■終わってみれば、彼女は初心者のまま、どこかに行ってしまいましたね


■オススメ度

 

ボート競技に興味のある人(★★★)

自分を追い込む系の映画に興味のある人(★★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.11.7(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:The Novice(スポーツにおける初心者、劇中の訳では「新人」)

情報:2021年、アメリカ、97分、G

ジャンル:ボート競技にのめり込む大学生を描いたスポーツ映画

 

監督&脚本:ローレン・ハダウェイ

 

キャスト:

イザベル・ファーマン/Isabelle Fuhrman(アレックス・ダル/Alex:初心者ボートプログラムに参加する大学1回生)

エイミー・フォーサイス/Amy Forsyth(ジェイミー・ブリル/Jamie:スポーツ奨学金を目指す大学1回生)

 

ディロン/Dilone(ダニ/Dani:アレックスのティーチング・アシスタント)

ジェイニー・ロス/Jeni Ross(ウィノナ/Winona:高校時代からのアレックスの親友、ルームメイト)

 

ジョナサン・チェリー/Jonathan Cherry(ピート/Pete:コーチ)

ケイト・ドラモンド/Kate Drummond(エドワーズ/Edwards:ヘッドコーチ、元五輪選手)

 

シャーロッテ・ウベン/Charlotte Ubben(エリン/Erin:ボート部の先輩、2軍のコックス)

Sage Irvine(ジャンセン/Janssen:ボート部の先輩、1軍)

Chantelle Bishop(ハイスミス/Highsmithポート部の先輩、1軍、記録保持者)

Eve Kanyo(グランドマン/Groundman:ボート部の先輩、1軍)

 

Kaileigh Magee(モア/Moore:ボート部の同級生)

Nikki Duval(トライ=ハード/Try-Hard:ボート部の同級生)

 

Al Bernstein(ディーン/Dean:物理の教授)

 

Miranda Rose Pave(学生)

Neil Babcock(一夜限りの男)

Robert Ifedi(バーの警備員)

Jeff Scott Whal(バーテンダー)

David Guthrie(バーテンダー)

Nigel Holt(ダニのギタリスト)

Whitney Lu(「The Paper Shakers」のリードボーカル)

T. Michael Hall(「The Paper Shakers」のギター&リードシンガー)

Jackson Sole(「The Paper Shakers」のエレキギター)

Luke Benjamin(「The Paper Shakers」のベース)

David St. Pierre(「The Paper Shakers」のドラマー)

 

【ローリングの選手】

Lexi Armstrong

Aurora Baker

Sophie Barber

Jill Barr

Brianne Bartolini

Danielle Boon

Megan Boulter

Paige Burns

Carolyn Cullen

Jasmin Carter

Brook Elbers

Hannah Genge

Claire Kendall

Meradith Kortweg

Sheetza McNarry

Allie Miskulin

Victoria Muir

Elizabeth O’Prey

Petra Plat-Dekoter

Emma Point

Rosalyn Shepherd

Abbey Sibbald

Kendal Thomson

Alicia Thomson

Bri Tombs

Grace Vendenbroek

Camille Waldeck

Devin Ward

Tasmin West

Alex Wood

Karissa Woodhall

Gah-Lee Won

 


■映画の舞台

 

アメリカ:

ウェリントンカレッジ(架空?)

 

ロケ地:

カナダ:オンタリオ州

ピーターバラ/Peterborpugh

トレント大学

https://maps.app.goo.gl/1m1UQY7ACodcZkZ68?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

大学に進学したばかりのアレックス・ダルは、ポート部の初心者プログラムに参加することになった

奨学金で大学に通っているアレックスだったが、大学では苦手な物理を専攻し、初めてのボートに挑戦したりもする

同じプログラムにはスポーツ奨学金を目指すジェイミー・ブリルもいて、彼女も自分と同じように向上心が高いものの、運動能力はスバ抜けて高かった

 

コーチのピートになかなか名前を覚えてもらえず、1軍と2軍の模擬試合に勝っても、ヘッドコーチのエドワーズは抜擢もしない

苛立ちが募る中、アレックスは自身のティーチング・アシスタントのダニと恋仲になっていく

 

そんな中、いよいよ選手権に向けての強化合宿が組まれるものの、タイムトライアルにてジェイミーに負けてしまう

仲間の裏切りによって負けたと思い込んだアレックスは暴言を吐きまくるものの、徐々にチームメイトは離れていってしまう

 

そして、シーズンの終わり近づく頃、チーム内で、気軽なレースを行うことになった

だが、アレックスはハイスミスが持つ記録にこだわり、暴風雨の中、過酷なレースが始めてしまうのである

 

テーマ:自己追求の弊害

裏テーマ:四面楚歌の作り方

 


■ひとこと感想

 

ボートに打ち込む学生ということで、ちょっと前に公開になったアニメ映画『がんばっていきまっしょい』っぽいのかなと思っていました

主人公役がイザベル・ファーマンということで、どんな成長を遂げたのかも気になっていました

ふれこみは『セッション』のボート版とのことですが、内容は真逆のように思えます

 

映画は、ボート部の初心者が自分を追い込んでいくというものですが、彼女はボート以外にも苦手な物理を専攻していました

根っからの自分いじめが好きなタイプのようで、チーム競技にはもともと向いていなかったと思います

それでも、自分に不得手な分野でとことん追い込めるからこそ選んだのかな、と感じました

 

物語はあっさりとしたものですが、見ていて気分の良い作品ではないのは確かですね

かと言って、同化して苦しいというよりは、まったく共感するところがなくて、どんどんと距離が離れていく居心地の悪さのようなものがあります

ラストもあっさりしたもので、自分の中で完結して、誰にも共感を得ようとしないのは徹底していたように思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、ボート競技に打ち込む学生というよりは、とことん自分を虐め抜くS的な要素が全開の映画になっていました

誰かに打ちのめされるM的なものではなく、対象が自分のS的な感じになっていていたように思います

血豆が潰れても放置して、それが神経にも影響を及ぼしていたり、自傷的な行為で痛めつけていたりしました

チームメイトにも肋骨骨折を隠して競技していた選手もいたように、どこかネジが外れたような人がたくさん登場していました

 

アレックスが大統領奨学金を受けていることが中盤あたりで発覚し、スポーツ奨学金を目標にしていたジェレミーの怒りを買うハメになっていました

アレックス自身は隠していたわけではないのですが、それまでに積もったものの反動が起きた格好になっています

目指している人からすれば「上から目線でバカにしていたんでしょう」みたいな感じですが、そういった性根がなかったのかどうかもわからないのですね

 

比較対象に上がりそうな『セッション』はパワハラ映画でしが、本作は自虐映画なので真逆のパワーバランスになっていますね

普通なら先輩やコーチのしごきがエグいみたいな映画になりそうですが、逆のパターンになっていて、みんなが止めに入っていました

「リラックス」と言われてヒートアップしていたのですが、彼女からすればその言葉こそバカにされていると感じる言葉になっていました

 


自分を追い込む理由

 

本作の主人公アレックスは、初心者ながらボート競技に打ち込み、まるで取り憑かれたように自分を追い込んでいきました

ラストまで見ると、彼女の目的とか達成感の指標というものが分かりますが、冒頭から中盤にかけては、目的不明の狂気がひたすら描かれるという感じになっています

アレックス自身が自分を追い込むには色んな理由があると思いますが、まずは自分の限界を試したいというものがあるのだと思います

完全素人の中で、自分の努力だけで他の人間を圧倒できるのかというのは、普通の人間なら考えないことでしょう

 

自分自身を追い込んだ経験があるとわかると思いますが、彼女自身にも「ゾーンに入った時に感じる高揚感と恍惚感」というものがあります

追い込んで、それだけに集中している時に起こる多幸感というものがあって、その快楽を求めているようにも見えます

アドレナリンやドーパミンなどの快楽物質が自分を襲い、それでしか得られない何かというものがあるのでしょう

彼女がそれを行うのは、これまでに同じような体験の末に得たものがあったのだと思われます

 

映画『セッション』のラストにも同じような多幸感が登場し、その場にいる二人だけの共通言語というものが見えていました

本作の場合には共通言語を持つ人物はおらず、単に自分自身との対話になっています

そこで紡がれる、自分だけにある到達点というものがあって、それが公式戦における勝利などではありませんでした

自分自身を危険に晒す最高の舞台というものがあって、そこから脱落するものを嘲笑いながら、自分だけが納得できる境地へと向かう

分かりやすい自慰的な行為ではありますが、それゆえに体験者以外には何をやっているのかわからないという映画になっています

分かりやすい例えだとランナーズハイのようなものになりますが、アレックスにはそれに加えてオーガズムというものが付随していたのかな、と感じました

 


リラックスでキレる理由

 

映画では、幾度となくコーチたちから「リラックスしろ」と言われます

その度にアレックスは反発するのですが、これは前述の自分を追い込むことの延長線上にあるものだと思います

リラックスしてスキルが上がることよりも、リラックスせずに行き詰まる方を選んでいて、それすらも許容していることになります

度々同じことを言われているのでキレていますが、キレることで自分を四面楚歌に置くという目的もあったように思います

 

効率よくスキルを上げるとか、選手として覚醒するという目的があれば、指導者や先達の声には耳を傾けますが、彼女は「自分の考えを押し通す」ということが前提になっているので、そう言った意見を聞く耳というものを持っていません

人を観て自分が気づくことはOKで、人から指摘されることを嫌っているように思えます

実際には、そう言った声が頭の中に残り、あたかも自分が発見したような形で身になることもありますが、そういったことまでは考えていないのでしょう

あくまでも、自己流は全て自分の考えの末に身についたものであるという傲慢さがあって、それが自己完結しているというところは徹底していると思います

 

リラックスとは、肩の力を抜くという意味になりますが、実際には体を弛緩させて緊張を解くことで、俯瞰の視点が持てることを言います

頭に血が上ると言いますが、それは過度な集中力を生む効果もあります

でも、血液の循環が悪くなるのと同時に、思考も小さな空間で巡るようになり、仮説や思考などが事実のように規定されてしまいます

そう言った規定をさせないために適度な緩和を作る必要があり、その概念がわかりやすく伝わるのが「リラックス」という言葉なのだと思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、地味な作品になっていて、何が起こっているのかわかりにくい映画でもありました

実体験をもとにした内容で、ボート競技をしていた時期の体験談なのだと思います

ボート競技を取り扱っていますが、初心者向けに競技のレクチャーをすることもなく、アレックスの目線でボート競技を理解していくという流れになっています

それに対する過度な説明がないことがわかりにくさに繋がっているのかもしれません

 

映画のタイトルは、「The Novice」は「初心者」という意味ですが、アレックスは初心者らしからぬ言動を続けていきます

それは目的が違うからなのですが、本来は「高みに行けば行くほど自分を追い込める領域にいく」と思います

アレックスは大会の代表になったわけでもないし、中途半端なところで追い込みをやめてしまっているのですね

なので、映画の最後まで初心者のままでいるし、次のステージでの追い込みを避けた人間のように思えます

 

結局のところ、中途半端な自己実現になっていて、それが消化不良に繋がっているように思います

なんで彼女が納得したのかというところは本人にしかわからず、メンバーからすれば「この人は何をしたかったのか」という感じに映っているのでしょう

映画内で彼らを襲った波風のような存在で、その影響力を無視している自己満足をどう捉えて良いのか悩んでしまいます

初心者のまま、とにかく自分でやり切った感を出して去っているのも含めて、この人物はこのままでは今以上の人間にはなれないのだと思います

 

自己実現は自己承認の上にある欲求であり、彼女は自己承認の段階で終わっているのですね

彼女がもし自己実現の領域に向かうのなら、真摯に人の意見を聞き入れて、その高みを目指して行ったのでしょう

自分を追い込むことに躍起になっていても、結局のところは山の麓で登ることすらしていないのは滑稽で、それも含めたタイトルになっているかなと感じました

ある意味において、反面教師的な部分もあったと思うので、こうならないためには「リラックス」することが大事なのかなあと思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/102239/review/04447863/

 

公式HP:

https://www.novice-movie.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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