■ビジネス啓発本好きならば、その理論がどのように人間を動かすかを見るために鑑賞するのも悪くないと思います
Contents
■オススメ度
ビジネス哲学系映画が好きな人(★★★)
バブル期の台湾の空気感を堪能したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.6.18(アップリンク京都)
■映画情報
原題:老狐狸(老いた狐)、英題:Old Fox(老いた狐)
情報:2023年、台湾&日本、112分、G
ジャンル:バブル期の台湾にて、富豪に見初められた少年を描いたヒューマンドラマ
監督:シャオ・ヤーチュエン
脚本:シャオ・ヤーチュエン&チャン・イーウェン
キャスト:
バイ・ルンイン/白润音(リャオジエ/廖界:タイライの息子、11歳)
(青年期:ジェームズ・ウェン/溫昇豪、役名:スティーヴ)
リウ・グァンティン/刘冠廷(リャオ・タイライ/廖泰来:レストランで働くシングルファーザー)
(10代:チェン・ヴァンゲン/鄭啺恩)
ユ・チアハン/游珈瑄(タイライの妻)
アキオ・チェン/陈慕义(シャ/谢老板:オールド・フォックスと呼ばれる富豪)
(幼少期:カンイン/姜仁)
フー・メンポー/傅孟柏(シャの息子)
ユージニー・リウ/刘奕儿(リン・チェンチェン/林珍珍:シャの秘書)
門脇麦(ヤン・ジュンメイ/杨君眉:タイライの高校時代の恋人、声:アヴィス・ソン/鍾瑶)
(10代:ミナ・タット/戴雅芝)
(ヤン・チュンエイ/楊喬恩&キャロル・フー/徐潔英:ボディダブル)
ファン・チェンウェイ/黃健瑋(ウェイ・シャオハ/魏小華:ジュンメイの夫)
カオ・インハム/高英軒(少佐:リイに儲け話を持ち込む株のブローカー)
カン・ティファン/班铁翔(リイ:1階の麺屋の主人)
ヤン・リーイン/楊麗音(リイの妻)
ジョニー・ボーイ/曹育豪(リーの息子)
スタニー/蔡宛妮(リーの息子の嫁)
クレス・クアン/莊益增(チャオ/趙仔:自転車屋)
チェン・ヤーフチー/陳雅慧(ワン夫人/西裝姨:スーツ屋のおばさん)
ハウク/鍾詠傑(ホン氏/阿猴:果物屋)
ジェイコブ・ワン/王暐捷(シャの運転手)
フー・チェンツン/簡宗福(屋台のオーナー)
チェン・ハンホ/陳逸帆(レストランのシェフ)
ジャック・チョン/周書賢(レストランのシェフ)
ファン・マクメイ/黄舒湄(ニャオ夫人/蕭阿姨:レストランのウェイトレス)
シャオ・ホンウェン/蕭鴻文(ワン/汪:料理長)
トゥルー・ワン/黃信助(ウェイター)
ハ・ポーウェイ/許博維(ウェイター)
ユ・ハオチェン/于吴正(いじめっ子)
オスカー・ヤン/楊學湧(いじめっ子)
ヤン・イージュ/楊易儒(いじめっ子)
クリス・クアン/管醬(いじめっ子の母)
ジャン/蕭弘展(リャン・タイニョン/廖泰昇:タイライの弟)
マカ/陳甄(ミン・リン/湘琳:タイニョンの妻)
ラ・ホアンリン/羅香菱(結婚式のホスト)
チャン・ジャンミン/張再興(アジエ/阿傑:シャに絵画を売る男)
スー・ポーウェイ/許博維(アジエの息子)
リ・ランシー/李蘭西(可愛い女性)
ラン・ジアシュアン/林家玄(可愛い女性)
リウ・グァンテイン/劉冠霆(リオタイの学生時代のクラスメイト)
ウェン・ウェンド/王妍文(リオタイの学生時代の先生)
ゴ・バイウ/吳柏叡(理髪店の生徒)
チェンミン/陳明(物乞い)
ジャオ・シャオラン/趙仲榮 (物乞い)
スラリ・フォンタン/丁士芬(ニュースアンカー)
チュン・シェンション/鍾振盛(県議員)
リン・ジアイ/林佳怡(県議員の秘書)
カン・ルージー/康祿祺(スティーヴンのビジネスパートナー)
カオ・シャーリー/高仙齡(スティーヴンのビジネスパートナー)
ワン・シーウェイ/王四維(スティーヴンのクライアント)
シャオフー/小虎(野良犬)
シャオヘイ/小黑(野良犬)
■映画の舞台
1980年代、
台湾:
ロケ地:
台湾:
保成街(だいたいの場所)
https://maps.app.goo.gl/4AX1yok7JNFGgK9t6?g_st=ic
シーザーパークホテル台北
https://maps.app.goo.gl/UQRr8CXM2CbBcVJv6?g_st=ic
寶福樓(住所はこのあたり:別の店が表示されます)
https://maps.app.goo.gl/btLZTMWnkBRkq9n16?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1989年、台北の高級レストランで働くリャオ・タイライは、亡き妻との約束を果たすために、コツコツと節約しながら資金を貯めていた
タイライには11歳の息子リャオジエがいて、彼は小学校でいじめられていたが、健気に父を支えていた
ある日、大雨の日にシャ社長の車に乗せてもらったリャオジエは、「父に家を売って欲しい」という
シャ社長はこのあたりの大地主で、台北は不動産バブルの影響で、貧富の差が激しくなっていた
タイライが買おうとしていた物件も数倍に値上がりし、とても手を出せるような代物ではなかった
その後も、シャ社長はリャオジエを気にかけ、自身の成功哲学を教え込んでいく
勝ち組と負け組の差は何なのかとか、自身の幼少期のことを語るものの、リャオジエにはピンと来なかった
だが、強者のそばにいることで強さを誇示できることなどを学んでいき、その変化は父を心配させてしまうのである
テーマ:成功に必要なもの
裏テーマ:貧富を分けるもの
■ひとこと感想
富豪と貧乏人の子どもの交流という題材で、それを分けるものは何かとか、成功するためのマインドなどを教え込んでいく老人を描いていました
なんとなく「金持ち父さん 貧乏父さん」というビジネス本を思い出してしまいましたが、似て非なるものという感じになっています
ビジネス系啓発本を読んだことがある人ならわかると思いますが、本作はどちらかと言えば「成功を俯瞰してメカニズムを解説する」というパターンになっていました
「戦う相手のことをよく知ること」などが挙げられますが、一番のポイントは「知り得た情報をどのように使うか」というところだと思います
ある時、偶然耳にした情報を関係ないとスルーする人もいれば、それをうまく利用する人もいます
リャオジエはその情報を誰に渡せば効果的かということを考えていて、それがシャ社長との繋がりを強めていくことになりました
登場人物が多いのにIMDBやWikiが頼りなくて苦労しましたが、映画のFacebookなどに色んな情報があったので助かりました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
個人的にビジネス啓発本を読み込んでいた時期があって、それなりの知識はあるのですが、いつの時代も「人間の本質」を理解していないと、このようなツールは使い物にならないのだなあと思います
映画では、知り得た情報をどのように使うかということもありますが、そこに「人の気持ちを考えて情報の出し方を考える」というものまで描かれていました
これは、父とシャ社長の考え方をミックスしたものになっていて、ラストの成人期では、「Win- Win」に見えるような建前と本音を使い分けるまでになっていました
バブル時代に情報を鵜呑みにした隣人が自殺をするのですが、自分で考えずに託すというのはいつの世も一番愚かなことに分類されます
いつまでも上がり続けるものもなく、大局的に見て上昇気配でも押し目というものは存在します
これは限りある資金で取引をすればわかりますが、どこかで利確をするタイミングがあって、そこで大勢が下落だと思って売ってしまったりします
ヘッジファンドなどは、個人投資家を嵌め込んでナンボという世界にいるので、勝たせて大金を得られる期待感を持ったところでトンズラするというのは詐欺の常套手段と言えるでしょう
映画は、子ども目線でもわからないことはなく、大人でこのカラクリがわからないとヤバい感じがします
