蒸留所と蒸溜所の違いがわかるぐらいの知識が必要なお仕事映画だったのかもしれません


■オススメ度

 

お仕事系映画が好きな人(★★★)

蒸留酒に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.11.16(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報2023年、日本、91分、G

ジャンル:幻の原酒再現に関わる人々を描いたお仕事系ヒューマンドラマ

 

監督吉原正之

脚本木澤行人&中本宗応

原作KOMA復活を願う会

キャラクター原案:髙田友美

アニメーション制作:P.A.WORKS

 

キャスト:(声の出演)

早見沙織(駒田琉生:クラフトウイスキー「わかば」をヒットさせた若きブレンダー)

小野賢章(高橋光太郎:「ニュースバリュージャパン」の若手記者)

 

内田真礼(河端朋子:駒田蒸留所の広報担当、琉生の親友)

三重野帆貴(朋子の母)

 

堀内賢雄(駒田滉:琉生の父親)

井上喜久子(駒田澪緒:琉生の母、駒田蒸留所の経理担当)

中村悠一(駒田圭:琉生の兄、桜盛酒造の社員)

仲野裕(琉生の祖父)

 

細谷佳正(安元広志:「ニュースバリュージャパン」の編集長)

畠中祐(光太郎の後輩社員)

 

辻親八(東海林努:不愛想な駒田蒸留所のベテラン社員)

 

鈴村健一(斉藤裕介:光太郎の友人、レコードメーカーのバンド・プロデューサー)

 

樋口武彦(信州蒸溜所の所長)

石谷春貴(石岡蒸溜所の所長)

小松奈生子(長瀞蒸溜所の所長)

山口令悟(湖国酒造の社長)

中西正樹(桜盛酒造の広報担当)

 


■映画の舞台

 

御代田酒造・駒田蒸留所(長野県)

ニュースバリュー本社(東京都)

 

モデルは三郎丸蒸留所(富山県砺波市)

https://maps.app.goo.gl/bZwoMC9jpegtQSPo6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

ウェブサイト「ニュースバリュー」の若手記者の光太郎は、ある日編集長の安元に呼ばれ、クラフトウイスキーの取材を担当させられることになった

その企画は、長野県にある駒田蒸留所のブレンダー・駒田琉生が各蒸溜所を回っていくというもので、光太郎は彼女の取材を文字に起こす仕事を任されていた

取材には琉生の蒸留所の広報担当・朋子も同行することになっていたが、ウイスキーに関して無関心の光太郎としばしば衝突する場面があった

 

琉生は、先代の父・滉で生産を中止した「独楽」の復活を考えていて、社員たちのアイデアでクラウドファンディングで資金を貯めて、設備投資で勝負をかけていた

光太郎はやる気が出ないまま取材に付き合うものの、その温度差は広がり続けていた

 

ある日、言い合いの末に光太郎にビンタをかました琉生を見て、ベテラン社員の東海林は光太郎に蒸留所の歴史を語る

琉生は父の死を受けて閉鎖されるはずだった蒸留所を受け継ぎ、その夢を断念させていたのである

それから光太郎は仕事に向き合う姿勢を変え、「独楽」復活に向けての手助けをすることになったのである

 

テーマ:漂着先にある人生

裏テーマ:仕事に打ち込む方法

 


■ひとこと感想

 

普段はあまり観ないお仕事系アニメですが、イオンシネマ他の力の入れ方が強かったので、なんとなく鑑賞を決めました

ウイスキー自体はほとんど飲んだことがなく、居酒屋などで少量嗜む程度でした

なので、光太郎目線でウイスキー工場見学をすることになっていました

瓶に入ってるのが原酒で、それを氷などで薄めて飲むものだと思っていましたね

 

物語は、地震によって失われた原酒を復活させようとする蒸留所が舞台になっていて、それを目標に掲げる天才ブレンダーが描かれていきます

その知名度を活かして、各蒸溜所を取材する企画があって、それを手伝うのが「ウイスキーに無関心な無気力系若者」という構図になっています

 

映画では、目標がある人間とない人間が感化されていくのですが、このあたりのヒューマンドラマの質は良かったと思います

また、年齢的に恋愛とかのいざこざが入るのかなと思っていましたが、禁じ手でそれを封じていたのは笑ってしまいました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、前後半で主人公が入れ替わる感じになっていて、前半は「無気力青年が奮起するまで」を描いていきます

