■太陽が育んだものを、太陽を理由に壊すことに何の意味があるのでしょうか
Contents
■オススメ度
大家族映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.12.18(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Alcarràs
情報:2022年、スペイン&イタリア、121分、G
ジャンル:太陽光パネル事業に翻弄される桃農園一家を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:カルラ・シモン
キャスト:
ジョゼ・アバッド/Josep Abad(ロヘリオ/Rogelio:ソレ家の祖父)
ジョルディ・プジョル・ドルセ/Jordi Pujol Dolcet(キメット/Quimet:頑固な父)
アンナ・オティン/Anna Otin(ドロルス/Dolors:いざというときはキめる母)
アルベルト・ボッシュ/Albert Bosch(ロジェー/Roger:父に認められたい長男)
シェニア・ロゼ/Xènia Roset(マリオナ/Mariona:ダンスが好きなキメットの長女)
アイメット・ジョノウ/Ainet Jounou(イリス/Iris:いたずら好きの末娘)
モンセ・オロ/Montse Oró(ナティ/Nati:キメットの妹、長女)
カルレス・カボス/Carles Cabós(シスコ/Cisco:ナティの夫)
ジョエル・ロビラ/Joel Rovira(ペレ/Pere:ナティの双子の息子)
イザック・ロビラ/Isaac Rovira(パウ/Pau:ナティの双子の息子)
ベルタ・ピポ/Berta Pipó(グロリア/Glòria:キメットの妹、次女)
エルナ・フォルゲラ/Elna Folguera(テイア/Teia:グロリアの娘)
アントニア・カルテルス/Antònia Castells(ティエタ・ペピタ/Tieta Pepita:大叔母さん)
ジブリル・カッセ/Djibril Casse(ブブ/Boubou:桃園の従業員)
La Margaret(ヴァカ・マルガリータ/Vaca Margarita:ソレ家の牛)
ジャコブ・ディアルテ/Jacob Diarte(ホアキン・ピニーョル/Joaquim Pinyol:地主)
演者不明(バルダザール:通訳)
Daniel Gómez(サルバドール/Salvador:隣人の農夫)
Mariví Estremera(ミケレット/Miquelet:喫茶店の店主)
Benito Pelegrí(トレゾラ/Tresona:ロヘリオの友人)
Óscar Rausa(アウレリオ・ヴィンラント/Aurelio Vigilant:クラブのDJ)
Abril Baltrons(ヌリア/Núria:マリオナの友人)
Irati Elordui(ガーラ/Gal·la:マリオナの友人)
Ivet Montoy(イベット/Ivet:マリオナの友人)
Ona Samara(オーナ/Ona:マリオナの友人)
Anas El Filali(ロジェーの友人)
Àlex Frauga(ロジェーの友人)
Guifré Granell(ロジェーの友人)
Enriqueta Dolcet(ペピタの友人)
Ramoneta Giribet(ペピタの友人)
María Cabrera(ジョセフの友人)
Oumar Balde(臨時雇いの従業員)
Alhousseynou Diallo(臨時雇いの従業員)
Mahmadou Camara(臨時雇いの従業員)
Mohamed Diallo(臨時雇いの従業員)
Ramón Nguema(臨時雇いの従業員)
Núria Santandreu(露天商)
Lena Romanyshak(クラブの女の子)
Josep M. Bellostes(協同組合の農家)
Robert Escuer(協同組合の農家)
José Luis Martínez(協同組合の農家)
Albert Aragonés(協同組合の農家)
Francisco Soler(協同組合の農家)
Antonio Moliné(協同組合の農家)
Montse Llop(教会の女性)
Cati Blanco(教会の女性)
Olga Canales(医師)
Pere Roqué(アサジャ/Asaja:組合の会長)
