■劇中オペラのメタファー度ゼロには笑ってしまうけど、直情的な人柄が現れていて良かったように思います


■オススメ度

 

群像劇コメディが好きな人(★★★)

創作者の苦悩とインスピレーションを見たい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.4.11(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:She Came to Me(彼女は降りてきた=劇中のオペラのタイトル)

情報:2023年、アメリカ、102分、G

ジャンル:スランプ中のオペラ作家を中心に巻き起こる非日常を描いた群像劇

 

監督&脚本:レベッカ・ミラー

 

キャスト:

ピーター・ディンクレイジ/Peter Dinklage(スティーブン・ローデム:スランプ中の現代オペラ作曲家)

アン・ハサウェイ/Anne Hathaway(パトリシア・ジェサップ=ローデム:潔癖症のスティーヴンの妻、精神科医)

Levi(リーバイ:夫婦の愛犬)

 

マリサ・トメイ/Marisa Tomei(カトリーナ・トレント:曳き船の船長)

 

エヴァン・エリソン/Evan Ellison(ジュリアン・ジェサップ:パトリシアの息子、大学生)

 

ヨアンナ・クーリグ/Joanna Kulig(マグダレナ・シコフスキ:ローデム家の家政婦)

ハーロウ・ジェーン/Harlow Jane(テレザ・シスコフスキ:マグダレナの娘、ジュリアンの恋人)

ブライアン・ダーシー・ジェームズ/Brian d’Arcy James(トレイ・ルファ:マグダレナのパートナー、法廷速記官)

 

Judy Gold(スーザン・ショー:スティーヴンのオペラの舞台監督)

Isabel Leonard(クロエ:「She Came to Me」のオペラ歌手)

 

Sue Jean Kim(シスター・ヘンリエッタ:パトリシアが通う教会のシスター)

 

Aalok Mehta(アントン・ガトナー:スティーヴンの仕事仲間、劇作家)

Samuel H. Levine(レイフ・グンデル:アントンを引き抜く作曲家)

 

Chris Gethard(カール:パトリシアで妄想する患者)

 

Dale Soules(モクシー:カトリーナの叔母、料理係)

Sandos Diaz(デス:航海士)

Joseph Oltman(ピート:機関士)

 

George Sheanshang(ハリー・シュスター:ジュリアンの弁護士)

 

Gregg Edelman(ダフティン・ハバフォード:財団の理事)

Francesca Faridany(マキシン・ハバフォード:ダフティンの妻)

Bryan Terrell Clark(フランク・ホール:財団の新理事)

 

Tamya Taylor(ターニャ:テレザの友人)

Grace Slear(ミランダ:テレザの友人)

 

Tommy Buck(スティーヴンがカトリーナと出会うバーのバーテンダー)

Mo Stark(ヘルムート:カトリーナと話すバーの客)

 

Jen Ponton(エロディ:南北戦争再現劇の参加者、テレザの案内役)

James Lancel McElhinney(ジム:南北戦争の再現劇の出演者、トレイの友人)

Peter Bedrossian(南北戦争再現劇のデズモンド役、トレイの友人)

 

Anthony Roth Costanzo(募金活動のカウンターテナー、冒頭の歌唱)

 

Emmett O’Hanlon(「She Came to Me」の男性のオペラ歌手)

Clotilde Otranto(「She Came to Me」の指揮者)

Timo Andres(「She Came to Me」のリハーサルピアニスト)

 

【スペースオペラ「Hurry Hurry」】

Greer Grimsley(総統役、結婚に反対するクラレッツォの父)

Alicia Hall Moran(神父役/ナレーター)

David Morgan Sanchez(フィリオ役、新郎)

Olivia Dei Cicchi(クラレッツォ役、新婦)

Oscar Antonio Rodriguez(ジェネラリッシモの家来役)

Evan Copeland(ジェネラリッシモの家来役)

Kate Jewett(川のニンフ役)

Jin Ju Song-Begin(川のニンフ役)

Imani Frazer(川のニンフ役)

Jack Blackmon(川のニンフ役)

Dwayne Brown(川のニンフ役)

Cole Lynn(川のニンフ役)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:ニューヨーク

ブルックリン

 

アメリカ:デラウェア州

https://maps.app.goo.gl/LAepABStNy2dWSZq8?g_st=ic

 

ロケ地:

アメリカ:ニューヨーク

 


■簡単なあらすじ

 

ニューヨークにて、現代オペラの作曲家として活躍しているスティーブンは、潔癖症の元主治医の精神科医パトリシアと結婚していたが、新作が書けずに悩んでいた

ある日、妻から愛犬リーバイの散歩を頼まれたスティーブンは、犬の向くままに街を散歩することになった

 

向かったのは港近くのバーで、スティーブンはそこで曳き船の船長をしているカトリーナと出会う

気の向くままに、彼女の船に出向いたスティーブンだったが、船室の誘惑を断りきれずに、ベッドを共にしてしまった

罪悪感に苛まれながら急いで帰宅しようとしたスティーブンは、飛び出してきた車を避けようとして、海に落ちてしまった

 

だが、その時に鮮明なイメージが彼の頭の中を過ぎり、戯曲「She Came to Me(彼女が降ってきた)」を完成させてしまう

舞台は大成功を収めるものの、それを観にきていたカトリーナは、スティーブンが自分を女神だと感じていると思い、再度アタックをかけてくるのである

 

テーマ:魂を揺るがす刺激

裏テーマ:心のゆくままに従え

 


■ひとこと感想

 

先週の公開映画が今週のコナンを避けたために大挙押し寄せ、1週間ズレての鑑賞になってしまいました

アン・ハサウェイとピーター・ディングレイジが夫婦という時点で、さらに不倫騒動が巻き起こる展開だったので、スプラッターになってしまうんじゃないかと心配してしまいました

 

映画はスランプ中の劇作曲家が「領域外」に出ることでインスピレーションを受けるというものですが、エピソードそのまんまというのは笑ってしまいます

そこはもう少しオブラートに包むのかと思いましたが、誰が観ても自分のことだとわかるというのは「いずれバレても良いと思っていた」のかな、と思いました

 

オペラシーンはガチの人たちが演じていて、それに難癖つけるスティーブンという構図は面白かったですね

最後は舞台監督に追い出される始末で、「想像上」だと言いながら、鮮明な主人公像があるところがツボになっていました

後半のオペラは、子どもたちの物語がベースになっていますが、蚊帳の外になってしまったパトリシアはちょっと可哀想かなあと思ってしまいました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、作家のインスピレーションがどうやって起こるかというところを描いていて、癖の強い作曲家と中身は破天荒な精神科医のカップルの破綻というものが描かれていきます

潔癖症の妻に髭伸ばし放題の夫という組み合わせがツッコミどころ満載でしたが、彼女の潔癖症というのは、かなり病的な方向に向かっていたように思います

患者のカールとの一幕もかなり抑圧されていたものが放出されているのですが、彼女の逸話として登場する「完成される過程を見せる」というのは、本作の裏テーマのようになっていましたね

 

物語は、冒頭のシークエンスの人物紹介が下手くそで、スティーブンとパトリシアのパートはわかりやすいのですが、ジュリアンとテレザとの関係とその背景の描き方がかなり遠回りになっていました

マグダレナとトレイが夫婦ではないとか、ジュリアンはパトリシアの連れ子であるとか、肝心な関係性を提示するのが遅すぎるように思います

 

オペラシーンはオリジナルのもので、物語とリンクしていることを匂わす程度ですが、直接的過ぎて笑ってしまいます

前半の「彼女が降りてきた」もそうですが、後半の「Hurry Hurry」の重ね方もコミカルな感じに描かれていました

それにしても、有罪を逃れるために合法な州に行って結婚するという流れは凄いのですが、あれだとトレイはさらに固執してしまいそうに思えましたねえ

 


オペラ「She Came to Me」が描くもの

 

劇中オペラ「She Came To Me」は、スティーブンがカトリーナに出会ってインスピレーションを受けたもので、文字通り「アイデア」が降りてきた作品となっています

彼がこのインスピレーションを感じた瞬間は、彼女から逃げて、海に落ちた瞬間であり、その時に全ての構成というものが生まれていました

劇は「曳き船の船長と恋仲になって、それを拒絶したら殺される」というもので、抑圧からの解放と、執着というものが描かれています

 

スティーブンとパトリシアの関係は「主治医と患者」が派生したもので、パトリシアは奉仕こそ人生という考えを持っていました

最終的に、家財道具を全部寄付して修道女になると言い出してしまうのですが、それはスティーブンが浮気をしたこととはほとんど関係がないのですね

彼女には彼女の世界があって、そこに自分が必要かどうかだけを考えている

カトリーナの出現によって、自分の役割が終わったことを悟り、診察が終わったという感じになっていました

 

パトリシアはおそらくは人間関係リセット症候群の人で、これまでにも同じように患者などと深い関係を持ちつつ、それを切って来たのだと思います

そして、その人間関係よりも重視するものが宗教であり、自分は何かの理由があって「遣わされているものだ」と思い込んでいるところがあります

なので、神様の声に従っていると思い込んでいて、自分に不都合な真実というものを聞かない人でもあったように思います

実際には、極度の潔癖症なので、スティーブンの不貞は許し難いものでしょう

でも、そう言った人間関係への潔癖症よりは、自分の中にあるものが整っていれば良いので、それを最優先する結果になっていると思います

 