後半になると、光太郎はほぼ添え物になっていて、琉生を中心とした駒田家がメインになっていきました

このバランスをどう捉えるかですが、素人の光太郎がウイスキー作りに絡みすぎるのも微妙なので、ちょうど良いバランスになっていたと思います

 

「独楽」復活の決め手は焼酎の樽で寝かせるというものだったのですが、さすがにベテラン他、当時の社員が残っているので、そのアイデアを誰も知らないというのは無理があると思います

「独楽」の生産量を考えると、社長一人でできる作業でもないので、最後は社員一同が関わって、その工程をおさらいする方が良かったでしょう

 

また、各蒸溜所から原酒を分けてもらうアイデアとして、琉生の絵が使われていくのですが、この流れを端折っていたのは勿体無いと思いました

そのイラストを受け取った人々の様子とか、あるいは今経営を支えている焼酎のラベルに使用するなどのアイデアで資金を集めていく流れも良かったように思います

 

腐女子絵とは言え、絵も描けて「歌もうまい(メタ構造ですが)」若き女社長なので、ある種のムーブメントを形成できるのではないかと思ってしまいました

 


お仕事系映画の構造

 

本作はお仕事系映画ということで、普段はスポットライトが当たりにくい職業を主題にしています

駒田蒸留所のモデルになっているのは富山県砺波市にある若鶴酒造の三郎丸蒸留所で、1947年から稼働している蒸留所になります

1953年に「サンシャインウイスキー」を発売し、2016年の秋にはクラウドファンディングにて老朽化した施設を改修しています

 

お仕事映画は、職業認知を主題とし、実際にある企業とのコラボを行うことがありますが、それ以外にも「それぞれの職種を通じて人間ドラマを構築する」というものがあります

本作では、「やる気のないライターがやる気になる」というものと、「蒸留所を立て直す素人」というものが登場し、これまでその場所を支えていた人たちとともに、同じ夢を共有する過程というものが描かれています

 

映画では、まるで「企業見学」のような解説パートがあって、それによって、知る人ぞ知るという熟練であるとか、舞台装置の裏側を見ることができます

それだけだとドキュメンタリーを作れば良いだけなのですが、そこにヒューマンドラマを組み込んでいくことが、お仕事系映画の必須項目となっています

誰もが仕事の中で挫折を繰り返し、また無気力になる瞬間がある

そんなマインドを鼓舞するかのようなシナリオがあって、そして「何かしらの完成」を目撃することで、心が晴れやかになっていきます

本作の場合は、「KOMA(独楽)」というクラフトウイスキーの復活の過程において、従業員が一致団結し、その様子に部外者が感化されるという内容になっていました

 


勝手にスクリプトドクター

 

このようなヒューマンドラマを作る際、その産業を知らない者の視点というものが挿入されます

光太郎がその役割を担うのですが、光太郎のような第三者の目というものは2パターンの設定があります

一つ目は「詳しい人がより掘り下げる系」で、映画内の人物だと安元の目を通じて、駒田蒸留所の問題に関わるというものです

このパターンだと、安元の目線はより琉生たちの目線に近づき、描かれる物語は「広い見識を持って多くの人を巻き込む」という流れになります

 

もう一つのパターンは、本作のように「無知が絡む」というパターンになり、これは「集中しすぎる玄人に別の視点を与える」という効果があります

本作の場合は、琉生と光太郎の衝突によって、主人公の根幹を提示し、主人公の視野を広げ、主人公の別の側面を本線に絡めていくことになります

具体的には、琉生のイラスト能力を引用する形になっているのですが、この効果が「原酒を集める」というものに使われていました

 

個人的に残念だなと思うのは、素人目線によるアイデアが独楽そのものの存在認知に間接的にしか役に立っていないところでしょう

原酒を探してブレンドするという「当初の原酒作り」という目的が変わってしまっていて、各地の原酒集めのためにイラストが使用されていました

テイスティングにおける「原酒のイメージ」の言語化の一環で、琉生は薄い本系の絵を描くのですが、これだけでは非常に勿体無いのですね

なので、ファンタジーっぽくはなりますが、「独楽復活はできたけど、以前ほど売れない」とか、「ウイスキーブームが下火になっている」という状況を変えていく効果が必要だったように思いました

 

これらが採用されなかったのは、ウイスキーがパッとできるようなものではなく、最低でも3年以上寝かせるという作業が必要になるからだと思います

原酒作りにおける発酵は60時間、その後、蒸溜して熟成(貯蔵)というものが行われ、これが最低3年はかかってしまうのですね

独楽自体が10年の熟成を経ているのなら、その完成は10年後ということになります

 