Antoni Balaguer(リタイアホームの利用者)
Joan Boqué(リタイアホームの利用者)
Miki D’Almenar(「Festa Major」のプレゼンター)
Ignasi Giribet(ラス・デブラスのダンサー)
Fèlix Leciñena(ラス・デブラスのダンサー)
Marc Torruella(ラス・デブラスのダンサー)
Alberto González(バラージャの男)
Josep Forcada(バラージャの男)
Sisco Ribes(バラージャの男)
Maria Solsona(料理人)
Pilar Solsona(料理人)
■映画の舞台
スペイン:カタリーニャ
アルカラス
ロケ地:
スペイン:レリダ
アルカラス/Alcarràs
https://maps.app.goo.gl/5Jyq7XmxwdL2NwjT7
スペイン:ウエスカ
ソテト通りCalle del Sotet
https://maps.app.goo.gl/hyeyWmSt6Noz28Sq8
セロス/Seròs
https://maps.app.goo.gl/iZPZA5XAUdswc53B7
■簡単なあらすじ
スペインのカタルーニャ地方にあるアルカラスでは、大家族のソラ一家が桃農園を営んでいた
農園を管理するキメットは気難しい男で、一家をまとめ上げるために気を張っていた
一家の家は彼らのものだったが、土地はピニョールのもので、祖父の代の口約束しか交わしておらず、夏までに立ち退くように言われてしまう
ピニョールはソーラーパネル事業を行おうとしていて、そこで妥協案として、パネルの管理をしながら農園を続けないかと持ちかけた
だが、キメットは頑固な男で、その要求を跳ね除けてしまう
周りの土地は徐々にパネルで埋まってしまい、それで裕福になった家の話なども持ち上がってしまう
家族の中でも意見が分かれるようになり、ますますキメットは意固地になってしまうのである
テーマ:意固地と大局観
裏テーマ:生存の変遷
■ひとこと感想
ポスタービジュアルぐらいしか情報がない中で参戦
どうやらスペインの桃農園一家のお話のようで、地主がソーラーパネル事業をするから出ていってくれ、みたいな展開になっていました
ソーラー事業に関しては、その後のことを知っている方からすれば微妙な心持ちになってしまいますが、そのあたりを知らない人たちが大掛かりな詐欺に引っかかっている最中のようにも思えてしまいます
映画は、桃農園一家がソーラーパネル事業によって翻弄されるという内容で、中心になっているキメットが聞く耳を持たないために、徐々に離反していくという感じになっています
元々は祖父が社会的なところに疎いというところがありましたが、それを放置してきたツケを払っているように思えます
とは言え、キメットの態度が大問題で、それが事態を悪化させ続けているのですね
家族内の分裂を起こし、それによって求心力も弱まってしまい、さらに息子たちの心も離れてしまっています
エンディングはかなりシュールな感じに描かれていますが、ある意味リアルに思えますね
話し合いをきちんとすれば棲み分けもできたように思います
どうしてそこまで自分本位になれるのかはわかりませんが、キメットの教育に関してもロヘリオの責任は大きいので、彼に押し寄せる心理的なものも怖いものがあるなあと感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
予告編の段階で、家長的な存在のキメットの横暴さというものが見えていて、妹の夫に手を出したあたりでヤバいなあという感じになっていました
農園の組合も強行的な手段に出ていて、そう言った軋轢がさらに事態を悪化させていきます
それによって、息子のロジェーはナイトクラブで遊んで朝帰りをするし、娘のマイオナも非行に走ってしまいそうな雰囲気がありました
映画は、イリスと双子の奔放さが唯一の救いではありましたが、その笑顔もどんどん少なくなってしまいます
この奔放さもキメットの苛立ちに変わっていって、それによって妻との間にも溝ができてしまいました
妻のビンタは時すでに遅しと言った感じで、地主を怒らせたゆえに強硬手段に打って出られていました
丹生込めた桃農園も無くなってしまい、一家はほぼ離散状態になるのでしょう
キメットが折れてパネル管理をするのかはわかりませんが、それができないなら彼だけが出ていくより可能性もあると思います
桃農園がなくなったことで彼の生きがいとかこだわりというものも壊れてしまったので、あの場所で生きていく意味も失ってしまったのでしょう
彼があの土地に固執していたのは、父親としての尊厳を守るためでしたが、それすらも無くなってしまったので、さらに悲劇的なことが起きないかと心配になってしまいますね
■キメットの行動原理
本作では、家長であるキメットが頑なに行動を変えない様子が描かれ、時には暴力的になっていく様子が描かれていました
彼がどうしてここまで意固地になるのかは、誰もが想像する範囲であると思います
わかりやすいのは「自分の生活を変えたくない」というもので、彼にはそれしかできないと思い込んでいる部分がありました
これまでずっと、桃農園を切り盛りしてきたために、その専門性はすごいのだけれど、それ以外の知識を吸収してきませんでした
特化していると言えば聞こえが良いのですが、要するに「自分に必要だと思った情報以外は遮断している状況」であると言えます
これは現代のSNSなどのプラットフォームの最適化に似ていて、お気に入りだと思われる動画などが延々とおすすめに載っていくという状況と同じだと思います
それを好んでいる人にとっては良いけれど、色んなものを吸収したい人からすれば、もっと多角的な情報が欲しいと思ってしまいます
これらはAIをはじめとした、アプリやサイトなどの「顧客向けのプログラムの一環」ではありますが、それは「一部の人にとっては最適でも、全ての人に向けられたものではない」ということになります
キメットからすれば、このような自分に最適化された情報だけを浴びるというのは幸福に思えるし、それが自分を肯定しているようにも思えてしまいます
キメット目線だと彼の性格に依るものだということはわかりますが、今度は物語の構造的に俯瞰してみると面白いものが見えてきます
それは、その対象が太陽光パネルというところだと思います
いわゆる環境破壊の代名詞のようなものですが、毎日のように世話を欠かせない桃とは違って、設置すればほぼ放置という性質を持ちます
これは、多忙がルーティンとなっているキメットからすれば苦痛のようなもので、その生活習慣の変化への戸惑いがあります
また、自分の糧を得るために楽をするということの代償があって、それは人間を堕落させるもののように思えます
対価というのはそれ相応の行動によって起こるもので、今回の太陽光パネルに関しても「行動する人間が一番儲かる」という構図になっています
それは「管理する側」ではなく、製造、設置などに携わっている人たちだと言えます
さらに、管理と製造をつなぐ間にあるものは、その監督権を行使し、そこにマージンを発生させます
その対価はそこまで大きくはないものなので、常に拡散していく努力が求められます
なので、中間で搾取して楽をしているように思える人たちでも、その利益を最大限にするためには動かなくてはなりません
一方のキメットは、設置した後に動くことができません
それを考えると、彼らは提示された以上の収入を得ることはできなくなり、しかも今回は地主が最大限の利益を得ることになるので、彼らに入ってくるお金は大したものにならないことがわかります
■ソーラーパネルはどこへいく
日本における太陽光発電市場は2024年から2032年にかけて年平均成長率(CAGR)は8.2%と予測されています
でも、北海道で導入中止する自治体が出てきたり、再エネ還付金が海外にしか流れていないという状況が取り沙汰され、さらに政権与党の問題もあって、予測を下回っていくと推測されます
現在の問題点は、環境負荷の問題と海外企業のパネルゴリ押し政策によるもので、太陽光パネル自体のイメージが悪くなっていることでしょう
この発電方法には必ず時間制限がつきまとい、それを解消する充電技術があって初めて機能するものと考えられます
不動産などへの太陽光パネル設置義務などもありますが、現時点の太陽光パネルでそれを行うのは非効率のように思います
もっと充電技術が上がり、さらに小型化と効率化が起こってから進めるべきものであり、そう言ったお金が国内企業に流れるようにならないと意味がありません
今のサイズだと日本の家屋の屋根に「後付け」するのは無茶で、勧誘があっても、「設置ありきで屋根を作っているわけではない」ので、すべてお断りしています
