■真実が左側にあるとして、右側にあるものは本当に虚構なのだろうか
Contents
■オススメ度
再現ドラマの裏側に興味がある人(★★★)
■公式予告編(英語版はRotten Tomato版)
鑑賞日:2024.7.15(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:May December(親子ほど年の離れたカップル)
情報:2023年、アメリカ、117分、R15+
ジャンル:全米を震撼させた年の差夫婦の再現映画に挑む女優を描いたヒューマンドラマ
監督:トッド・ヘインズ
脚本:サミー・バーチ
キャスト:
ナタリー・ポートマン/Natalie Portman(エリザベス・バリー:事件の映画化でグレイスを演じる女優)
チャールズ・メルトン/Charles Melton(ジョー・ヨー:メイ・ディセンバー事件の当事者、ジョージの同級生、グレイシーと関係を持つ13歳の少年、モデルはヴィリ・フラウアウ/Vili Fualaau)
ジュリアン・ムーア/Julianne Moore(グレイシー・アサートン=ヨー:メイ・ディセンバー事件の当事者、モデルはメアリー・ケイ・ルトーノー/Mary Kay Letourneau)
【グレイシーとジョーの家族】
Gabriel Chung(チャーリー・アサートン=ユー:グレイシーとジョーの息子、高校生、双子)
Elizabeth Yu(メアリー・アサートン=ユー:グレイシーとジョーの娘、高校生、双子)
Piper Curda(オナー・アサートン=ユー:グレイシーとジョーの娘、長女、大学生)
【グレイシーの元の家族関連】
D.W. Moffett(トム・アサートン:グレイシーの元夫)
Cory Michael Smith(ジョージー:グレイシーとトムの息子、ミュージシャン)
John Eric Lee Smith(ビリー・アサートン:グレイシーとトムの息子)
Hailey Wist(キャシディ:グレイシーとトムの娘)
Zachary Branch(ピーター:キャシディの夫)
【ジョーの家族】
Kelvin Han Yee(ジョー・シニア:ジョーの父)
Jennifer Elders(ジョーの母)
【取材関係】
Charles Green(ヘンダーソン氏:グレイシーとジョーが働いていたペットショップのオーナー)
Lawrence Arancio(モーリス・スパーバー:事件を担当した弁護士)
【グレイシー一家の交友関係】
Mikenzie Taylor(モリー:メアリーの友人)
Jocelyn Shelfo(ソフィア:メアリーの友人)
Isaac Liu(チャーリーの友人)
Mike Lopez(ベン:ジョーの友人)
Anna Cate Coiro(ベンの娘)
Paulette Walker(バーベキュー中のセシル・ウーマン)
Andrea Frankle(ロンダ:グレイシーの友人の陶芸家、60歳)
Joan Reilly(リディア:フラワーアレンジメントの先生、60歳)
Julie Ivey(ラブリオラ先生:チャーリーとメアリーの担任)
Drew Scheid(キャメロン:メアリーのクラスメイト)
Fatou Jackson(キミー:メアリーのクラスメイト)
Alonte Williams(演技クラスの生徒)
Hope Regina McElveen(卒業生の代表、スピーチ)
Derrick Butler(校長)
【再現ドラマ&映画関連】
Christopher Nguyen(タイラー・コウ:ジョー役のオーディションを受ける子役)
Adam Woods(ベニー・キム:ジョー役のオーディションを受ける子役)
Rocky Davis(ジョーを演じる若い俳優)
Hans Obma(ロベルト:イタリア人映画監督)
Allie McCulloch(テレビの再現ドラマのグレイシー役)
Evan Zhu(テレビの再現ドラマのジョー役)
Chris Tenzis(アーロンの声:エリザベスの婚約者)
【その他】
James R Williams(ツアーガイド)
Drake Aasen(ジョガー:屋外の男)
Dillon Brady(窓の外の男)
Crystal Butler(コーヒーショップの常連客)
Emily Brinks(運転手)
Sarah Cool(親/運転手)
Art Newkirk(卒業式のドライバー)
Caleb Dausch(高校生/卒業生)
Sophia Gibson(生徒)
Nikki Gigstead(卒業式の出席者)
Anna Gustavsen(高校の卒業生)
Ian Hernandez-Oropeza(高校生)
William Matthew Mang(高校教師/レストランの常連客)
Steve Masterman-Smith(高校教師/コーチ)
Gillian McDerment(高校生)
Jackie McHugh(高校生)
Jack Paris(新入生)
Paige Steward(卒業式の出席者/パレードの参加者)
Barbara Nuss Stiles(卒業生の親)
Eryka Del Gaizo(ポッシュロフトの顧客)
Anton Handshy(フレンチカフェの訪問客)
Kaelyn Handshy(フレンチカフェの訪問客)
