■作家になりきって見ることで、世の中の見え方が変わるのかもしれません
Contents
■オススメ度
のんの演技を堪能したい人(★★★)
文学界あるあるを楽しみたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.12.27(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、98分、G
ジャンル:大御所に酷評された新人小説家の反旗を描いたコメディドラマ
監督:堤幸彦
脚本:川尻恵太
原作:柚木麻子『私にふさわしいホテル(2012年、扶桑社)』
Amazon Link(原作文庫)→ https://amzn.to/3PcZtcZ
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キャスト:
のん(中島加代子:相田大樹として活躍する新人作家、のちに白鳥氷、有森樹李を使用)
滝藤賢一(東十条宗典:相田を酷評した大御所作家)
田中圭(遠藤道雄:大手出版社「文鋭社」の編集者、加代子の大学の先輩)
広山詞葉(遠藤緑:道雄の妻)
永瀬ゆずな(遠藤桜:道雄の娘、長女)
沢田優乃(遠藤楓:道雄の娘、次女)
田中みな実(明美:クラブのママ)
橘ケンチ(クラブの常連の俳優)
髙石あかり(東十条美和子:宗典の娘)
若村麻由美(東十条千恵子:宗典の妻)
服部樹咲(有森光来:遠藤が気にかける新人作家、女子高生)
橋本愛(須藤:超有名カリスマ書店員)
光石研(掛布義信:ホテルの支配人)
今野浩喜(本屋の客)
森田甘路(万引き犯)
平山祐介(バーテンダー)
井上雄太(「山の上ホテル」のホテルマン)
岡エリカ(樋口:「山の上ホテル」のルームサービス)
浜田学(授賞式の参加者、もしかして加代子の父?)
佐藤真弓(授賞式の参加者、もしかして加代子の母?)
尾倉ケント(新人賞の司会)
棚橋ナッツ(ぱるす文学賞&新人賞の司会)
篠原あさみ(鮫島賞の司会)
Sincere(クリスマスショーの歌手)
Sho Asano(クリスマスショーのピアニスト)
■映画の舞台
1984年~
東京都:千代田区
山の上ホテル
https://maps.app.goo.gl/USu2X1NrNkyEyL29A?g_st=ic
ロケ地:
東京都:港区
SHERATON Miyako Hotel Tokyo
https://maps.app.goo.gl/1edGrLvGtDdZcDXs6?g_st=ic
東京都:中央区
銀座CLUB CHICK
https://maps.app.goo.gl/rJMsWDTpjXhdDuWM8?g_st=ic
ST,SAWAI オリオンズ
https://maps.app.goo.gl/e86vNejoXyTgzNcd9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1984年、新人作家の中島加代子は相田大樹というペンネームでプーアール社の新人賞を獲得した
だが、その書籍が大御所に酷評されたために、数年経っても単行本を出すことすらできなかった
彼女は作家御用達の「山の上ホテル」に自腹で通う生活を続けていて、そんな様子を大学の先輩・遠藤は心配そうに見ていた
ある日のこと、自分の泊まっている部屋に遠藤が訪れる
彼は担当作家・東十条のためにここに訪れたと言い、ちょうど真上の部屋に彼は泊まっているという
その東十条こそが加代子を酷評した大御所であり、そこで彼女は「原稿を落とさせよう」と作戦を練ることになった
遠藤の差し入れのシャンパンを片手にルームサービスを装った加代子は、そのまま巧みな会話術で彼の時間を奪い、原稿を落とさせることに成功した
そして、自分の短編をその特集に捩じ込むことで一矢報いることができた
だが、その仕掛けに気付いた東十条は激昂し、事ある毎に加代子の前に立ちはだかるのである
テーマ:作家とは何か
裏テーマ:成功の分岐点
■ひとこと感想
映画の予告編だけの情報で鑑賞
何の話かわからないまま、干された新人作家の逆襲コメディだと思って見ていました
大御所のせいで活躍の場所がない才能ある小説家という設定が、何かしら被ってるなあと思っていましたが、おそらくわざとなんだと思います
執筆の原点が怒りだ!という大御所の言葉を借りれば、今の主演にとっては、まさに才能開花の礎となる感情なのでしょう
半分「素」ということになるのですが、コメディエンヌの才能全開でしたね
映画は、ホテルにふさわしい小説家になるためにあれこれ画策する加代子が描かれていて、東十条との対決が描かれていきます
そんな中でもきっちりと原稿は上げているようで、才能自体はあるのでしょう
出版社の鞍替えをするために違うペンネームを使ったりするのですが、そもそも拾い上げた出版社がチャンスを与えないのも変な話でしょうか
それでも、現実の方がもっと色々とややこしいのかなと思ったりもしてしまいますね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ホテルに固執するよりも、東十条憎しのコメディになっていて、そのコミカルさを堪能する映画になっていました
親子ほど離れた年の差で翻弄される大御所もアレですが、彼がそこまでして彼女を表に出したがらない理由というのは分かりませんでしたね
才能を感じていないと酷評するものの、当時の読者評価がどのようなものかは分かりません
その後、無理やり連載などの荒技にて読者の反応がわかるのですが、一連の騒動をプーアール社がどのように見ていたのかは一切描かれていません
ここまで書ける作家を差し置いて掲載されている作家陣ってどんなものなのかとか気になってしまいますね
東十条が圧力をかけて出版させないのだとしたら、彼女の力量に相当な危機感を持っていることになります
その後の活躍を見る限り、東十条は「自分の立場を脅かす新人に驚愕した」ということになるのだと思いますが、これらの経緯をまとめた自伝本があればヒットしそうに思います
大御所がデビューを阻止した新人という肩書きは文学賞よりも知名度が高く印象深いように思います
文壇だとそう言った裏話はツーカーだと思うので、それが暴露されることによって、東十条が落ちぶれるという分かりやすい転落があっても良かったのかな、と感じました
■作家デビューに必要なもの
日本で作家になるためにはいくつか方法があって、そのひとつが加代子のように「文学賞で賞を獲る」ということになります
その他には、小説サイトに投稿、同人誌の発行、持ち込み、養成スクールで関係者と縁を持つなどがあります
出版社側がデビューさせやすいのは賞の受賞で、デビュー時に肩書きがあるというのは有利に働きます
この肩書きがあるというのも最も有利な条件で、他のことで有名になるということで、デビューしやすくなったりします
出版社はビジネスで行なっているので、売れなければ話になりません
しかも重版できてようやく黒字化になっていくので、爆発的かつ継続的に売れる作品を世に出す傾向があります
そのために、一部の出版社では「社会的な事件を起こして有名になった人の手記」などを出すこともあります
これが倫理的にどうかは置いておいて、ビジネスとしては正解なのでしょう
ただし、これらのネットワークを築いても、結局は「作品を完成させる能力」というものが絶対に必要になります
設定や導入をうまく書けても、作品全体がしっかりとした構成になっていて、最後まで読ませる力が必要になります
また、そのためには書きっぱなしではダメで、ちゃんと推敲する必要もあります
主観で書いて、客観で推敲する
これがとても重要になります
個人的には、いくつかの小説サイトに投稿していますが、どれも商品化には及ばないものだと思います
実験的にどんな反応があるのかとか、自分自身が作家に向いているのかで試しているのですが、推敲は初稿の何倍もの時間が掛かります
原稿用紙100枚規模だと、最初にプロットを完成させていれば2週間も掛かりませんが、推敲には最低3倍ぐらいの時間が掛かります
かつて、アホみたいな長編(105話、28万文字)を書いたことがありますが、執筆自体は1年ぐらいでも、推敲は数年を要しました
それでも、出版というレベルには達していないので、プロの意見を交えて推敲するとなると、とてつもない時間が掛かると言えます
素人作品でもいいので読んでみたいという人は、NOVEL DAYSにて「JUST DESERT」という作品があるので、試してもらっても良いと思います
最後まで読み切れる人がいたらすごいなあと思います(57000ほどビュアーがありますが最後まで読めた人がいるのかは分かりません)
■執筆の源泉と才能の枯渇
小説家に限らず、創作物を生み出す人には特殊な能力が必要だと思います
その源泉となるのは発想力でありますが、何かを見たり感じた時に、それを作品として仮の姿を導き出せるのは限られた人だと思うのですね
日々たくさんの体験をしていても、同じような目線で物事を見ていても、それをアイデアとして昇華させるためには才能が必要になります
それでも、発想の根幹を知っていれば、トレーニングである程度までは高めることができます
例えば、今の時期(執筆は令和7年7月)だと参院選の真っ只中で、与党が過半数を取れるかどうかが焦点になっています
このネタだけで社会派小説を書くこともできますし、日々報じられるものを元に日記形式のドキュメンタリーも可能でしょう
でも、小説家の場合だと「長期政権の崩壊」とか、「メディアのパワーバランスの変化」というように事象を細分化して、抽象的に考えていきます
そして、この抽象化から別の具体化に進めることで、今現在起きている政治情勢をネタに全く違う物語ができると思います
アイデアというのは既存のアイデアの大胆な組み合わせであり、今の時代にまったくのオリジナルを作るのは不可能だと思います
先の例だと「政権闘争」に何かのアイデアを加えることになりますが、ここで「闘争するのが動物」というものだとありきたりになります
でも、それを植物にするとか、細胞にするかで別の物語が生まれます
あるコミュニティ内の権力闘争を「細胞」で描くと、これは「癌に侵されている体内」の物語になり、そこに色んな要素を組み込んでいくと「はたらく細胞」になったりします
これらのアイデアの構築要素を見抜くためには、既存の作品を分解して研究することだと思います
映画などには基本的なプロットの他に裏設定があったりするのですが、その遠因となるものは作者の中にしか存在しません
かつて、大学の文学部時代に坂口安吾を題材にしたのですが、彼がなぜ「桜の森の満開の下」を執筆するの至ったのかという論文を書いたことがあります
作品から伝わるものと、彼が残した手記、インタビュー記事などを読み解き、さらに彼が執筆してきた作品を時系列に検証したりしました
そして、仮説、反証などを繰り返していくうちに、彼がこの作品を思いついた理由というものを導きました
正解かどうかは本人のみぞ知るというところですが、そういった考察をしていくことは、たとえ的外れな結論になっても有意義な時間となります
なので、アイデアがうまく出せないという人は、目の前にある大好きなものを細分化して、その根幹となるプロットが他の作品に使われていないかを調べていくことをオススメいたします
参考となるのは以下の書籍ですが、映画のネタバレを含むので取り扱いにはご注意ください
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■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、小説家になろうとする加代子が重鎮の邪魔に遭ってしまうというもので、その復讐に燃える物語となっていました
作者の実体験かどうかは分かりませんが、自分の才能に脅威を感じている古参が自分の経験則と縁を使って邪魔をするというのはどこの世界にもあると思います
東十条が加代子に目をつけた理由は色々とあると思いますが、態度が気に食わないというところから男尊女卑に至るまで、様々な要素があると思います
そんな逆境に対して奮闘する加代子が描かれていて、その過程において、東十条に思わぬ変化が訪れていきます
この作品が単純なものだったら、東十条をギャフンと言わせて終わりでしょう
でも、東十条との戦いの中で、加代子自身のレベルがアップするという物語になっていて、気づかぬうちに東十条は彼が作家として成功している要素を加代子に伝えることになり、さらに無意識的に加代子がそれを吸収していくようになります
反発する者同士が本気で向き合った結果として新しいものが生まれていて、それを回想的に作品にしているようにも思えます
見方を変えれば、加代子が成功となるために得た経験をコミカルに回想している物語であり、そこには作家としてステップが上がった様子が盛り込まれていると言えます
映画には、様々な効能がありますが、その一つに「成功体験もしくは失敗体験の抽象化」というものがあります
ほとんどの物語は「得ている人が失う」「持たざるものが得る」という過程を踏んでいて、主人公はどちらかの属性にあると言えます
本作の場合だと、賞を獲ったけど作家になれていないという初期の状況(持たざる者)があり、最終目的は作家としてデビューすることでした
その中で加代子なりのオリジナリティは「作家としてふさわしいホテルで過ごす」というもので、言い換えれば「道具とか状況を整える」ということになります
この導入は「高価な万年筆を買う」とか、「書斎を設ける」のような行動の派生のようなもので、マインド的に言えば「作家としての目線を追体験する」ということになります
作家がなぜこのようなホテルで過ごすのかというところから始まって、その場に来る人は自宅の部屋でこもっている時とは違うことがわかります
そうした空間に自分を置くだけでは作家にはなれないのですが、加代子の場合はその状況から様々なものを学んでいったのだと思います
これが作者の体験なのかどうかはわかりませんが、ある種の「作家になるための訓練」のようにも思います
なので、アイデアが出ないという人は、作家と編集者が打ち合わせをするホテルに出向くとか、普段は行かないようなサロンに参加するなどして、何かしらを吸収できる場所にいくというのは一つの方法だと言えるのでしょう
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101894/review/04595643/
公式HP:
https://www.watahote-movie.com/