■考えればわかりそうなことでも、やらなければわからないことはあるのだと思います
Contents
■オススメ度
高級娼館の話に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.1.3(T・JOY京都)
■映画情報
原題:La maison
情報:2022年、フランス&ベルギー、89分、R18+
ジャンル:新作のために高級娼館に潜入する小説家を描いたヒューマンドラマ
監督:アニッサ・ボンヌフォン
脚本:アニッサ・ボンヌフォン&ディア・スティーム
原作:エマ・ベッケル/Emma Becker『La maison(2019年)』
Amazon Link →https://amzn.to/3H6heGZ
キャスト:
アナ・ジラルド/Ana Girardot(エマ/ジェスティーヌ:職業を隠して高級娼館に潜入する小説家)
ジーナ・ヒメネス/Gina Jimenez(マドレーヌ:エマの妹)
ヤニック・レニエ/Yannick Renier(ステファン:エマのセフレの作家、既婚者)
ルーカス・イングライダー/Lucas Englander(イアン:エマの恋人)
オーレ・アッティカ/Aure Atika(デライア:「ラ・メゾン」の娼婦、トップ娼婦)
ロッシ・デ・パルマ/Rossy de Palma(ブリギダ:「ラ・メゾン」の娼婦、SM)
ニキータ・ベルッチ/Nikita Bellucci(ヒルディ:「ラ・メゾン」の娼婦、肉食系)
イルマ/Irma(マーガレット:「ラ・メゾン」の娼婦、褐色)
キャロル・ウェイヤーズ/Carole Weyers(ドロシー:「ラ・メゾン」の娼婦、ショートカット)
ロリアンヌ・クルプシュ/Loriane Klupsch(ローナ:「ラ・メゾン」の娼婦、処女っぽい胸)
Hildegard Schroedter(イング:「ラ・メゾン」の管理人)
David Dickens(「ラ・メゾン」の客、不動産屋)
Lenn Kudrjawizki(ヴィクトル:追い出される「ラ・メゾン」の客)
Wim Willaert(マウニー:「ラ・メゾン」の客、医師)
Mikael di Marzo(ジーザス:「ラ・メゾン」の客、ギリシア人)
Alexis Van Stratum(ボリス:「ラ・メゾン」の客、ロリコン)
Stefan Sattler(エルマン:「ラ・メゾン」の客、メガネ)
フィリップ・リボット/Philippe Rebbot(ハーマン:「カルーセル」の最初の客)
John Robinson(マーク:「カルーセル」の2番目の客、オレゴンの若者)
Ruth Becquart(「カルーセル」の娼婦?)
Cloé Xhauflaire(「カルーセル」の管理人)
Anissa Bonnefont(「ラ・メゾン」を利用する女性?)
■映画の舞台
ドイツ:
ベルリン
「カルーセル」
「ラ・メゾン」
ロケ地:
ドイツ:
ベルリン
ベルギー:
ブリュッセル
■簡単なあらすじ
次作のテーマに悩む作家のエマは、セックスワーカーの実態を描きたいと考え、友人の作家ステファン、妹のマドレーヌの反対を押し切って、「カルーセル」と言う店で働き始める
だが、そこは女性を道具にするような店で、エマは2人目の客の横暴から逃げ出してしまう
その後もテーマを捨てきれない彼女は、「ラ・メゾン」と言う高級娼館に足を運ぶ
そこでは、女性の連帯感や安心感がある場所で、仲間たちとすぐに打ち解けあうことができた
客の相手をする傍らでメモを残す日々が増え、そして恋人のイアンと言う男性も現れる
彼はエマの仕事に理解を示していたが、その包容力はやがて彼女の心を傷つけることになった
テーマ:セックスワーカーの実態
裏テーマ:心と体をつなぐもの
■ひとこと感想
正月早々から様々な目的でたくさんの観客が押し寄せる感じになっていて、露骨で丸出しの性描写に居心地が悪くなってしまいました
R18+なのでそこそこ際どいとは思っていましたが、本番さながらのリアリティで、モザイクなしで見えてるものもたくさんあったりします
映画は、実際に原作者が行った潜入取材をもとにした小説を再現したものですが、POVと言う一人称視点がたくさん登場する映画になっていました
いわゆるエマ目線というもので、それが多用されていて、体験記をなぞるという効果があったと思います
物語としてはさほど起伏がなく、二つの娼館が登場し、真逆の場所という感じに描かれています
まさにセックスワーカーのイメージに近い作業場所と、女性同士の繋がりが持てるどこかクラブ活動にも似た場所でしたね
妹の言う「セックス好きと娼婦は違う」に集約される内容で、試しにやってみたけど、心がズタズタになってしまう、と言う経験を積むことになったのだなと思わされます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作にネタバレがあるのかは分かりませんが、イアンと言う恋人ができてからエマの心境に変化が見られるようになっていましたね
それまでは潜入取材と称して性欲も満たしていく感じになっていましたが、流石に客とのセックスには愛はないわけで、それゆえに罪悪感というものが生まれてきます
映画で起こることはほぼ想定内の出来事で、変態紳士がたくさん登場して、変態行為もたくさん登場します
セックス描写も本番さながらのリアルさでしたが、エマの眉毛ない感じが個人的には怖くて、ちょっとばかしホラーっぽい感じになっていましたね
どこかでブチ切れて客を殺しかねない雰囲気があったように思えます
「ラ・メゾン」のクラブ活動的なノリとオフビートは面白くて、このあたりは女性の密室を覗き見ている感じでしょうか
セックスワーカーはどのような感覚で仕事に向き合っているのかはそれぞれですが、客との間に人間としての温かみがないと、救われない感じがしてしまいました
このあたりは利用者の問題なのだと思いますが、それを求めるのも無茶かなと思いました
■ドイツにおけるセックスワーカーのあれこれ
ドイツと言えば、2001年に買春が合法化された国で、ヨーロッパ諸国では「高級娼婦」というのは人気の存在だった時期がありました
