■作家の創作過程を覗き見する中で、ヒントと事実が虚構に育つのは面白みがありますね


■オススメ度

 

作家活動に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.7.18(京都シネマ)


■映画情報

 

原題:Shirley

情報:2019年、アメリカ、107分、PG12

ジャンル:人気作家とその世話係を託された女性を描いたヒューマンスリラー

 

監督:ジョセフィン・デッカー

脚本:サラ・ガビンス

原作:スーザン・スカーフ・メレル/Susan Scarf Merrel『Shirley: A Novel(2014年)』

Amazon Link(原作小説:英語版)→ https://amzn.to/4fcXtxs

 

キャスト:

エリザベス・モス/Elisabeth Mossシャーリイ・ジャクスン/Shirley Jackson:引きこもっている有名作家)

オデッサ・ヤング/Odessa Young(ローズ・ネムザー/Rose Nemser:シャーリイの世話をする妊婦)

 

オデッサ・ヤング/Odessa Young(ポーラ:シャーリイのイメージの女)

Alex Sherman(ポーラ/Paula Jean Welden:失踪した女学生、写真)

 

マイケル・スタールバーグ/Michael Stuhlbarg(スタンリー・ハイマン/Stanley Hyman:シャーリイの夫、教授)

ローガン・ラーマン/Logan Lerman(フレッド・ネムザー/Fred Nemser:スタンリーの助手、ローズの夫)

 

Robert Wuhl(ランディ・フィッシャー/Randy Fisher:ポーラの行方を知る郵便局員)

 

Paul O’Brien(ディーン:学部長)

Orlagh Cassidy(キャロライン:図書館司書)

 

Victoria Pedretti(キャサリン:庭で踊る大学生)

Bisserat Tseggai(ペギー:庭で踊る大学生)

 

Allen McCullough(ノーマン:詩人)

Edward O’Blenisラルフ・エリソン/Ralph Ellison:アフリカ系アメリカ人の詩人)

Steve Vinovich(ヘンリー:ソーダショップの男)

 

Ryan Spahn(酔っ払いの下品な男)

Vincent McCauley(大学院生)

Emily Decker(こうるさい大学生)

Fiona Agger(大学生)

Melissa Chanza(大学生)

Mattia Cornell(大学生)

 

Kecia Lewis(看護師)

 

Mick Coleman(タクシードライバー)

 

Warren Ray Davis(年上の男)

Lexa Hayes(パーティーの参加者)

Tony Manna(パーティーの酔っ払い)

Rosemary Howard(教員の妻)

Molly Fahey(教員の妻)

Ava Langford(ローズの友人)

Thomas Racek(パーティーのゲスト)

Louise Schoene(パーティーのゲスト)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:バーモント州

ベニントン

 

ロケ地:

アメリカ:ニューヨーク

ジェファーソン・ハイツ/Jefferson Heights

https://maps.app.goo.gl/1r2hkPpdPkAKJRb19?g_st=ic

 

ヴァッサー大学/Vassar College

https://maps.app.goo.gl/8cc1CFSyu4r3fsCm9?g_st=ic

 

アメリカ:ベニントン州

ベニントン大学/Bennington College

https://maps.app.goo.gl/MrDwdirH3PKs9EeD9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

ベニントン大学の教授スタンリーの助手をしているフレッドは、教授に招かれて妻ローズと共に大学に行くことになった

ローズはスタンリーの妻で作家のシャーリイの小説『くじ』を読んで感銘を受けており、会うことを楽しみにしていた

 

邸宅ではパーティーが行われていて、その奥では『くじ』について語るシャーリイを中心に人だかりができていた

一通り話し終えたシャーリイは自室へと戻り、ローズは思わず声をかけた

シャーリイは一目でローズが妊娠していることを見抜き、意味深な笑みを浮かべて去っていった

 

スタンリーはローズを呼び止め、シャーリイの現状について説明をする

そして、彼の要望にて、ローズはシャーリイの世話係として、フレッドと共に邸宅に住み込むことになったのである

 

テーマ:創作と想像

裏テーマ:作家の本性

 


■ひとこと感想

 

ちょっと昔の映画が今になって公開という不思議なパターンで、シャーリイ・ジャクスンという実在の女流作家が『絞首人(Hangsaman)』を執筆するに至る過程を描いていきます

この作品を知らなくても楽しめる内容で、シャーリイとローズの心理戦がメインになっていましたね

 

作家がどのような過程で作品を書いていくのかを描いていて、インスピレーションの受け方、そこから想像を広げていく様子などが描かれていました

連鎖的に生まれてくるビジョンというものがあって、小説などを書いたことがある人なら何となく雰囲気が掴める作品になっていたと思います

 

映画は、ヒット作を出した直後の作家のスランプを描いていて、そこから立ち直るために何を為すのかというものを描いていくことになります

そんな中で失踪した学生が作品のモデルになるのですが、作品の中に迷い込んでいくローズが学生と同化していくような演出は見事だったと感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ラストシーンにて、ローズは失踪学生ポーラの辿った道を行こうと考えます

夫が不倫していることを知って、激昂して森を目指すことになるのですが、この時のビジョンは「シャーリイの脳内小説」と合致している部分がありました

直後にシャーリイの隣からローズが消えるシーンがあるのですが、これは「小説の中の人物が自殺をした」ようにも思えます

 

実際には、ポーラ(小説ではナタリー)は自殺などせずに大学の方へと引き返すのですが、シャーリイの想像を越えたローズは、ポーラそのものに置き換わった瞬間だったのかな、と感じました

 

映画は、扱いづらい作家との毎日が描かれ、秘密を共有する中で、お互いに妙な絆が生まれる瞬間を描いていきます

湿度が高い作品だったのですが、鑑賞した映画館の温度設定がやや高めで、体感的にのぼせそうになってしまいましたね

寒いのも大変ですが、他の観客が脱水症状になっていないか心配になってしまいました

 


シャーリイ・ジャクスンについて

 

映画に登場するシャーリイは実在する作家で、1916年生まれのアメリカ人でした

20年間の作家生活にて、6冊の長編、2冊の回想録、200篇以上の短編小説を執筆しています

カリフォルニア州サンフランシスコで生まれたシャーリイは、ニューヨーク州のシラキュース大学に通い、そこで大学の文芸誌に関わることになります

そこでのちの夫になるスタンリー・エドガー・ハイマンと出会うことになりました

 

その後、2人は結婚し、シャーリイはニューヨークに移住することになります

シャーリイはフィクション作家として「Talk of the Town」の寄稿者として活動を始め、1945年に夫がベニントン大学の教授に就任します

その後、第一子が生まれたことをきっかけとして、映画の舞台であるバーモント州ノース・ベニントンに定住することになりました

 

彼女のデビュー作は『The Road Though the Wall(1948年)』という作品で、その後、映画にも登場する『The Lottery(1948年、邦題『くじ』)』にて注目を集めるようになります

その後も文芸誌や雑誌に幾つかの短編小説を発表し、回想録も出版するに至りました

映画で執筆することになった『Hangasman(1951年)』は2作目の長編小説で、これは実際に起きた事件をモチーフにしているとされています

この時に彼女のそばにいた助手というのがいて、そのエピソードを書籍化したものが本作の原作にあたります

 

ちなみに、夫婦には4人の子ども(ローリー、ジャニー、サリー、バリー)がいますが、映画では登場していません

映画の期間は第一子が生まれて6年後のことなので、ローリーがどこかに登場してもおかしくはないのですが、映画では2人に子どもがいるようには描かれていません

また、シャーリイはヘビースモーカーだったために健康状態が悪く、1965年に48歳で亡くなっています

死因は動脈硬化による冠動脈閉塞とされていて、彼女の希望通り「火葬」されることになりました

 

1968年、夫はシャーリイの遺作である『Come Along with Me』を出版することになります

これには未収録だった短編14編を含み、晩年に大学や作家会議で行った講演なども収録されています

さらに、1996年には自宅の裏にある納屋で未発表の短編小説が入った木箱が発見されます

それらは1996年に「Just an Ordinary Day」として世に出ることになります

これらのシャーリイの作品や文書はアメリカの議会図書館で閲覧可能となっていています

 

シャーリイは数々の賞を受賞していて、『The Lottery』にてO・ヘンリー短編小説賞を受賞しています

その他にもたくさんの賞にノミネートされ、エドガー・アラン・ポー賞の最優秀短編賞(1966年)なども受賞しています

さらに、2007年には心理サスペンス、ホラー、ダークファンタジーを対象として文学賞として、シャーリイ・ジャクソン賞というものが設立されました

 


『絞首人』について

 

映画で執筆を始める小説『Hangsaman(邦題:絞首人)』は、1951年に出版されたゴシック小説でした

内容は、リベラルアーツカレッジに入学した大学生ナタリー・ウェイトを主人公として、その後の狂気と孤独を描いていくものとなっています

本作は、1946年に実際に起きた「ベニントン大学2年生の失踪事件」に基づいているとされていて、事件の被害者であるポーラ・ジーン・ウェルデンについて言及されています

映画にも、ポーラが登場し、シャーリイの脳内妄想では、ローズ役のオデッサ・ヤングが演じていました

 

物語は、大学進学を目前にしたナタリーの環境を描き、横暴な父と逃げるように家出をした母が描かれていきます

ナタリーはプライドが高い人物で、大人のパーティーに参加したのちに、年上の男性から性的暴行を受けることになります

翌朝、ナタリーは自分自身に「暴行はなかった」と言い聞かせました

 

その後、進学を果たしたナタリーは、校内にあまり居場所がなく、教授に恋をするようになります

教授は父親と同じ性質を持っていたこと、彼の妻がクラスメイトに似ているなどの妄想を膨らませていきます

さらに、トニーというクラスメイトに興味を持ち始め、彼と友達になろうと考えます

トニーと友人となったナタリーは、一緒に風変わりな冒険に飛び出し、次第に人の目を気にしなくなっていきました

 

ある日の午後、嵐が迫る中、トニーはナタリーを説得して、大学から遠い場所に行こうと言い出します

2人はバスに乗って遠出をし、閉鎖中の遊園地、湖の畔にある森などどに行くことになりました

彼女はそこで進学前の暴行のことを思い出してしまいます

そして、トニーと距離を置き始め、行動を分つことになりました

 

これ以上はネタバレになるので控えますが、映画のラストでローズが取る行動はよく似た感じに描かれています

ローズとナタリーが森に行く理由、そこでローズの行動を妄想するシャーリイなどの相違点があり、本作は「絞首人」のラストをローズを通じて変更した、というふうにも思えます

こればかりは『絞首人』を読んでいることが前提になりますが、アメリカではとっても有名な小説のひとつなので、基礎教養に近い部分があるのかもしれません

興味がある人は日本語訳も出版されているので、読んでみると本作への理解が進むのではないでしょうか

Amazon Link(『絞首人』日本語訳)→ https://amzn.to/4fJfS5d

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、実在の作家が実在の小説を描く過程を再現するという内容になっていて、対象小説である『絞首人』を知っているかどうかとか、失踪事件について聞いたことがあるかどうかによって、理解度が変わる内容になっています

脳内妄想として登場するポーラの姿は、ローズとシャーリイで思い描いているものが違うことになります

映画の中では、常にシャーリイの脳内妄想が描かれていて、それはローズ役のオデッサ・ヤングが演じているものでした

また、写真に登場するポーラは、おそらくボディダブルとなるアデリンド・ホーランではないかと思います(ちょっと自信がないけどオデッサ・ヤングではなかったと思います)

 

映画の後半では、ローズはポーラが歩んだとされる道を行き、森の奥深くへと入っていきます

このシーンから実際のローズとシャーリイの想像であるローズが演じているポーラが入り乱れることになり、記憶が正しければ、シャーリイの想像は「崖から身を投げた」というもので、ローズも同じように感じていました

それでも、『絞首人』のラストはそうではないように、シャーリイはポーラを強い女性と定義し、その行動を変えるに至っています

それは、シャーリイの妄想の中にいたローズならポーラと同じ道は辿らないというもので、それが創作に影響を与えたのだと考えられます

 

実際のポーラ(小説ではナタリー)がどうなったのかは判明しておらず、崖下から死体が見つかっていないという客観的な事実というものがあります

事件は1946年に起こったものですが、結局のところ何も見つからず、1952年に再捜査が行われたものの、何ひとつ見つからないまま終了しています

この事件に着想を得たと言われているものの、はっきりとは名言はされていません

でも、彼女が書いた『The Missing Girl』という短編小説にはポーラの事件に言及していて、こちらは事件を基にしたものとされています

この短編小説は『Just An Ordinary Day(1996年)』に収録されていますが、日本語訳はないようで、英語版もオーディブル版(他の著者の作品も含めた短編集)のみでした

 

事件の結末も不明で、本作ではそれを妄想しているので、ポーラ自身の人物像も全然違うと思うのですね

なので、事件をベースにしているけど、完全にフィクションに近いと思うし、それを誰も確かめられない作品になっています

作家の創造性を刺激した存在がいた、ということになっているので、本作の原作の立ち位置もそれに近いものではないでしょうか

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101309/review/04050464/

 

公式HP:

https://senlisfilms.jp/shirley/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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