この劇はスティーブンにとって、創作の憑依であると同時に、パトリシアの救済になっている部分があります

また、恋愛依存症(というよりかセックス依存症)のカトリーナにとって、少女的な憧憬を詰め込んだ作品になっていましたね

スティーブンにとっての女性というのは恐怖の対象であり、それがパトリシアからカトリーナに変わったことを示す第一幕がそこにあったように思えました

 


オペラ「Hurry Hurry」が描くもの

 

後半に登場する「Hurry Hurry」は、ジュリアンとテレザの恋愛騒動を描いていて、若き二人の恋愛の邪魔をする憎き父親から逃げるという物語になっていました

テレザの養父であるトレイは南北戦争再現劇が好きな人で軍人役をするなど、規律に厳しい人物として描かれていました

オペラ劇でも、若いカップルに反対する役割として登場し、役名は「Generalissimo(総統)」として、南北戦争再現劇もネタに組み込まれている感じになっていました

劇中のストーリーと同じ流れになっていて、総統=トレイとして娘の結婚に反対するという立ち位置でした

 

総統から逃げる若いカップルが「別の土地」で結ばれるとういう流れになっていて、同時に「愛とは何か?」というラブロマンスの要素が強いものになっています

愛は盲目で行動を伴い、それに反対するのも感情であると説いていて、これはスティーブンとカトリーナに対する恋愛衝動に似ている部分がありました

スティーブンは愛の逃避行を図るジュリアンを自分と重ねていて、しかもその手助けのアイデアを出した人物でもあります

彼は恋愛に前向きで、その衝動に逆らわない性格をしていて、この部分がカトリーナと通じるところがあったように思いました

 

オペラでは多くのニンフが登場し、二人を見守ります

ニンフはギリシア神話などに登場する下級女神(精霊)で、ギリシア語で花嫁、新婦などの意味があります

スティーブンがあの劇にニンフを配しているのは、この恋愛は神様に祝福されているものだ、と暗示しているのでしょう

テレザは未成年ですが、その年齢や法律の壁を越えるのに「海」を使うところが、地上の制約から逃れていることを意味していて、面白い構図になっていると思いました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、二つの恋愛を描いていて、そのどちらもが障壁が存在するものでした

そして、どちらも勢いに任せている部分があって、それを克服しようとするアイデアを紡ぎ出していきます

現実で起きていることにインスピレーションを受けているスティーブンを描いていて、彼にとってのスランプの日々が晴れてくる過程を映し出していきます

 

スティーブンはパトリシアに言われるがままに「ルートを外れる」のですが、それまでの彼はどこかでパトリシアのルールに沿った生き方をしてきたのだと思います

これまでは、その生き方でもアイデアが生まれてきたのですが、マンネリ化と同時に新しいものが書けなくなったのだと思います

また、彼には助手的な存在であった劇作家のアントンがいて、このコンビにも不和というものが生まれていました

スティーブンは脳内にあるイメージをかなり具体的に表現するタイプですが、それがなかなか演者に伝わっていない場面もありました

 

何かを創造する時、そこには明確な「何か」というものがあるのですが、それを言語化して他者と共有することは非常に難しいものだと思います

相手の言語レベルに合わせつつ、そこに言語の共通の意味がないとダメなので、相手の語彙レベルと語彙に持っているイメージというものを掴まなくてはいけません

スティーブンの場合は、最終的に観客との対話になっていて、そこに演者が挟まる格好になっていて、この関節対話の難しさというものも描かれていました

最終的には、自分の言葉で語るべき時がくるのですが、オペラのように自分一人では完結しないもの、というのは、共通意識と共通言語というものを合致させていく必要があります

 

「She Came To Me」の練習風景にて、舞台監督のスーザンは「歌手の想像力を信頼して」というような言葉を使い、歌手のクロエも自分の中に主人公が降りてくることに必死になっていました

最終的に彼らはスティーブンの脳内の音楽化というものを達成し、それによってオペラは劇的なものになっています

後半のオペラはほぼスティーブンの脳内妄想ですが、これもいずれはオペラとなって、ジュリアンとテレザの元に届くのかもしれません

そのときに母親であるパトリシアがどのように感じるのかは分かりませんが、彼女の性格だと、すでに家族を切り離してしまっているのかな、と感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/99030/review/03719408/

 

公式HP:

https://movies.shochiku.co.jp/BrooklynOpera/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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