■家族の絆は、大義の共有と共に強くなるもの
Contents
■オススメ度
実話ベースの映画が好きな人(★★★)
IABPバルーンカテーテルに興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.6.14(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2024年、日本、118分、G
ジャンル:IABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルに関わった技術者家族を描いたヒューマンドラマ
監督:月川翔
脚本:林民夫
原作:清武英利『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』
Amazon Link(原作小説)→ https://amzn.to/45sRf7R
キャスト:
大泉洋(坪井宣政:娘・佳美のために人工心臓の製作を始める技術者、愛知高分子化学株式会社の社長)
菅野美穂(坪井陽子:宣政の妻)
福本莉子(坪井佳美:宣政の娘、心疾患を患う次女)
(幼少期:鈴木結和)
新井美羽(坪井寿美:宣政の娘、三女)
(幼少期:小野井奈々)
川栄李奈(坪井奈美:宣政の娘、長女)
(幼少期:富井寧音)
光石研(石黒英二:東京都市医科大学教授)
松村北斗(富岡進:東京都市医科大学・日本心臓研究所の研究医)
上杉柊平(佐々木肇:東京都市医科大学・日本心臓研究所の研究医)
徳永えり(柳玲子:東京都市医科大学・日本心臓研究所の研究医)
古屋昌敏(三浦武:東京都市医科大学・日本心臓研究所の研究医)
大石吾朗(中山:東京都市医科大学の部長)
満島真之介(桜田純:東京大学医学部の学生、のちの医学博士)
宮本大誠(東京大学医学部の教授)
宝辺花帆美(川野はるか:由希の娘、佳美の同室の患者)
戸田菜穂(川野由希:はるかの母)
有村架純(山本結子:褒章式のインタビュアー)
野添義弘(中村:愛知高分子化学の社員)
朝井大智(退職する若手社員)
外川貴博(佳美の主治医)
藤井宏之(銀行員)
東景一郎(銀行員)
内藤聖羽(手術を断る東京の医師)
石黒久也(手術を断る長野の医師)
松田幸起(石黒の研究室の医師)
岩井拳士朗(石黒の研究室の医師)
秋元龍太朗(石黒の研究室の医師?)
梅舟 惟永(石黒の研究室の医師?)
真崎かれん(看護師?)
芦川誠(機械を作る作業所の社長?)
福島星蘭(佳美をからかう同級生)
山下愛流(佳美をからかう同級生)
さいとうなり(式典の案内係)
Delgen Khuchitbaatar(?)
Maninata Ouandaogo(?)
Suzuki Bahati(?)
Tumbat Boldbaatar(?)
Sangisharav Oyunsuren(?)
Boldbaatar Gegee-Ujin(?)
柏木風太朗(?)
■映画の舞台
愛知県:名古屋市
ロケ地:
愛知県:春日井市
昌和工業(愛知高分子化学株式会社)
https://maps.app.goo.gl/h9bqR5hp5uBDNzbb6?g_st=ic
愛知県:西尾市
西尾市立幡豆中学校
https://maps.app.goo.gl/MVWDotv6yYkRQiU79?g_st=ic
三河一色さかな村
https://maps.app.goo.gl/sC8zy6KqEWordgNw6?g_st=ic
愛知県:豊橋市
豊橋市立芦原小学校
https://maps.app.goo.gl/7fS4vcEdT4eHyWkG6?g_st=ic
愛知県:江南市
写真館かつみ
https://maps.app.goo.gl/7bcRBh1uiRFNYxjR8?g_st=ic
東京都:練馬区
武蔵野音楽大学
https://maps.app.goo.gl/vzEU65b3dDwwzwDd9?g_st=ic
栃木県:佐野市
佐野医師会病院
https://maps.app.goo.gl/CzBDm9rVvHPU29CDA?g_st=ic
千葉県:流山市
流山中央病院
https://maps.app.goo.gl/1XBY7KHnFDXc9Gfh6?g_st=ic
東京都:世田谷区
関東中央病院
https://maps.app.goo.gl/kPo4yeWznKA5zhYUA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
2002年、黄綬褒章の授賞式に出席した坪井宣政とその妻・陽子は、記者から「なぜ、人工心臓ではなく、IABPの開発に取り組んだですか?」と訊かれる
宣政は言葉を詰まらせ、ここに至るまでの経緯を回想することになった
1973年、次女の佳美に先天性の心疾患が見つかり、余命10年と宣告されてしまう
宣政は手術のできる病院を探して全国を駆け巡ったが、日本はおろかアメリカの病院でも断られてしまう
そこで、人工心臓というものがあることを知り、東京都市大学の石黒教授の元を訪ねることになった
だが、今は動物での臨床試験が始まったばかりで、人の臨床試験など臨むことができなかった
途方に暮れる宣政だったが、佳美の「自分でできることは自分でする」という何気ない言葉にひらめきを受けて、自分の工場で人工心臓を作ろうと考えるのである
テーマ:諦めない心
裏テーマ:無駄な努力はない
■ひとこと感想
予告編の情報だけで大体のことがわかる作品になっていて、IABPバルーンカテーテルを作った実在の人物がモデルになっています
映画は、黄綬褒章の受賞式から回想する流れになっていますが、冒頭では「ある女性」のカテーテル治療が行われている様子を描いていました
このシーンが授賞式の約10年前になり、映画の最後のシーンにつながっています
この時の執刀医の顔をよく覚えておくと良いと思います
映画は、人工心臓を作ろうと奮闘する町工場の様子が描かれていて、工場では樹脂を使った製品を扱っていました
その技術があって今に至ることになるのですが、いろんな軋轢があったことは想像に難くありません
やや医学界が悪く描かれていますが、まだ生易しい感じにも思えます
物語は、実話ベースで、諦めの悪い家族が奮闘する様子が描かれていて、まさにこの親にして、この子ありという感じになっていました
姉妹がキャラが立っていてわかりやすく、幼少期の子役が本当に似ているのでびっくりしてしまいます
それにしても、勤務先で毎週のように行われる緊急カテーテル手術を思うと、凄いことをした人なんだなあと思わされます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
人工心臓を作る話なのにカテーテルって何で?という疑問が最初にあるのですが、それを見事に回収している流れになっています
物語の転換点にその決断があるのですが、そこで語られた「私の命はもう大丈夫」というのが本当に語られた言葉と聞いて、グッと熱いものが込み上げてきますね
映画は、無理に感動的には描いておらず、どちらかと言えば、淡々とした時系列で描いていて、そこに関わった人物のほとんどのその後というものが描かれていました
特に悪者になってしまった石黒教授は可哀想ではありますが、実際にはもっと辛辣な対応だったように思えます
日本では、この手の研究に国がお金を出さないので、技術の進歩というものが全く起きません
海外製があるからそれを使えば良いという考えでいるうちは、どんなに良いものを生み出しても誇れることはないように思えます
■IABPについて
映画で登場する「IABP」とは、「Intra-Aortic Balloon Pumping」の略で、大動脈内バルーンパンピングのことを言います
パルーンカテーテルを患者の胸部下行大動脈に留置し、心臓の拍動に同期して、バルーンを拡張、収縮させることができる「補助循環装置」のことを言います
円筒形のポリウレタンで構成されるもので、コンピューター制御にて、シリンダーからヘリウムを入れて膨らませる方式になります
これらは心電図と圧力トランスデューサーに接続されていて、ヘリウムガスは密度が低いために、乱流が少ないという理由で使用されています
この治療法は、心筋梗塞をはじめとした多くの疾患で利用され、不安定狭心症、心臓手術後の補助機能、経皮的冠動脈形成術などに使用されています
逆に使えないのは、重度の大動脈弁閉鎖症、大動脈解離、重度の大動脈腸骨動脈閉塞症、両側頸動脈狭窄などが「絶対禁忌」とされています
1962年にアメリカの「American Heart Journal」に掲載されたのが最初で、その後、1967年から1969年にウィリアム・ラスマン医師によって、心臓手術の商用利用のための開発が始まります
そして、1976年、ニューヨークにて、デビッド・ブレグマン医師によって臨床使用がなされました
当初は15フレンチのバルーンも、その後は9フレンチ、8フレンチなどのサイズが作られるようになりました
ちなみに、1フレンチ(Fr)は3分の1mmなので、1mm=3Frとなります
5mmから3mmになり、さらに細かなところまで行き渡るようになります
映画に登場する愛知高分子化学のモデルは「東海メディカルプロダクツ」という会社で、同社がIABPカテーテルを開発した経緯は会社のホームページに詳しく載っています
そこには佳美さんの晴れ着姿などもありますので、よかったらアクセスしてみてください
当時の雰囲気がよく伝わるページになっていますよ
↓東海メディカルプロダクツの「開発ストーリー」URL
https://www.tokaimedpro.co.jp/about/story.html
■人工心臓の今
人工心臓は、大西洋無着陸飛行で有名なチャールズ・リンドバーグが開発していたという有名な逸話があります
彼の姉が心臓弁膜症に罹っていて、そこで生理学者のアレクシス・カレルと共同研究を行いました
1935年に「カレル・リンドバーグポンプ」の開発、これが現在の人工心臓に影響を与えているとされています
組織が体外で生き続けるための生理的条件をカレルが導き出し、血液を連続して循環させるポンプ装置をリンドバーグの工学知識によって可能となりました
その後、全置換型人工心臓をロバート・ジャーヴィックによって臨床応用されるようになるものの、ポンプ内で血栓ができてしまい、それによる脳卒中などの合併症が問題視され、使われなくなってしまいます
2000年に入って、アメリカのアビオメッド社が電磁駆動のものを開発しますが、これは余命わずかな人に使用され、数ヶ月延命させることを目的としていました
2004年までに14名が手術を受けるものの、いずれも数日から数ヶ月、最長で512日というものでした
この一連の流れが、坪井たちの研究の足枷になっていたことは映画内でも示されていました
人工心臓の問題点は、開発と採算のバランスで、現在は開発自体がそれほど行われていません
それでも、補助人工心臓に関しては開発が進んでいて、「体外設置型」「体内埋込型」「カテーテル型」の三種類があります
これは心臓移植までの生命維持に使われていて、完全に置き換えるまでには至っていないのですね
そんな中でも、拍動しない人工心臓なんてものが開発されたりもしています
色んなものを組み合わせて開発したりと、全く別の技術の応用なども生まれてくるので、いつか実現しそうな気がします
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、人工心臓の開発を始めたのに、娘を救えないカテーテルの開発に至った経緯を描いていきます
冒頭にて手術をしている様子が描かれ、そこで救われたのがインタビュアーとして登場する女性であることが最後にわかります
授賞式の直前でナーバスに話になってしまいますが、自分の命を救ったものがどのような経緯で作られたのかを聞かざるを得なかったということなのでしょう
ある意味、観客目線になっているのですが、少しばかり蛇足の印象がありました
映画は、家族の物語として描かれ、佳美の覚悟を受け入れる家族の様子が描かれていきます
そんな中で、再現度が凄い制作過程が描かれていて、テンプレのような付いていけない社員などもいました
娘を救うためとは言え、ビジネスになるのかわからないものを作っていて、本業は回せても、無駄に思える借金が積み重なっていくのですね
また、社長が別の方向を向いているというところも、社員の士気を下げる要因になっています
製品の開発ができても、それを使用するとなるとハードルは格段に上がっていましたね
頭が硬い教授が一人悪者になっていますが、医療機器の実績もない会社の夢物語に付き合ってくれる医者もいないでしょう
今回の場合は、すでにカテーテルの故障を研究したかった医師がいたために実現に至りますが、隠れてデータを取るというのはできても、医師免許と引き換えに使用するというのはハードルが高くなります
今ではコンプライアンスに始まり、リスクに関する同意書なども必要になり、新型カテーテルを使うための理由なども患者に説明する必要があるのでさらにハードルが高くなるでしょう
失敗すれば医療ミスどころの騒ぎではなくなるのですが、それが可能だったのも「時代」なのかな、と思ってしまいます
何をするにしても責任と訴訟が待っている世の中なので、純粋に助けたいと思って、確率の高い方法を選んでも正解に辿り着かないことだってあります
その先にあるリスクというものは、人命と同じくらい医師人生というものも捧げることになるのですね
一人の失敗で多くの患者の診療機会が削がれることを考えれば、大局的な思考としては、教授のような堅物の方が正解に近いのかもしれません
でも、医療は数々の臨床によって成り立ってきた歴史もあります
それを考えると、自分の体が未来の誰かの役に立つと考えれば、その選択を肯定できるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100753/review/03929211/
公式HP:
https://dear-family.toho.co.jp/index.html