■終末という絶望の先にある、カタルシスへの跳躍が少なすぎやしませんか
Contents
■オススメ度
ハードボイルド系のドラマが好きな人(★★★)
昭和の雰囲気が好きな人(★★★)
イケおじが活躍する映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.1.11(シネリーブル梅田)
■映画情報
情報:2022年、日本、80分、G
ジャンル:ヤクザと中国マフィアの諍いに巻き込まれた私立探偵を描いたハードボイルド風コメディ映画
監督:井川広太郎
脚本:中野太&木田紀生
キャスト:
北村有起哉(連城新次郎:喫茶店「KENT」を事務所代わりにしている探偵)
松角洋平(阿見恭一:連城に仕事を依頼する顔見知りのヤクザ)
川瀬陽太(笠原組長:恭一の親分)
佐藤五郎(恭一の手下)
茨城ヲデル(恭一の手下)
武イリヤ(ガルシア・ミチコ:連城に依頼をする見覚えのある女性、フィリピンパブ勤務)
ラーマ・ジャマール・アルディーン(ベヒヤ:姿を消したガルシアの親友、クルド人)
髙石あかり(石岡凛:「KENT」の店員)
水石亜飛夢(小倉幹彦:ベヒヤの元同僚)
高川裕也(辻原正義:街で大きな顔をする成金)
古山憲太郎(チェン・ショウコウ:「バレット」のリーダー)
松沢蓮(バレットのメンバー)
牛丸亮(バレットのメンバー)
諏訪太朗(歌舞伎町の路上監視員)
麿赤兒(安井茂雄:団地の自治会長)
青木柚(佐藤翔:安井の元でボランティアをする高校生)
■映画の舞台
東京都:新宿、歌舞伎町
ロケ地:
東京都:町田市
KENT(ケント)
https://maps.app.goo.gl/xnmYUBJDvxFZXVUb6?g_st=ic
リックス カフェ アメリカン Rick’s Cafe American
https://maps.app.goo.gl/WTZvvWRKMtUErtrk9?g_st=ic
中華酒家 十年 町田2号店
https://maps.app.goo.gl/AWDdJsWj96Nz8m53A?g_st=ic
■簡単なあらすじ
新宿・歌舞伎町で闇ポーカーに入れ込んでいる私立探偵の連城は、負けが混むと暴れ出してヤクザの世話になるアウトローだった
暴れ倒して笠原組の恭一の世話になった連城は、彼からある依頼を請け負うハメになる
それは、笠原組が面倒見ている店のボヤ騒ぎの犯人を捕まえろと言うものだった
笠原組は中国マフィア「バレット」に良いようにやられていて、シマ争いでも後塵を拝している
暴対法の範疇にいない中国マフィアはやりたい放題で、廃れた街の空き店舗などを借りては勢力を拡大していたのである
連城はバレットのボス・チェンのところに行くものの、ボヤ騒ぎは否定され、逆に「俺の前に姿を見せれば殺す」と脅されてしまう
連城は手掛かりもないまま事務所に戻ったところ、そこには新しい依頼者が訪ねてきていた
その女性に見覚えがあったものの思い出せず、金を用意できないと知って彼女の依頼を跳ね除ける
その依頼は失踪した友人の行方を探して欲しいと言うものだったが、連城はその先にある大きな闇を見逃していたのである
テーマ:街に選ばれた人々
裏テーマ:街に選ばれるために必要なこと
■ひとこと感想
脇で魅力を発揮する俳優さんが主演を務めることが多くなって、この映画でもバイプレイヤーと呼ばれる北村有起哉さんがカッコいいイケおじを演じていました
所作がものすごく格好良くて、この時勢なのに「シーンのほとんどでタバコを吸っている」と言う昭和感がマッチしていましたね
映画はひと昔前のハードボイルド系に移民問題を少しだけ絡めていると言うものですが、ちょっと盛りすぎな部分はありましたね
いわゆる在日二世問題もチラッと出てくるけど深追いしないし、クルド人難民の扱いも結構雑だったと思います
このあたりは、これらの問題に詳しくないと持てない感想ですが、本当のところは、この映画のおかしさに気づかないとヤバいと思います
物語は失踪した女の子を探すと言う探偵色と、ヤクザの思惑や中国マフィアの暗躍を描いていきます
でも、タイマンシーンなどのアクションは凄いのですが、ノイズになる部分も多かったと言うのが正直な感想でしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
強制送還になってしまうから助けてと言う物語で、街に住む人々の悲哀を汲み取っていくのですが、最終的に何の前ぶれも無く密告で強制送還されたと言う件は開いた口が塞がりません
この顛末を描くなら、見逃した翔が絡んでいて、未成年と言えども容赦せずに落とし前をつけるシーンが必要だと思います
テンプレートのように歌舞伎町の闇っぽさを描くものの、中国マフィアのスケールもしょぼくて、あまり危機感を感じませんでした
もっと、戦っても無駄と言うぐらいの敵でないと、盛り上がるものも盛り上がりません
ヤクザと中国マフィアの戦いなのに銃声一つ鳴らない世界ですが、正義マンの中途半端な登場と退場とか、正義マンが正義を語りながら人種差別をしているシーンなどもかなり雑に思えました
伏線の段階でネタバレしているのはどうかと思いますし、ヤクザもマフィアも生温くて、本当にタイマンシーン以外に見どころがないのが残念でした
北村有起哉さんと松角洋平さんを愛でる映画ではありますが、もう少し脚本が何とかならなかったのかなあと思ってしまいました
■「終末」である理由
映画のタイトルは「終末」になっていて、その意味は「終わりを迎えている」という意味になります
これは舞台である歌舞伎町が中国マフィアに乗っ取られていって、日本人の街では無くなっていくという状況を描写したものになります
そんな中で暗躍するのが探偵で、連城の機能は「ヤクザと中国マフィア」の仲裁というものでした
双方がぶつかり合えば甚大な被害が出ますが、映画の世界観だと「ヤクザ組織の末端の零細」と「少数精鋭のマフィア」みたいな感じになっていて、スケール感というものはあまりありません
このあたりは予算の関係だと思いますが、街が日本人のもので無くなるというリアリティも、街の一角にそう言った店が立ち並んでいるというレベルだったので、流石に無理があるかなと思いました
中国による日本の土地の買い上げ問題はかなり前から危惧されていて、そういったものはメディアは取り上げません
経済活動の一環として問題があるわけではなく、違法性が今のところはないからですね
なので、侵食される街を描くにはワンショットの絵では説得力がないと言えます
この終末感というものがうまく演出されていれば本作も伝説の仲間入りができたと思うのですが、連城を演じた北村有起哉さんと恭一を演じた松角洋平さんの魅力に頼り過ぎている感はあります
二人がお互いのプライドを持って、それぞれの場所で戦うのですが、どちらもが「終末というよりは黄昏っぽさ」を備えていると思うのですね
昔はイケイケだったヤクザと探偵という感じがして、有能だけど時代に取り残されて、これまでに通用してきたものが通用しなくなっているという感じに思えます
この二人に「終わりが近い」というイメージよりは、「役割を終えた」というイメージの方が強いので、終末にこだわるのであれば、ヤクザ組織や探偵業の終焉の方に舵を切った方が良かったように思えました
■勝手にスクリプトドクター
映画は「終末」よりも「黄昏」が似合うのですが、採用された「終末」を前提に改変を考えていきたいと思います
ヤクザとしての存在感の欠如を持つのが恭一ですが、歌舞伎町が中国マフィアの街になっても、連城自体の仕事が無くなるわけではありません
日本人が完全撤退することはないので、残された人の相談役というポジションが残りますし、日本の方で裁けなかったり、捜査できない部分に踏み込む役割を担うでしょう
この構造を考えるにあたって、連城は変わりゆく街とどう関わりたいかというところが物語のメインになります
連城は「面白いか、つまらないか」という判断基準があって、彼の口癖である「もういいよ、そんなのは」が「過去への囚われとか慣習とか、個人のこだわりや熱量」に関して「もういいよ」と言っているように感じます
一方で、そう言った熱量のない街というのは「つまらない」と感じていて、基本姿勢は「受動」であると思います
恭一も組織の中で爪弾きにされて、徐々に受動へと移りゆく中で、それでも「落とし前をつける」という意味合いでチェンにタイマンを挑みました
恭一が受動から能動に変わることで、連城自身が好きだった街というものが蘇ります
この流れを汲んで、連城の変化を与えるとしたら、「共闘」というシナリオがベストだったと言えるでしょう
二人の共通の敵は「実効支配を強めるマフィア」ではなく、「街を再開発で別物にしようとする笠原組長と辻原」になります
なので、その組織と戦わずして決着というものは見込めません
また、途中で登場して無意味に退場する高校生・翔の存在とか、失踪したクルド人女性のエピソードも微妙なセッティングになっていました
このあたりをうまくまとめて、連城自身の変化を促すエピソードにしていけばもっと面白い映画になったと感じます
以下、素人が考えたシナリオ改変案です
【オープニングイメージ】世界観
クルド人女性が歌舞伎町の裏路地で追いかけられている
それを見る連城がポツリと呟く
【起】連城の日常
連城の日常、恩人・安井との会話で中国人が多くなったことを仄めかす
昼、事務所(KENT)に赴くも、店員の凛から当てつけを喰らって居場所に困る
夜、ヤクザの裏カジノでポーカー、負けて暴れる
(タイトルコール)
恭一の事務所に拉致られる連城、二人の関係性を示す
妙な依頼を受け、チェンと遭遇、冒頭の女性のことを思い出すもシラを切る中国マフィア
【承】街の背景で暗躍する影
ミチコが依頼人として登場、金銭問題で折り合わず
連城、安井と無駄話、翔の存在を知る
そこにミチコが追いかけてきて、安井から女性の誘拐の話を聞く
翔が興味を示すも、彼の言動に違和感を感じる連城
連城が襲われ、安井の元へ行き治療を受ける
そこで翔の本性「役に立たない発言」を聞く
連城、一連の事件に裏を感じて、ミチコの依頼を受ける
恭一のもとに行き、街で起こっている不穏な動きについて聞く
中国マフィアの暗躍とある経営者が組に擦り寄っている情報を聞き出す
【転】共闘に向かう布石
中国マフィアに再び襲われる連城、それを知った恭一が単独で動くも、組長から止められる
安井と翔、ミチコが見舞いに来て、女性誘拐事件が多発しているニュースを見る
そこでその映像を笑って見ている翔に気づく
翔の身辺を洗い始める連城、頻繁に出入りしている事務所に出向くと、そこは恭一から聞いていた経営者の事務所だった
一般の会社には相応しくない感じの男が周りを固めていることを知る
今度はミチコが拐われる事案が勃発、連城は彼女のスマホの位置情報などを頼りに捜索を開始する
ミチコの最後の言葉は「翔の関与を仄めかす」ものだった
ミチコの行方はわからず、事務所と翔を張る連城
翔を見つけて拉致し、恭一の元へ連れていく
【結】新しい世界へ
翔の拉致の後、なぜか彼を中国マフィアが助けに来て、恭一の組と交戦状態になる
中国マフィアを連城と恭一の共闘によって撃破し、チェンから黒幕と翔の存在について聞く
翔は辻原の甥っ子で、辻原は笠原と結託して再開発を目論んでいることを知る
笠原のもとに出向く恭一、「ヤクザの時代は終わった。中国マフィアを金で子飼いするのがヤクザビジネスだ」と聞かされる
日本のヤクザの不要論(いわゆる暴力稼業の代行として中国マフィアを使う案)に嫌悪感を示した恭一は、笠原と絶縁し、辻原の元へ向かう
辻原を守っている笠原組と中国マフィアの残党との戦い
恭一と連城が覚醒して応戦、そこに安井の知り合いが乱入する
戦いに勝利した連城と恭一「街を守るのは自分たちの役目」
辻原の息のかかったクラブに出向く連城と恭一
本部が壊滅したことを知って、女たちを引き渡す
【エンディングイメージ】イケおじ堪能
(回想)共闘の前に連城と恭一が話すシーン
「街に選ばれている」という言葉を噛み締める二人
(現在)同じ橋のところでボロボロの二人が朝日を眺めている
(タイトルコール)
以上、素人が考えたさいつよシナリオでした
全く別の話になってしまいましたが、これくらい泥臭くても良いのかなと思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、クルド人難民の社会問題を内包していますが、せっかく救出したのにあっさりと「密告」というよくわからない展開で退場してしまいます
物語の前半のメインがクルド人女性の救出劇なのですが、後半にようやく9つできたのに、劇中で登場しない謎の人物(可能性あるのは純)によって事態が展開してしまい、そのまま放置されているのは微妙だと思います
正義マン・純の動機は「社会の役に立つかどうか」ですが、クルド人難民の女性が日本社会で役に立っているかどうかの描写などないのですね
ミチコにしても、歌舞伎町の安い飲み屋で働いていますが、経済活動の一環を担っているので、純の理屈には当てはまりません
後半は一転して、ヤクザと地上げ屋の暗躍によって、利権争いが仄めかされますが、このシークエンスには前半で登場する中国マフィアもクルド人難民もさほど意味がありません
一応、クルド人難民を囲っていたのが地上げ屋というくらいで、囲っているというよりは「監禁しているだけ」のように見えています
あの怯える感じのテイストで行くなら、猟奇的な性癖を持っている体で「鎖に繋がれている」ぐらいの描写があっても良さそうなものです
そこまでキツい描写というのは一貫してないので、カタルシスを得られるまでのエグさというものもありません
本作では、悪となる存在がとても軽くて、それに対するお仕置きのようなものも軽すぎるのですね
笠原組長のえげつなさは恫喝するだけだし、中国マフィアの所業もバットで頭を殴るだけだし、誘拐された女性はそれ以上の被害を受けないし、正義マンの行動も中途半端なものしかありません
映画の中には、描きようによってはえげつないシーンにできるし、それによって悪を憎む起点にもあるし、そういった感情の起伏が最終的なカタルシスへの跳躍へと結びつきます
別行動になっていますが、連城は辻原との対決によって「クルド人女性の監禁や仕打ちのえげつなさから覚醒を促せる」はずですし、中国マフィアとの落とし前についても、これまでの中国マフィアのえげつなさがあればあるほどに恭一が打ち負かした時のカタルシスはあったと思います
このあたりが波風の立たない微風のような感じになっているので、映画を観て「疲れない」のですね
この疲労感というのが映画には大事で、それだけ感情が動き体に力が入る展開になっていることの裏付けになってしまいます
本作は連城と恭一の奇妙な友情とイケおじのカッコ良さが描かれていますが、本当にそれだけになっているのが残念だったと思います
このあたりの匙加減はプロデューサーの意向なのかもしれませんが、本作はゴールデンでTV映画になるようなものではなく、ソフト化されることで伝説的な口コミが生まれる系譜になると思います
なので、二人がカッコいいだけでは、そのファンしかついてこないので、「なんか凄いものを見た」という「語るための何か」というものが必要になっていきます
本作がシリーズ化される可能性も無きにしもあらずですが、今作ではまだバディものの下地にすらなっていません
色んな可能性があった作品ではありますが、調理方法もレシピもコース料理としての展望も弱いので、単なるちょっと変わった惣菜で終わってしまっているのは残念だったと思います
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384400/review/c04e3c60-bd9c-4048-aaea-7c6b1ed0468b/
公式HP: