■ひとつの輪廻が正しく行われるためには、負の執着の決着をつけなければならないのですね
Contents
■オススメ度
輪廻系ファンタジー映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.26(アップリンク京都)
■映画情報
原題:月老(ユエラオ)、英題:(もう一度会えるまで)
情報:2021年、台湾、128分、G
ジャンル:不慮の死によって境界に落ちた青年が月老修行の中で恋人と再会する様子を描いたファンタジー映画
監督&脚本:ギデンス・コー
キャスト:(一部自信無し)
クー・チェンドン/柯震東(シー・シャオルン/石考綸=アラン/阿纶:雷に打たれて死んだ青年)
(幼少期:リ・ホンジュ/李泓驹)
(前世:クー・ヤンツン/柯耀宗)
(来世の少年:チェン・ヒョルン/陳小輝)
ビビアン・ソン/宋芸樺(ホン・ジンチン/洪菁晴=シャオミー/小咪:シャオルンの想い人)
(幼少期:リー・ホンリャン/李紅良)
(前世:リー・シューチェン/李秀珍)
ワン・ジン/王淨(ピンキー=ファン・ウェンジー/黄文姿:シャオルンの月老ペアになる死人)
(来世の少女:シー・ロンシー/徐栄青)
【盗賊団関連】
ウーミン・ボヤ/馬志翔(グイトウチャン/鬼頭成:500年前の前世で盗賊だった男、元牛頭)
ユージェニー・リウ/劉変兜(小妹:鬼頭成の妹)
ワン・シンホン/王兴洪(鬼頭成の盗賊時代の仲間)
リュ・シャオミン/刘协敏(鬼頭成の盗賊時代の仲間)
ワン・ジョンヤン/万忠谚(鬼頭成の盗賊時代の仲間)
ヤン・ツンシャン/杨宗昇(鬼頭成の盗賊時代の仲間)
ジン・メイマン/金美滿(鬼頭成に取り憑かれた魚屋の女主人)
ワン・ヨウチェン/王友謙(鬼頭成に取り憑かれた男)
リン・チューウェン/林志文(鬼頭成に殺される神兵分隊長)
【月老関連】
チェン・ユー/陳妤(月老の女性リーダー)
ホウ・ヤンシー/侯彥西(月老の男性リーダー)
ツァイ・シンチャン/張再興(アシン:月老のメンバー)
チェン・ジャオフォイ:陈昭妃(月老のメンバー:アシンのパートナーになる少女)
チェン・グァンハオ/陈冠豪(月老のメンバー)
チャイ・チェンルー/蔡承儒(月老のメンバー)
ルァン・チェンチエン/阮今天(月老のメンバー)
シア・ツゥーウェイ/夏紫薇(月老のメンバー)
【冥界関連】
ラカ・ウマウ/拉卡・巫茂(ヤマ/閻魔様:冥界の最高支配者)
ホンジュラス/洪都拉斯(男の馬頭:鬼頭威を追う閻魔の手下)
ジョエル・ルー/陸明君(女の牛頭:鬼頭威を追う閻魔の手下)
ジューン・ツァイ/六月(シャオルンを連れてくる死神)
キャンディス・リュー/劉容嘉(冥界ビデオの案内人、アーカイブ)
【現世の人間関連】
ツァイ・チャンシュン/蔡昌憲(獣医、シャオミーの学生時代の友人)
リン・チウジュ/林志儒(シャオミーの父)
マーカス・チャン/張立昂(シャオ・ミーの大学時代の彼氏)
ブルース・ファン/禾浩辰(アタン/阿湯:ピンキーを殺した元カレ)
ホン・ユジン/洪毓璟(アタンの友人)
ワン・ファンハオ/王钒豪(アタンの友人)
ケント・ツァイ/蔡凡熙(犯されるバイクの持ち主)
テン・ユーカイ/鄧育凱(バイクの持ち主の友人)
ファン・ルーゲン/黄鹿庚(ゲーセンのオタク)
カイ・ジューウェン/蔡哲文(シャオルンのバスケ仲間のおじさん)
ホン・グンジュン/洪群钧(シャオルンのバスケ仲間のおじさん)
【月老の影響を受ける人間関連】
スー・ファチェン/徐華謙(囲碁のギャンブルおじさん)
ユエンファン・チャン/張婉芬(台車を押す老婦人)
パロン・カルボ・アルベルト/Parron Calvo Alberto(ゴミを出す外国人)
コー・チェン/葛丞(製麺所の男子高校生)
チェン・シーユー/陳希瑀(Uber Eatsの配達員の女性)
ワン・ファンリン/王鹏琳(ガソリンを運ぶ男)
スー・ファチェン/徐華謙(ビジネスマン)
■映画の舞台
台湾のどこか
ロケ地:
不明(おそらく台湾のどこか)
■簡単なあらすじ
雷に打たれて死んだシャオルンは、前世までの行いが悪く、動物に転生するか、人間の転生するために月老となって徳を積むかの二択を迫られていた
隣のブースでは、彼氏に殺されたピンキーも同じように選択を迫られ、二人は月老となって徳を積むことを選んだ
月老は織姫の赤い糸をつなぐ能力を与えられていて、二人一組で現世の人間に赤い糸を結ぶ役割を担っていた
シャオルンとピンキーは渋々ペアになるものの、ピンキーは次第にシャオルンに惹かれていく
だが、シャオルンは雷で打たれたために記憶も前世の行いも消え失せてしまっていた
ある時、シャオルンは現世に残した恋人シャオミーと出会い、記憶を取り戻す
ピンキーは複雑な想いで二人を見つめるものの、シャオミーにはどんな糸を使っても誰とも結べなかった
挙句の果てに、規律違反をしてまで織姫の赤い糸をシャオミーに巻きつけたピンキーだったが、それでも彼女は誰とも縁を結ぶことができなかった
その頃、かつて牛頭として閻魔に尽くしていた鬼頭成は冥界を抜け出し、500年前に自分を殺した盗賊団のメンバーを追い始める
閻魔の指示で、牛頭・馬頭が彼を追うものの、その強大な力になす術がない
そして、鬼頭成はシャオミーを見つけ出し、前世で自分を殺した恨みを晴らそうと行動を開始するのである
テーマ:転生と犠牲
裏テーマ:赤い糸がつなぐもの
■ひとこと感想
台湾の縁結びの神様になって、転生のために徳を積むことになった男女を描き、雷によって消された記憶を取り戻すという流れになっていました
ともかく世界観が独特で、ついていくのに必死という感じになっていましたね
なんとなく、日本のライトノベルにありそうな世界観だったように思えます
映画は、冥界と境界と現世と過去がごっちゃ混ぜになっていて、シーンを理解するのにちょっと苦労する内容になっています
パンフレットでは主要人物の相関関係が描かれているのでわかりやすいですが、むしろこの相関図を読んでから観た方が良いかもしれません(重要なネタバレの関係は書いていなかったですね)
物語としては、幼少期からずっと好きだった相手とようやく付き合えそうになった矢先に事故が起こるというもので、生前のプロポーズの答えを死んでから知るという流れになっていました
その背景として、過去の恨みをもつ悪役が暗躍するのですが、この関係性がわかるのが最後で、別物の映画が進行しているように見えるのは難点かな、と感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
日本でこの映画を作ったら、おそらくは「萌えアニメですっごい長いタイトルがつく」と思うのですが、ライトノベルのタイトルセンスは皆無なので例え話はやめておこうかと思います
映画は、全てのシーンを理解しようと考えると大変ですが、ざっくりと捉える方が良いと思います
台湾にも七夕の話があって、織姫の鬱屈した感情が赤い糸となって、その能力を使って月老のメンバーが現世の縁結びをする、という構図になっています
牛頭と鬼頭成の戦いのパートは、最初は意味がわからなかったのですが、要は「悪い怨念」が噴出した世界観になっていて、シャオルン達も一歩間違えばああなってしまうということの譬えのようになっています
愛の執着と憎悪の執着という構図になっていて、それがシャオルンとシャオミーを襲うという流れになっていました
台湾映画なので情報が限りなく少なく、キャスト欄を作るのに苦労しましたが、「大体合ってる」ぐらいで眺めておいてもらえたら良いと思います
グーグル翻訳さんが大活躍しましたが、それでも中国版百科事典でも記載のないものまではわかりませんでした(コックリさんしてた少年少女は流石にわかりませんでした)
■月老伝説について
映画のタイトルは『月老』ですが、これは「月下老人」を略したものになります
「月下老人」とは、「唐の少年(のちの王)が月夜に会った老人から将来の妻を預言された」という伝説があり、「続幽怪録」と故事に所収されています
このことから「男女の仲を取り持つ人」という意味があり、他には「月下翁」「仲人」「月下氷人」と呼ばれたりします
「続幽怪録」は李復言によって編集されたもので、彼は中唐の文士として、「続玄怪録」を執筆しています
物語の内容は、唐の時代、韦固が幼少期(6歳ぐらい)に、旅館の前に座っている老人に会うところから始まります
ある夜、宋城の旅館の月明かりの下で老人に会った韦固は、彼が手にしていた本(何も書かれていない)を不思議に思って、「それは何か?」と尋ねました
老人は「鸳鸯谱(おしどりの本)」であると言い、それは全世界の人の婚姻が記されたものだと答えます
尚も老人は、「韦固の相手は遠くに住んでいる野菜売りの娘で、今は3歳だが、14年後にあなたの妻になる」と言いました
韦固は気味が悪くなって、彼女を暗殺するための刺客を送ります
それから10年以上経ったある日、韦固は結婚することになりましたが、その妻の眉間に傷があることに気づきます
このエピソードを知った松城の判事はその旅館を「定婚店」と名付けます
これによって、月下の老人は中国語圏で「愛を待ち望む男女に信仰される最も誠実な神様」として崇められるようになりました
本作は、その伝説をベースにして、「月老」と呼ばれる人々が「縁結び」をしている様子が描かれています
月老は「徳を積んで、もう一度人間に転生したい」と考える死後の人々がなるもので、七夕伝説で知られる織姫の怨念が赤い糸となっている、というものが組み合わされています
人とモノをくっつけることも可能で、その悪戯は処罰の対象になっていましたね
最終的に「織姫の赤い糸でも他人とは繋げない」のですが、シャオルンの心を使って作った赤い糸によって、シャオミーと獣医が恋仲になる、という感じになっていました
■執着が生む連鎖の正体
本作は、シャオルンの異常なまでのシャオミー推しが描かれ、小学生の時の出会いから「公然と結婚しよう」と言ってしまうシーンから始まっています
この時に月老が二人を結びつけたのかはわかりませんが、彼の年齢が6歳ぐらいだとすると、月下老人の逸話で老人から話を聞いた韦固と同じぐらいの年齢になると思います
そこからは、何かある度に「結婚して」と言い続けるのですが、ここまで来ると「執着」なのか「惰性」なのかわからなくなってしまいます
シャオルンがどうしてここまで彼女に入れ込むのかはわかりませんが、出会った瞬間に運命を感じ、彼女と一緒にいる未来というものを確信したのだと思います
付き合いたいとかではなく、人生の伴侶としたいという一段上のステップに飛んでいるので、相手からすれば唐突すぎて意味がわからないと思います
それでも、いつしかシャオミーはシャオルンを気味悪く思うこともなく、「結婚しよ」「いや」というのがテンプレートになっていくのですね
おそらくは「シャオルンが他の誰に目を向ける」と、シャオミーの方が彼を引き寄せるという感じになると思いますが、シャオルンは全く他の女性を見ることがありませんでした
人から好かれているというのは自分が拒絶しない相手からだと心地よいことだと思いますが、生理的に無理な相手からだと恐怖になってしまいます
シャオミーは「なんだ? こいつは」と思いながらも、シャオルン自身を生理的に無理という感じには捉えていなくて、断る時もやんわりとしたものになっていました
その押し問答を続けるうちに、シャオミーはシャオルンを理解していくことになるのですが、この掛け合い自体が習慣になってきていて、それがないとシャオルンじゃない、みたいな感じになってきたのだと思われます
結局のところ、自分以外の女性をまったく見ることもなく、常に自分だけに愛情を注いでいるシャオルンを見て、彼女はその想いに向き合うことになります
でも、その瞬間に神様は悪戯を施すのですね
それはまるで、月老はシャオミーとシャオルンの間には赤い糸を結ばなかったということになり、その役割をシャオルンが担うという神様の配慮がありました
このようなことが起こるのは、シャオミーの前世の影響が強く、冥界で起こっている異変が起こさせたものだと言えます
冥界を抜け出した鬼頭成の怨念が「前世の記憶」を有したまま受け継がれていて、それが執着となって復讐心を燃え上がらせていきます
シャオルンはシャオミーを前世から解放するために遣わされた者としての意味を持ち、その覚醒が出会いの瞬間だったということになります
なので、シャオルンはシャオミーの守護天使として、彼女の側に遣わされた人間だった、と言えるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、月下老人とか七夕伝説を知らなくても理解できる物語で、シャオルンとシャオミーの恋愛とその運命の顛末を描き、シャオルンとピンキーの来世へと繋がっていく様子を描いています
シャオルンは死んでしまいますが、それによってシャオミーを守ることができるのですね
守護天使は生身の人間の状態だと、執念の霊体とは戦えず、元牛頭という武力の化身ゆえに、圧倒的な戦力差がありました
そんな彼にできるのは、瀕死となったシャオミーを誰かと結びつけることで、生命力を維持することだったと言えます
シャオルンの相手となる獣医は、シャオルンの小学時代のクラスメイトですが、役名がないので誰のことなのかまではわかりません(設定のお話)
いわば、ずっとシャオルンのアタックを見続けてきた男であり、二人が付き合い始めたことも知っていた可能性があります
そして、大学時代は学友として近くにいて、シャオルンが亡くなって悲しみに暮れていることも知っていた人物なのですね
ピンキーはシャオルンに頼まれて相手を探すのですが、ピンキーが彼を見つけたことが運命的なものか、偶発的なものかはわかりません
映画は、落ち着くところに落ち着いてはいますが、正直なところわからないことが多い映画でもありました
特に鬼頭成のシークエンスが「最後には絡むけど、そこまでは意味不明」という感じになっていました
最後まで観れば、本作のテーマが「執着」ということで、プラスの執着がシャオルンで、マイナスの執着が鬼頭成ということになります
その執着の相手がどちらもシャオミーで、彼女はかつて鬼頭成を殺した妹だったという前世が存在します
前世と来世の間にある世界で、今世の愛の執着を受けるシャオミーと、前世の妹の復讐の相手となるシャオミーが同時に存在していることになり、それが冒頭ではわからないのが難点だったように思います
シャオルンは鬼頭成の執着を断ち切る存在であり、彼は「かつてセミだった時に鬼頭成に助けられた前世を持つ男」でした
シャオルンはそれを思い出し、鬼頭成の前で「あの時はありがとうございました!」と深々と頭を下げ続けます
その行為によって、鬼頭成は自分の行動の愚かさを知り、そして馬頭、牛頭と共に極楽浄土に行く事になりました
その極楽浄土には、シャオミーが可愛がっていた犬がいて、それは閻魔の使いだったことがわかります
最終的には、閻魔の掌の上で起きたことのようになっているのですが、それぞれが役割を全うしたことで、シャオルンは運命の相手であるピンキーと来世で出会うことが許されています
彼らはシャオミーを助けることで徳を積み、そして数珠が人間への転生を指し示す「白数珠」へと変わっていきます
そうした流れを経て、ひとつの寓話が終わりを告げる、という内容になっていました
このあたりの詳しいところまで映画で読めなかったという人は、パンフレットの購入をお勧めいたします
人物相関図のみならず、様々な解説がついているので、読み応えのある内容になっていました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/96941/review/03535418/
公式HP:
https://taiwanfilm.net/yuelao/