映画は、怒りを原点にして、人間社会の縮図を理解した少年がマインドシフトする様子を描いていました
ビジネス啓発本で時間を潰すよりは、リャオジェやシャ社長の目線で、自分ならどうするかを考えるのもありだと思います
ちなみに、私なら「事故物件値の価格で購入して、一階部分を遺族に賃貸します」ね
そこで得た資金をもとに別の場所を購入し、最終的には遺族に売り払うことになると思います
転売もできますが、それをするとシャ社長を敵に回してしまう可能性が高いので、ギリギリのラインでビジネステイクになるような方法で「次への布石にする」方が良いかな、と思いました(賃貸で得た収入で2階部分を理容室にすれば名目上は双方の顔を立たせることができます)
■富裕層の視点
本作は、富裕層に成り上がった老人と、貧困に喘ぐ父に挟まれる少年を描いていて、シャ社長は成功者の哲学を彼に教え込むことになりました
それは、かつてのシャ社長が同じような境遇にいて、少年と同じ行動を取っていたからなのですね
気質が同じなら、同じ道を行けるかもというものがあって、シャ社長は自分の過去と重ねるように語りかけていくことになりました
成功哲学というのは世の中にたくさんありますが、それを同じように実践して成り上がる人というのはほとんどいません
稀に全く同じ方法でという人もいないことはありませんが、成功者の哲学の本は毎年のように生み出されているので、思考は同じでも行動を変えないと結びつかないと言えます
一時期、仕事の関係で色んな成功哲学の本を読むことがありましたが、書いている内容にそこまで差異があるようには感じません
ざっくりといえば「広い視点」「深い追求」「今から始める行動力」「ブレないマインド」みたいな感じですね
これらの成功哲学というのは、大元を辿れば行き着く先は古典になります
なので、古典とされて、今でも売れ続けている哲学書を読めば、その後に発売されたものがどの系譜なのかがわかります
個人的な印象だと、ナポレオン・ヒル『思考は現実化する(Think and Grow Rich) 』、ピーター・ドラッガー『マネジメント 基本と原則』あたりは日本語訳もありますね
あとは、スティーヴン・R・コヴィーの『7つの習慣』などもわかりやすく、めっちゃ古いのにランキングの上位に入っている本から読むのが得策であると考えています
■人の気持ちをどのように活かすべきか
タイライは人の気持ちに寄り添える人ですが、彼自身が誰かに何かを施したりはしていません
元恋人のジュンメイからは間接的に施しを受けているし、チェンチェンからのアプローチにも応えられない人でした
これらは全て、貧困が手足を縛っている状態で、心理的に何かをしてあげたいと思っていても、経済的事情から何もできないという状況を生み出していました
彼は人の気持ちがわかるために人を惹きつけますが、能動的に何かを成し得る状況にはありません
人に寄り添うことは大事ですが、こと経済的な観点からすれば邪魔になることもあります
その思考の究極のところにいるのがシャ社長なのですが、かと言って彼が極悪な鬼というものでもありません
彼は一帯の地主であり、土地の権利は彼のものでもあります
その土地で商売をする権利を借りている状態なので、この関係から脱するには、資金を作ってその土地を購入する以外にはないと言えます
リャオジェは最終的に二人の父親からの教えを受け継ぎ進化させるのですが、それは「人の気持ちを理解して、寄り添っているように見せかけて、自身の利益を追求する」というやり方になっています
それがラストシーンの社員(ビジネスパートナー)との会話に登場しますが、顧客からの要望を完全に汲み取ることもなく、かと言って反発を産むということにもなっていません
さらに顧客には伝えていない「今後起こり得るリスク」をも前倒しで対策していることになります
顧客が決め手を欠いても、その先にさらに奥の手があるというもので、この思考に至るには「自分だけが儲かれば良い」という考えだけでは辿り着けないと思います
