■家の鍵は物理的に壊せても、心の鍵はそう簡単には開け閉めできないのかも知れません


■オススメ度

 

混沌としたヒューマンドラマに興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.9.20(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Tre Piani(「3階建て」という意味)、英題:Three Floors

情報:2021年、イタリア&フランス、119分、R15+

ジャンル:あるアパートメントに住む4つの家族に訪れる混沌を描いたヒューマンドラマ

 

監督:ナンニ・モレッティ

脚本:ナンニ・モレッティ&フェデリカ・ポントレモーリ&バリア・サンテッラ

原作:エシュコル・ネポ(『Three floors up(「三階 あの日テルアビブのアパートで起こったこと」)』

 

キャスト:

マルゲリータ・ブイ/Margherita Buy(ドーラ・シモンシーニ:ヴィットリオの妻、3階に住む弁護士一家の妻)

ナンニ・モレッティ/Nanni Moretti(ヴィットリオ・バルディ:ドーラの夫、弁護士)

アレッサンドロ・スペルドゥーティ/Alessandro Sperduti(アンドレア・バルディ:事故を起こすドーラとヴィットリオの息子)

 

リッカルド・スカマッチョ/Riccardo Scamarcio(ルーチョ:1階の住人、サラの夫)

エレナ・リエッティ/Elena Lietti(サーラ:ルーチョの妻)

チアラ・アバルケルモ/Chikara Abalsamo(フランチェスカ:サラとルーチョの娘、7歳時)

 (12歳時:ジュリア・コッパリ/Giuliano Coppari

 (17歳時:ジア・ダロールト/Gea Dall’Orto

 

アルバ・ロルバケル/Alba Rohrwacher(モニカ:2階の住人、ジョルジョの妻、妊婦)

アドリアーノ・ジャンニーニ/Adriano Giannini(ジョルジョ:出張がちなモニカの夫)

アリス・アダーム/Alice Adamu(ベアトリーチェ:モニカとジョルジョの娘、5歳時)

 (10歳時:レティツィア・アルノー/Letizia  Arno

ダリア・デフローリアン/Daria Deflorian(心を病んでいるモニカの母)

 

パオロ・グラツィオージ/Paolo Graziosi(レナート・ラシニアーニ:認知症の疑いのあるジョヴァンナの夫)

アンナ・ボナイウート/Anna Bonaiuto(ジョヴァンナ:レナートの妻)

デニーズ・タントゥッキ/Denise Tantucci(シャルロット:レナートとジョヴァンナの孫)

Karen di Porto(シャルロットの母)

 

ステファノ・ディオニジ/Stefano Dionisi(ロベルト:ジョルジョの弟、不動産会社経営)

 

トマーゾ・ラーニョ/Tommaso Ragno(ルイジ:移民支援のNPO職員、コメッサの父)

Arianna Serrao(コメッサ:ルイジの娘)

 

Francesso Acquaroli/フランチェスコ・アックローリ(モニカの母の主治医、精神科医)

Laura Nardi/ラウラ・ナルディ(ルーチョが相談する心理学者)

 

Teco Celio(サヴェリオ・ブラシーニ:ロベルトの投資詐欺の被害者)

Silvia Iorio(ドーラがドレスを買う衣料品店の店長)

 

Francesco Brandi(マッテオ:アンドレアのサッカー仲間)

Lorenzo Fantastichini(トマーゾ:アンドレアのサッカー仲間)

 

Sergio Pierattini(アンドレアの事故の被害者テレザの夫)

 


■映画の舞台

 

イタリア:ローマ&ナポリ

 

ロケ地:

イタリア:ローマ

 


■簡単なあらすじ

 

ローマのアパートメントに住む4つの家族は、それぞれが悩みを抱えながらも、つつがなく暮らしていた

 

3階に住む弁護士夫婦のヴィットリオとドーラは酒癖の悪い息子アンドレアに困っていて、ある日彼は飲酒運転時に女性を撥ねて殺してしまう

 

その車はアパートメントの1階に突き刺さり、そこはフランチェスカという少女の部屋だったが、事なきを得ていた

フランチェスカには心配性の夫・ルーチョと楽天家の妻・サーラがいて、娘を時折向かいに住むレナートとその妻ジョヴァンナに預けていた

 

だが、レナートは認知症の疑いがあり、ルーチョは預けるのをためらったが、どうしても急用ができて妻が帰るまでの短時間だけ預けることになった

しかし、用事を終えて帰宅すると、フランチェスカとレナートは行方不明になっていて、ルーチョは行きそうな公園で二人を見つけることに成功した

 

ちょうど事故があったその日、2階の住人モニカは陣痛が始まっていて、一人で病院へと駆け込んで無事に出産を終えた

夫ジョルジョはナポリに単身赴任で働きに出ていて、弟のロベルトとは絶縁関係にあった

 

だが、そのロベルトから子ども宛にプレゼントが届いていたことを知ったジョルジョは激昂し、それをロベルトの元に叩き返す

二人の間に何があったかをモニカは知らなかったが、ジョルジョは「妻子に会えば殺す」と憤って収まる気配はなかったのである

 

この4つの家族がアンドレアの自動車事故を機に少しずつ変化し始め、それはまるでこれまでに隠してきた感情を呼び起こすものだったのである

 

テーマ:家族

裏テーマ:隠された記憶

 


■ひとこと感想

 

3つの鍵と言うタイトルだったので、3つの家族の話かと思っていましたが、まさかの「4つの家族」の物語で、ズコーとなってしまいましたね

配給の人、絶対に映画見ていないよねと言う案件で、実は1階の別の部屋にもう一つの家族が住んでいたのですね

 

物語の起点は飲酒運転事故ですが、それによって弁護士一家は息子を助けない事で絶縁状態になると言うシークエンスを生みます

 

他の家族は事故とはほとんど関係なく、同じ人に出産をしたモニカ夫妻の問題も別のところに起点がありました

また、もう少しでフランチェスカが死ぬところでしたが、そこはスルーでルーチョの問題は向かいのレナートとの中で諍いが起こっています

 

物語はそれぞれの家庭が抱えてきたものがあるきっかけで噴出すると言うもので、ある意味空回りしている様子を描いています

誰もが最悪の展開を考えたために、最悪の展開が現実となる

 

原作とラストは違うようですが、その是非は読み比べてみないとなんとも言えません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

直前に『靴ひものロンド』を観たこともあって少し混乱しましたが、この群像劇が見事に練られていれ興奮しました

起こって出来事は些細なことから取り返しのつかないものまでたくさんあって、それぞれが「悪い予感を現実に変えていっている」と言う感想を持ちました

 

3階に住むヴィットリオとドーラはアンドレアの事故によって関係が破綻する家族で、「親が思っている以上にアンドレアは責任を果たそうとしている」と言うものでした

この家族は父の敷いた人生を歩むことでぎこちない生活を強いられ、その死によって解放されると言う結末に向かいます

 

2階に住むモニカとジョルジョの夫婦は、ジョルジョの弟ロベルトの出現によって掻き乱されるのですが、ジョルジョの一人相撲のようになっています

その諍いの秘密は後半になって明かされ、モニカを巡る男と男の争いだったことがわかります

 

1階に住むルーチョとサーラはフランチェスカの行方不明を機に、これまで懇意だったレナートに悪意を向けていきます

そして、レナートの孫との性的関係を持ったことで予期せぬ事態になりますが、これまで流されて楽に生きてきた罰を受けているように思えました

 

この3つの家族がメインですが、レナートとジョヴァンナ、シャルロットの家族を蔑ろにする邦題はかなり微妙ではないでしょうか

レナートの家族はルーチョの失態の被害者としての立場ではありますが、同じ1階フロアに住んでいることが原因かわかりませんが、扱いが低いのは微妙だと思います

 

原題そのままか、「三階建てに住む4つの家族」にでもしたほうが興味をそそったかもしれません

 


家族をつくるもの

 

家族というのは血縁関係の有無に関わらず、共同生活を形成する単位のようなものだったりします

昨今では「擬似家族」的な家族のドラマなどがあり、また養子などの契約家族のようなものもあります

赤ん坊の取り違えを後に知るというヘビーなものまでありますが、本作で出てくる4つの家族は「血縁のある家族」だけでした

 

弁護士夫婦のヴィットリオの家庭は事故によって綻びが生じ、家族の絆よりも法律を重視します

身内で庇うこともなく、別の事件で逮捕されたことをきっかけに絶縁状態になりました

両親は共に弁護士でしたが、歪んだことに尽力することなく、アンドレア自身の弱さによって関係性の見直しを余儀されます

アンドレアは獄中で自身のことを反省したのか親への反発心からかわかりませんが、「絶縁しないとダメになる」と考え、家族関係を解消します

この家族にある「甘えの構造」は、「血縁家族の覚悟」を悪用しそうになったアンドレアを拒絶することになりました

 

モニカとジョルジョの夫婦は、夫の出稼ぎによって不安定さを増している状況でした

遠くにいる家族ということで、距離によって綻びが生じる家族として描かれています

現在の二人を繋いでいるものが「子ども」で、この強固な絆に冷や水をぶっかけるのが、ジョルジョの弟のロベルトでした

彼はベアトリーチェの存在を利用して家族に戻ろうとする男でしたが、最終的にはジョルジョは彼を拒絶します

それでも、モニカは「ジョルジョの不在」がもたらす「絆の綻び」が悪化した結果、全てを捨てて消えるという選択をします

これはジョルジョ不在の時に彼女が感じていたものを突きつける形になっていて、その不在はモニカの気が住むまで続くように思えます

これまでもジョルジョは自身の仕事などを優先にしてきて、出産・育児を蔑ろにしてきましたので、その報復を受けている最中のように思えます

でも実際には、精神的におかしくなっていることを自認するモニカが、家族の崩壊を防ぐために距離を置いているように思えました

 

ルーチョの一家は彼の不始末のために混沌とした破滅への道を歩んでいますが、法的に問題が指摘されなかったことを受けて、かろうじてその形を維持し続けます

フランチェスカは父のしたことを知らない(理解していない)という流れになっていますが、いずれはシャルロットがフランチェスカにバラすんじゃないかと思っています

シャルロットとの関係を隠すことで、フランチェスカとシャルロットを隔てるものは作れなくなっていて、それによって青春期を迎えたフランチェスカの良き理解者になる可能性が出てきます

この不安定さの中で、妻サーラは沈黙を貫く女性でした

彼女がどうしてそれを貫く理由までは言及されず、夫が未成年と関係を持ったのにも関わらず関係性は破綻しません(別居はしているようだが離婚はしていなさそう)

ここからは推測になりますが、サーラはルーチョに依存することでしか生活ができないので耐えたということなのかなと感じました

 

この3つの家族は「父親の態度や方針」によって右往左往しており、妻は振り回されるままに追従しています

良くも悪くも「一家の中心」だったのですが、その影響から逃れることができたのが「主人の死」「自分の血縁の優先」というところがヘビーだなあと感じました

また、それぞれの家族の段階が「子どもの年齢」によって表現されていて、成人しているのに依存するアンドレア、思春期の中で誤解されるフランチェスカ、乳幼児ゆえに沈黙が存在感になっているベアトリーチェになっていいました

思春期のフランチェスカだけが両親の依存から切り離されていますね

 

母親がフランチェスカに父の事件をどう説明しているのか分かりませんでしが、「和姦か否か」という裁判内容なので、妻自身も「きちんと説明を受けたい」のかなと勘繰っていました

和姦が成立しても、未成年と浮気した事実は消えないので、裁判の確定とフランチェスカの成人を以って、サーラは関係性を解消するのかなと感じました

 


家族を保つもの

 

この3つの家族では、「男性の行動や価値観」を「女性が否定する」という流れを汲みます

ヴィットリオの場合は彼の死後に行われ、ジョルジョは鬱積が爆発して晒され、ルーチョは時限的で爆発寸前、みたいな感じになっています

 

おそらくヴィットリオの方が年上で、職業的な立場も上だったために、「ヴィットリオなしの生活」を考えられなかったのがドーラでした

彼女のパラダイムシフトが起こるのが彼の死後になっていて、母親としての和解の体で物語は進みますが、依存先が息子に変わっただけのようにも見えてきます

 

ジョルジョの家庭は放置のまま終わるので、先行きが不透明なまま彼はアパートから出ることを余儀なくされます

子育てと仕事の両立が難しく、ジョルジョの職場がローマではなくナポリなので止むを得ないと思います

 

モニカの沈黙は彼を罰し続けるように見えますが、おそらくモニカには夫のことを考える余裕などないように思えます

夫が思うように妻は考えていないという構図になっていて、彼が罰せられているように見えるのは、俯瞰しているからそう見えるだけのように思います

 

ルーチョの家族は彼の淫行&不貞によって真っ先に崩壊しそうな家族でしたが、劇中では別居匂わせぐらいの表現に留まっているように思えました

裁判の席にサーラも来ていて、和姦であることが結審されても、シャルロットの家族は控訴に向かいます

最終的に裁判が終わるのは、最高裁まで行くか、相手が訴えを退けるしかなく、それが続くまでの間、この家族は宙に浮いた状態のように思えます

実際にサーラの中では完全に夫婦の縁は切れていて、追い込みをかけることも可能だったと思うのですが、フランチェスカの養育のことを優先させたのかも知れません

 

さすがに性的趣向の異常者と思春期の娘を一緒にさせておくことに抵抗があり、またサーラ自身も軽蔑していると思うので、別居はやむなしでしょう

でも、離婚に踏み切って、さらにルーチョの社会的制裁を加えると、養育の面で行き詰まる可能性はあります

親権や養育費を法的に勝ち取っても、社会的に制裁を受けているルーチョから受け取れるものはわずかのような気がします

 

結局のところ、精神的な縁が夫婦間で切れても家族として維持されているのが「子どもの存在」というところが共通しているのかなと思いました

それによって、切れている絆がつながっているように見えているのは滑稽ではありますが、その原因のほとんどが男性側というところが同性として切なくもあります

誰一人まともな男性がいなくて、最終的には認知症のレナートが一番マシな男性だったというのは皮肉にしか思えません

そのレナートのまともさですら、フランチェスカの証言なしには保証されないというのが面白い構造になっていると感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

「鍵」というのはそれぞれのフロアを独立させるものの象徴で、実際には「4つの鍵」が劇中では存在します

ドアを閉めただけでは断絶になり得ず、鍵を閉めて外部からの侵襲を防ぐことによって、断絶というものが強固になっています

冒頭ではその状態をぶち破るものが現れ、それが個人の欲求の暴走として描かれる「アンドレアの事故」でした

この事故によって、全ての家族がドアを開けざるを得ない状況になっていました

 

アンドレアの事故によって、ヴィットリオ夫妻は「選択」を迫られ、事故で家が壊れたまま(外的危険が及ぶ可能性が残っている)のためにルーチョは認知症のことが念頭にありながらもレナートに娘を託します

モニカは事故の目撃者ですが、アンドレアを擁護できる証言はできません

自身の横を暴走して女性を轢いてアパートに激突したのですから、彼女の証言はアンドレアを最も重い罪に追いやることも可能だったと思います

でもモニカは事故には興味がなく、俯瞰的に見れば「自分の悩み」以外には無関心だったとも言えます

 

鍵というのは外的な圧力によって崩壊するもので、その外的圧力が個人の欲望がベースになっています

この映画に登場する人物のほとんどが「自分の欲求を最優先させ、行動する」という特性を持ち合わせていました

そこに「自身の感情が上乗せされる」ことで、より強固な行動を生み出しています

 

一見して「鍵って関係なくね?」と思っていたのですが、3つの家族を隔てているものという観点だと重要なものなのかなと思いました

暴力的に壊されたものが、最終的には意思ある伝達に変わっていくのですが、それぞれの心の鍵というものも最終的には解放されていくように思えます

そう考えると、「4つの部屋の鍵と12人の心の鍵」というものが描かれていたので、この邦題はありっちゃ言えばありなのかも知れません

個人的にはしっくり来ませんが、名付け親がガチで悩んでいる姿を思い描くと気の毒に思えてきますね

私がこの映画に邦題を無理やりつけるなら、「こじ開けられた3つのフロア」とかでしょうか

うーん、我ながらセンスは皆無なので、人のことは言えませんなあ(笑)

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/382444/review/19297afc-3e4a-490f-8759-2d4c5da240eb/

 

公式HP:

https://child-film.com/3keys/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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