灯りが消えないのは、消さない人がいるからではなく、灯し続けたいと思う人がいるからだと思います


■オススメ度

 

空き家問題に関心がある人(★★)

親子の想いのすれ違いに興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2024.1.11(アップリンク京都)


■映画情報

 

情報2023年、74分、日本、G

ジャンル:父の急死に伴い、実家の処分を考えることになった娘を描くヒューマンドラマ

 

監督脚本井上博貴

 

キャスト:

織田美織(花村茉莉:過疎化が進んだ故郷に帰る女性、元出版社の社員)

   (幼少期:藤山千恵梨

 

金澤美穂(林陽子:茉莉の実家に現れる若い女)

塩顕治(林勇作:陽子の夫)

 

宍戸美和公(田川佳代:茉莉の実家の近所のおばちゃん)

 

北浦愛(梅川芽衣:茉莉の親友、元同僚)

 

諏訪珠理(青木優吾:茉莉のバイト先の厨房)

温水洋一(藤本博之:茉莉のバイト先の店長)

依田玲奈(茉莉のバイト先の新人)

 

朝加真由美(佐倉沙希:男を作って出て行った茉莉の母)

平田満(花村弘泰:茉莉の亡き父)

 

木下卓也(不動産屋)

 


■映画の舞台

 

東京:都心のどこか

東京近郊のどこか(ロケ地は神奈川県相模原市)

 

ロケ地:

神奈川県:相模原市

工房 Café イホロ

https://maps.app.goo.gl/SDUZVm3eGZ3dUYUj7?g_st=ic

 

ほーむばるITADAKI

https://maps.app.goo.gl/FKU17e4AgT6CYYev9?g_st=ic

 

東京都:杉並区

永福食堂

https://maps.app.goo.gl/8tWyaUaVe8fXnGCe7?g_st=ic

 

グリルマリノ

https://maps.app.goo.gl/z1Q5brXg23riZ62b6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

大手出版社に勤めていた茉莉は、多忙と上司との軋轢が重なって、休養することになってしまう

父にそのことを言えず、時間があるものの会うことを躊躇っていて、そうこうしている間に、父は急死してしまった

 

茉莉は父が住んでいた実家の処分に悩んでいて、当初は売りに出すつもりでいた

だが、実家に帰った際に父の幻を見たことと、そこに見知らぬ女が近づいていると聞いて、維持する方向で考え始めた

レストランのバイトの時間も増やし、その資金を捻出する茉莉だったが、田舎との往復に休む間もなくなってしまう

 

そんな折、茉莉は近所の噂になっていた女性を見かけることになった

女性は陽子と言い、父の教え子だったと言う

そして、家庭の事情で何かあった時には相談に乗っていたことを聞かされるものの、今度は陽子の夫・勇作が出てきて話はややこしくなっていく

茉莉は陽子と夫の問題に挟まれながら、バイト先での軋轢に晒されていく

そして、環境を変えて、実家で暮らしながら働こうと考え始めるのである

 

テーマ:家に棲むもの

裏テーマ:父の無言

 


■ひとこと感想

 

死んだ父の幽霊を見る、という内容で、それの意味を考える娘が描かれていました

あまり父親には執着がない感じに描かれていますが、付かず離れずという距離感だったのかなと思いました

存在感あるのは母親の方で、欲望に従順ではあるものの、実際にいたら「あの女には金を渡したくない」という謎のモチベーションが生まれて来そうな気がしてしまいます

 

物語は、社会から逸脱した女性の再生を描いていて、そのモチベーションをどこに持っていくかという命題が描かれていきます

教え子と称する謎の女性の存在は、父親の意外な一面を浮き立たせる一方で、自分と父との関係の希薄さが生んだことのようにも見えてきます

陽子も自分の人生を生きるために決断をしますが、彼女が自分で言えるようになったのは、心の味方が増えたからのようにも思えますね

 

74分の短めの尺ではありますが、ゆったりと時間が流れるような感じのつくりになっていますね

それでも退屈さは感じないのは、要所要所にアクセントが効いたエピソードが登場するからなのかなと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

茉莉の父親の幻影の捉え方は「幽霊」というものですが、第三者目線で見ると「幻影」を見ているように思えます

在りし日の父親をそこに見ていますが、どちらかといえば「脳内妄想」に近いイメージがありますね

地縛霊のようにも見えるのですが、彼がそこにい続ける理由はなく、むしろ幽霊だったら、茉莉の行く先々で登場しそうなイメージがありました

 

物語は、二人の女性の再生が描かれていて、それぞれの問題には立ち入らない微妙な距離感を作り出していきます

茉莉の問題は陽子にはどうにもできず、ただ思い出を消化する関係になっています

陽子の問題に茉莉が介入しそうになりますが、それを陽子が止めるのは良かったと思います

 

二人は邂逅によって安息を得るのですが、それに一役買っているのがあの家ということになりますね

なので、いっそのことルームシェアをして住んだら問題が解決するのになあと思いました

それによって、両方が行き遅れてしまいそうではありますが、二人の人生のゴールは結婚ではないので、それもアリなのかなと感じました

 


