■実話がもたらす説得力と、ドラマ的に改変する演出の弊害において、本作は説得力の方が優ったように思えます
Contents
■オススメ度
ゲームのファンの人(★★★)
レース映画が好きな人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.9.16(MOVIX京都 ドルビーシネマ)
■映画情報
原題:Gran Turismo
情報:2023年、アメリカ、134分、G
ジャンル:シムレーサーから実車レーサーに転身する青年を描いた実話ベースのモータースポーツ映画
監督:ニール・プロカンプ
脚本:ザック・ベイリン&アサド・ギジルバジュ
原作:ソニー・インタラクティブ・エンターテイメント『グランツーリスモ』シリーズ(1997年)
キャスト:
アーチー・マデクウィ/Archie Madekwe(ヤン・マーデンボロー/Jann Mardenborough:プロのレーサーを目指すグランツーリスモビデオゲームのファン)
【GTアカデミー】
デヴィッド・ハーバー/David Harbour(ジャック・ソルター:GTアカデミーのヤンのトレーナー、元キャパの整備工)
オーランド・ブルーム/Orlando Bloom(ダニー・ムーア:日産のマーケティング・エグゼクティヴ、GTアカデミー設立者、モデルはダレン・コックス/Darren Cox)
リチャード・キャンブリッジ/Richard Cambridge(フェリックス:ベテランの整備工)
Jamie Kenna(ジャンク・マン・ジョーンズ:やらかしてしまうヤンのピットクルー)
Fred North(「GTアカデミー」のヘリのパイロット)
ダレン・バーネット/Darren Barnet(マティ・デイビス:GTアカデミーのトップドライバー)
ぺぺ・バロッソ/Pepe Barroso(アントニオ・クルス:GTアカデミーの学生ドライバー、モデルはルーカス・オルドネス/Lucas Ordóñez)
エメリア・ハートフォード/Emelia Hartford(リア・ベガ:GTアカデミーの女性学生ドライバー)
Sang Heon Lee(イ・ジュファン:韓国GTアカデミーの学生ドライバー)
Lindsay Pattison(クロエ・マコーミック:GTアカデミーの女性学生ドライバー)
Max Mundt(クラウス・ホフマン:GTアカデミーのドライバー)
Mariano González(ヘンリー・エヴァス:GTアカデミーのドライバー)
Harki Bhambra(アヴィ・バット:GTアカデミーのドライバー)
Théo Christine(マルセル・デュラン:GTアカデミーのドライバー)
【ライバル関連】
ヨシャ・ストラドフスキー/Josha Stradowski(ニコラス・キャパ:金持ちドライバー)
トーマス・クレッチマン/Thomas Kretschmann(パトリス・キャパ:ニコラスの父、キャパの責任者)
Royce Cronin(キャパチームのリーダー)
David Perel(キャパチームのドライバー)
Niall McShea(フェデリック・シューリン:プロのレーシングドライバー、ライバル)
【家族関係】
ジェリ・ハリウェル=ホーナー/Geri Halliwell(レスリー・マーデンボロー:ヤンの母)
ジャイモン・フンスー/Djimon Hounsou(スティーヴ・マーテンボロー:ヤンの父、元サッカー選手、鉱山労働者)
ダニエル・プイグ/Daniel Puig(コビー・マーデンボロー:ヤンの弟)
【友人関係】
メイヴ・コーティエ=リリー/Maeve Courtier-Lilley(オードリー:ヤンの想い人)
Nikhil Parmar(パーソル:ヤンの友人、ゲーム仲間)
Lloyd Meredith(パーシー:コビーの友人)
【日産ジャパン】
平岳大(山内一典:グランツーリスモの生みの親)
山内一典(寿司職人としてカメオ出演)
アキー・コタベ/Akie Kotabe(アキラ・アキバ/Akira Akiba:日産の取締役)
上田貞夫(懐疑的な日産の取締役)
Wai Wong(日産上級幹部)
Rina Saito(一典の通訳)
吉原大二郎(日産の専属ドライバー)
Maya Murofushi(日産のデスククリーク)
山本彩乃(日産エグゼクティブ通訳)
■映画の舞台
2011年〜2013年
ウェールズ:カーディフ
日本:東京
オーストリア:ウィーン
アラブ首長国連邦:ドバイ
ロケ地:
ハンガリー:ブダペスト
ドイツ:ニュルブルクリンク
https://maps.app.goo.gl/DH96VDLPiqMkj4C76?g_st=ic
■簡単なあらすじ
ウェールズのカーディフで衣料品販売員をしているゲーマーのヤンは、幼い頃からずっとレーサーになる夢を見ていた
今はゲームの「グランツーリスモ」をプレイしているものの、その腕前は突出していた
ある日、イングランド日産のマーケッティング担当のダニー・ムーアは、ある企画を胸に日本を訪れる
それは、「グランツーリスモ」のプレイヤーを育て、実車のレーサーにすることだった
日産本社は条件をつけてそれを了承
それによって、ダニーはいくつかのトレーナーをあたった先に、ジャック・ソルターにたどり着く
ジャックは馬鹿げた話だと一蹴するものの、所属していたキャパ経営陣と折り合いが悪く、「計画を阻止するため」にダニーと組むことになった
ダニーはタイムが優秀なプレイヤーにメッセージを送り、オンラインで大会を主催する
そして、その予選にヤンも出場することになったのである
テーマ:夢と信念
裏テーマ:トライ&エラーの経験値
■ひとこと感想
ゲーム「グランツーリスモ」のプレイ経験はなく、レース映画は好きだったために迷わず鑑賞
そりゃあもちろんドルシネ最前列のリクライニングで、ドライバー目線で鑑賞して参りました
爆音を浴びるのが目的でしたが、音楽のチョイスも良くて、映像も凄かったですね
物語性も意外としっかりとしていて、脚色はあると思いますが、ゲームを理解しない親やプロレーサーとの諍いなどが描かれていました
ちょっとキャパを悪く描きすぎな気もしますが、レース映画にありがちな金持ちをギャフンと言わせる系は爽快ですらあります
映像がやはり突出していて、ゲームと比べる意味はないと思いますが、ドローンショットの効果的な配置、CG演出などがキマッていましたね
ゲームのように主人公の位置と順位が示されていて、どこにいるのかわからないと言うこともないし、実況も良い仕事をしていたと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ご本人のことは存じ上げていませんが、実は『アライブフーン』と言う邦画が同じようなテイストだったので、その比較をしながら観てしまいました
こちらは実話ベースで世界と戦っていて、描かれるレースに関してもマニア向けになっています
時期的には2011年から2013年くらいを描いていて、その後の歴史も映画にできそうな感じがします
とはいえ、ル・マンで3位に入るシムレーサーは本当に伝説級なので、トレーナーのジャックの過去を効果的に配置しながら、夢を叶えることその覚悟を描いていたのは胸熱でした
基本的には、過去の思い込みと戦うことになっているのですが、それを実力で認めさせると言う、少年漫画のような展開になっているのは良かったと思います
いやあ、グランツーリスモやりたくなりますね
プレステ持ってないけど
■ゲーム「グランツーリスモ」とは
原作にあたるゲームの「グランツーリスモ」は、1997年にソニー・エンターテイメントが発売したドライブシミュレーションゲームのことを言います
1998年にアメリカ、ユーロ圏で発売にされています
ゲームの特徴として、「実際に存在する自動車を使う」というものがあり、日本の各自動車メーカーとライセンス契約を結び、実車が登場する運びになっています
独自に開発された物理エンジンを搭載し、環境マッピングによる背景の合成を行ったことで、よりリアルな世界を再現することに至っています
開発したのは山内一典(寿司職人でカメオ出演していた人)で、「グランツーリスモ」の発売以降、実際のモータースポーツの世界でも耐久レースに参加しているレーシングドライバーでもあります
映画で登場するNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)は、日産の子会社の一つで主にモータースポーツ向けの車を作っている会社で、全日本ツーリングカー選手権やル・マンなどにも参加している実在の会社になります
また、GTアカデミーは、SCEと日産自動車が主催するレーシングドライバーの養成プログラムのことで、オンラインで予選を行って、予選通過者が訓練コースに参加し、優勝者にはプロドライバーとしてデビューする権利が与えられるものです
主人公であるヤン・マーティンボローもこのGTアカデミーからプロドライバーになった人物で、2011年から実際のレースに参加しています
■ヤン・マーデンボローについて
主人公のヤン・マーデンボロー(Jann Mardenborough)は実在の人物で、1991年生まれのイギリス人ドライバーです
2011年にGTアカデミーのコンテストで9万人の中から優勝しています
ドバイの24時間レースに出場し、その後英国GT選手権、F3ヨーロッパ選手権、GP3シリーズに参戦し、ル・マン24時間レースにも出場しています
ル・マンでは、2013年から2015年に出場し、映画で描かれているのは2013ねんのクラス3位の時のものですね
個人の成績としては、2013年と2014年の9位が最高となっています
映画で描かれる事故は2015年のもので、このあたりの時系列を映画では変えています
実際にはル・マン3位後に事故があって、そこで1名の観客が亡くなっています
彼はその事故を映画に含めることを許可し、この事故が存在しないのは観客にとって不利益である、と語っています
映画では2011年のデビューから2013年と、2015年事故を取り扱っていて、そのほとんどは事実ベースになっています
事故は実際にニュルンブルクリンクの北コースにて起きていますが、この事故によるトラウマを払拭してル・マンで結果を残したというふうに描くことの賛否はあって然るべきでしょう
ちなみに、事故後に出場を果たした2015年のル・マンではギアボックスのトラブルでリタイアになっています
ヤンは現在もレーサーとして活躍していて、その他にはマクラーレンのシュミレーター&車両開発ドライバーとして働いています
また、スタントドライバーとして本作にも登場し、ヤン本人のレーススタントを担当していました
2021年から2022年まではシュミレータドライバーをしていましたが、2023年にはスーパー耐久ST-Xにレーサーとして参加しています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、思いっきり宣伝映画のカテゴリーに入ると思うのですが、楽しめればOKという感じになっています
シムレーサーが実車レーサーのなるという漫画的な話に、どうやってリアリティを持たせるのかは難しいと思います
実話なんです!だけでは難しい部分もあり、それがドラマ部分の作り込みによって、ヤン自身がどんな人物かを掘り下げていく必要があったと思います
彼に恋人がいたとかのプレイベートな部分は脚色ありきだと思いますが、これぐらいの内容なら史実ベースから逸脱するほどではないと思います
GTアカデミーの発足自体もモータースポーツ業界の認知度貢献のための宣伝活動のようなもので、ゲームのプレイヤーからドライバーを育てるというのはうまく行かなくても注目度は集められます
本作では、このGTアカデミー設立に対して、家族の反対、整備士の反対、レーサーの反対というものが描かれていて、それぞれは「危険である」ことの象徴でもありました
家族が感じる危険は「自身の身体に関すること」であり、整備士が感じる危険は「業界そのものへの警告」であり、レーサーが唱える危険は「レースそのものへの危険」であると捉えられます
レースにシムドライバーが混じることで一番恐怖を感じるのは一緒に走っているドライバーで、シムレーサーが一人で事故る分には気にしないと思いますが、巻き込まれる可能性が非常に高いので、反発が起こるのは当然のことだと思います
実際にキャパが行ったようなネットを通じての反対表明があったのかは分かりませんが、一貫して反対の立場がいるというのはリアルな状態であると思います
家族との和解は「夢を持てと言ったのに反対している」という部分で解消され、クルーたちの理解は実績を残すことでクリアしています
この出来事の張本人はかなりビジネスライクに描かれていますが、レーサーにゲームをさせて上位に入って、それを利用するという算段があったのだと思います
でも、事実はゲームをするレーサーよりもゲームしかしてこなかったシムレーサーが勝ってしまうという内容になっていて、ゲームにおける経験値がリアルの経験値に追いついていることを証明してしまっています
シミュレーションは様々な現場で使われていて、航空機のパイロットとか、運転教習所などでも使われています
その性能はピンからキリまでありますが、本作のようにマッピング技術を取り込んで、様々な科学的な裏付けを再現したものというのはリアルの経験値を底上げする可能性があります
今後もこのようなシミュレーターは進化していくでしょうし、身体的危険を取り除いた状態で行うことの意味がさらに普及するのかなと思ってしまいます
戦争の世界でも「遠隔操作」の武器の発達により、実際に現場に行かない戦争というものが生まれています
実機を動かして戦うよりも、ドローンの操作技術が必要になっていたりするので、鍛えるものが変わっている印象がありますね
そう言った意味においても、世界はリアルを内包したバーチャルの開発に力を注いでいくのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://www.gt-movie.jp/