■映画が習得言語の一つだとしたら、共通言語にするための努力はとてつもない労力なのかもしれません


■オススメ度

 

映画好きのこじらせに興味がある人(★★★)

大学デビューに過剰な夢を見た人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.12.30(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:I Like Movies(映画が好き)

情報:2022年、カナダ、99分、G

ジャンル:映画好きの偏屈と、彼と関わる人々を描いた青春映画

 

監督&脚本:チャンドラー・レヴァック

 

キャスト:

アイザイア・レティネン/Isaiah Lehtinen(ローレンス・クウェラー/Lawrence Kweller:映画好きの17歳、夢はNY大学映画学科進学)

 

パーシー・ハインズ・ホワイト/Percy Hynes White(マット・マカーチャック/Matt Macarchuck:ローレンスの親友)

Eden Cupid(ローレン・P/Lauren P.:ローレンスのクラスメイト)

 

Anand Rajaram(オレニック先生/Mr. Olenick:ローレンスの担任の先生)

 

クリスタ・ブリッジス/Krista Bridges(テリ・クウェラー/Terri Kweller:ローレンスの母)

 

Veronika Slowikowska(タビサ/Tabitha:カールトン大学の学生)

 

Dan Beirne(オーウェン/Owen:「Sequels」のマネージャー)

ロミーナ・ドゥーゴ/Romina D’Ugo(アラナ/Alana:ローレンスのバイト先の店長、元女優志望)

Andy McQueen(ブレンダン/Brendan:ローレンスの先輩)

Alex Ateah(シャノン/Shannon:ローレンスの先輩)

 

Rodrigo Fernandez-Stoll(夫婦のお客さん)

Gwynne Phillips(夫婦のお客さん)

Sarah Camacho(スポティッシュな女性客)

Robert Cook(絡んでくる老人客)

Tanner Zipchen(セクシーな男性客)

 

Trina Skan(「Cineplex」のチケット係)

 

Katie Douglas(プロムに参加するクラスメイト)

Katie Douglas(「Year End Prom Video」の出演者)

Alexander Gallimore(「Year End Prom Video」の出演者)

Vaughan Murrae(「Year End Prom Video」の出演者)

Jordan Alleyne(「Year End Prom Video」の出演者)

Aiden Altow(クラスメイト)

Daniel Chang(クラスメイト)

Alicia Di Monte(クラスメイト)

Mikal Dixon(クラスメイト)

Tama Martin(クラスメイト)

Adrian Misaljevic(クラスメイト)

Davis Okey(クラスメイト)

Margaret Rose(クラスメイト)

Elora Sarmiento(クラスメイト)

Natalie Smith(クラスメイト)

Samantha Vu(クラスメイト)

Malea Yarde(クラスメイト)

 


■映画の舞台

 

2003年、

カナダ:バーリントン

アンダーショルト校

 

ビデオショップ「シークエルズ」

 

カナダ:オタワ

カールトン大学

 

ロケ地:

カナダ:オンタリオ州

グレータートロントエリア


■簡単なあらすじ

 

2003年、カナダのトロント郊外の田舎町バーリントンには、NYCで学んで映画監督になりたい映画ヲタクのローレンスが住んでいた

シングルマザーの母テリと二人暮らしをしていて、親友のマットとは毎週末「はみ出し者の夜」として、映画を見たり、TV番組を見たりして有意義な時間を過ごしていた

二人は担任のオレニック先生から「卒業制作の思い出ビデオ」を依頼されていて、監督はローレンス、撮影はマットが担っていた

 

ローレンスは母親の稼ぎだけではNYCに行けないことを知っていて、そこで行きつけのビデオ店「シークエルズ」に履歴書を持って行った

それから数日後、急遽欠員が出たとのことで呼び出されたローレンスは、店長アラナの元、ブレンダン、シャノンと共に働き始める

ローレンスはこだわりが強く、自分が認めている映画以外は売りたくないと言い出す

さらに、「店員オススメの映画棚」を作ろうと提案し始め、アラナは戸惑いながらも彼の声を聞き入れていった

 

一方その頃、卒業制作は難航を極めていて、「はみ出し者の夜」も途絶えていた

マットはクラスメイトのローレンを編集に加えようと提言するものの、ローレンスは頑なに拒み、関係が拗れてしまう

なんとか二人の仲を取り戻そうとするものの、「はみ出し者の夜再開の約束」にマットは訪れず、ローレンスの店舗の会員資格を別の系列店に移していたことが判明するのである

 

テーマ:ステージと転機

裏テーマ:人に弱みを見せる意味

 


■ひとこと感想

 

予告編の情報ぐらいしか入れず、ビデオ店で働くヲタクを鑑賞するつもりで参戦

高校生特有の自己中心的な感じがリアルで、同族嫌悪が凄そうな映画だなあと思って見ていました

親友に悪態をついたり、クラスメイトに差別的な発言をしたりと、かなりイラつくキャラで、周りにいたらシカトするタイプの人間だと思います

そんな彼は大いなる恐れを抱いているのですが、それは周囲には浸透しないもののように思えました

 

映画では、ローレンスに振り回される人々が描かれていて、彼が高校生なので甘く接したツケというものが巡ることになりました

彼自身も望み通りには行きませんでしたが、因果応報というよりは、現実路線に吸い寄せられている感じがしますね

彼がニューヨークに固執していたのも、おそらくは田舎出身のコンプレックスもあって、自分の知らないところで1から人生を歩みたいと考えたのだと思います

 

物語としては、古傷を抉られる人が多そうな印象で、大学デビューに過剰な夢を見ている青年が描かれていましたね

母親が「大学に行けば人生は変わる」と言いますが、一方でローレンス自身は「このままの自分で一生生きていかなければならない」と思い込んでいます

ラストはちょっとしたサプライズになっていますが、アラナのアドバイスをどこまで理解できたのかが試されるのかなと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

本作は、かなりマニアックな会話劇になっていて、そのほとんどが映画マニアじゃないとわからないぐらいコアなものになっています

それらの映画を観ていないとわからない会話のように思えますが、実質的には「こいつらマニア」と分かれば良いもので、物語の進行の妨げにはなっていないと思います

そんな中で「ある理由から映画嫌いを自称するアラナ」と出会うことになるのですが、ローレンスの映画好きというのが、結局は自分好きの範疇に収まっていることがわかります

 

自分アピールを映画を通じて行うというもので、その気質が視野を狭くしているのですね

アラナはそれを早々に見抜いていて、自分の都合とタイミングで話すローレンスの雇入れを「やってしまった」というふうに感じていたかも知れません

それでも、高校生というポジションで可愛がられていて、若干大目に見るという判断が大事件を引き起こしていました

 

結局のところ、その事件によってローレンスは新たな日常に放り込まれることになるのですが、自分の行動が未来を引き寄せているように思います

ニューヨークに行くことも「自分をよく見せるため」みたいなところがあって、あの性格だと爪弾きにされてしまうでしょう

決定的なことが起こる前に何かしらのトレーニングが必要になっていて、今回の件によって多くのことを学び、また向かう先でも多くの事を学ぶことになるのではないでしょうか

 


映画で何を語るのか

 

映画では、映画オタクのローレンスが暴走する様子を描き、常に映画を引き合いに出して語ろうとします

このような傾向は映画のみならず、文学、音楽に至るまで、何かしらの教養を持っていることを強調する意味合いがあります

語られる映画が共通言語になっている場合は良いと思いますが、そうではない場合はただの知識のひけらかしになるので、あまり良い引用とは思えません

 

映画を会話に組み込む人の特徴としては、世界を物語で理解しようとするタイプ(ナラティブ思考)、感情への共感力が高いタイプ、自己演出に敏感なタイプ、過去の出来事に意味づけをしてしまうタイプ、そして「孤独感や生きづらさを抱えている」というタイプがいます

映画は整理された物語であり、現実のように無駄は多くはありません

そのため、実にわかりやすいストーリーラインがあって、それに自分を当てはめようとする人もいます

ナラティブ思考とは、経験や記憶、社会現象をストーリー構造で理解し、整理しようとする思考様式のことで、自分の周りで起きたことを映画の実例に例えてしまいがちだったりします

 

これらの思考では、起承転結がはっきりしているとか、自分自身が博識であるかのように見せるなどの効果がある一方で、思考の単純化が行われていると言えます

人生は映画のように短絡ではないため、そこからはみ出るようなことが起こると途端にリカバリーができなくなります

映画ではこうだったのにとか、思っていた方向と違うなどの動揺が生まれ、それが視野狭窄を生んでいる場合もあります

ある意味、コミュニケーションが苦手な人が克服する過程で陥る罠のようなもので、この会話形式が成り立つのは、本当に親しい人の間だけであると思います

 


「マグノリアの花たち」に込められた意味

 

映画にて、ローレンスは店長のアラナに対して「好きな映画は何?」と聞きました

ここでアラナは「Steel Magnolias(マグノリアの花たち)」と答えていました

言葉自体の意味は、「鋼鉄のように強く、それでいて木蓮のように繊細で美しい」という意味で、ハーバート・ロス監督が1989年に製作したアメリカ映画のことを言います

 

物語は、アメリカ南部のルイジアナ州の小さな町が舞台となっていて、美容室「Truvy‘s Beauty Salon」には個性的な女性たちが集まり、日常の喜びや悩みを語り合っていました

主人公シェルビー(ジュリア・ロバーツ)は糖尿病を患っていますが、結婚を控えて幸せの絶頂にいました

彼女の母マリン(サリー・フィールド)は娘の体を心配しながらも見守り続けていました

やがて、シェルビーに子どもが生まれますが、それによって病気が悪化してしまいます

腎不全の状態になってしまい、シェルビーの延命治療をどうするか、という流れになっていきます(以下はネタバレなので割愛)

 

本作は、喪失、母性、友情などをテーマにしていて、多くの女性の心のバイブル的な作品となっていました

彼女がそれを好きな映画として語るのは「アラナも自身の過去の傷と戦っている」こともありますが、映画の中のように自分の悩みを相談したり、支えあったりできる人が欲しかったというものがあると思います

また、そう言った部分の弱いローレンスにこの映画を突きつける意味もあって、それは彼自身に足りないものが映画にあると感じたからでしょう

映画の後半では、ローレンスが「Steel  Magnolias」のポスターを貼るのですが、それは彼女の真意を理解した、という意味合いになると言えます

 

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画に登場するビデオ店の名前は「Sequels」で、これは「続編」という意味がある英単語でした

これは、映画の世界にも続きがあるという意味合いになっていて、感銘を受けた映画を観た人の人生そのものを表しているように思えます

この場所で出会ったローレンスとアラナにも人生の続きはあって、そう言った人間関係の発祥の地であったようにも思えます

 

一般的には続編という意味合いがあって、映画の続編であったりビデオシリーズであったりと、映画そのものにも多くの続編が存在します

でも、それを借りに来てねというだけではメッセージとしては弱いので、前述のようなキャラたちのその後を重ねていると思います

さらに、この映画を観た人たちにも人生の続編があって、この映画がその刺激材になれば良いという想いが込められているように思います

 

映画におけるローレンスのようなイタいキャラというのはたくさんいると思うし、それゆえに生きづらい人もいると思います

そんな彼が人生で最大の失敗を犯してしまうのですが、それで彼の人生が終わったりもしないのですね

映画を観ている人は半ばローレンスを反面教師のように思うし、自分はここまで酷くないと思っているかもしれません

でも、そんな彼が映画の中で立ち直り、人生を生きていく様子は、どことなく救われるような気がしてしまいます

 

映画は、観る人にとって感じ方の違うもので、どのような感じ方をするかを規定することもできません

それは、映画を観るまでの人生がそれぞれ違うし、映画に向かう時の感情も違います

そして、この相違点というものが、映画を繰り返し観ることへの動機づけにもなるのですね

新しい発見は見落としていたものかもしれないし、再度映画を観るまでの期間に培ったものかもしれません

そう言った意味において、自分の心に刺さった映画というものは大切にしたいと思うし、世間では高評価だけで自分にはイマイチという作品ですら、もう一度観てみたら違った感想を持つかもしれません

人が人生で観ることができる映画の数は限られていますが、そのどれもが無駄ではないと思うので、心が突き動かしたものに素直になれば良いのかな、と思っています

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/102475/review/04607610/

 

公式HP:

https://enidfilms.jp/ilikemovies

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投稿者 Hiroshi_Takata

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