クリーンエネルギーへと向かうのは確定事項のようなものですが、カーボンニュートラルのような活動に意味があるとは思いません
日本もたくさんの資金を捻出していますが、それが国内の景気に連動していないので意味はないのですね
今後は蓄電技術も上がり、パネルの効率化、小型化が進み、さらにAI活用によるエネルギーマネジメントシステムが進化してくれば需要も増えると思います
それでも、既存の産業と置き換える意味は全くなく、エネルギーの自炊化を進めたい人や企業が導入していく方が良いと思います
地域社会がエネルギーの自炊化によって電力供給が安定されるようになってくれば、災害の多い国では強みになると思います
今後、電力消費はますます増えていくので、そう言ったパッケージを作ることの方が急務に思えてしまいます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作では、従来の慣習と新しい慣習がぶつかり合う様を描いていて、最終的には従来の慣習が淘汰されるという結果を招いています
これがキメットの暴走によるものと定義づえられていますが、このラストが正しい方向に向かっていると感じる人は少ないように思います
伝統ある産業が駆逐されていく瞬間を描いているのですが、電力というのは輸出できないので、キメットたちが外側に何かを提供するということができなくなっています
これが「自分の家庭のためだけに桃農園を営んできた」という農家ならば生き方が変わっただけですが、そんな農家はほぼないので、これまでに生み出してきたものと引き換えにしているという構図になっています
太陽光パネルを設置することは簡単でしょうが、桃農園をこの地に復活させることはできないと思います
本来ならば既存産業との共生を考えるべきなのですが、それを行うまでの研究実績もないし、それを行ったとしても実験に参加するようなものなのですね
自然を理解して桃農園を経営してきたとしても、その自然というものが変わってしまうので、桃自体が育たない環境になる可能性があります
研究によると、周囲と比べて0.5度〜3度程度の気温上昇が観測されることになり、アメリカのアリゾナ州では最大3.5度の上昇が確認されています
これらの原因としては、「植生の除去(草木の伐採により蒸散作用の減少)」「地表の黒化(アルベドの低下:パネルの太陽光吸収率)」「放射冷却の抑制」というものがあります
個人宅に設置する程度だと影響は限定的ですが、メガソーラー施設となれば話は別だと言えます
ちなみに3度上昇すると、桃の育成に関して「休眠時間の減少:桃は一定期間寒さに晒されることで休眠から目覚める」が必要で、「7.2度以下の低音が500〜1000時間必要」とされていますので、影響が大きすぎるのですね
また、気温が上がると開花時期が早まる傾向があり、春の遅霜に花が晒されるリスクが増えてしまいます
さらに高温が続くと、桃の果実が加熱しやすく、糖度や香り、果肉の締まりが低下する傾向があります
これらの対策には「標高を上げる(栽培地を変える)」「低温影響の少ない品種への切り替え」「屋根付きの設備で温度管理」「人工的な冷却設備(スプリンクラーなど」が必要になってくると言えます
キメットたちの農家でその設備投資ができるわけもなく、場所を移動することもできません
そう言った知識のどこまでを共有しているかはわかりませんが、地主自体が「桃農園の廃業とソーラー事業への切り替えを決定している」ので、変化すら許されていません
キメットたちが生き残るには、もっと安価で標高の高い土地に移住し、今ある苗と道具を移動させて細々と再開するしかないでしょう
地主の意向を考え、ソーラー事業での管理費の交渉を行いつつ移動の準備を始める、というのが賢明であるように思います
でも、地主もソーラー事業のデメリットなどを知らないまま導入を決めていると思われるので、そう言った交渉すらもままならないのが現実でしょう
ソーラー事業の未来を知っている立場から見ると滑稽にも映りますが、こう言った先進国の利益追求が無知な人を食い物にするというのは常套手段なので、結局は賢明に生きて、距離を取るしか生きる術はないように思えてなりません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/96457/review/04578656/
公式HP: