■カラオケと合唱は違うけど、心に響く要素は一緒なのかもしれません
Contents
■オススメ度
ヤクザと中学生の絡みに興味がある人(★★★)
X JAPAN「紅」が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.15(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2024年、日本、107分、G
ジャンル:カラオケを通じたヤクザと中学生の交流を描いた青春映画
監督:山下敦弘
脚本:野木亜紀子
原作:和山やま『カラオケ行こ!(2020年、KADOKAWA)』
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キャスト:
綾野剛(成田狂児:祭林組の若頭補佐)
斎藤潤(岡聡実:合唱部部長、変声期に悩む中学3年生)
芳根京子(森本もも:合唱部の顧問代理)
岡部ひろき(松原:合唱部のコーチ)
後聖人(和田:聡実の後輩、男子ソプラノ、熱血の2年生)
八木美樹(中川:合唱部の副部長、ソプラノ)
前田あおい(千鳥:中川の親友、合唱部)
芹沢凛(池上:中川の親友、合唱部)
紅里(蓮沼:中川の親友、合唱部)
井澤徹(栗山:聡実の友人、「映画を見る部」の部員)
北村一輝(祭林組の組長)
橋本じゅん(小林/ハイエナの兄貴:狂児の兄貴分、「うるさいです」、たんぽぽ音楽教室)
やべきょうすけ(唐田:祭林組の組員、「カスです」でキレる)
吉永秀平(銀次:祭林組の組員、「ビブラートのクセ強い」)
チャンス大城(尾形/キティの兄貴:祭林組の組員、「ピッチ不安定」)
RED RICE(峯:祭林組の組員、「声が汚い」)
今村謙斗(堂島:祭林組の組員、「リズム注意」)
伊島空(進藤:祭林組の組員、「体力不足」)
テイ龍進(祭林組の組員)
賀家勇人(祭林組の組員)
米村亮太郎(玉井:祭林組の元組員のヤク中)
坂井真紀(岡優子:聡実の母)
宮崎吐夢(岡晴実:聡実の父)
ヒコロヒー(和子:狂児の母)
加藤雅也(田中正:狂児の父)
川上凜子(京子:狂児の姉)
■映画の舞台
大阪市立森丘中学校
ロケ地:
神奈川県:横浜市
横浜市立早渕中学校
https://maps.app.goo.gl/APjmoWsZKaYXVPZM9?g_st=ic
千葉県:市原市
カラオケアーサー市原店
https://maps.app.goo.gl/4xh95snGonAkEck8A?g_st=ic
千葉県:茂原市
ヒューマンキャンパスのぞみ高等学校
https://maps.app.goo.gl/wHxp8LD7EbXBLhCJ6?g_st=ic
山梨県:甲府市
サテライト尚古園
https://maps.app.goo.gl/ZhroPqnmam2rZnns8?g_st=ic
ミナミ銀座
https://maps.app.goo.gl/Dp3neS8CgzNJuRF58?g_st=ic
■簡単なあらすじ
合唱部の部長の聡実は、声変わりに悩む中学3年生で、府の大会の敗戦では、自分の声が出ていないことが敗因だと感じていた
後輩の和田も負けたことに納得いかなかったが、顧問代理のもも先生は、「愛が足りなかったかな」と抽象的な言葉で濁し、反省会すらすることもなかった
そんな彼の前に、地元のブラック企業「祭林組」の若頭補佐の成田狂児が現れる
彼は組長主宰で行われるカラオケ大会を控えていて、どうしても歌がうまくなりたかった
大会で最下位になると、絵心のない組長の素人彫り物が待っていて、それをどうしても避けたかったのである
狂児は聡実をカラオケボックスに連れて行き、持ち歌の「紅」を披露する
聡実は「終始裏声が気持ち悪いです」と言うものの、彼に本気で教える気はなかった
だが、回を重ねるごとに狂児の本当の姿が見えてきて、部活よりも楽しくなってくる
そんな姿を見て、和田はさらに態度を硬化させていくのである
テーマ:歌には愛を
裏テーマ:大人の階段
■ひとこと感想
中学生とヤクザがカラオケで交流という、コンプライアンスでアウトになりそうな案件ですが、映画を見てみると、ヤクザはちゃんと一線を引いているし、目的のあとに関係を引きずることもありません
変声期の悩みは男子あるあるですが、後輩にはわからなくて拗れるところとかリアルでしたね
中学生がヤクザに歌を教えるというアイデアが活きていて、案の定、ヤバいシーンがたくさん登場します
怖い人にはそこまで怯みませんが、ガチでヤバい内容にはドン引きする感じがコミカルに描かれていました
とは言え、ヤクザ相手に物怖じせずに「カスです」と言い切ってしまうのは面白かったですね
映画は、青春映画の範疇に入りますが、音楽映画としての側面もありました
特に「紅」の歌詞を大阪弁に直すところで意味を知るというのはうまい伏線になっていましたね
歌詞の意味を考えて歌うことで、そこに重なるものがあるというのは、歌唱技術を超えた重厚なものがあったと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ヤクザの世界に中学生が入り込むのですが、異世界に入るというよりは、中間点を行ったり来たりするという感じになっています
カラオケボックスでは一度も歌わない聡実が、ラストのラウンジで歌わされるのですが、声変わりで高音が出ないところを裏声に逃げずに歌い切るところは感動的だったと思います
「紅」のレッスンにて、「裏声が気持ち悪い」と言ったことが伏線になっていて、そこで逃げないところが彼の強さなのだと思います
ヤクザにアドバイスをするシーンも結構的確で、カラオケでうまく歌うコツというのが紹介されている感じになっていましたね
合唱の手引きもカラオケに流用できる部分があるので、覚えておいて損はないと思います
部員はバカにしているけど、もも先生の言う「愛が足りなかった」と言うのは結構的を得ていて、技術だけでは歌は完成しないことを伝えています
狂児も「綺麗なものしか認めなければ、この街は全滅や」と言いますが、これはカラオケ歌唱と感動する歌唱の違いにも似ているように思います
また、その言葉は狂児自身が自分の運命を肯定的に捉えようと考えていることを表していましたね
土地の買収と再開発、そこに彼らの暗躍というものがあるのですが、社会は綺麗事だけではないというメッセージにも繋がっていたように思いました
■歌が上手いとは何か
一般的に歌が上手いとは、「音程が合っている」「リズムに乗れている」「表現力が豊か」「安定した声量を持っている」という様子があります
音程(ピッチ)は、カラオケ採点などで出てくるバーをイメージするとわかりやすく、音の高低をきちんと追っていけることを言います
リズムは、1小節を細分化したものを同じ速さで移動することで、曲のテンポに合わせて、正確に1小節を刻んでいく能力になります
表現力は、ビブラートなどの歌唱表現の多彩さのことを言い、表情豊かに感情や情景を伝える能力を言います
安定性は、声の安定性のことで、ロングトーンなどで声がブレずに真っ直ぐ出せるかどうかという能力になります
これらを精密に採点するとカラオケバトルのような高得点が狙えるのですが、これで歌が上手いと思われるかどうかは別の問題になっていると思います
採点の場合は、採点歌唱と言って、「マイクと口の距離を変える」「声の大小を誇張する」「不必要にビブラートなどをかけまくる」などがあり、点数は高くても「不快」に聞こえる場合があります
テレビ番組などでは、採点歌唱を修正して番組で流しているのでそこまで違和感はありませんが、マイクを激しく動かしているのに「耳に入ってくる音が変わらない」というのは、基本的にはあり得ない状況なのですぐにわかると思います
本作では、顧問代理のもも先生が「歌に愛が足りなかった」とコンクールの敗因を述べていますが、生徒たちは「歌唱技術は高かったはず」と思っているのですね
この微妙なニュアンスは「歌の何を伝えているか」というところに行き着くので、その歌唱から楽曲が伝えている物語や感情が音に乗ってこないと、その楽曲に対するリスペクトが低いというふうに見なされます
合唱部のしおりをそのまま再現すると、どんな曲でも「笑顔で大きく口を開けて」みたいなことになりますが、楽曲内でも「感情の変化」「物語の変化」というものは起きているので、それを表現することはできません
楽曲を理解し、その感情を声だけでなく、表情などでも表現できるようになると、自然と表現ができるようになります
それは、楽曲をどのように理解しているのか、というところにつながると思うので、映画のように「英語詞を翻訳する」などのように、「この楽曲が伝えていることは何か」というものを読み解いていく必要があると言えるでしょう
■変声期について
変声期(声変わり)とは、ヒトの発声器官の成長によって、声帯振動、発生様式が変わることを言います
これによって、声の音域や音色が変化することになり、これは個人差によって変化の度合いが違います
声変わりは「第二次性徴」とともに起こり、男性の場合は身長が伸び切った頃に変声が生じてきます
男女ともに見られる傾向で、女性の場合は「2音半〜3音」、男性の場合は「1オクターブ低くなる」とされています
男声と女声の違いは、「声種」の違いによるもので、変声期以前は男性女性ともに「頭声主体で発声する人」が多く、男性の場合は第二次性徴期に声帯周辺の筋群が発達し、「胸声主体」の発声になるから、とされています
これが「頭声と胸声の音域の差」で、この間隔が約1オクターブになると言われています
男性が高音域を出す場合に「裏声(ファルセット)」を用いることになりますが、これは男性特有のもので、独特の音色を持っています
そして、男性の中で「頭声」を積極的に出す人は、裏声を使わずに高音域の声を出すことになり、この場合はファルセットに比べて声門はしっかりと閉じて出すことになります
いわゆる声帯閉鎖と呼ばれる現象になっていて、これによって「丸みを帯びた高音」というものが出せるのですね
ちなみに、個人的にはカラオケマニアで精密採点のファンなのですが、ある時を境に「いきなり高音域が出る」ということに遭遇しました
これが40歳を超えたあたりで起こっていて、どうやったらできるのかを説明はできません
この頃に行っていた練習法はすべて独学で、単純に「声が高くて上手い歌手の真似をしたら良い」という暴論を続けていました(SuperFlyをずっと歌っていましたね)
よく喉が壊れなかったなあと思いますが、これによって男性曲の高音域で出せないということはほとんどなく、女性曲を女声で歌うことができるようになりました
そして、なぜか「デュエット曲を声色を変えて男女両方のパートを一人で歌える」ようになったのですね
人に聞かせるようなもの(たぶん気持ち悪いと思う)ではないと思いますが、これは「声がどうやったら出るか」を医学書を読みながら考えて実践した結果でした
合っているかどうかはわかりませんが「声帯を通る時の空気の速度=振動回数」と「喉のどの場所に当たるか(音階)」「どこで響かせるか(鼻、喉、胸など)」などが「音が変わる要素」であると感じています
なので、胸声の状態でも、声帯通過速度、量、角度を変えることによって、低音ファルセット(勝手に自分で呼んでいる)というものが出せるようになりました
これによって、女声の状態で低音を歌うということができるようになり、そのままファルセットも使うことで、かなりの音域をカバーできるようになりました
今のところ、ホイッスルだけは出し方のコツがわからないので、それをのんびりと練習しているところだったりします
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ヤクザと中学生がカラオケを通じて友情を深めるというもので、その背景には「説明しても伝わりづらい身体の変化」というものがありました
彼の変声期について知っていたのはコーチと副部長だけで、顧問は鈍感で気づかないし、後輩は未経験ゆえに理解できません
後輩の言動を見るからに、聡実の声に相当惚れ込んでいて、それゆえに喪失感を感じているように思えました
原作はBL要素がある作品で、特典のポストカードの雰囲気はそれを想像させます
映画では、ほぼその要素を感じさせていないのですが、それは英断だったと言えるのではないでしょうか
特に、反社勢力と未成年という関係だけでも色々とヤバいのに、そこに性的な関係を入れ込んでしまうと、何を描きたいのかわからなくなってしまいます
昨今の映画では、性的な描写がかなり抑えられていて、映倫区分を意識した取り組みが為されています
また、恋愛映画や性的な主題がない作品は、ほとんど無いというのが特徴的になっていて、主題として取り扱われる映画でも、表現はかなりマイルドなものになっていると感じます
本作の場合は、さらに未成年ということもあり、さらに同世代間では恋愛のかけらも出てこないのは潔い感じになっていましたね
この人物構成だと、「狂児↔︎聡実」「和田→聡実」という恋愛感情はありそうな感じで、同性愛の三角関係に近いものがあるように思えます
原作未読なのでその辺りはわからないのですが、和田の嫉妬っぽさというのは、先輩後輩の範疇を越えている印象があり、かつ副部長が聡実には興味が無いというところも一貫していましたね
おそらくは副部長的にはS的指向で和田をターゲットにしていると思うのですが、「子守り」という表現で濁していたように思えました
エンドロールの後には、カラオケ大会で負けた狂児の腕に「聡実」と彫られているのが描かれていて、成人した聡実が彼に電話をかけている様子が描かれています
このシーンは原作的な要素を匂わせるシーンになっていますが、映画本編のテイストだと無かった方が良かったのかな、と思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/97333/review/03369558/
公式HP:
https://movies.kadokawa.co.jp/karaokeiko/