合法化されている故に「税金(売春税)」というものを払っているとされています
客単価は1回6500円、1日の税金がおおよそ3000円前後なので、結構客を取らないとやっていけない商売といえます
この他にも「快楽税」というものもあり、これも風俗嬢側が払う税金となっています
今では「FKK」と呼ばれる超大型の売春宿が存在し、こちらの金額は1回あたり最低1.4万円前後とされています
入場料が7000円で、女性に払う分が7000円〜10000円だそうです
ちなみに「FKK」とは「Freikörperkultur」のことで、「日常生活における一般化されたヌード」という意味になります
ドイツ国内には「FKK」を含めた売春宿と呼ばれるものが3000以上あり、ベルリンだけでも500以上あります
でも、そこで働いているドイツ人というのはほとんどいなくて、別の国から出稼ぎに来ている人が大半だと言います
社会保険に加入することもできますが、合法化された恩恵よりは被害の方が多いのが現状で、いろんな国から強制的に連れて来られる人も増えています
いわゆる人身売買の温床になっていて、性産業の拡大はそれを助長していると言えます
40万人以上の売春婦に、1日あたり120万人の人が性を買っているドイツ社会
その中に飛び込んだのがエマという作家だったということになります
■セックス好きと娼婦の違い
「セックス好きと娼婦は違う」とは、友人の作家ステファンのセリフでしたが、彼は既婚者だけどエマのセフレという立場でした
二人の関係はステファン夫婦がご無沙汰なので相手になっているという感じですが、彼から見ると「取材」というよりは「別の男性を合法的に味見できる方に行った」ように見えたのかなと思いました
売春宿には変態がたくさん来るのですが、それは配偶者とはできないセックスができるという利点もあったのかなと思います
娼婦の側にも恋人や夫がいる人もいて、体が鈍ってはいけないからするとか、体力はギリギリ残しておくとか、恋人とのセックスのためにテンションをギリギリまで上げてウォーミングアップしているなんて会話も飛び出しています
彼女たちは性に奔放で、それは女性だけの楽屋だったからとも言えますが、プレイに怖気付くような人もいなかったりします
あくまでも「ルール」の上での遊戯という観点になっていて、それを逸脱するとすぐに退場させられるゲームのようににも思えてきます
エマがセックス依存症なのかまでは分かりませんが、今回の取材に関しては、取材が名目になっているように見えるのですね
特に、セックスの相手をしてきたステファンだからわかるものというものがあったのかなと考えられます
快楽の追求は個人の自由で、ドイツでは合法化されているし、ちゃんとした娼館にも入っていますが、それでも危険であることは変わりないのですね
コンドームをしない客とか、自分の年齢を偽らせて催眠状態に持っていく客もいたし、後ろを無理やり使おうとする客もいたりしました
合法である分、金を払えばなんでもできると思いがちの客もいて、しかも個室なので無理やり押さえつけられてということも無きにもあらずでしょう
出禁になるリスクを背負ってでも行動を起こせるのは、合法ゆえにどこにでもあるから、替えが効くと思っているからなのかもしれません
女性には見えない「男性の性的な欲求というもの」はエスカレートするもので、これまで隠れてしてきたことがオープンになって、それゆえに回数もこなせるという環境があります
それはやがて、普通では満足できない性豪を作ることにも繋がっていて、法律の運用はなかなか難しいのだなと思わされます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、作家が高級娼館の実態を調査するというものですが、最後のレポートを見る限り「そこで働く人」についてまとめていたということになります
そのような状況で娼館で働いているのかを調査していて、それによって「娼館で働くことは一般的な仕事と変わらないのか?」ということを描いています
この背景にあるのが、ドイツの買春合法化で、フランス人のエマとしては、その影響を知りたかったということになります
このあたりの説明がほぼ皆無なので、ドイツの事情を知った上で鑑賞した方が、エマの動機というものが違って見えるように思えます
映画では、娼婦が働く理由は金銭目的以外に重きを置かれているように見えますが、実際には出稼ぎ労働者の溜まり場となっているので、実態をどこまで描けているのは何とも言えない感じになっていましたね
エマ自身が危険を犯して体験したことも、どこか「自分でもできるものだろうか」を試しているように思えてきます
その結論としては、やはり無理ということで、その最たる理由が「結婚を諦めていない人には無理だ」という結論に至るのだと思います
イアンの登の際に、ステファンから「まだ愛を諦めていなかったのか」と言われるエマですが、ここで言う「愛」とは一般的なもののように思えます
性よりも優先される愛と言うことで、それはその後の人生をどう生きるかに繋がっていきます
でも、エマが出した結論は、相手が娼婦の職業に理解を示しても、娼婦を体験したエマはその愛に応えられないと言うものでした
エマ自身が娼婦たちの職業を否定しているわけではありませんが、「自分には耐えられない」と言う結論に至っています
このあたりの感覚は人それぞれではありますが、エマには適応能力がなかったことが示されています
劇中に登場する娼婦たちの中には、それを隠して成立している人もいれば、金銭を優先して諦めている人もいます
法律で「普通の職業」と定義されても、愛の延長線上にあるはずの性と言う概念からは逃れられないのですね
この感覚は「やらなくてもわかるのでは」と思えてしまいますが、この探究心と心情の公開によって、「できると思っている女性」の心を砕いたのかもしれません
実際にどのような効果が得られたのかは分かりませんが、体験によってでしか理解できないと言うこともあると思うので、作家人生にとっては貴重な時間だったのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100377/review/03300832/
公式HP: