■この映画は、無戸籍児を持つ母親に勇気を与えることができただろうか?


■オススメ度

 

無戸籍児を描いたドラマに興味がある人(★)

兒玉遥さんのファンの人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.11.1(アップリンク京都)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、67分、G

ジャンル:無戸籍児を持つ母の動揺と奮闘を描いたヒューマンドラマ

 

監督:小澤和義

脚本:梶原阿貴

 

キャスト:

兒玉遥(コジマエリ/藤井麻衣香:DV夫から妊娠中に逃げ出した妻)

つむぎ(さくら:小学校に行きたい麻衣香の娘、無戸籍の7歳)

 

窪塚俊介(北岡さん:真衣香を助けるラブホの管理人)

佐藤江梨子(アゲハ/イノウエキクコ:ホテルの常連の立ちんぼ)

上村侑(チャン君:ホテルの従業員、ベトナム人)

小沢仁志(ラブホのオーナー)

 

根岸芽衣(柏原郁恵:近所の商店のおばちゃん)

 

本宮泰風(警察官)

中野心綺(さくらに声をかける小学生)

 


■映画の舞台

 

日本のどこかの地方都市

寂れたラブホテル

 

ロケ地:

茨城県:土浦市

HOTEL X-WORLD(閉鎖中)

https://maps.app.goo.gl/KhcKLonBounW6vfLA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

妊娠中にDV夫から逃げてきた真衣香は、ある寂れたラブホテルに逃げ込んだ

そこの管理人である北岡は彼女を匿い、出産も手伝って、住み込みで働かせることになった

 

それから6年後、小学校の就学時期を迎えた娘のさくらだったが、出生届を出していない無戸籍児で学校に行くのは困難だと思われていた

ある日、ラブホの常連である風俗嬢アゲハから、戸籍がなくても住民票を取ることができると聞かされる

 

だが、真衣香にはそれを推し進める勇気がなかったのである

 

テーマ:無学の罪

裏テーマ:教養と行動が人生を創る

 


■ひとこと感想

 

「無戸籍児」と言うパワーワードが気になって鑑賞

どんな社会の闇が描かれるのかと思っていたら、随分と表面だけをなぞる内容になっていました

 

時間も67分しかないのですが、薄い内容を引き伸ばしているので、体感時間は思ったよりも長い印象

それでいて、何も解決していないと言うのはどうなのかなと思いました

 

映画の主演のファンでも満足できるのかわからず、端折っている部分が多すぎるので、全体として締まりがありません

もう少し深掘りして、テーマに集中すれば良いと思うのですが、単純に勉強不足なのかなと感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

無戸籍児になった経緯とか、DV夫の暴力描写は一切なく、闇が深い問題なのに何一つ闇を感じません

映画のテーマとしては「バカは損をする」と言うざっくりしたものになっていて、「だから、何?」感が凄い映画になっていました

 

ラブホに転がり込んだ訳あり女の出産まで手伝ったゲイの管理人とか、それを容認しているオーナーとかリアリティ皆無の内容にになっていて、さらに風俗嬢を「ラブホ立ち退きまで働かせる」と言う意味のわからない展開になっています

 

老朽化よりも客が入っている雰囲気が皆無なので、彼らはどうやって生計を立てているのか謎でしたね

また、住民票所得の裏技みたいなものが出てきますが、実際にそれを行う場面もないし、DV夫と対決するシーンもないのは微妙としか言いようがありません

 

物語のピークが「助けて!」と叫ぶところとか、最後に空を見上げて満面の笑みと言う自己完結感が凄かった自己満足感に満ち溢れた作品になっていましたね

 


無戸籍児について

 

「無戸籍」とは「日本において戸籍を有しない個人」のことを指し、「無戸籍」になる理由としては「離婚後300日以内において、遺伝子上の父の子として登録できず、そのまま出生届を出すと前の夫の子と推定されるから」というものがあります

その他には「親が無戸籍者であり出生届に親の本籍が記載できない場合」とか、「親が制度を理解していないために届け出ていない」「親の信条や宗教観にて届け出ていない場合」などもあります

この映画では「出生届を出すと夫にバレる」という謎の理由で出生届を出していないので、レアケースを扱っていると言えます

 

