■「十一人目」は彼だけど、そこには思惑を知らずに散った十二人目と十三人目がいたのですね
Contents
■オススメ度
アクション時代劇が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.11.6(イオンシネマ高の原)
■映画情報
情報:2024年、日本、155分、PG12
ジャンル:官軍と賊軍の間に揺れる新発田藩の目論見に晒された罪人と武士を描いた時代劇
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
ノベライズ:沖方丁『十一人の賊軍(講談社)』
Amazon Link(講談社文庫)→ https://amzn.to/3NW08it
キャスト:
【決死隊】
山田孝之(駕籠政:罪状「殺人」)
尾上右近(赤丹:罪状「賭博」、イカサマ野郎)
鞘師里保(なつ:罪状「火付け」、煮炊き係)
佐久本宝(ノロ:罪状「脱獄幇助」、政の弟分)
千原せいじ(引導:罪状「女犯」、坊主)
岡山天音(おろしや:罪状「密航」)
松浦祐也(三途:罪状「一家心中」)
一ノ瀬颯(二枚目:罪状「姦通」)
小柳亮太(辻斬:罪状「辻斬り」)
本山力(爺っつぁん:罪状「強盗殺人」)
仲野太賀(鷲尾兵士郎:「決死隊」に命じられる新発田藩の武士)
野村周平(入江数馬:「決死隊」に合流する藩士)
田中俊介(荒井万之助:「決死隊」に合流する藩士)
松尾諭(小暮総七:「決死隊」に合流する藩士)
【新発田藩】
阿部サダヲ(溝口内匠:加奈の父、新発田藩の家老)
木竜麻生(溝口加奈:数馬の婚約者)
西田尚美(溝口みね:加奈の母)
柴崎楓雅(溝口正直:新発田藩の藩主、若殿)
音尾琢真(仙石善右エ門:刃傷沙汰を起こす侍)
佐藤五郎(里村官治:新発田藩の御用人)
吉沢悠(寺田惚次郎:新発田藩御城使)
【新政府軍(官軍)】
玉木宏(山縣狂介:先方総督府の参謀)
浅香航大(岩村精一郎:狂介の家臣、土佐藩士)
佐野和真(杉山荘一郎:精一郎の側近)
安藤ヒロキオ(世良荘一郎:官軍先遣隊の隊長)
佐野岳(水本正虎:荘一郎の腹心)
ナダル(水本正鷹:荘一郎の腹心)
【旧幕府軍】
松角洋平(色部長門:米沢藩)
駿河太郎(斉藤主計:米沢藩)
【その他】
塚本誠浩(ナレーション)
長井恵里(さだ:政の妻)
ゆりやんレトリィバァ(おにぎり娘)
■映画の舞台
1868年戊辰戦争下、
新潟:新発田藩
ロケ地:
千葉県:安房群
鋸南町
https://maps.app.goo.gl/j3b9GU4mUaSvJTKP9
新潟県:新発田市
新発田城
https://maps.app.goo.gl/mvaxVDsy7Nx9ZaEW8
新潟県:南魚沼市
雲洞庵
https://maps.app.goo.gl/dfyC1Rptc8eQU3447
兵庫県:丹波篠山市
篠山城大書院
https://maps.app.goo.gl/dyqZJaP4p2mjwmaS9
宮城県:白石市
白石城・歴史探訪ミュージアム
https://maps.app.goo.gl/8bGzsXmh62NEPWFe9
神奈川県:小田原市
小田原城
https://maps.app.goo.gl/GSvHagYbku2MCTWc6
千葉県:佐倉市
旧堀田邸
https://maps.app.goo.gl/CZ388pGVktCMWrn59
千葉県:長生郡
長南町
https://maps.app.goo.gl/JoQWoQwtBb45jxqD8
長野県:長野市
松代藩文武学校
https://maps.app.goo.gl/HaTB2gD3Jhh3JhBd6
真田邸
https://maps.app.goo.gl/6Gzf93V7UUYha5vc8
松代公民館
https://maps.app.goo.gl/od7z5BBAqSMoGqsD7
■簡単なあらすじ
1868年、戊辰戦争下の新発田藩、新政府軍(官軍)につくか、同盟軍(賊軍)につくかの選択を迫られていた
家老の溝口内匠は、風見鶏的な立場で藩を守ってきたが、いよいよ後には弾けなくなっていた
彼の中では官軍に就くことを考えていたが、同盟軍との関わりの手前、それを公にはできない
そこで、内匠は鷲尾に良い案はないかと尋ねた
鷲尾は、官軍が通ってくる峠の砦で時間稼ぎをして、同盟軍に見せかけの出陣で欺こうと考える
同盟軍の米沢藩が出陣をしたと同時に狼煙を上げ、そこから官軍を新発田に入れて、寝返りを打とうと考えた
そこで、砦には長岡藩の旗印を立て、そこに同盟軍の残党がいるように見せかける
そして、その砦を守るものとして、死罪を言い渡されている罪人たちを使おうと考えた
選ばれたのは、殺人や火付け、賭博に密航などを行った者たちで、砦を守り切ることができれば無罪放免が約束された
だが、殺人の罪で投獄された政は、新発田藩に恨みを持っていて、その言葉を全く信じない
政が裏切るのではないかと考えた鷲尾は、誰かが裏切れば連帯責任とし、罪人たちに政の監視をさせることになったのである
テーマ:人として生きる道
裏テーマ:長として護る道
■ひとこと感想
戊辰戦争における新潟地方の戦いを描いていて、いわゆる新発田藩が官軍に寝返った瞬間を描いていました
このあたりは歴史に詳しくなくてもちゃんと説明してくれているのですが、そもそも戊辰戦争とはなんぞやというレベルだと話にはなりません
でも、戊辰戦争についてググると、最後どうなるかわかってしまうというジレンマがあるかもしれません
映画は、侍の歴史が終わる寸前の藩を護る立場の人間の苦渋の決断と暗躍が描かれていて、内匠に阿部サダヲを配しているところにわかりやすい意図がありました
集められた罪人の行く末も何となく読めてしまいますが、その先々には簡単な驚きがあるように作られています
若干、ファンタジックな部分がないとは言い切れませんが、たくさんのキャラがいるのにそこまで混乱はしませんでしたね
それぞれにも見せ場がありますが、罪人側は「政(刺青)」「ノロ(政の弟分)」「火付(女性)」がメインで、「赤丹(博打)」「引導(坊主)」あたりが識別できればOKでしょうか
あと、この内容で155分は長すぎますね
政が裏切る&出し抜くという展開が連続してはピンチになるという繰り返しだったので、中盤がかなりもたついていたように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
歴史はあまり詳しくありませんが、山縣狂介(のちの山縣有朋)が登場した段階でどっちが勝つのかはわかると思います
そんな中、新発田藩にも裏切られた賊軍たちがどのような死に方をするのかというところがメインになっていて、彼らはみんな「人のために死んだ」という感じになっています
これまでは「自分のために欲望のままに生きてきた罪人」が共闘する中で絆を深めることになるのですが、それよりは「最後は人として死にたい」という思いが過ぎったのだと思います
映画はダブル主人公という設定で、罪人側が政、藩士側が鷲尾で、ともに騙されて窮地に陥るキャラとなっていました
新発田藩のために尽くしてきた鷲尾が詰め腹を切らされるという感じになっていて、その余波が内匠の娘の死へと繋がっていきます
藩のためという大義が彼の中にあると思いますが、余計な策を弄しなければ、それに溺れることもなかったでしょう
物語は、史実ベースになっていると思いますが、お国のために戦うということの意味を再確認させられますね
大義を得た者は人でなくなるのか?
そんな中で、武士道の精神に重きを置いた鷲尾は立派で、その想いに報いずに鉄砲を使用した内匠は根っからの悪人なのだと感じました
でも、だからこそ非道なまつりごとができる、と言えるのかもしれません
■戊辰戦争と新発田藩
1868年1月、鳥羽・伏見の戦いにて幕府連合軍が敗れ、戦火が越後へと波及していきます
新発田藩は尊王の志を貫くために時間を稼ぎましたが、同盟側の要求に屈して加盟することになります
同盟側は新発田藩の参加を確実にするために藩主・溝口直正を人質に取ろうとしますが、領民の抵抗にて阻止されます
その後、新政府軍が上陸したのに合わせて合流し、先鋒となって軍を進めることになりました
これによって、新発田の土地は戦火から守られることになりましたが、越後長岡藩などからは明らかな裏切り行為と見做され、周辺地域に遺恨を残すことになります
それでも、藩が取り潰しになることもなく、12代にわたって新発田藩は存続することになりました
奥羽越藩同盟に加盟しつつ、新政府軍にも加担するなど、周辺から見ると最悪の選択をしているのですが、藩民にとっては武士以外の被害が少なかったのですね
藩主の人質事件などもあり、新発田城の包囲などもありましたが、藩としての影響を考えると、悪名と人命のどちらを取るかという感じになっていました
映画では、どっちの顔も立てようということで、罪人と一部の侍によって賊軍というものが結成されます
当初は意義を感じていましたが、捨て石であることを知り、行動を変えることになります
役目を果たしたのちにある利益は反故にされ、その無念は歴史から消えることになりました
藩のために命懸けで戦った人に対する報いは最悪で、それをどう考えるのかというのが描かれていたんだと思います
■罪人の生きる道
映画では、罪人たちに恩赦を与えるという餌をチラつかせますが、彼らの罪状の全てが「命懸けの捨て石を許される」というものではないと思います
政は妻に暴行を働いた藩士を殺して罪人になりますが、新発田藩のために働くことを拒んでいました
彼の賊軍内での裏切りが何度かあって、それが危機を誘発することになっています
その他の罪人も、イカサマ賭博、放火、女犯、一家心中などがありました
罪人はいずれは死罪になっていたので、その命と引き換えに決死隊に加入するというのはある意味強制のように思えます
これが本当に藩のためであれば戦う意味もありますが、実際には同盟軍と新政府軍の交渉の兼ね合いの中で「時間稼ぎ」だけを託された捨て駒になっていました
たとえ罪人とは言え、餌をチラつかせて裏切るというのは言語道断なのですが、決死隊が結成されたことによって、それが担保されているように感じています
罪人よりも悲惨なのは決死隊の面々で、藩と罪人の板挟みにあうことになっていて、入江はその目的を知っていますが、鷲尾は知りませんでした
鷲尾が知らないことで罪人をまとめ上げることができますが、全てを知りつつも同胞を裏切っている入江としては気が気ではないと思います
事が終わり、罪人の始末も行われますが、武士を巻き込んだことで歴史に残ることになっています
領土を守るためとは言え、一線を超えているのは明確で、それゆえに悲哀だけが募る 結果となっていました
入江の無念もさながら、あの場所で死ねた方が良かったように思いますし、鷲尾が「11人目の賊軍だ!」と吠えたことで、彼らは彼らなりの仁義を通したと言えるように思えます
決死隊も罪人ではありますが、藩の命令でもあるので問われることはないはずでした
でも、家老はその事実を隠蔽するために罪人を皆殺しにする命令を出し、鷲尾はそれに反発します
この時代の罪は藩が決めるものなので、あの時点で鷲尾は罪人となっています
それを承知の上で逆らうというのは、ある意味、政と同じように「自分の感覚に従ったもの」なのですね
それを許容はできても、社会を維持するためには何らかの線引きが必要となります
それを思うと、命と引き換えに線引きを超える行為は、武士の所存のようにも思えてしまいます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、泥臭い系の時代劇で、末端と上層の意識の違いと、そこに板挟みにされる人々を描いていました
牢人たちは助かりたくて藩に加担することになりますが、政だけは藩のことを信じてはいません
それは、自分の妻に関わることで、藩が何をしてきたのかを知っているからだと言えます
それでも、藩に従うしかない牢人は多く、政が場を乱すことはリスクとなっていました
政には従順なノロという少年がいて、彼は政を兄のように慕っています
行き場のない彼を手元に置いていたというもので、その恩を返そうとずっと傍にいました
彼は、かつてあの場所で油が取れることを知っていて、それを利用して反撃をすることになるのですが、その意思疎通がうまくいかないことで、焦燥感っというものを演出しています
この一連の流れをテンポが悪いとも取れますが、その悪さは「相対するキャラの理解力」という感じになっていて、観ている側はキャラ以上の視覚情報を持っているために感覚の乖離というものが生まれていました
全体を知りつつ観るのが観客で、キャラは自分の知ること以外では動かないというのは鉄則で、このようなやり取りの不都合さをいうのは当然起こることでしょう
何のつっかえもなくスムーズに作戦に移行する方がおかしなことであり、このあたりの作り込みがうまく作用しているように思います
映画は、ともかく泥臭い直接対決が見もので、賊軍が果たして生き残れるのかというのが命題になっていましたが、わかりやすい結末へと帰結していましたね
そうなるんだろうなあと思わせながら、やはりその方向に行ってしまうのかという悲哀があって、なおかつ溝口側にもエクスキューズがありました
史実として、新発田藩が戦火に巻き込まれなかったというものがあって、それがあの時代には許されぬ価値観としてありました
でも、時代を経た現代ともなると、権力闘争に一般人を巻き込むことが御法度となっていて、それゆえの戦いづらさというものが生まれています
戦わずに済むことが一番だとしても、権力闘争の最終手段は戦争になるわけで、それでも「全てを犠牲にして未来を見ない」という戦争も無意味に思います
それゆえに戦争協定というものがあったりするのですが、ある種の国家の役割分担みたいなものがあった時代の話なので、色々と考えさせられるところがあるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101822/review/04445424/
公式HP: