■COVID–19がCOVID–23に変異した世界線では、永久免疫パスという幻想が特権になっているらしいよ
Contents
■オススメ度
コロナパンデミックを扱った映画に興味がある人(★★★)
ディストピア映画が好きな人(★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.10.12(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
原題:Songbird
情報:2020年、アメリカ、84分、G
ジャンル:コロナが変異を起こした近未来にして、感染管理から逃れようとする人々を描いたラブロマンス映画
監督:アダム・メイソン
脚本:アダム・メイソン&サイモン・ボーイズ
キャスト:
KJ アパ/KJ Apa(ニコラ・プライス:「レスター急配」のバイク配達人)
ソフィア・カーソン/Sofia Carson(サラ・ガルシア:ニコの恋人、画家)
クレイグ・ロビンソン/Craig Robinson(レスター:ニコの上司、「レスター急配」の元締め)
ピーター・ストーメア/Peter Stormare(エメット・ハーランド:ロサンゼルス公衆衛生局の局長)
ブラッドリー・ウィットフォード/Bradley Whitford(ウィリアム・グリフィン:元レコード会社の役員)
デミ・ムーア/Demi Moore(パイパー・グリフィン/Piper Griffin:ウィリアムの妻、エマの母)
リア・マクヒュー/Lia McHugh(エマ・グリフィン:自己免疫疾患を持つウィリアムとパイパー娘)
Carol Abney(マリー:グリフィン家のメイド)
アレクサンドラ・ダダリオ/Alexandra Daddario(メイ:シンガーソングライター、ウェブ動画配信者、ウィリアムの不倫相手)
ポール・ウォーター・ハウザー/Paul Walter Hauser(マイケル・ドーザー/MD:「レスター急配」のドローン操作担当の退役軍人で、メイのファン)
Ian Duncan(アンソニー:遅刻する「レスター急配」の配達人)
エルピディア・カリロ/Elpidia Carrillo(リタ・ガルシア:サラの祖母)
ミコール・ブリアナ・ホワイト/Michole Briana White(アリス:コロナに罹るサラの隣人)
Lauren Sivan(ニュースアンカー)
■映画の舞台
2024年、新型コロナウイルス流行し、突然変異をした世界
アメリカ・ロサンゼルス
ロケ地:
アメリカ:ロサンゼルス
■簡単なあらすじ
2024年、世界は「COVID–23」の突然変異によってディストピア化していて、軍部が治安を維持する事態に陥っていた
州の公衆衛生局が実権を握り、感染者を「Qゾーン」と呼ばれる場所に隔離していく
そんな中、免疫者にはカナリア・イエローの免疫バンドが装着され、彼らだけが自由に街を出ることが許されていた
免疫者である「レスター急配」の配達人ニコラは、ボスのレスターから「侵入禁止ゾーンの富裕層」から「あるもの」を届ける仕事を請け負っていた
ニコラはレスターの指示に従って、その家の主ウィリアム・グリフィンとその妻パイパーから「小包」を受け取り、それはまた別の富裕層へと送り届けている
彼には「会ったことのない恋人サラ」がいて、それは配達先の手違いで接触することになった女性だった
サラは祖母のリタと住んでいて、彼らは日々感染に怯えながら、スクリーン越しのニコラとの会話を楽しんでいたのである
だが、そんな日常も一変してしまう
サラの住むアパートの住人に感染者が出て、さらにクラスターが発生、リタにも症状が出てくる
Qゾーンへの隔離が迫る中、ニコラは「あるもの」を入手して、彼らを助けようと考え始めるのである
それは、富裕層の間にだけ流通する「偽造の免疫バンド」だったのである
テーマ:社会構造の逆転
裏テーマ:遠隔という名の希望
■ひとこと感想
コロナ禍のロスで撮影したというふれこみで、制作年度から2年後にコロナがどえらいことになっているという前提で物語が進んでいきます
致死率54%の猛毒ウイルスが空気感染する世界で、どう考えても今のコロナ禍の延長には思えません
でも、2年前のロックダウンの最中だと、この物語はリアルに感じられるかもしれません
今では笑い話になりそうな物語ですが、ロックダウンによって展開したかもしれない世界というのは面白い設定だと思います
でも、細部がざっくりしすぎていて、ウイルスの変異とその対策のバランスが取れていないように思います
偽造免疫バンドを獲得しても、免疫を持たない人が外に出たら感染して54%の確率で死んでしまう世界なので、そのバンドに意味があるのかは分かりません
ディストピア系の人間世界の崩壊を期待すると肩透かしを喰らいますが、遠隔とかリモートでも人が繋がれるという希望を描いていたのは良かったですね
あの世界のインフラがどうなってるのか問題とか色々ツッコミどころがありますが、あの宅配ボックスは欲しいなあと思ってしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
コロナが変異して、致死率54%の猛毒になっている世界で、接触ではなく空気感染ということになっています
この数字だけを考えると、感染者を隔離するのではなく、無事な人々が安住の地を求めるというパターンになりそうですね
でも、いきなり変異したというものではなく、徐々に感染拡大が起こった結果、このような隔離世界が生まれたのだと言えます
これらのアイデアは実際に世界で起こったゆえに生まれたもので、妙なリアル感があります
でも、ウイルスの強毒性がお花畑レベルなので、そこで生きる人々の恐怖感と行動というもののバランスが取れていません
免疫バンドも免疫ない人がつけていても無意味で、どこで感染するかわからない世界でなんのために存在するのかわかりません
あえて言うなら「非免疫者でもクラスターの煽りを喰らわずにQゾーンに行かなくてすむ」と言うものなのですが、そっち方面の物語にしたほうがまだマシだったように思えました
また、タイトルの『ソングバード』がほとんど意味をなしていないので、かなり微妙なことになっていましたね
感染拡大がかなり進んでいますが、ほとんどの人が生き残っていないんじゃないかと思えるほど人は出てこないし、そもそもこのコロナでどんな死に方をするのかが全く描かれていないのは謎でした
■ロックダウンで起こったこと
本作は「COVID–19」が変異して「COVID–23」になって、それが強毒化した世界ということになっています
時は2024年なので、「COVID–23」流行から2年目ということになりますね
「COVID–19」が変異して「COVID–23」になったというのは微妙な表現ですが、新種の全く株の違いコロナウイルスが誕生した世界という認識なので、現在とリンクしているようでリンクはしていないのだと言えます
「COVID–19」で起こったロックダウンが「COVID–23」によってさらに強烈なものになった世界なのですが、むしろ「COVID–19」が収束した10年後ぐらいを舞台に「COVID–28」が変異したの方がややこしくなくて良かったように思います
おそらくはコロナ禍で撮影されたので、今の状況が悪化したらどうなるかということを念頭に置いていたのでしょう
もし今、同じ映画が作られるなら、諸外国では収束(ウィズコロナっぽい何か)している体で進んでいるのでリアリティを重視するなら「コロナパンデミック・アゲイン」になるのかなと思ったり思わなかったりという感じですね
映画の舞台はロサンゼルスで、ビジュアルはほとんどディストピアの世界でした
人々は家に閉じ込められ、何かあれば建物ごと閉鎖、感染者は濃厚接触者も含めて「Qゾーン」へ送られる
軍と衛生局が統治をして、という世界なので、現在進行形のアジアの大国を見ているようにも思えます
そんな中で、二組の男女のラブロマンスが主軸となっているという印象でしょうか
この世界で「隔離された恋人(と未満)」はどのような行動をとるのかということで、ニコとサラは実際に会ったことないのに愛を育んでいて、ドーザーも盲目的にメイを信奉しています
この二組はコロナ禍だから生まれたカップルで、コロナになっていなければ出会っていない二人だったりするのですね
また、二組は「会えないから強くなる愛」という点で共通している部分があります
もっとも、メイがドーザーに気があるのかわかりませんが、オフショットになるのは彼の前だけだったように思えたので、男女関係はともかく心を許せる相手だったのかなと推測しています
ロックダウン下では行動制限に抑圧がかかり、それがストレスフルを生みます
その中でも生活はしていかなくてはならないので、様々な手段で収入を得ようとします
合法的なインフラを使うメイの配信&投げ銭、合法的な手段で違法なことを行うニコ、完全に違法で大金を稼ごうとするグリフィン夫妻とエメット
これらはロックダウンという状況に生存本能が絡まった結果生まれたものでしょう
人は環境に順応すると言いますが、それが顕著に現れた行動のように見えます
国家の体制は「政権<軍部<衛生局」という体制を維持するためにその状況を許容しているという構造になっていました
映画では政権に関してはほとんど出てこないのですが、現場の権力が強くなっている印象があります
権力はウイルスよりも早く変異して人間社会に住み着くので、ある意味一番タチが悪いと言えますね
本作の権力者は小物ですが、偽造パスなんてセコいことで小銭を稼がなくても、もっと強力な権力を行使できたと思います
■ウィズ・コロナに向かった理由
世界は今、一部の国を除いて「ウィズ・コロナ」状態で、それは一部の例外を除いて「重症化しないことがわかったから(他人事)」なのですね
コロナによって重症化して死ぬ人もいますが、それ以上に経済困窮を生み出して、大量の失業者を生み出し、それによって治安の悪化を増悪させることの方が社会的なリスクを生みます
この映画のように、権力が一部に集中して悪行が横行する可能性もあり、そのリスクを考えると「ウィズ・コロナ」に向かうのは当然のように思えます
と、あたかも権力者がそっち方面に向かおうと考えたように思えるのですが、実際には現場から徐々に「大丈夫じゃね?」が広がっていくものなのですね
確かにコロナで死ぬ人はいるわけですが、それが身近にいないと「本当にコロナはあるのか」みたいに考える人がいないわけでもない
陰謀論も蔓延って、ようやく自分が罹患して現実だとわかる世界なのですね
私の周りでも罹る人はいますが、1週間ほどで普通に復帰しますし、重症化した話は一切なかったりします
このように、人はニュースの世界と自分の周囲に乖離が生まれると、遠い世界を疑い始めるのですね
それによって、楽観論が生まれて、行動に緩みが出てきます
行動に緩みが出ても、コロナが弱毒化している現在では、「罹っても一週間寝込むだけ」なら、普通の生活が優先されてしまいます
そして、大多数の人が罹っても死なないことを周りで実証してしまうと、その感覚はあっという間に広がってしまう
そうして、逆の同調圧力が生まれた結果、国民性も相まって「ウィズ・コロナ」に向かう国が増えたという感じになっています
日本ではいまだにコロナを抑え込む方向に政権は動いていますが、現場及び国民のマインドは「ほぼウィズ・コロナ」だったりします
医療の現場では「ほぼ5類相当」の対応で、インフルエンザに対するイナビルみたいなものが出ない限りは5類にできないことがわかっているので、やんわりと「ほぼ5類相当」みたいな感じになっています
高齢の入院患者のところに到達することは防がないといけないのですが、これまでに普通に肺炎になって死んでしまう人はいるわけで、いわゆる「責任回避」としての「コロナ対応」が残っている現状でしょう
誰もが「他の人にうつすこと」「実質1週間程度有給になる(欠勤の場合もある)こと」の方に意識がいっていて、「自分が罹って重症化するかもしれないから気をつける」という人の方が少ないのですね
これが日本の国民性なのと、そもそも花粉症持ちが多いので、「マスクを外せない層」は私も含めてたくさんいます
なので、今の政権が「外せ」と言っても、おそらくは「習慣として根付いて許容した状況」では、ほとんどの人が外さない国になると思われます
おそらく外国からノーマスクの人の流入が起こっても、日本人はマスクを外さないでしょう
花粉症の人もいますが、マスクがファッション化しているので、新しい生活様式に遊びが入り込んでいます
付け心地の良いマスクの開発であるとか、本来の目的とは違うところで産業として成熟しつつあるので、その日本の総マスク状態に諸外国の旅行客がどう思うかだけなのですね
でも、日本人に会いにくる観光客はいないわけで、日本人は常にマスクをする国民性というのがファッションレベルで浸透しつつあるので、さほど問題にはならないのでしょう(ここがへんだよ日本人レベルになってくると思います)
一部の外国に倣えの人たちも「自分の行動性や主義主張を正当化するために諸外国の状況を利用する」だけなので、そういう人がマイノリティとして脱マスク行動をしていき、日本の「ウィズコロナはマスクありき」で進んでいくのだと考えられます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作で面白かったのは、紫外線の宅配ボックスの存在でしたね
これまでに同様の「感染対策装置」というものはありましたが、「荷物を消毒する」というのは、コロナで実際に行われたから「あるある」のようになっています
あの世界では「宅配ボックス設置&制作業者」がめっちゃ儲かったと思うので、さらに「中抜き」「政治と癒着」などでたくさんのお金が動いたと思います
ぶっちゃけ、偽造免疫パスよりも合法で身入りが良くてリスクがゼロというのが面白いですね
偽造免疫パスについては、現実のコロナレベルなら欲しがる人もいるかもしれませんが、致死率54%ぐらいまで来ると意味を為しません
空気感染も起こる状況で、偽造免疫パスが有効なのは「濃厚接触者というだけなのにQゾーン行き」を防ぐぐらいしかありません
グリフィン家は富裕層相手にそれを売り捌いていますが、富裕層がそれを買って利用するイメージが本作では全然描かれていません
アメリカ国外に逃げるために使えるのかもしれませんが、諸外国でもコロナは蔓延しているわけで、外国に逃げても「富裕層の本業は壊滅的」なので、そこで「富裕層時代の生活ができるわけではない」のですね
富裕層だけが知る安住の地があるというパターンもありますが、そこは警備が厳重で「免疫パス」があるからスルーで入れるとは思えません
そもそも数年で変異を繰り返しているウイルスなので、「その免疫いつのもの?」問題が必ず浮上するのですね
なので「現在進行形で免疫状態を保証できない免疫パス」には意味がありません
コロナも変異するとワクチンが効かないというのを繰り返していて、そのイタチごっこをずっと続けています
開発よりも変異の方が早いので、有効なワクチンが完成するよりも精神的に収束する方が早いような気もします
収束といえば「ゼロ・コロナ」をイメージしがちですが、現実的なものは「生活に影響がゼロの状態」を意味するので、「罹患してもほぼ死なない」という現在は「収束」と考えている人も多くなっています
一部の不運な人や高齢者にはリスクが伴うのですが、そのリスクに対して社会全体を巻き込むことのリスクの方が大きいと考える人がマジョリティになっているので、問題を切り分けて対応するのが賢明なのでしょう
なので、病院などのように「体調が思わしくない人が集団でいる場所」とか、「高齢者も含めた不特定多数が密集する換気が不良な場所」などを限定にして「要マスクの場所が限定されていく」と考えられます
ルールからマナーに変わっていき、、マナーになってしまうと一定層守らない層が出てくるので、そう言った人はそう言った場所から除外されていくのでしょう
絶賛コロナ禍で、飛行機でゴネた馬鹿みたいなのは一定層出現してニュースになるでしょうが、そのうち「近寄ったらダメな人リスト」に入って暗黙的に距離を置かれるだけだと思います
街角で独り言を言っている人とか、奇声を上げる人と距離を取るのと同じように、自分が危険であると判断したら距離を置くというレベルと同じなのでしょう
また、公共機関では「ブラックリスト」として管理されていくだけで、いわゆる「出禁」になって行動を制限されていくでしょう
ちなみにブラックリストって結構強力で、一度ブラックリスト入りすると存在がほぼ消されるので、ほぼ永遠にその場所に出入りできなくなったりするだけだったりしますね
賢明な人はそのリストに入るリスクを知っている(どこの職場にもあるよね)ので、社会性の低い人たちだけが問題を起こして社会から除外されていくのでしょう
それが日本という国の特性であるとも言えますので、そういったものがある種の同調圧力を肯定しているとも言えるのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/383542/review/7e1abe38-ca45-4b47-a794-4d8f33d6f0db/
公式HP:
https://songbird-movie.jp/