https://maps.app.goo.gl/jAJBuhVsGb3zecPE9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1985年のある日、FBIに追われていた麻薬密売人のアンドリューは、セスナ機からコカイン入りのバックを落下させ、自身もそれを追って飛び降りた
だが、落下する際に頭を強打したアンドリューは、そのまま墜落し、帰らぬ人となってしまう
その麻薬の持ち主はセントルイスの麻薬王シドで、彼は警察に押収される前に回収しろと、息子のエディと手下の大ヴィードを現地に向かわせた
事故現場では、麻薬捜査班のボブが捜査にあたり、同じくノックスビルから「秘密の滝」の写生のためにディーディーとヘンリーがやってきていた
ディーディーは母サリに内緒で森に向かっていて、学校から知らせを受けた母は一目散に滝のある国立公園へと向かった
そこで保安官リズと動物管理官ピーターに出会ったサリは、娘の捜索に出かける
だが、その森には、落下したコカインを食べてラリった熊がいたのである
テーマ:ラリった熊の扱い方
裏テーマ:コカインは身を滅ぼす
■ひとこと感想
同日に『熊は、いない』を観ると言う、アホなローテを組んでしまいましたが、こちらの熊は実在した熊だそうですね
今では剥製となって、地方のショッピングセンターあたりに飾られているようですが、この熊が人を襲ったと言う話はでっち上げのようになっています
冒頭で「出典:ウィキペディア」と言う笑っていいのかどうか悩む引用があり、その後、実在の人物アンドリュー・トーンソンのダイブ失敗が描かれていきます
このあたりで「これはコメディなのね」とわかる内容ですが、ちょっとゴア表現が悪趣味だったように思えました
三つの視点で描かれる内容ですが、国立公園に集まるまでの構成が下手すぎて目も当てられません
この視点誘導は熊に追いかけられるシーンでも使われるので、このシーンでは熊は出ないと言うのが丸わかりになってしまいます
熊との対決もかなり地味で、死んだふりして上に乗って寝るなど、テンポの悪いギャグシーンが満載でしたね
このあたりは「合う合わない」がはっきりしそうな内容になっていたと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
コカインを食べた熊がどうなるかと言う考察はほとんどなく、ちょっと暴れん坊になっているだけみたいになっていましたね
一見すると愛くるしい系ではあるものの、ゴア表現が悪趣味なほど満載な作品になっていました
物語は3つの視点になっていて、麻薬を探すシド一味、娘を探すサリたち、そして事件の捜査をするボブの視点がありました
国立公園に至るまでにもこの3つの視点で切り替わるのですが、このあたりのまとめ方がとても緩やかで、本編に始まるまでにかなりの尺を要しています
不要なエピソードや掛け合いもあって、もっとブラッシュアップして、コカインベアーの怖さを表現する必要があったように思えます
実際のコカインベアーは食べて死んだと言うだけのようで、中毒性によってかなり大量に食べて、致死量を超えてしまったようでした
今回の摂取量もさることながら、途中でヘンリーが口にしていた量は致死量っぽい感じになっていましたね
彼がラリることがなかったのは意味がわかりませんが、それによって物語の展開が変わると言うこともありませんでしたね
■元ネタについて
元ネタとなっている「コカインベア(Cocaine Bear)」は、1985年にコカインの過剰摂取で死んだクマのことで、体重79キロのアメリカクロクマでした
1985年9月11日、元レキシントン警察の麻薬取締官から麻薬密輸業者になったアンドリュー・C・ソーントン(Andrew C Thornton)は、コロンビアからアメリカにコカインを密売していました
共犯者のビル・レナードと共に、自動操縦のセスナにてコロンビアを出発します
その後、FBIの追撃を振り切るためにコカインの入ったプラスチック容器40個をノックスビル上空で投げ捨てました
これは、セスナの重さを軽くするためだったと考えられています
ちなみにトーントンはパラシュートが開かずに墜落死しています
12月23日、ジョージア州の捜査局は投棄されたコカインを大量に食べたと思われる熊を発見します
容器には34キログラム、現在の価値だと5440万ドル相当のコカインが入っていて、当局が発見した容器はことごとく引き裂かれて、中身が散乱したとされています
ジョージア州立の犯罪研究所の検視官ケネス・アロンソは、胃にぎっしりコカインが詰まっていたと報告を上げていますが、クマの血液内に溶け込んだのはわずか3〜4グラムだったと言われています
ソーントンはケンタッキー州の麻薬密輸組織「ザ・カンパニー」の主要メンバーで、クマが死んでいた場所から97キロ以上離れた場所で死体が見つかっています
彼が麻薬ビジネスに手を染めたのは、イースタン・ケンタッキー大学に在籍している時で、その後法執行の学位を所得し、レキシントン警察署の麻薬捜査員となっています
ちなみに、コカインで亡くなったクマは剥製となって、紆余曲折を経て、現在は「ケンタッキー・ファン・モール」に展示されています
これが本物かどうかの議論はあって、ショッピングモール側は「本物であると」主張していますが、無関係であると主張する人もいます
それは、発見当時のクマが腐敗状態で、剥製になっているクマにはその痕跡がないから、というのが理由のようですね
これらの真偽は現時点では微妙ですが、映画は「コカインを食べて死んだクマがいる」という部分と、コカインの出所についてだけはガチの再現になっていました
■勝手にスクリプトドクター
本作は、別々の場所にいた人々が国立公園に集うのですが、その見せ方があまり上手くないように思えます
熊は一頭だけなので、別の場所にいる人は安全圏にいて、そこには緊張感がありません
襲われるキャラたちを丁寧に描いていくのは良いと思うのですが、熊に襲われるシーンよりも終結までの道程が長すぎるので、ホラー映画としての速度感というものが損なわれているように思いました
群像劇になっているのですが、それだと熊視点に立った方が効果的なのですね
コカインが落下する段階から森にいる熊がそれを目撃していて、日常の熊の生態を描いていくことで、コカインによってどれだけ変化したのかがわかってくると思います
この熊が単独なのか、複数いるのかを描くことで、「もしかしたら別の熊がどこからともなく現れるのでは?」と思わせることができるのですね
実際には「コカインを食べて死んだ熊は1頭」ということになりますが、この熊の家族を描写することで、群像劇のバラバラな視点に緊張感をもたらすことができるのではないでしょうか
熊が主人公となって、コカインを貪り食っている間に写生に来る少年少女がいて、事故現場は少し遠くにあって、そしてそこに派遣されているマフィアを同時に描いていく
コカインでハイになっている熊の背景で、同じ画面内でそれぞれを映していくことで、「コカインベアに気づいていない人々」というものを描いていきます
熊はコカインに夢中になっているので、人間が近くにいることに気づかずにいて、他のコカインを探している中で、徐々に接近してくる
そんな中、双方が認知をするのですが、これを熊の視点で「熊が先に気づく」という構図にするのですね
そうすることによって、そこに居合わせた人々の日常が失われていく様子が描かれていくと思います
人間キャラの内面は行動で示すだけで良くて、写生に来た二人組の淡い関係は滝に向かうまでの2人の距離感で示せますし、捜査する刑事も現場で犬を同僚に預けるシーンがあればOKでしょう
マフィア2人もコカインを探しながら、森を探索していき、そこで食い荒らされたコカインを見つけていく
嫌々連れて来られているエディと焚き付けるダヴィードの態度で関係性はわかるので、彼らのそれぞれの出発点まで遡る必要はありません
彼らの物語上の機能は「ディーディーたちは意図せず見つける」「ボブとエディは能動的に探すも目的が違う」という構造になっているので、それぞれが見つける「食い荒らされたコカイン」に対する反応で、何かがいることに気づくことになります
そして、彼らが能動的にコカインを探し始めて、熊と思惑が一致し、それによって遭遇というものがなされます
ディーディーを追いかける母サリ、犬を預かっているリーバ、依頼主であるシドたちは、ニュース映像から現場の危機を知ることになり、そこに集まっていくことになる
この際に犠牲になるのが冒頭のカップルで、墜落のニュースと熊に襲われた犠牲者の報道によって、現場に行っている人々を知っている外部の人間の焦燥を描くことになります
シドはブツの行方が気になって現場に向かい、リーバはボブが心配でロゼッタを連れて応援に行き、そこにいると思わないサリは「学校からの連絡とニュース映像を組み合わせて最悪の予感で動き出す」という構図になります
そうして、第二弾の人々が現場に訪れることになって、さらに被害が拡大してしまう悪い予感を漂わせることができるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、かなりテンポ感がおかしい作品で、いわゆる微妙な間が特徴的な作品になっていました
この「間」というのは、いわゆるシュール系コントで見られるような「間」になっていて、すべり芸に奇妙な拍を置くことで笑いを誘発するという感覚に似ています
劇中には行動に対するツッコミ役はいなくて、観ている側が心の中でツッコむ感じになっていて、それが計算されてのものかはわかりません
コカインの取り扱いに関しても、ディーディーとヘンリーのパートでは、それは彼らの致死量じゃね?と思うほどに粉を浴びていて、彼らがハイになることもありません
コカインの致死量は、個人差が大きいとは言っても、100ミリグラムから300ミリグラムという例もあり、通常は1.2グラム程度の量で死ぬとされています
1グラムの量は、塩ひとつまみぐらいの量なので、子どもに影響を与えるという意味では、ヘンリーが摂取した量は相当量に見えてしまいます
映画は、熊に襲われて死ぬというシーンを重ねるホラー映画なので、それ以外の要因で人が死ぬというのを描く必要はないでしょう
でも、ヘンリーがハイになって行動が変わり、それによってディーディーも巻き込まれて「無敵感」を得ていくというシーンはあっても良かったように思います
ハイによって、本来ならば逃げるはずの展開(熊との遭遇)なのに危機感の欠如を招いてしまっている
映画でコカインのヤバさを描くとしたら、現状が見えていない影響を語ることになると思います
熊がコカインを食べて暴れるという展開と同時に、子どもたちが摂取したらどうなるかをリアルに描くことで啓蒙になると言えるでしょう
ヘンリーは過剰摂取になっているので、ハイによる無敵感から副作用で倒れて痙攣発作を起こしてしまう
ディーディーは我に帰るものの、目前に熊が迫っていて、その恐怖に怯えていくことになります
ひきつけを起こしているヘンリーの元に熊が現れて、彼の体に付着したコカインを舐めていくというシーンがあれば、彼らを熊の犠牲者にしなくても、ホラー映画としての緊張感を描くことに繋がっていくでしょう
ホラー映画は、ゴア描写を重ねれば怖くなるというものではなく、絶望感をどれだけ演出できるかにかかっていると思います
本作の場合は、ゴア表現すらコメディ演出にするという感じになっていて、怖さ演出というものはほとんど感じられません
このテイストでOKという人もいると思いますが、怖くないホラー映画がファンを惹きつけるのかは微妙な感じに思えてしまいますね
個人的にはコメディ映画として、シュールコントの出来損ないとして楽しめましたが、史実系の驚きを感じたい観客からすれば大した情報もなく、ホラー映画を観に来た層からすれば単純な悪趣味なゴア表現を見せられるだけになっています
そう言った意味においては伝説級の無価値観があるのですが、それを許容できるほど完成度は高くないのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://cocainebear.jp/