■何のために登場したかわからない国家情報院をどう料理できただろうか
Contents
■オススメ度
カーチェイス映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
https://youtu.be/WWTY93dUn4w
鑑賞日:2023.1.24(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
原題:특송(特別配送)、英題:Special Delivery
情報:2022年、韓国、109分、G
ジャンル:「特送」で何でも届ける女性ドライバーが訳あり少年を運ぶことになったクライム&アクション映画
監督&脚本:パク・デミン
キャスト:
パク・ソダム/박소담(チャン・ウナ:特殊配送会社「ペッカン産業」のデリバリードライバー、課長)
ソン・セビョク/송새벽(チョ・ギョンビル:ウナを追う捜査官、悪徳警官)
ヨム・ヘラン/염혜란(ハン・ミヨン:国家情報院、ウナの追跡者)
キム・ウィソン/김의성(ペク・カンチョル:速達会社のペッカン産業社長、ウナのボス)
ハン・ヒョンミン/한현민(アシフ: 特急車両修理専門家)
チョン・ヒョンジュン/정현준(キム・ソウォン:ウナが運ぶことになった少年)
ヨン・ウジン/연우진(キム・ドゥシク:特別依頼人、ソウォンの父、プロ野球選手)
ユ・スンホ/유승호(ギョンビルの部下、刑事)
ホ・ドンウォン/허동원(サンフン:ギョンビルの部下、やりすぎる刑事)
クォン・ヒョクボム/권혁범 (オクァン:ギョンビルの部下、刑事)
キム・ヨソン/김예은(ジソン:ギョンビルの部下)
オ・リョン/오륭 (ウー部長:ギョンビルの上司)
ユン・ヨデル/윤대열(ソン代表:賭博の元締め)
チョ・ヒボン/조희봉(キム氏:ウナが最初に乗せる客)
パク・シンウォン/박신운(キム氏の部下)
■映画の舞台
韓国:ソウル
ロケ地:
韓国:釜山
■簡単なあらすじ
韓国ソウルにて、「特殊配送」に従事しているドライバーのウナは、郵便や宅配で届けられない特殊な荷物を運んでいた
ある日、ボスのペク社長から仕事を請け負うことになったウナは、待ち合わせ場所で何者かに追われている少年ソウォンを乗せることになった
彼の父ドゥシクは野球賭博に関わった元プロ野球選手で、彼は元締めが持っていた金庫の鍵を奪って逃走していたのである
賭博には警察も絡んでいて、悪徳警官のギョンビル一行はソウォン探しに躍起になっていた
ギョンビルはドゥシクを捕まえ、彼は「特殊配送」を依頼していたことを突き止め、ウナを追うことになった
一方、同じようにウナを追う国家情報院のハン・ミヨンも加わり、ウナは警察と国家から同時に追われることになったのである
テーマ:情と危機
裏テーマ:義理と母性
■ひとこと感想
カーアクションものと言うことで、色んな映画のオマージュがあり、その中で有名なのが『トランスポーター』なのかなと思います
冒頭でウナのドライビングテクニックを見せるためのシークエンスが合って、その後本編では「ウナが自由に動けない」と言う状況を作り出すことになっていました
ウナが運ぶことになったソウォンは、父の野球賭博絡みの犠牲者ですが、ウナをおばさん呼ばわりする割には「おねしょを隠したりする」微笑ましい一面がありました
ウナも母性が目覚めたのか、孤児になってしまったソウォンの事が心配になったのかはわかりませんが、心変わりして加担していく様子は良かったと思います
後半になるとカーアクションが一気に減ってしまい、ほとんど肉弾アクション映画になっていましたね
このジャンルがわりをどう評価するかでしょうが、無理のないアクション(ボディダブルだけど)になっていたのは良かったのかなと思います
国家情報院だけは何のために出てきたのかよくわかりませんでしたが
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
特殊配送の「モノ」が「少年」と言うことで、案の定父親は殺され、数奇な運命に投げ出されてしまった彼とどう接するかという感じになっていましたね
脱北者設定を説明するだけの国家情報院でしたが、身寄りのないウナだからこそ、ソウォンを何とかしてあげたいと思えたのかもしれません
警察がヤクザとつるんで野球賭博をしていて、それに加担した元プロ野球選手と言うベタな設定ではありますが、警官ギョンビルの執拗さとサンフンのノントリガーのコンビは面白かったと思います
痛いシーンが多いのでアレですが、エンタメしているなあと思いました
■特殊配送とは何か
日本で「特送」と言うと、「裁判所などの訴状」などに使われる「特別送達」のイメージがありますね(一般的ではないか)
映画内では、「郵便、宅配便」で取り扱えないものということで、主に「人」が運ばれることになっています
「人を運ぶのはタクシー」なのですが、ヤクザに追われている人をタクシーが拒否るのかは何とも言えません
日本の映画やドラマの世界では「タクシーに乗り込んでから『前の車、追って!』みたいなシーン」が多いので、わざわざ特送を呼ぶ必要があるのかはお国柄なのでしょうか
ちなみに日本郵政のホームページで「郵便で送れないもの」ググると、「貴金属、通貨、宝飾品」「有価証券」「信書」「生動物」「遺体、遺骨」「腐敗しやすいもの」「爆発物」となっていました
これを見る限り、「お年玉をゆうパックで送るのはアウト」になりますが、スルーされているのだと思います(現金書留使えばいいのですが)
宅急便に関しては、クロネコヤマトのホームページを見たところ、「現金その他の有価証券」「クレジットカードなどのカード類」「再発行が困難な受験票、パスポート、車検証」「再生不可能な原稿、原図、テープ、フィルム」「ペット類」「毒物、劇物」「遺灰、遺骨、仏壇」「銃刀」「引火、揮発性の高い火薬類」「一つの梱包で30万円を超えるもの」「不潔品、他の荷物に影響を及ぼすもの」「信書その他法令違反に当たるもの」となっています
また、タクシーなどでも「灯油、軽油など」「アルコールなどを含む引火性液体」もアウトで、このあたりは法務省による「旅客運送における危険物の規制に係る法令」がもとになっています
タクシーで乗車拒否をする場合は「旅客自動車運送事業運輸規則」や「道路運送法」に基づくもので、「迎車、回送中」「営業区域外(出発地もしくは目的地が自社が属する営業区域である)」「乗車禁止エリア」「意思疎通ができないほどの泥酔などの安全な運航の阻害になると判断された場合」というものがあります
昨今のコロナ禍では「熱のある人はだめ」みたいなタクシー会社があって、これは「厚生労働省」によって通達がなされていました
各社が決めている「感染予防ガイドライン」などもあり、「全国ハイヤー・タクシー連合会」が作成しているものがあったりします
ちなみに、現時点(2類)では新型コロナの陽性者は一般の公共交通機関の利用はアウトで、京都市の場合だと陽性者の移送専門のチームが配車するという流れになっています
救急車で来院し、コロナの検査で陽性だった場合、濃厚接触者になることを前提で家族が送迎するしかないのですが、そのような送迎が難しい場合は「京都市の陽性者フォローアップセンター」に連絡をして、「コロナ移送チーム」からの連絡を待つという流れになります
これまでに若者も含めて、この対応をすることになりましたが、民間委託しているタクシーが来るまでには結構な時間がかかります
コロナのピーク時で介護タクシーを配する場合で最長4時間待ちというものもありました
なので、救急要請があった時は「家族は同乗ではなく後追いで車で来てください」と伝えています
映画には関係ありませんが、5類相当になるまでの豆知識として活かしてくださいね
■脱北者設定の活かし方
本作では「国家情報院」の情報にて、ウナが脱北者だったことが判明します
ぶっちゃけ、本編にはほとんど意味がなく、設定が必要だったのかどうかは何とも言えません(脱北者よりも身寄り無い設定の方が重要でしたね)
「脱北者」とは、そのまま「北朝鮮から何らかの方法で逃げてきた北朝鮮国籍の人」のこと
亡命ルートは色々とありますが、今では中国経由が主流とされています
中国と北朝鮮での取り決めによって、脱北者は難民ではないので、中国で見つかると不法入国者として北朝鮮に強制送還されるようになっています
中国に逃げた後は、潜伏生活を続け、各国の大使館に逃げ込む「劇場型亡命」というものがあり、その後多くの北朝鮮国籍者は韓国に行くとされています
映画では「国家情報院」が動くのですが、これは国家情報院が集団脱北に関与していたという疑惑があるからでした
リアルでも「国家情報院の暗躍」が疑問視されていて、「企画脱北」なんて言われ方もしています
これに対して、北朝鮮は「韓国による拉致である」と非難しているのですね
このあたりの現在進行形の問題を盛り込んだということになっていて、ウナが警察に捕まると「ウナの脱北に関与した国家情報院がピンチになる」という設定として登場していました
この設定によって、国家情報院もウナを追うハメになるのですが、同時に警察も違法捜査のようなことができなくなってしまいます
でも、ギョンビルは300億ウォンに目が眩んでいて、辞職覚悟で使えるだけ特権を使うみたいな感じになっていました
日本円だと「30億円」ぐらいになるので、そりゃあ警官辞めても問題ない金額であることは間違いありません
むしろ、野球賭博絡みで300億円プールできているという状況の方がヤバいだろうと思ってしまいますが
一警官の暴走を際立たせるために「国家情報院がいようが構わないので」みたいな流れになっていますが、ウナが国家情報院から逃げる理由はよくわかりません
ただし、ウナとしては「国家情報院に追われている」という認識はゼロだと思うのですね
なので、ひたすらソウォンを追うヤクザみたいな警官から逃げるだけという構図になっていて、国家情報院はウナの背景を説明するだけのものになっていたと思います
この映画で脱北者設定を活かすとするならば、現在進行形の「国家情報院と企画脱北問題」を絡めることでしょう
単にウナが脱北者だったというだけでは物語上でほとんど意味はないので、企画脱北者だったということをウナが逆手に取って、国家情報院の力を利用するという頭脳戦があっても良かったかもしれません
そうなると、国家情報院としてはウナを消すしかなくなってしまい、警察は捕まえて金を得たいし、国家情報院は警察の捜査の渦中で警察によって死亡したように見せかけたい、という構図になると思います
生かしたい者と殺したい者が暗躍する中で、ウナはどうやって生き延びるのかというスリラーとしての複雑化を図ることはできたように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は国家を巻き込んだスリラーには発展させず、ウナの母性の目覚めの方にシフトしていきました
この流れが正解かどうかはわかりませんが、まるで別の方向に向かっているというのは想像に難くありません
カーチェイスを含んだスリラー要素だけを研ぎ澄ませるならば、後半にもカーチェイスを含んだ逃亡戦が必要で、例えば「警察を振り切った後に国家情報院に追いかけられる」という展開になっていきます
そして、死んだと思われた警察が国家情報院を阻止する中で、ウナとギョンビルが取引するという流れになっていくでしょう
でも映画は、「子どもを見捨てておけないウナの母性」を開花させるという方向に向かっていて、それによって「ほっこりとして終わる」というエンディングへと行き着きます
どちらの映画が好みかは人それぞれですが、個人的には国家情報院と企画脱北に含みを持たせるなら、スリラー展開でマックスまで行き着く方を選びたいですね
そして、母性の目覚めを描くために、カーチェイスの果てで犠牲になるのはソウォンという設定を加えます
事故に巻き込まれて重傷を負ってしまったソウォンは病院に収容され、彼に情が移ったウナが彼の様子を見るためにそこを訪れる
そして国家情報院のハンと対峙することになる、という流れが良かったかもしれません
本作は緩急があまり無い作品で、緩むところはコメディパートになっていましたね
緩むところをコメディで緩ませるのではなく、身体的な動きが無いけど精神的な緊迫感が続く、というふうにした方が良かったかもしれません
映画は「カーチェイス→肉弾系アクション→ヒューマンドラマ」という枠組みの中で動いていますが、あくまでもカテゴリーはアクション単体というイメージになりますね
カーチェイスもアクションも根底にスリラーがないと緊張感が続かないので、警察に追われる理由と同じくらいのわかりやすさで国家情報院に追われる理由も描かないといけません
この映画だと、ウナ以外は悪という構図の方がわかりやすいので、「警察は退避、国家情報院は殺害」というものにした方が良かったように思えました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385334/review/02a01736-c3ac-4a6c-aea6-da6fe5934e2a/
公式HP:
https://perfectdriver-movie.com/