タイトルの意味

 

タイトルは「消えない灯り」ということで、これは「空き家になりそうな実家の灯りが灯り続ける」ということを意味していると思います

灯りは人の生を意味していて、それがどのような縁でつながり続けるのかわからないものなのですね

本作では、空き家に灯りを取り戻す過程を描いていて、さらに「灯り」に関わることになった茉莉と陽子の再生へと繋がっていきました

 

かつて茉莉は親友の芽衣のために動き、それで職を追われることになったのですが、その過去が自分を助けることにつながります

でも、その扶助を受け取るために必要なものがあって、それが心の整理であったと思います

これは父が亡くなってから実家を整理するという流れに沿っていて、そこで「父の喪失」に対する自分の感情と向き合うことになります

茉莉は生活のためにアルバイトをしていきますが、この職場も理不尽な職場で、茉莉の仕事観というものを整理することに繋がっていたのだと思います

 

人生に灯りと灯し続けるということは、何らかのエネルギーをずっと注ぎ続ける必要があり、それは自助扶助によって供給されるものだと言えます

自助は自分の中にあるフィラメントを磨くこと、扶助は人生が人間関係の繋がりの末にあるものと理解することだと考えられます

そう言った意味において、緊急避難、迂回というものは、力を貯めるために意味のあるものなのでしょう

消えない灯りとは、自分が消さない限り灯り続けるもので、燃やし続けるためのエネルギーは自分の力だけに頼らなくても良いということなのかな、と感じました

 


再生に必要なもの

 

本作は、本当なら交わらなかったはずの二人の女性の邂逅を描いていて、それを結びつけたのが「父の死」ということになっていました

父が存命だと実家に帰っていないし、そこで遺品整理をすることもありません

陽子のケアを父が続けていて、もしかしたら、最悪の形で一悶着あったかもしれません

そこで起こるトラブルというものは、もしかしたら茉莉をもっと傷つけたことでしょう

 

映画では、再生のために力を蓄えているものの、何をどうしたら良いかわからない二人が描かれていましたね

茉莉は芽衣から勧められている復職に戸惑っていましたし、陽子も夫との縁をどうやって切れば良いかを悩んでいました

それぞれは、視野狭窄の状態に陥っていて、自分の中で堂々巡りの思考の中で溺れていきます

それは、まるで深みに自分を引き摺り込む渦のようなもので、悪しき思考は更なる悪循環を生んでいきました

 

そんな時に二人を引き合わせたのが父の死で、これによって二人は思いもかけない体験を共有することになります

会うはずのない二人が会うこと、自分の悩みを相手を通して見ること、など

お互いの人生にふれることで、引き合わされた運命から何かを感じ取る

そう言った先にあったのは、「このままではいけない」であるとか、「目的を見失わない」と言った、過去との決別であったように思えました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、父の急逝によって人生が変わる娘を描いていて、自分の知らない父を知るとともに、父と過ごしていた頃の自分を思い出していきます

父は娘のことを知らないようで知っているのですが、詳しいことまで分からなくても、何となく風の知らせのようなものによって、何かが必要なんじゃないだろうか、ということがわかるのですね

これは長年接してきた感覚から導き出されるもので、固執による嗅覚のようなものだったりします

対象的ではありますが、金に固執する母が娘に接近するのも同じようなものだったように思います

 

映画は、74分の短いものですが、思った以上に色んなことが起きていますね

娘からすれば、高齢の父が若い女性と会っていたということは衝撃的なものだし、しかも実は既婚者相手だし、さらに自分の部屋に住まわせていたりしていました

この事象への反応としては、茉莉は穏やかな方で、もっと過剰に嫌悪感を示す人もいたと思います

でも、この反応が生まれるのは、茉莉自身の余裕のなさから、そこまで頭が回っていないのかなと思いました

 

もし茉莉が普通にキャリアを生きていて、そこで父の死を知ったとしたら、もっとテキパキと動き、実家もさっさと処分していたと思います

陽子の噂を聞きつけたら鬼の形相で特定しそうなイメージもあります

母親への態度にも彼女の本質的な部分は残っていて、公衆の面前で「父を捨てた母です」と言えるのは、感情次第ではかなり強い面が出ることの表れでしょう

事実、陽子の夫に対しても、すごい剣幕で凄んでいたので、スイッチが入ると手に負えない性格のように思えます

 

そんな彼女が「実家をどうしようか」と考えるに至るのは、相当な精神的負荷がかかっていたからだと思います

その負荷をもたらしたものが彼女の本質的な性質にあるのですが、それはどこか父親に似通っているところがありましたね

父が陽子を助けたように、茉莉も芽衣を助けているし、陽子をも助けようとしています

そんな彼女にも助けられるフェーズというものがあって、それによってバランスが取れてくるのですね

彼女を助ける人たちは、自分が助けられたことに対する恩返しをしているので、自分の人生は自分の過去の行動によって救われるのだな、と改めて思わされてしまいます

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/100067/review/03359728/

 

公式HP:

https://www.palomapro.com/kienaiakari

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投稿者 Hiroshi_Takata

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