ビジネスの世界では「自分も顧客も対等である」という前提を持ち、両者の周囲には多くの人がいるということを理解する必要があります
何かのビジネスが生まれる時、客以外にも影響を与えるのは必然であり、それを無視することで、潜在的なリスクというものが生まれます
なので、「Win-Win(自分と相手)」だけでは足りず、「Win-Win-Win(自分と相手と環境)」という考えが必要になります
この時の「自分」に自分の部下を入れられるともっと良いのですが、従業員を外部と見立てて「Win4」になる状態はあまり好ましいとは言えないように思えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
ビジネスを展開する時に大事なのは、顧客とは対等であるという認識と、環境への配慮は必要であり、さらに従業員のことを考える必要があります
これは、従業員は永続的に自社の社員であるかどうかはわからず、顧客にも環境にもなり得る存在だからなのですね
元々、環境にいた人がその会社を気に入って社員になることもあるし、顧客だった場合もあるでしょう
それとは逆に、流出することによって、顧客にもなる場合もあるし、多くの場合は環境になってしまいます
従業員を道具のように扱う会社は、従業員を抱えている間でもリスクが増大していることを認識すべきであり、内部的な告発、自爆テロに晒される危険性が増しています
安価なアルバイトにワンオペをさせたりしてSNSで犯罪行為が拡散というのが何度も報道されますが、これらはそのシステム自体が歪なものであり、配慮が欠けた上に起こっていることだと言えます
従業員が犯罪行為を行う下地には様々なものがありますが、意識の低さを生み出しているものの正体をきちんと把握する必要があると思います
日中にどんなにサービスを充実させても、利益拡充のための深夜帯で同じものが提供できないのなら意味はないのですね
また、ビジネスにおいて、顧客第一を掲げる企業も少なくなく、これが現在の悪しき習慣を産んでいる原因にもなっています
お金を払えば何をしても良いと考える人もいますが、お金とは商品やサービスに対する対価であり、それを超えるものは不当な要求であると言えます
もし、完璧なサービスを求めるのなら、それに見合う金銭を支払う義務が生じるのですが、日本の伝統的な産業では、それらを蔑ろにしている部分がありました
それを「おもてなし」の一言で片付けるのはナンセンスであり、対価に反映させ、従業員にも給与以外のものを付与する必要が出てきます
欧米などにあるチップという文化は、その従業員のサービスに対して顧客が企業とは別に支払うもので、日本ではそれを受け取ることを拒否する傾向があります
これは文化の違いなので無理に習慣づける必要はありませんが、顧客との間に特別な関係ができていて、業績を上げている従業員に対して特別なものを支給する制度はあっても良いと思います
わかりやすいのは指名制であり、何かのサービスをする場合に氏名が入れば、その都度簡単なボーナスであるとか、加算評価をして給与に反映させるほうが良いでしょう
逆に理不尽な対応を迫られた場合も、その業務に関わったことに対する対価を支払うべきであり、従業員側に過度な過失がない以上は、そのケアを怠らない方が良いと言えます
このあたりの考えは、企業の気質に左右される部分があり、離職率にも繋がっていくことにもなります
個人的には「一つのクレームに遭遇した時」は、「これが今日の自分に課せられた仕事なのだ」と解釈し、その時間を今後に活かすようにしていますが、このような考え方ですら強要すると大変なことになるので、企業風土として根付かせる意味がなければ、誰にでもできることに分類するのは却ってマイナス効果になってしまうと言えるのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100361/review/03944433/
公式HP: