■観光公害に対応するために恐怖を煽っても、他人事の彼らに響くはずもないと思う


■オススメ度

 

観光客にヘイトが溜まっている現地民(★★)

スプラッター・ホラーを観たい人(★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.4.25(T・JOY京都)


■映画情報

 

原題:Veniciafrenia(ヴェネツィアの心の病)、英題:Venicephrenia

情報:2021年、スペイン、100分、R15+

ジャンルヴェネツィア旅行に来た一行が不条理な事件に巻き込まれる社会派風スリラー映画

 

監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア

脚本:アレックス・デ・ラ・イグレシア&ホルヘ・ゲリカエチェバリア

 

キャスト:

イングリッド・ガルシア・ヨンソン/Ingrid García Jonsson(イサ/イザベル・ガルシア:結婚を控えたスペイン人の女性、ホセの姉)

ニコ・ロメロ/Nico Romero(アルフォンソ:本国に残ったイサの婚約者)

アルベルト・バング/Alberto Bang(ホセ・ルイス・ガルシア:イサの弟)

 

シルビア・アロンソ/Silvia Alonso(スサナ:余りものになるイサの友人)

 

ゴイセ・ブランコ/Goize Blanco(アランツァ:イサの友人)

ニコラス・イロロ/Nicolás lloro(ハヴィ:アランツァの恋人)

 

エンリコ・ロー・ベルソ/Enrico Lo Verso(ジャコモ:水上タクシーの運転手)

アルマンデ・デ・ラッツァ/Armando deRazza(クイド・ブルネッリ:地元の警察官)

 

コジモ・ファスコ/Cosimo Fusco(リゴレットの道化師)

コジモ・ファスコ/Cosimo Fusco(ペスト医師)

カテリーナ・ムリーノ/Caterina Murino(クラウディア:ホテルの受付、クラウン)

Gianluca Da Lio(マルチェロ:ホテルの受付)

 

Giacarlo Judica Cordiglia領事館職員

Carla Camporese(捜査に困惑する邸宅の女性

 

Giulia Pagnacco(ジーナ:薬局の女)

Alessandro Auriemma(コロンナ:ジーナの父)

Diego Pagotto(スーパー8を現像する写真屋)

 

Franco De Maestri(報道番組のアンカー

 

Massimo Fabiris(食い逃げされるバーテンダー)

Carols Alberto Brassesco(バーの客、髭の爺さん)

Savino Liuzzi(バーの客、メガネの男)

 

Davide Lazzaretto(デモでジャコモに叫ぶ男)

Gilulia Raneri Chiuso(パーティーの女)

 

Francesco Liotti(カメラで殴られて殺されるアメリカ人観光客)

Arianna Moro(カメラ男の連れの女)

 

Luigi Mascolo(マスク屋の前で道化師に刺し殺される観光客)

Ho Ja An(橋の上で殺されるアジア人観光客)

 

Giulio Canestrelli(ギリ助かるカップル)

Elena Nico(ギリ助かるカップル)

 


■映画の舞台

 

イタリア:ヴェネツィア

 

イタリア:ポヴェリア島(拉致られる島:一般人出禁らしい)

https://maps.app.goo.gl/cu2JoPG9E11kHRkm6?g_st=ic

 

マニン広場

https://maps.app.goo.gl/ZjPGpsAobzs38vUT9?g_st=ic

 

ロケ地:

イタリア:ヴェネツィア

 


■簡単なあらすじ

 

スペインからヴェネツィアに観光旅行に来た5人組は、イサの婚前旅行で弾けようと考えていた

イサの弟ホセ、イサの友人のスサナ、そして彼らの友人であるアランツォとハヴィのカップルは、大型クルーズ船で着岸する

だが、ヴェネツィアでは観光客の激増が社会問題化していて、サミットを控えた今、大掛かりなデモが繰り広げられていた

 

カーニバルの最中でもあり、街には正体不明の仮装集団でひしめき合う

なんとか船着場からホテルに向かおうとするものの、水上タクシーに乗る際にホセが足を滑らせて川に落ちてしまう

事なきを得たものの、そのタクシーに仮面を被った道化師が同乗し、船内は不穏な空気になってしまう

 

水上タクシーのジャコモは、道化師の不穏な動きを察して船から降ろし、彼女たちはなんとかホテルにたどり着くことができた

ホテルのレストランで一服していると、ペスト医師のコスプレ男とクラウンのコスプレ女が近づいてくる

彼らは「秘密のパーティー」に誘おうとしていたが、知らない人からの誘いには乗れないとイサは断ってしまう

 

だがその夜、街角でペスト医師を見かけた彼女たちは、路地に消えていく彼を追いかけていく

そこは「人殺し通り」と呼ばれるいわくつきの場所だったが、男が入った邸宅のドアをノックしてしまう

死神のコスプレをした男は「合言葉」を要求し、ホセは水上タクシーの道化師の言葉を思い出して、「リゴレット」と答えた

 

テーマ:復讐とけじめ

裏テーマ:望まぬ観光誘致

 


■ひとこと感想

 

怖い被り物をした集団が殺しまくるホラー&スプラッターかと思っていましたが、どちらかと言えばスリラーに近いイメージがありました

各種レビューでは酷評の嵐で、少しだけ身構えてしまいましたが、なるほど「テーマと表現が合っていない」し、犯人たちの思想と行動が支離滅裂で意味がわかりませんでした

 

退屈とまでは言わないのですが、不条理殺人の根幹となる思想が辻褄が合わないものが多かったですね

また、襲われる5人組が「迷惑観光客」なので、「そりゃあ排除したくなるよね」という心向きになってしまいます

このあたりのキャラ設定が「何を見せたいのか」と合致していないのが問題だと思います

 

悪質な観光客を排除したいのか、単なる復讐なのかがブレブレで、彼らが選ばれる所以がまったくありません

なので、快楽殺人をしながら、過去の事件をエクスキューズにしているようにしか見えず、流石にこの流れは無茶だろうと思ってしまいました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は旅行先で迷惑行為を繰り返す旅行客への教育のように見えますが、実際にはクルーズ船に対するデモで亡くなった息子の復讐であることがわかります

イスたちは同じクルーズ船で来たというだけの理由で付け狙われていて、さすがにとばっちりも良いところだと思います

 

クルーズ船を標的にしたいのなら、休息で下船した乗組員を狙う方がまだ理屈が通るでしょうし、最終的に船長への復讐を果たすというのなら、彼らの声明も意味があると思います

でも、やらかした挙句、自己完結的に強制エンドになっているので、彼らのメッセージが届くとはとても思えませんでした

 

映画内では、道化師とペスト医師がダブルキャストで兄弟という設定のようですね(違ってたらごめん)

クラウディアという役名のクラウンのコスプレ女がホテルの受付で、ペスト医師の妻であるように思います

このあたりの関係性がかなりわかりづらく、ジャコモとの対立構造もよくわかりません

 

街ではカーニバルの真っ最中なので「殺人をショーにしています」が、いくら何でもここまで観光客はバカではないと思うのですね

一方的に観光客を悪く描いているのですが、映画の観客も観光客側の人間であるの方が多いので、どのように受け止めれば良いのか悩んでしまいます

この映画を観たヴェネツィアの人々の反応はどうだったのでしょうか?

その方が気になってしまいますね

 


リゴレットについて

 

イサたちがジャコモのボートに乗った際に道化師が同乗し、そこで「自分はリゴレットだ! マントヴァ公爵に復讐する」と言うようなことを言っていました

これはジュゼッペ・ヴェルディGiuseppe Fortunino  Francesco Verdi)が作曲した『リゴレットRigoletto)』と言うオペラのことを言います

1851年にヴェネツィア・フェニーチェ座で初演されたもので、原作はヴィクトル・ユーゴーVictor Marie Hugo)の戯曲『王は愉しむ(Le Roi s‘amuse)』ですね

 

ヴェルディはヴェネツィアのフェニーチェ座のために新作オペラを作曲すると言う契約をしていて、そのために作られた楽曲になっています

構成は「全3幕」となっていて、第1幕が二つに分かれています

「前奏曲」「第1幕:第1場 マントヴァ公爵邸の大広間」「第1幕:第2場 街外れの物寂しい一角」「第2幕:公爵邸の広間」「第3幕:ミンチョ河畔」と言う流れ

時代背景は16世紀のマントヴァ(イタリアのロンバルディア州の都市の名前)で、イタリアの北部にあたります

 

主人公はのリゴレットはマントヴァ公爵に仕えるせむし(背中が曲がっている)の道化、リゴレットには16歳になる娘ジルダがいます

マントヴァ公爵は日曜日ごとに教会に来る若い女に入れ込んでいて、次々と手を出していく悪い男でした

マントヴァ公爵はチェブラーノ公爵夫人を的にかけ、リゴレットは妻に手を出されたチェブラーノ公爵を笑い物にしてしまいます

また、リゴレットの娘がリゴレットの娼婦だと勘違いされて噂話になってしまいます

チェブラーノ公爵夫人の父モンテローネ伯爵は娘をバカにされた怒り出し、リゴレットに呪いをかけることになりました

 

第1幕後半では、呪いに怯えるリゴレットが描かれ、ジルダから出自(母親のこと)について聞かれて困惑します

リゴレットはジルダにだけは世間の醜さを見せたくなくて、教会以外への外出を禁じます

でも、教会に出向いた際にマンドヴァ公爵とジルダが会ってしまい、彼に手籠にされてしまうのですね

みんなはジルダを娼婦だと思っていたので、結託してマンドヴァ公爵に彼女を献呈しようと企みます

そして、リゴレットはみんなにも騙されて、ジルダを誘拐されてしまいます

この一連の事件を、モンテローネの呪いだとリゴレットは思い込んでしまいます

 

第2幕では、行方不明になったジルダを探すリゴレットが描かれ、誘拐されたジルダに迫るマントヴァ公爵、そこから逃げるジルダが描かれていきます

そして、リゴレットはマントヴァ公爵への復讐心を募らせていきます

ネタバレするのもアレなので言及はここまでにしますが、道化師は自分はリゴレットだと名乗っていて、これだけで「犯行動機」がわかる人にはわかる、と言う感じになっていますね

彼が復讐心を燃やすのも、クルーズ船によって子どもが殺されたからなのですが、実際に殺されたのは「兄(=ペスト医師)とクラウディア(=クラウン)との間の子どもだった」と思います

なので、道化師は名目として復讐を騙ってはいますが、実際には快楽殺人者だったと言うことでOKなんだと思います

 


観光公害について

 

日本は観光大国で、それ以外に外貨を稼ぐ方法は限られています

私が住む京都ではそれが顕著になっていて、観光客がいかにお金を落としていくかは財政に直結している問題でした

映画では、5年で400%に増加した観光客によって、1日に75000人もの人がヴェネツィアに来ると言う状況になっていました

それが大型クルーズ船によってもたらされていて、現地民は「クルーズ船の入港反対」と言うデモを起こしています

数ヶ月後にサミットを控えていて、注目が集まっている場所でもあり、時期的にデモを硬化させている時期になっていました

 

そんな状況を知らずに入国するのがイサたちですが、彼女たちの行動は「他の観光客でも迷惑に思うレベル」で、現地民からすれば害悪以外の何者でもありません

スペインとイタリアの仲はそこまで悪いわけではありませんが、それとこれとは別と言う印象ですね

イサたちは自分達の快楽を優先して、大声で喋り倒したり、レストランのムードを壊したり、挙げ句の果てには飲み逃げなんてこともしていきます

 

ちなみにヴェネツィアでは「オーバーツーリズム」が問題になっていて、「住民の数に対する観光客の割合が多い(地元民26万人に対して観光客が年間で500万人=2017年)」のですね

それによって、住民の日常生活が脅かされていて、「観光公害」とまで言われています

中でも深刻だったのが「運河の汚染」で、コロナでロックダウンになって「運河が透明になった」みたいな言われ方もしています

映画内でも「アックア・アルタ(Acqua Alta)」と呼ばれる「満潮時に高潮が発生して建物の地上部分が水浸しになる」と言うことがあるのですが、これが運河が汚染されていると大変なことになります

運河に排出される汚水が流入したり、観光客のポイ捨てなどによって汚されたものがあって、コロナ禍になって「本来のヴェネツィア」を見た地元民が「観光公害」について真剣に考えるきっかけになったと言われています

本作は、そのあたりの社会問題を加味していますが、その対抗策が「観光客を無差別に殺害する」と言うとんでもない対抗策(個人レベル)になっていました

ヴェネツィアでは不審死が多いと言う風評を広めて、観光客を減らそうと考えていて、ジャコモはその考え方に反対していましたね

なので、リゴレットは「お前はどっち側につくんだ?」と言う言葉を発していて、ジャコモは彼の正体を知っていると言うことになると思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は社会問題を描いていますが、内容は『リゴレット』を準えたような復讐劇になっていました

クルーズ船の入港に反対しているデモの最中に「船に巻き込まれた」と言うことなのですが、ヴェネツィアの警察は何をしていたんだ?と言う感じになっています

しかも、クルーズ船とか、観光業界などの「観光業斡旋側」ではなく、利用客側を無差別に殺すと言う内容になっていて、それは筋が通らないだろうと思ってしまいます

一応は、我が子を殺されたペスト医師とクラウディアは「観光公害に対する声明」を発表する立場で、リゴレットが行う復讐とは行動のベクトルが違いました

なので、リゴレットは「もっともらしい理由で自己弁護している快楽殺人者」と言うことになるのだと思います

 

映画は、その声明によって電波ジャックをした後、ペスト医師とクラウディアは自殺をしています

このあたりの狙いがよく分からず、声明ビデオを撮った後にはアランツァとホセは無事だったりするので、本当にあの二人は何をしたかったのかわからないのですね

あの二人の声明によって政府が動くとは思えないし、国内の観光公害への問題提起だとしても、「行き過ぎたデモ活動の末の事故」なので、同じ考えを持っていても「同調意識は低い」と思わざるを得ません

 

観光公害をどうするかは難しい問題で、京都人としても「観光客のいない四条河原町の快適さ」と言うのは実感しています

いろんな啓発のポスターがあっても周知させるのは難しく、逆に数か国語がひしめき合う掲示板などは読みにくいだけだったりします

基本的には「一部の悪さをする人に追随する」と言う「ブロークン・ウインドウ理論」に近いものだと思うので、いっそのこと「街に多くのコスプレした清掃員を配置して、清掃すらもアトラクションにしてしまう」とかの方が良いかもしれません

街の美観を手伝ってくれた観光客に地元ならではのステッカーをあげるとかすれば、意外なムーブメントが起きるかもしれませんね

観光地を育てるには「利用者と観光業が一緒になって行動する」と言うことが必要なので、分断を産んでも波及効果は薄いのではないかと思いました

 

本作はスペイン人監督が「イタリアの観光公害について」あれこれ言っている映画なのですが、もっと建設的な提案をすれば良いのになあと思ってしまいます

イタリア人からすれば「お前らに言われたくねえ」と言う感じなのかどうかわかりませんが、ヴェネツィアの人の映画感想を聞きたくなってしまいますね

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/379709/review/9018100b-d66b-4e85-b8d1-c611a4ee0bed/

 

公式HP:

https://klockworx-v.com/veneciafrenia/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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