■言語化できない想いを胸に、ハロルドの旅は必要なものだけを残す旅になっていく


■オススメ度

 

老人のロードムービーに興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.6.10(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry(ハロルド・フライの思いも寄らない巡礼の旅)

情報:2022年、イギリス、108分、G

ジャンル:旧友の手紙を受け取った老人が会うために800Kmを歩く様子を描いたロードムービー

 

監督:ヘティ・マクドナルド

脚本:レイチェル・ジョイス

原作:レイチェル・ジョイス『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』

Amazon Link(英語版:Kindle)→ https://amzn.to/3Vn4K4l

Amazon Link(日本語訳:文庫)→ https://amzn.to/3yXUsQZ

 

キャスト:

ジム・ブロードベント/Jim Broadbent(ハロルド・フライ:旧友の手紙を受け取って旅に出る老人)

    (若年期:Adam Jackson-Smith

ペネロープ・ウィルソン/Penelope Wilton(モーリーン・フライ:ハロルドの妻)

   (若年期:Bethan Cullinane

アール・ケイブ/Earl Cave(デヴィッド・フライ:ハロルドの息子)

   (10代:Braxton Kolodny

 

リンダ・バセット/Linda Bassett(クイーニー:ハロルドが会いに行く旧友)

Joy Richardson(フィロメナ:ホスピスのシスター)

 

ジョセフ・マイデル/Joseph Mydell(レックス:ハロルドの隣人)

モニカ・ゴスマン/Monika Gossmann(マルティナ:ハロルドを助ける医師)

Daniel Frogson(ウィルフ:ハロルドの旅に同行する青年)

Naomi Wirthner(ケイト:ハロルドの旅に同行するヒッピー)

Paul Thornley(Tシャツを作ろうと言い出す男)

Nina Singh(ガソスタの青い髪の女性)

Claire Rushbrook(農場の女性)

Ian Porter(ジム:駅で若者を待つ紳士)

 

Andrew Leung(かかりつけ医)

Tigger Blaize(郵便局員)

Duggie Brown(犬連れの散歩人)

Marvin Brown(ピザのデリバリーの青年)

Trevor Fox(優しい男)

David Gennard(写真を撮る男)

Howard Grace(トレーラーハウス男)

Grieve James(活動家)

Jessica Kaur(カフェのバリスタ)

Sam Lee(歌う男)

Brian Male(ガウンを着た男)

Alyson Marks(買い物する客)

Odislaine McCabe(屋外の買い物客)

Georgia Nicholson(ハロルドを追い返すカフェの女性マネージャー)

Lucy Reynolds(カフェのウェイトレス)

Nick Sampson(ハロルドに気付く銀髪の老紳士)

Jazz Shergill(セルフィーを撮る少女)

Bogdan Silaghi(トラックの運転手)

Georgina Strawson(声をかけるドライバー)

Leila Temirzhanova(スーパーヒーローの格好をした少女)

Maanuv Thiara(ミック:?)

Maria Douglas(歩く人)

Asha Patel(シェフィールドの住人)

Richard Waring(ヒッピー)

 


■映画の舞台

 

イギリス:

キングスブリッジ

→ダービーシャー

→西ヨークシャー

→ダーリントン

→ダラム

→アダーストーン

→ベリック・アポン・ツイード

 

ロケ地:

イギリス:

アルフレトン/Alfreton

https://maps.app.goo.gl/hkaHSuQxRLJTfecH6?g_st=ic

 

サウス・ブレント/South Brent

https://maps.app.goo.gl/7A1VJYWtvovmrw2t7?g_st=ic

 

チェスター・フィールド/Chesterfield

https://maps.app.goo.gl/FbTS9b4bdTBBnjh46?g_st=ic

 

ダラム/Durham

https://maps.app.goo.gl/FzZuAq33DDKZEB7e7?g_st=ic

 

シェフィールド/Sheffield

https://maps.app.goo.gl/tSk5wrYqHLdDWgtL6?g_st=ic

 

ベリック・アポン・ツイード/Berwick upon Tweed

https://maps.app.goo.gl/9oYvgT5N5BKuEva17?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

イギリス最南端に住んでいるハロルドの元に、かつて交流のあったクイーニーと言う女性から手紙が届いた

それはホスピスからのもので、場所は800キロも離れた遠方の地だった

 

ハロルドはどう返事を書いた良いのかわからずに妻モーリーンに聞くと、「思いついたことを書けば良いのよ」と突き放されてしまう

なんとか形にしたハロルドは、その手紙を持って近くの郵便ポストへと向かった

だが、そのまま出す気になれず、戸惑ったまま、街の郵便局までやってきてしまう

 

そこでも躊躇してしまうハロルドは、向かいにあった雑貨店に足を運び、牛乳などを買ってしまう

そこの若い女店員に手紙のことを聞かれたハロルドは、「昔世話になった人だ」と言うと、彼女も叔母をガンで亡くしたと聞かされる

そして、最後の時にそばにいたと言うエピソードを聞かされる

 

そこでハロルドは、何を思い立ったのか「会いにいく」とホスピスに伝え、「歩いていくから、着くまで元気でいてくれ」と言って、着の身着のままで歩き出してしまうのである

 

テーマ:思い込みの力

裏テーマ:過去の清算と愛の確認

 


■ひとこと感想

 

爺さんがいきなり歩き出すと言う予告編の情報だけで鑑賞

初恋の人に会いにいくと言う感じかと思っていましたが、実際には違うけど、妻はそう思い込んでいる、と言う感じになっていました

 

イギリスの最南端からほぼ最北端までの800キロを歩くと言う無茶な旅で、時には野宿をしたり、親切な人に助けられたりします

でも、SNSでバズったあたりから「巡礼」と呼ばれるようになり、一緒に歩く人が出てくると言う事態に陥ります

 

置いていくわけにもいかず、進む距離は日に日に短くなってしまいます

そんな中で青年ウィルフを亡き息子デヴィッドと重ねてしまうハロルドが描かれ、彼がクイーニーにこだわっている理由が明かされていきます

 

映画は、単に老人が旅すると言うだけではなく、人生を振り返って、過去に向かっていくようにも思えます

そんな中で、現在の自分は何者なのかを問いかけるような物語になっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ハロルドが会いに行ったクイーニーと言う女性は、妻が思うような相手ではなく、息子が亡くなって自暴自棄になった時に助けてくれた恩人でした

仕事場で荒れたハロルドの代わりに罪を被って仕事をクビになっていたのですが、その後街を離れる際に一度訪ねてきたことがわかります

 

その時に妻が応対し、不倫相手だと思って追い返してしまうのですが、その時に預かった伝言もこれまた意味深な「後悔はしていない」と言うものでした

別の女性からそれを聞かされると勘違いしそうではありますが、妻にそれを言う女性がいるかと言えばいないと思うので、別の意図があると考えるのが妥当なのでしょう

でも、この時は妻の方も息子の喪失にショックを受けていて、冷静な判断ができなかった時期でもありました

 

映画は、巡礼と称される旅になって困惑するハロルドが描かれ、そこには息子と同じようにドラッグで苦しんでいるウィルフと言う若者が登場します

でも、彼は旅を完遂することもなく、途中でドラッグに逃げてどこかに行ってしまうのですね

旅がそのまま終わってしまうので、彼がどうなったのか気になってしまいますが、息子の予後がわからないのと同じように、その時に向き合えなければ永遠に答えに辿り着くことはできないと言う意味合いに近いのかな、と感じました

 


言葉は勇気を与えるか

 

ハロルドは、青い髪の雑貨店の店員の言葉を真に受けていましたが、すぐにポストに出せなかったように、何かしら心の中に引っ掛かりを持っていたのだと思います

このまま出して良いものかを考えていて、ホスピスということを考えれば「自分の最後の言葉」になる可能性があったのですね

適当に殴り書きをしてみたけれど、手紙だけでは伝わらないものがある

そんな時に自分の何かに火を点ける言葉があって、直感を信じて動いたのだと思います

 

最終的には、ハロルドの言葉はクイーニーに届いていたけど、理解できたのかはわかりません

でも、認知症が進行しても、意外と聞こえているし理解していると言われています

レスポンスをすることができないだけのですが、聴力は最後まで残るとも言われているので、死の間際にずっと語りかけることは無駄ではないと思います

クイーニーに力を与えたのかはわかりませんが、かつての友が来るとなれば、それを待つまで行けなかったのかもしれません

 

言葉には不思議な力があって、日本では古来から「言霊」というものをとても大事にしてきました

言葉というのは脳内にある段階から変換されている感情であり、それらが形となって外に出るのには色んな方法があります

脳内で明確なイメージを持った言語なのに、言葉ではなく態度になったり、脳内にある言語と違う言語が言葉になる場合もあります

 

突き詰めるととても単純な言葉になるのですが、それゆえにずっと心に留まり続けることになります

何かしら思いを成し遂げたい時は、これ以上は分解できないくらいまで簡素化された言葉を思い描くと良いと思います

その場合は、その言葉からイメージするものが思いと合致している必要があるので、同じ「生きる」という言葉を念じても「そこにハロルドと会話している自分」というイメージが付随すれば、クイーニーのように彼が来るまで待てるのかもしれません

 


人生を回顧する時期の意味

 

人は遅かれ早かれ自分の人生を回顧する時期が来ると思います

人生の節目節目に考える人もいれば、死の瞬間に全部を思い出すという人もいます

それらが訪れる瞬間は、前者は自分で選べるけど、後者は自分では選べません

どちらが良いかということはありませんが、自分の人生を回顧することなく死ぬというのは、少しばかり寂しいことのように思えてしまいます

 

記憶というのは、繰り返し思い出すことで刻まれるもので、その回数が多ければ多いほど、深く刻まれると言われています

長期記憶の方が残りやすいのは脳内で繰り返される回数が多いからで、それが一番古い記憶であるとは限りません

ハロルドの場合は、多くの思い出と共に生きてきたけど、息子が死んで荒れた時にクイーニーが助けてくれたことが鮮烈なイメージが付随しているのですね

息子の死のたびにクイーニーのことも思い出すことになっていて、悲しみと情けなさが同時に刻まれることになります

忘れたくても、息子のことを思い出すたびにクイーニーのことも思い出すことになるので、そこから派生した感情というものは、自分の中で落とし前がつくまでは消えることはありません

 

ハロルドはクイーニーが自分を庇って退職させられたことを気にしていて、その思いは妻が伝言を伝えなかったことで、さらに増大していました

二人の間でだけわかる「後悔していない」という言葉は、事情を知らない妻からすれば「ひと夜の出来事」のようにも受け取れます

でも、実際には全く違うことで、それはこれまでにハロルド自身がクイーニーという「恩人」がいたことを妻に話さなかったからでしょう

彼女が妻に伝言を渡した年代というものもあると思いますが、息子の死で荒れていたことは知っていたので、その時に夫婦の危機というものがあったのかもしれません

それゆえに、妻の中で想像だけが肥大化し、それがあらぬ未来を生み出していた、と言えるのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、原作にも「巡礼」という言葉があるように、どこかで彼の旅が聖地を目指すものというふうに誤解されるようになっていきました

青年ウィルフから始まり、多くのヒッピーたちが同行するのですが、彼らには「恩人に会いにいく」ということは伝えてあると思うのですね

でも、恩人の余命が幾許もないことまでは知らず、ホスピスの意味もわかっていない集団であるように思います

行き先がわかっていれば、同行して旅の速度を落とさせるなんてことはしないはずで、そのあたりは彼らの自己満足に付き合わされた、ということになっています

 

とは言え、近づくごとに体力とは違う意味で足取りが重くなるのは当然のことで、止まりそうな足を動かしたのは妻による鼓舞になっていました

彼女は伝言を伝え、ここまで来たら果たして欲しいという思いをぶちまけます

でも、到着が夫婦の最後を意味すると思い込んでいたのですね

それを恐れる半生があったのですが、息子の死の後から「仮面夫婦」になっていたように、夫婦間の会話というものが減っていって、そのような誤解が生じていたことになります

 

映画は、それらを解消する旅になっていて、最初からほとんど何も持っていないのに、さらに不要なものを捨てていく旅になっていました

旅というのは、色んなところで色んなものを見たり食べたり買ったりする中で、モノが増える傾向があるのですが、ハロルドの場合は「途中で何も得ない」か、「貰ったものはその場で消費し持ち越さない」というものが徹底していました

まるで墓場に入る時に必要なものだけを持っていくという感じになっていて、その固執のなさというモノが特徴的だったようにも思います

 

人はいずれ天に召され、自分が残したものは誰かの負担になることの方が多いのですね

なので、少しずつ不要なものは捨てて、託したいものは行き先を決める必要が出てきます

最後に残ったものを棺に入れてもらって一緒に燃やしてもらえれば最高で、それ以上の人生の締め方はないのかもしれません

そういった意味において、ハロルドの荷物を捨てていく旅には大きな意味があったように思えました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101359/review/03916263/

 

公式HP:

https://movies.shochiku.co.jp/haroldfry/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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