事情によって出生証明書がないと、戸籍を作るためには証明書類を集める必要があって、親子関係を客観的に証明するための資料(申述書、妊娠中の写真、出産子の写真、第三者による申述書など)を用意し、管轄法務局の指示を仰ぐために相当の時間を要します

これらにはお金がかかることもあって、複雑さも相まって戸籍を作れなかった人もいたそうです

出征証明書がない場合として、「病院や助産師に頼らずに自宅出産した(この映画のケース)」「妊婦検診を行わずに病院を去った」「代理出産で、外国で発行された出生証明書の受付拒否)などがあります

 

これらの「無戸籍状態の解消」は「父母もしくは出生届を出すものが出生届を出すこと」であり、それは「14日間の届出期間を経過しても有効」とされています

出生届を出さないと無戸籍の解消はできず、一部の自治体では「行政サービスを受ける際に事務を円滑にするために証明書を発行する」ということがあります

無国籍者本人は、家庭裁判所の許可を得て就籍することができ、それによって無戸籍を解消することができます

 

映画で描かれていた「無戸籍の住民票所得」については、「外国人住民が住民基本台帳法の適用対象された」という平成24年の通達によって、各都道府県で適切に対応されるようにというものがあります

その他にも各地方自治体では「無戸籍者(今回の映画のケース)」のような場合でも「一定の要件を満たせば出生届がなくても行政サービスが受けられる」という告知がなされています

一定の条件はググっても出てきませんが、「無戸籍 住民票 所得」などでググると各地方自治体の「相談窓口」などがリストアップされます

実際に映画のように「ネットで完結する」のかは調べようがありませんが、一定の保護措置というものはあると言えるでしょう

 

映画では完全にスルーされていますが、戸籍がないと住民票が作れないので、就学通知が届かずに義務教育を受けられなくなりますし、健康保険にも加入できないので、医療費は全額負担になるのですね

この問題の方がこれまでの7年間で一番大きかったと思うので、気するなという方が無理なことかもしれません

あのホテルでできる医療なんてありませんし、そもそも初産で何もわかっていないし、周りに相談できる女性はいない環境なので、どうやって過ごしてきたかとかの方が「学校に行くかどうか」よりも深刻な問題を孕んでいるように思えました

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作は「無戸籍児を抱えた母親が子どもを学校に行かせたいと思い悩む」というのがメインになっています

そして、そこに至った状況の解明と、自分の視野の狭さが解決策を見つけられなかったという過程を描いていきます

アゲハの助言によって、自分の無知を知るのですが、客観的に見ていると「それをそのまま信じるのか?」という疑問も感じてしまいます

ネットの環境があって、「小学校に行かせる方法」みたいなものをググっていましたが、それ以前にこれまでにどんなものを検索して実行に移してきたのかはわからない感じになっています

 

あのホテルにいるのはベトナム人のチャン君と北岡さんしかいなくて、チャン君は日本の制度を知らないし、北岡さんに至っては「パソコンでネット検索できることすら知らない」みたいな感じになっていました

麻衣香が到着した時にいたのが北岡さんだけなのかまではわかりませんが、ホテルで出産したことで無戸籍児になっている設定で、ネットで検索もできない人しかいなくてどうやって無事に出産したのかは謎でしたね

せめて出産のシーンを描いて、当時はホテルも盛況で、従業員の女性たちが助けてくれた、ぐらいのことは描いても良かったように思えます

そこから、無戸籍児になるリスクを周囲から聞きながらも、麻衣香としては出生届を出すことに恐怖があって現在に至るというのがギリギリのリアリティラインでしょうか

そこで助けてくれた従業員が日本人ではないという関係性にしておけば、出産自体は万国共通でなんとかなったけど、日本の制度に関しては疎いので関われなかったというのはアリかなと思います

 

その後、無戸籍児になったさくらがいきなり7歳になるのですが、小学校に行くという難題よりも、7歳まで無事に育つということの方が大変に思えます

特に医療に関しては母子共に保険証は持てませんので、それをどうクリアしてきたかというところは描いて置いた方が良かったでしょう

現実的なのは「他人の保険証の不正使用」でしょうが、夫から逃げている設定を考えるなら、「夫の金をパクって逃げた」というものがリアルでしょうか

麻衣香は自分の保険証で治療できても、戸籍のないさくらは自費で医療を受けるより他ありません

なので、逃げる際に幾らかの金を奪ったということなら、少しの間は暮らせるのかなと思います

 

これらの「無戸籍児にまつわる生活の疑問」というのをクリアしてからようやく「無戸籍児をどうやって学校に行かせるか」という問題にシフトしていけると思います

そのあたりに何も疑問を持たない人もいると思いますが、本作が67分しかないドラマなので、前述の疑問解消を入れる余地はたくさんあると思います

また、無戸籍でも住民票を取れるということがわかっても行動に移さないのもナンセンスでしょう

行動に移したことで立ちはだかる障害(わかりやすいのは役所の窓口で拒否されるとか、説得されるとか)が出てきます

これらに対して、麻衣香がどう戦ったのかとか、目的を達成できそうかというところは物語のメインになるはずだったと思います

 

映画は「夫と離婚してなかったのでしてくる」という謎のエンディングを迎えますが、夫との関係を最後まで引っ張る意味がわかりません

7年間も音信不通だと「失踪届」を出されているでしょうし、その前に「自分の子どもを妊娠していることを知っている夫」が、捜索願出さないというのは不思議な話でしょう

映画の冒頭では身重であることがわかる程度にはなっていたので、妊娠初期で「夫が知らない段階で逃げる」ということでもない限りは、自分の子どもに関しては執着を持つと思います

なので、そのあたりをスルーして、SNSではっちゃけている夫という流れには戸惑ってしまいます

 

映画は大きな改変をしなくてはいけなくて、そのファーストステップは「そもそも夫婦にせずに愛人でも良かった」ということだと思います

愛人設定なら「相手が執着を見せない」でしょうし、「妊娠を知らなければ認知を相手に求める必要もない」と思います

そして、妊娠初期(中絶は無理な段階)でDVから逃げるというのがスムーズでしょう

その際に「金目のものを持って出る」ことで、当面の生活費と医療費をなんとかできます

 

そこでラブホテルに逃げ込んで、そこで生活を始める中で妊娠が周囲にバレてしまう

出生届を出せない状況を作らなければならないので、出産はホテルにするしかないのですが、それを周囲が理解できる状況が必要になります

近くに病院がないという田舎町で、そこで助産の経験のある外国人が手伝うことでホテルで出産を行うという状況を作り出すことは可能でしょう

定期的に病院に通っていても、いざ出産という段階で「間に合わない」ということは無きにしもあらずという状況なので、そのありがちなパターンをはめ込むことは可能だと思います

 

ここからの7年をどう描くかですが、これは回想録を利用して、フラッシュバック形式で「逃亡」「出産」などを描きながら、「7年間」というものを描くことは可能でしょう

 

ここまでをまとめると、

【オープニングイメージ】

逃亡、映画の不穏な雰囲気を描く

 

【起】日常

さくらとの日々、支える北岡の存在

アゲハとの絡みで「子どもの就学に関する話題」を出す

無戸籍児であることの告白(無戸籍という言葉を知らないと思うので、住民票がないとか就学通知がこないなどの経験者が知っている情報の提示)

それに至った経緯を話す

「助けて」と言えない性格の暴露、その気質を作った過去(自分の人生の不始末は全て自分のせいだと感じている)

 

【承】過去(7年前)

愛人である状況(不倫関係だが結婚を約束されていた)

束縛を強く、時折暴力を振るわれる(あるいは本妻への暴力を目撃し、結婚に関して消極的になる)

それが相手に伝わって、自分に暴力が向かう(怪我で病院に行って妊娠発覚)

逃げることを考える(これまでにもらった金品に加えて、相手の金も奪って逃げる)

決して見つかってはならない状況の提示

→現代パートに戻る

アゲハや他の従業員、北岡も交えてさくらの就学をどうするかを考える

 

【転】居場所の喪失

ホテル閉鎖の知らせ、跡地をある企業が買うことがわかる

その企業は相手の関連会社であり、見たことあるヤバい人たちから隠れることを余儀なくされる

建物の内観にヤクザが来る(改装を考えている)

ヤクザと北岡が話し、寂れた原因の従業員の解雇が告げられる

1日でも早い住居の確保、就学のための知恵が必要となる

無戸籍でも住民サービスを受けられる自治体を見つける

安い物件に転がり込んで、行政の窓口に駆け込むも、冷たくあしらわれる

 

【結】対決と居場所の獲得

ホテルの買収が終わる

荷物整理がなされる中で、麻衣香が働いていたことがバレる

居場所の発覚、子どもがいることもバレる(相手は自分の子どもかもと疑うも否定する)

その現場に北岡が登場し、相手と揉み合いになる(もしくは強面オーナーの登場)

相手が手を引く(北岡が父になると嘘をつく、あるいは北岡との子どもであると嘘をつくなど)

北岡が夫になれるわけでもなく(ゲイであることを知っているから)、麻衣香は一人で育てる決意をする

再度、役所の窓口に行き、冷笑の中で覚悟を見せる

「助けて」と訴えても無駄であると説き、行政は何のために存在するのかを問う

アゲハが登場し、面倒を避ける役所に対して恫喝する

 

【エンディングイメージ】

ランドセルを背負うさくら、その手を引いて歩く麻衣香の後ろ姿

無戸籍が解消されて、就学が可能になったことを示す

 

ありきたりな感じにまとめてみましたが、本作で必要なのは「麻衣香が無知であることを知ること」と、「麻衣香が元恋人と対峙して覚悟を見せること」と、「世間もしくは行政と対峙すること」なので、この3つの要素は最低描いた方が良いと思います

誰もが陥るかもというパターン(一般人を描く)も考えられますが、本作にある人物設定をできるだけ変えないのなら、このような無難で少しばかり浮世離れした話になるのは仕方ないかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作のメインは「助けて」を言えない麻衣香がアゲハの力を借りて声を上げることでした

でも、アゲハの前で「助けて」といったところで、何かが変わるとは思えません

彼女は麻衣香の人生を支えることはできないからです

 

麻衣香の状況で助けを求める先は「行政」以外にはあり得ません

人情で北岡やアゲハが助けられる部分には限界があって、「助けて」を適切に使えるかどうかを描いていく必要があります

無戸籍児に限らず、思いもしない状況の訪れによって、生活が激変している人はたくさんいます

 

本作の制作意義は「助けて」を言えない人々の代弁者になることです

でも、麻衣香の「助けて」にリアルを感じられなければ、「助けて」という前にすることがあるだろうと流されてしまいます

このリアルさを感じさせるには「麻衣香として精一杯の努力をして、可能な限り周囲が助けた」という状況があることでしょう

その状況があっても越えられない壁があって、それは本作では「法律」というところに行き着きます

 

映画が彼女と同じような立場の人々にエールを送れるとしたら、具体的な「助けて」に対するアンサーを描くことでした

でも、そのアンサーから逃げて、「これから戦います」という精神論だけで終わっているところに浅さというものが滲み出ています

彼女のような状況で、仮にアゲハのアドバイスが実現したらという「もしも」は、リアリティが増すほどに勇気を与えることができます

映画の中で麻衣香が自己完結することが悪いとは言えませんが、制作意図の中に「同じ状況の人に光を示そう」という気概が1ミリでもあれば、そういった方向に物語は向くものだと思います

 

実際にどのような想いで作られたかなどが、インタビューの記事などを通じてもわからない「心の中にあるもの」でしょう

でも、観客としては、出来上がった作品がすべてで、補足や言い訳が劇場の外で付随しても無意味であると思います

そういった意味において、本作は着眼点やテーマへのアプローチなどは良かったと思うものの、どこか虚構の世界の出来事になっていて、麻衣香の共感力はかなり弱いものだと感じてしまいます

元アイドルが挑戦する役柄としては難しい役ではありますが、このようなぬるま湯のような作品に出ても意味はないでしょう

 

もっと現実を見据えた、このような問題の広告塔になるぐらいの気概を持って演じることができれば変わったかもしれません

残念ながら、すでに世の中に出てしまったものを変えることもできなければ、その評価も変えることはできません

今後、どのような方針で動くのかは分かりませんが、「難しい役を演じた」という以外の収穫はなかったように思えてなりません

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384104/review/188719ca-0b63-4940-8fef-29eef0d42d33/

 

公式HP:

https://soranonaisekai.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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