Kayson Handshy(フレンチカフェの訪問客)
Pamela Hardy(フローラルクラスの参加者)
Ashley Kings(レストランの常連客)
Angela Lentz(レストランのウェイター)
Anna Mezentseva(フレンチカフェの常連客)
Austin Lee Nichols(レストランの常連客)
Will Perez(プール整備の男)
Ryan Pimentel(空港利用者)
Mallory Smith(観光客)
■映画の舞台
2015年、
アメリカ:ジョージア州
サバンナ
ロケ地:
アメリカ:ジョージア州
サバンナ/Savannah
https://maps.app.goo.gl/QH7gEq4wT981uu1NA?g_st=ic
Island High School
https://maps.app.goo.gl/RGVC1mZ8n6c2ZDt48?g_st=ic
■簡単なあらすじ
女優のエリザベスは、かつて全米を震撼させた「メイ・ディセンバー事件」の再現映画の主演が決まっていた
彼女は当事者のことを知るために彼らの住むサバンナへとやってきた
そこには当事者であるグレイシーとジョーの家族がいて、彼らの双子の子どものメアリーとチャーリーは高校の卒業式を迎えていた
彼らの姉であるオナーは大学に通っていて、卒業式のために帰ってくると言う
エリザベスはふたりに話を聞きながら、当時を知るグレイシーの元夫トム、弁護士のモーリスなどから話を聞くことになった
そんな折、取材をしていることをしったグレイシーとトムの息子ジョージーは「ある話」を持ち掛けて交渉をしようと考えていく
テーマ:時間とともに理解できる価値観
裏テーマ:同化とその功罪
■ひとこと感想
映画は、過去の事件の再現映画を作るという裏側を描いていて、主人公を演じるエリザベスが当事者に取材をする、という内容になっています
事件は13歳の少年と性的関係を持った36歳を演じることになり、13歳の少年ジョーは、服役し獄中出産したグレイシーと結婚していることになります
その獄中出産の娘は大学生になり、取材先の家には高校卒業を迎える長男&次女の双子がいました
自伝映画を作る裏側ということで、その当事者と関わる中で、報道で語られることとは違う側面を見ていくことになります
エリザベス自身は婚約者がいえう状況で、結婚して子どもを持つ前の段階で、目の前で起こることは自分の感覚にはないものだったと言えます
映画は、三面鏡が登場し、左から本物のグレイシー、エリザベス、鏡に映ったグレイシーというシーンがありました
その後にも、鏡に向かって話しかけるシーンなどが多く、メイクを教えてもらう場面と、レストランの休憩室の場面では、エリザベスとグレイシーの立ち位置が変わっていました
さらに、エンドロールは「文字がすべて左側に寄っている」という演出になっていて、わかりやすく解釈するならば「左側に真実がある」ということなのかな、と感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
メイ・ディセンバー事件のことはあまり知りませんでしたが、「再現映画のために本人に取材する」という内容は斬新だったと思います
多くの伝記的映画があっても、その内幕を描くというのはなかなかありません
今回は、エリザベスがグレイシー一家に入っていくことで見えてくるものと、エリザベスという異物によって見えてくる本性というものが描かれていました
鏡に向かう演出が多く、画面のこちら側に語りかけてくるような印象がありましたね
ジョーが隠し持っていたグレイシーの告白の手紙を読むシーンと、そこからエリザベスに見えてきたグレイシーの本性が同化するようなシーンは良かったと思います
グレイシーとジョーの間にも言い表せないものがあるのですが、それを問い詰めるシーンはスリリングなものになっていました
ジョーの中に芽生えた「もしかしたら違う人生を歩めたのではないか」という疑念は所々に散りばめられていて、年を重ねるにつれて、13歳の時とは違う観念を持つようになっています
映画では、グレイシーだけがこの異常性を肯定しようとしている、というふうに描かれていて、最後の再現映像の撮影シーンでは「エリザベスを含めた制作サイド側の思惑とグレイシーに対する配慮」というものが微妙に混ざり合ったものになっていました
キーワードは「ジョー役が子役から成人俳優に代わっていたこと」で、そこにはグレイシーから誘惑していることを仄めかすような雰囲気になっていて、エリザベス自身もよりグレイシーに近づこうとしていたように描かれていました
■メイ・ディセンバー事件について
映画の元ネタとなっている「メイ・ディセンバー事件」とは、1996年の夏に実際に起きた事件のことで、メアリー・ケイ・ルトゥルノーが36歳の時に、12歳だったヴィリ・フアラアウと性的な関係を持った事件でした
1996年6月18日にマリーナに停車の車から2人が発見され、フアラアウは警察に対して18歳だと偽ったとされています
その後、警察に連行された2人でしたが、フアラアウの母親がやってきて「息子の教師だ」と証言し、その場は釈放になりました
その後、ルトゥルノーの夫の親族の通報によって、1997年3月4日に逮捕されています
ルトゥルノーは第二級児童強姦罪にて有罪となり、フアラアウとの間にできた娘は判決待ちの1997年5月29日に生まれました