2時間のドラマの中で、「10年後」を描くとしたらエピローグのようなものになり、熟成後の完成で物語を締めることになります

そこから販売という流れになると、さらに時間経過が必要で、それで売れる売れないまでを描いていくととんでもないことになってしまいます

なので、独楽が売れなくて、琉生のイラストで起死回生の手を打つというのは、この職種では難しい流れになると言えるでしょう

 

映画では、琉生のイラストを元に「独楽ができたかどうかを判断する」という試験紙としての役割も担っていました

独楽を飲んだ母の表情が描かれていて、独楽の完成には「ウイスキー素人の母の反応」が関わっていたことがわかります

そして、この反応によって独楽の完成が為されていたことを知るのは父だけだったということになります

なので、原酒探しとブレンドする工程における「父の秘策」というものと、その完成の目安となる母の反応というものは切り分けられていたのですね

これを見つけるのが琉生なのですが、本来ならば、従業員のみんながそこに関わった方が良かったように思いました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画では、原酒作りをする傍らで、各蒸溜所の原酒を集めてブレンドを行っていきます

そして、その配合が秘匿なものになっていました

独楽の原酒をベースにすれば、そのままレシピを再現することになるのですが、当時のレシピを別のもので再現するというのはハードルが高いと思います

元々の独楽がヴァッティングによって作られたものか、ブレンドによって作られたものかという前提が示されていません

なので、「モルト原酒同士を混和するヴァッティング」と、ブレンデッドウイスキー(モルト原酒と麦以外で作ったグレーン原酒をブレンドするもの)の違いを説明しておいた方が良かったと思います

 

私はウイルキーに関しては素人で、ブレンドとヴァッティングの違いがわからなかったのですが、そもそもとしてウイスキーの原酒とは何かというところの説明も必要だったように思います

ウイスキーの原酒には「モルトウイスキー原酒(麦芽のみ使用)」と「グレーンウイスキー原酒(麦芽にトウモロコシ弥ライ麦、小麦などの穀類を混ぜるもの)」があるのですね

モルト原酒を混和するのをヴァッティングと言い、モルトとグレーンウイスキーを混和することをブレンドと言います

映画の中で行われていたのがどっちだったのかはっきりと分からないのですが、琉生がブレンダーであることでわかる人にはわかるという感じになっています

 

映画は、素人目線で職業を知るというもので、光太郎の視点で紹介されるのですが、この辺りの説明がうまくハマっていないように思えました

また、劇中で登場する「駒田蒸留所」と「それ以外の蒸溜所」は、「蒸留」と「蒸溜」の使い分けがなされていて、その説明も為されていません

ざっと調べたところ、当用漢字の「留」の制定が1946年になされ、その後に設立されたところは「蒸留所」、それ以前の「留」ではなく「溜」を使用していた頃に作られたのが「蒸溜所」ということになります

なので、駒田蒸留所はその他の蒸溜所に比べて歴史が浅いということになり、祖父が駒田蒸留所を設立したのがそれ以降ということになると思います

こう言った言葉に関する説明も混ぜ込んだ方が良かったと思うのですが、あまりにも細かすぎるからスルーされたのかもしれません

 

個人的には、細部へのこだわりをスルーしてしまうというのは非常に勿体無いように思えます

なので、ウイスキーを光太郎が学ぶ上で感じる疑問というものを一つずつ取り上げていくことができれば、もっと緻密なお仕事系映画になっていたように思います

 

映画は「独楽復活」を物語の着地点にしていて、ブランドの完成が着地点になっています

独楽の原酒探しがメインになっていますが、同時に原酒作りへのトラブルというものも描かれているので、ヴァッティングとブランドの境界線の話は必要だったでしょう

個人的には、映画を鑑賞した時点ではそこまで知らなかったので、原酒が作れない(すぐにできるものではないけど)からの「原酒探し」になっていて、さらに火事で失われても独楽復活へと突き進んでいたのが不思議に思っていました

独楽原酒0%で再現できる独楽というものの意味が分からず、出来上がったものを復活と呼べるのか?と思っていました

なので、原酒が火事で失われるというエピソードは無くして、癖の強い独楽原酒で再現しながら、同時に本当の独楽復活への足がかりにするように描いた方が良かったのではないでしょうか

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://gaga.ne.jp/welcome-komada/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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