■ありえない世界の中で、ありえない映像を撮ろうとする、ありえない兄妹の物語でした


■オススメ度

 

未確認物体系のミステリーが好きな人(★★★)

 


■公式予告編(ちょいネタバレあり)

鑑賞日:2022.8.26(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:Nope(「あり得ない」「バカバカしい」と言う意味)

情報:2022年、アメリカ、135分、G

ジャンル:未知の物体に襲われる中で、その撮影を敢行しようとする兄妹を描いたホラー映画

 

監督&脚本:ジョーダン・ピール

 

キャスト:

ダニエル・カルーヤ/Daniel Kaluuya(OJ/オーティス・ヘイウッド・ジュニア:父の跡を受け継いだ牧場主、馬の調教師)

キキ・パーマー/Keke Palmer(エメ/エメラルド・ヘイウッド:OJの妹)

 

スティーヴン・ユアン/Steven Yeun(ジュープ/リッキー・パーク:元子役、テーマパーク「ジュピターズ・クレイム」のオーナー&クリエイター)

 (幼少期:ジェイコブ・キム/Jacob Kim、マイキー・ヒューストンを演じる少年)

Wrenn Schmidt(アンバー・パーク:ジュープの妻)

Lincoln  Lomberk(カルトン・パーク:ジュープの息子)

Pirce Kang(フェニックス:ジュープの息子)

Romas Gross(マックス:ジュープの息子)

 

ブランドン・ペレア/Brandon Perea(エンジェル・トレス:フライズ・エレクトロニクスの技術セールスマン、監視カメラを設営&運用)

 

マイケル・ウィンコット/Michael Wincott(アントラーズ・ホルスト:「撮影」に巻き込まれるCM監督)

 

キース・デイヴィッド/Keith David(オーティス・ヘイウッド:亡き「ハリウッド・ホース牧場」の元オーナー、OJとエムの父、馬の調教師)

 

ドナ・ミルズ/Donna Mills(ボニー・クライトン:CM女優)

エディ・ジェイミンソン/Eddie Jemison(バスター:CMの撮影クルー)

オズ・パーキンス/Oz Perkins/Osgood Perkins(フィン・ベイチマン:CMの監督)

Liza Treygen(メイク担当)

 

デヴォン・グレイ/Devon Graye(ライダー・マイブリッジ:農場に侵入するTMZのレポーター)

 

バービー・フェレイラ/Barbie Ferreira(ニッシー: フライズの社員、エンジェルの同僚)

 

【ゴーディーズ・ホームの演者】

テリー・ノタリー/Terry Notary(ゴーディ:暴れるチンパンジー)

ソフィア・コト/Sophia Coto(メアリー・ジョー・エリオット:ヘイリー・ヒューストン役、ジュープの初恋の人)

アンドリュー・パトリック・ラルストン/Andrew Patrick Ralston(トム・ボーガン:ブレッド・ヒューストン役)

ジェニファー・ラフルール/Jennifer Lafleur(フィリス・メイベリー:マーガレット・ヒューストン役)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:ロサンゼルス州

アグア・ダルシー

 

ロケ地:

アメリカ:ロサンゼルス州

アグア・ダルシー砂漠

https://goo.gl/maps/nZyCn2K3nVGVbnnP9

 


■簡単なあらすじ

 

ロス北部の砂漠地帯で馬の牧場を経営しているオーティス・ヘイウッドは敏腕な馬の調教師として名を馳せていた

ある日、空の様子がおかしくなったあと、オーティスは突然馬上から転落してしまう

 

息子のOJが彼を病院に連れて行くものの、顔面に突き刺さった5オンス硬貨によって、父は死亡してしまった

牧場はOJが引き継ぎ、妹のエムと共に生活を続けるものの、元々コミュ障気味のOJはうまく跡を告げなかったのである

 

生活に困窮するOJは、少し離れたところにあるテーマパーク「ジュピターズ・クライム」のオーナーであるジュープに馬を卸すことで生計を立て始める

ジュープは「いっそのこと牧場ごと譲らないか」と打診するものの、OJは首を縦に振らなかったのである

 

「ジュピターズ・クライム」では新しい見せ物として、馬を生贄にするショーを計画していて、その準備は着々と進んでいた

一方、OJは再び空がおかしなことになっていることに気づき、上空に何かいるのではないかと勘ぐり始める

 

そこで、地元の電気店に出向いて監視カメラを買い、そこの技術スタッフのエンジェルに設置を依頼することになったのである

 

テーマ:見せ物の功罪

裏テーマ:あり得ない(NOPE)とは何か

 


■ひとこと感想

 

予告編で「NOPE」は「そりゃ、無理だ」みたいな感じに訳されていましたが、本編では「あり得ない」とか、「そんな馬鹿な」みたいな意味になっていましたね

冒頭から旧約聖書のナホルの書が引用され、その意味は「私はあなたに忌まわしい汚物を投げかけ、あなたを卑劣にして見せ物にする」と言うような意味になっています(字幕翻訳とは違います)

 

映画は「見せ物」を題材に扱っていて、子役時代のチンパンジーの暴動事件で生き残ったジュープは、今では動物などを見せ物にしたショーを行っていました

それがエスカレートしたのかわかりませんが、本作内では「エイリアン」を見せ物にしようと企んでいます

 

映画はホラーというよりはSF&ミステリーのようなもので、上空にある「何か」の正体を探っていくという流れになっています

エイリアン(宇宙船)であると確信するOJが「撮影」を敢行しますが、この一連の命懸けの行動は、文字通り「あり得ない」と言えるのかも知れません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ですよね、という感じで、予告編が一番面白いという残念な仕上がりになっていましたね

本編では「見せてはいけないものを見せてしまう」という、ホラー映画でコケるパターンを踏襲していました(英語のカテゴリーは「ニューウエスタン(新西部劇)&パニック」になるのかな)

 

映画はほぼSF映画と言って差し支えなく、上空の何かの正体を「撮影する」という愚行を描いていきます

時代設定は少し前の時代ですが、現代風にいうと「危険を冒して映え重視で危険なことをするYouTuber」みたいなものを皮肉っていると言えます

 

ジュープは子役として自分を見せ物にしていて、大人になった今は「壮絶な過去」を見せ物にして、挙句の果ては「地球外生命体」をターゲットにしていました

その怒りを買ったという感じで、エイリアンは全ての有機体を飲み込んで、不要なものを「排泄」していく様子が描かれていきます

 


ナホムの書(冒頭の引用句)について

 

ナホムの書とは旧約聖書の文書の一つで、キリスト教では預言書に分類されている書物のことを言います

ナホムは著者の名前で、「慰める者」という意味があります

映画の冒頭で引用されたのが下記の内容で、

「I will cast abominable filth at you, make you vile, and make you a spectacle. (旧約聖書ナホムの書 3章の6節)」

日本語訳だと「わたしは汚らわしい物を、あなたの上に投げかけて、あなたをはずかしめ、あなたを見せ物にする」という感じの意味になります

 

ちなみにナホムの書の3章は「復讐の謂れ」というタイトルで、流血の街が滅ぼされていく様子が描かれています

ナホムの書の第3章は19節から成っていて、この章では「ニネベの町」の物語なのですね

ニネベの町は流血の町と呼ばれ、虚偽に満ち、略奪が蔓延り、洗車が町を駆け抜けて、死体の山が累々とあるという状況です

そして、これらは「呪術を行う麗しい遊女の仕業だ」とされていて、「遊女の魅力によって、国は諸部族を売った」となっていて、ニネベの町もその一つであると示唆されています

さらに物語は進み、冒頭の引用句の前には「遊女に諸部族を売った国王に対して、あなたの恥をほかの国の国王に見せつける」と宣言するのですね

そして、「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せ物にする」と続きます

 

ナホムの書の引用はその一文の引用になっていて、章全体の引用とは少し趣が違います

それでも「王=ジュープ」とも取れるので、ジュープの王国の崩壊は「彼の過去との向き合い方」というふうにも読み取れます

ジュープはかつてのチンパンジーの惨劇の生き残りで、それによって被害者たちの遺品などを展示して「見せ物」にしていました

映画の後半で起こる出来事は、ジュープの愚かな行為の暴露とも言え、何かを見せ物にすることへの警鐘があると解釈できるでしょう

 


ゴーディーズホームの必要性

 

ちまたで「このシーンは必要か?」と言われている「ゴーディーズ・ホーム」の映像ですが、さすがにこのシーンは必要不可欠であると言えます

この映画の裏の主人公はジュープで、彼は子役として見せ物にされてきて、その活動の一環で「ゴーディーズホーム」に出演します

そこで悲劇が起き、偶然立った靴を見たことで、ゴーディと目を合わせずに済んだという過去がありました

この過去があるが故に、ジュープは「わたしならゴーディと意思疎通ができた」と勘違いすることになりました

 

その後、ジュープはテーマパークを立て、そこで「見せ物を主体としたプログラム」を計画していました

彼がどのような経緯で「何か」の存在を知ったかはわかりませんが、オープニングの後に「登山客が行方不明」というニュースが流れていたので、その時に「目撃した」のかもしれません

彼は「ジュピターズ・クライム」という演目で、馬を生贄にして「何か」を誘導するショーを始めます

でも、結局のところ、「何か」を手なづけることもできぬまま、餌になってしまいました

その後、血の雨が流れて、OJたちの白い家が真っ赤に染まるのですが、このシーンはナハムの書の「流血の町」を想起させます

 

ちなみに映画で登場するチンパンジーが暴れた事件の元ネタは「トラビス」という名前のチンパンジーの事件となっています

2009年に起きた事件で、トラビスが飼い主サンドラ・ハロルドの旧友であるチャルラ・ナッシュさんの顔を噛みちぎったという壮絶な事件でした

ググれば映像も出てきますが、完全閲覧注意案件なのでやめておきます

 

ちなみに日本でも「チンパンジーが出る番組」はあって、フジテレビ系列で放送されていた「CHINPAN  NEWS CHANNNEL」などがあります

事故を起こした例でいうと、2012年の『みやざわ劇場(阿蘇カドリー・ドミニオンの動物ショー)』にて、パンくんが女性研修員を襲ったという事例があります

パンくんは『天才!志村どうぶつ園』などに出演歴もある人気のチンパンジーで、襲った原因は「繁殖期になると雌に対して優位性を見せるために暴力的になる」と分析されています

映画のゴーディがどのような理由で暴れたかまでは描かれませんが、意思疎通ができない状態では本能の暴走を止められないと言えるのではないでしょうか

 

これらの事件の引用があるのは、馬が暴れるシーンも含めて、意思疎通の困難な相手を調教することはできないというものだと言えます

ある程度習性を知っていても事故は起こるものなので、素人が首を突っ込むとロクなことにはなりません

自身の能力を過信したり、動物などを軽んじたりすることで、事故はおきますが、人間は地球上においてフィジカルの優位性はそれほどではありません

また、人間は動物の習性を観察して研究はしているものの、それが完璧でないことは常識的なことだと言えるでしょう

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は前半はホラー映画で、後半は怪獣特撮ものというテイストにジャンルチェンジが起こったような錯覚に陥ります

「何か」はどう見ても使徒ですが、これは日本人なら誰でもそう思うレベルに寄せて作られています

これは監督のジョーダン・ピールさんも明言していて、その他にも日本のアニメのオマージュと思われるシーンもいくつか見受けられます

 

映画は一貫して「見せ物をする愚かさ」を描いていて、OJとエムも「何かの撮影して見せ物にしようとする」という行動を取ります

この命懸けでバズる映像を撮りたいみたいな衝動は、客観的に見ると滑稽であり、この兄妹の馬鹿な行動を突き放して見てしまう人もいます

個人的には「YouTuberをとことんディスっている」と思いましたし、その最中に登場する「TMZのレポーター」ネタもぶっ込みすぎやろと思いました

「TMZ」はアメリカのエンタメ系情報サイトのことで、「Thirty-mile  Zone(ロスの映画産業の契約の一つ)」の頭文字を取ったものです

このTMZはいわゆるゴシップの代名詞的なもので、日本だと「文春オンライン」とかがイメージが近いのかもしれません

ちなみにこの記事を書いている時にググって内容を確認したところ、トップ記事は「ベン・アフレックとジェニファー・ロペスの新婚旅行ネタ」でした

飛行機から降りた際にタバコを取り出した写真など、本当にどうでも良いような記事になっていて、時間の無駄だと思って途中で読むのをやめました

 

本作では目を合わせること以外にも、視点について細かな描写がありましたね

冒頭の「何かの内部(後からわかる)」は「何か」目線で地上を見ている絵にもなっていますし、「何か」を唯一捉えることができたのは井戸に仕込まれたポラロイドカメラでした

見せ物を凝視するというところにどこか後ろめたさのものがあり、本作ではそれを危険な行為として捉えています

馬の目のドアップとMTZのライターのフルフェイスメット、井戸のポラロイドが同じような映像になっていたのも印象的でした

 

個人的には正体が見えなかった方が面白く、「エンドロールの後にエムが撮った写真を見せる」でもよかったと思ったくらいです

何かが宇宙人的なものと明確になった時点でホラー要素は消えてしまうので、最後まで「見えないもの」であった方が怖かったと思います

このあたりは好みの差なのかもしれませんが、個人的には使徒が襲来した段階で「なんだかなあ」と思ってしまったことは事実で、そこからの戦いは本当にどうでも良くなってしまった、というの率直な感想ですね

バルーン人形は何かのギャグだと思いますが、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドではセットを組み直してパークを再現するとかなんとか

そこでジュープバルーンも登場するとのことで、悪趣味だなあと思いました

ジュープくん人形の中に何が入っているのか

そこにあるのは、見せ物になってきたユニバーサル・スタジオ・ハリウッドの怨念だったりするのかもしれませんねえ

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/382603/review/5f39bf77-374e-496e-8c9f-bdcec01a332a/

 

公式HP:

https://nope-movie.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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