彼女は懲役6年半の刑事の予定でしたが、司法取引によって、郡の刑務所で6ヶ月(うち執行猶予3年)と性犯罪者治療3年に短縮されました
1998年2月3日、刑期を終えて2週間後、ルトゥルノーはフアラアウと一緒にいるところを警察に見つかってしまいます
そこでも性交疑惑が浮上し、判事は司法取引を取り消し、接触禁止命令違反に対する懲役7年6ヶ月を復活させることになりました
その後、ルトゥルノーはワシントン女性矯正センターにて刑に服することになりました
この服役中に、今度は2人目の娘を出産することになります
さらに同じ年には2人の共著『Un seul crime, L’amour(唯一の罪、愛)』を出版することになりました
フアラアウは高校を中退し、彼の母が2人の子どもの親権を得ることになります
彼は自殺願望のあるうつ病とアルコール依存症に苦しみ、実際に1999年の3月に自殺を図っています
2004年、ルトゥルノーは刑務所から釈放され、地域社会でのプログラムに参加し、レベル2の性犯罪者として登録されることになりました
彼女は釈放後に接近禁止命令の取り消しに動き、2005年5月20日にワシントン州にて結婚することになりました
その後、紆余曲折があって、2019年には法的に別居状態になっています
そして、翌年の2020年7月6日にルトゥルノーは大腸癌にて死亡、享年は58歳だったと言います
■左右配置と鏡の効能
本作の特徴的な演出は、エンドロールが左端に寄っていたことだと思います
これに寄って、左側が実で、右側が虚であるというヒントになっていて、映画内でも左右配置は意図的に行われていたと思います
映画全体は事実ベースのフィクションなので、あくまでも映画的には事実の部分が左側に寄っている、という見方で良いのだと思います
意識的な対比になっているのが、グレイシーからメイクを教わる際に「左:グレイシー、右:エリザベス」となっていたものが、レストランのトイレのシーンでは左右反転していました
また、ジョーがグレイシーに詰め寄るベッドのシーンでは、ジョーが左側の椅子に座っていて、右側にグレイシーが寝ているという構図が取られていました
左側が真実であるならば、鏡のシーンでは「グレイシーは本物、エリザベスは偽物」となり、これが反転することで「エリザベスがグレイシーに同化している」という意味になります
さらに、ジョーがグレイシーと話すシーンでは、左側のジョーの本音は真実で、右側にいるグレイシーが嘘をついている、という見方もできます
最終的には、再現ドラマの撮影シーンにて、左側にエリザベスがいて、右側にジョー役の若手俳優がいました
左側のエリザベスは蛇を使ってジョーを誘惑していて、右側のジョー役は彼の実年齢よりも大人の配役になっていました
このあたりの巧妙な配置によって、制作サイドが真実だと感じたことと、虚構であると感じたものが二分されているということになります
すべてを真実とするのではなく、虚構もあるというもので、再現ドラマにはいくつものフェイクがありますが、本作では意図的に虚実が判別しやすいように、このような演出がなされたのでしょう
とは言え、真実は当人同士しかわからないもので、ジョーの問いに対するグレイシーの答えが嘘であるかどうかは、本当のところはわからないものなんだと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、年の差カップルが起こした事件を題材にして、その再現ドラマを演じる女優がリサーチするという内容になっていました
この構図が珍しく、どこまで対象者に同化できるのかというものを描いていたように思います
接触と取材を経てエリザベスが感じたものは、狡猾にグレイシーが誘惑をしたもので、それによってジョーには深い傷が残ったというものになっています
ジョーが屋根の上で息子に弱さを見せるシーンがありますが、この時の精神状態を誘発しているのが、息子があの時の自分を越える年齢になったからだと言えます
息子の高校卒業というのは、自分が成し得なかった過去であり、実際のジョーの中の人は高校を中退しているのですね
なので、自分にあったかも知れなかった未来というものがあって、それを目の前で見せられているようにも思えます
あの時は子どもで、正常な判断ができなかった
これがジョーが長年考えていた後悔の種であり、それが息子の卒業と同時に明確な問いに変わったのだと思います
史実では、この後に夫婦は不和になり、別居状態になるのですが、その原因がこの映画で描かれているものと同じなのかはわかりません
それでも、当人の判断が定まらない時に、欲望を前面に押し出して誘惑をするというのが罪深いものである、という断罪はあるように思います
いくら当人同士が燃え上がっていたとしても、その判断が正常なもので、熟考されたものなのかはわからないのですね
それゆえに、愛があれば大丈夫ではないという意味合いも含めて、児童強姦などの罪が設定されているのだと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99302/review/04041664/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/maydecember/