■楽曲が生んだ価値観をアップグレードすることで映画制作の意味が生まれるのだと思います


■オススメ度

 

楽曲に思い入れがある人(★)

感動系映画が好きな人(★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2025.1.17(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報:2025年、日本、123分、G

ジャンル:不本意な別れを遂げた男女を描いた恋愛映画

 

監督:新城穀彦

脚本:福田果歩

インスパイアソング:HY「366日」

 

キャスト:

赤楚衛二(真喜屋湊:音楽会社「Jupter Music Japan」の社員)

上白石萌歌(玉城美海:湊の元恋人、高校の後輩、通訳)

 

中島裕翔(嘉陽田琉晴:美海の幼馴染、地元の雑貨店の跡取り)

 

玉城ティナ(望月香澄:湊の大学時代のサークル仲間)

溝端淳平(橘諒太:湊の会社の後輩)

 

稲垣来泉(陽葵:美海の娘)

   (幼児期:永谷咲笑

齋藤潤(琥太郎:陽葵の幼馴染)

 

石田ひかり(真喜屋由紀子:湊の母)

きゃんひとみ(湊の祖母)

 

国仲涼子(玉城明香里:美海の母)

杉本哲太(玉城一馬:美海の父)

 

秀島史香(FMラジオの声)

 

福澤重文(料理店の店主)

内藤聖羽(?)

宮崎隼人(湊の仕事仲間、サウンドエンジニア)

 


■映画の舞台

 

2003年~2024年、

東京&沖縄

 

ロケ地:

沖縄県:名護市

ザ・ブセナテラス

https://maps.app.goo.gl/DVb8zx2D2kSz4njC7?g_st=ic

 

沖縄県:那覇市

高良楽器店

https://maps.app.goo.gl/VYxQg4BNDm6fpg7X8?g_st=ic

 

与儀公園

https://maps.app.goo.gl/hqAkJ6UmRZ5PcX7CA?g_st=ic

 

沖縄県:国頭郡

赤墓ビーチ

https://maps.app.goo.gl/EHK7uvPEiy5LGt4k6?g_st=ic

 

Cafe&Bistro 未熟者

https://maps.app.goo.gl/EqKj1bdeHKw3k8DH7?g_st=ic

 

Cafeteria佐田浜

https://maps.app.goo.gl/Cacj2EmUsrStZWwt5?g_st=ic

 

沖縄県:うるま市

海中道路

https://maps.app.goo.gl/HSsRcbJ8dwhrmpB18?g_st=ic

 

与勝高校

https://maps.app.goo.gl/WNwxjHhJ9Y1VRJjB9?g_st=ic

 

シルミチューの浜

https://maps.app.goo.gl/AEXQDt9JqEBYiiqg7?g_st=ic


■簡単なあらすじ

 

2024年2月29日、沖縄からある少女がMDを片手に東京に訪れていた

父から託されたMDを、東京で働いているある男性に手渡すというもので、その人物は少女の母親と関わりのある人だった

 

その20年ほど前のこと、少女の母・美海は、地元の病院にて高校の先輩・湊と出会った

湊と自分のMDが入れ替わってしまい、それを届けるために彼を探す

だが、母の死にうちひしがれている湊は登校拒否になっていて、美海はようやく浜辺で港を見つけることになった

 

それから美海は、湊のために「元気が出るサウンドリスト」を作り、彼もようやく立ち直りを見せ始めた

湊は音楽の道に進むことを決意し、単身で東京に向かう

そして美海もまた、彼を追って、東京の大学に進学することになった

 

二人は同棲を始め、幸せな時間を過ごしていたが、ある時、二人の運命を揺り動かす出来事が起こってしまう

湊はどうするか悩んだ末、彼女を突き放して、別れることを決めてしまったのである

 

テーマ:愛を伝える方法

裏テーマ:恋愛を終わらせる自我

 


■ひとこと感想

 

HYの楽曲「366日」をベースにしたラブストーリーということで、個人的には「あの背景の楽曲をどう美化するんだろう」と思っていました

ググれば出てきますが、あの楽曲の制作秘話をテレビで聞いた時には、耳を疑うような衝撃が走りましたね

「それ、墓場まで持っていくやつとちゃうの?」と普通に思いました

 

映画は、恋愛破綻のきっかけを男女逆転させるという方法になっていて、着地点から回想するという流れになっていました

ツッコミどころしかない映画ですが、どうやら泣ける人には泣けるようですね

個人的には「琉晴が不憫だなあ」としか思えず、随分と自分勝手な人間ばかり登場しているなあと感じました

 

物語は、過去の恋愛がどうして破綻したのかがテーマになっていますが、楽曲を深掘りしたというよりは、全く別の話になっていたように思います

このあたりは「失恋」という言葉の定義に依ると思いますが、本作の結論は「366日」の真逆のマインドのように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

本作は、いわゆる難病もの恋愛ドラマで、湊の母、湊自身、そして美海も何らかの病気で早逝していました

湊だけは急性白血病という診断で3年間化学療法を行ったというものがありますが、他の二人については言及はありません

言及がないのは構わないと思いますが、印象としては安売りをしているように思えてしまいます

 

湊は自身の病気の治療に美海を巻き込むからという理由で関係を解消しますが、その苦悩はあまり感じられません

むしろ、自分を支えて全てを捨てるだろうという憶測で物事を考えていて、裏を返せば相手のことを全く信用していないようにも思えます

同じ理由で琉晴も陽葵を湊の元に行かせているし、どこかで美海のことを下に見ているようにも思えてしまいます

 

映画は、物語の進行に沿ってキャラが動くタイプの映画で、キツい言い方をすれば人間っぽく感じないところが多かったように思います

これが一人や二人なら許容できても、ほぼ全てのキャラがシナリオの都合で動いているように見えました

美海の両親も「東京から妊娠して戻った娘」とずっと地元にいた琉晴との間にできた子どもという嘘を飲み込んでしまうし、そもそも彼氏と同棲していたことも知らなかったとは思えません

また、琉晴も見張り役を立てているとは言え、沖縄から東京まで一人で行かせるというのも理解できないのですね

 

MDに関しても、「トラック2」を聞いてと指定するように、「トラック1」には何らかの音声なりが入っていると思うのですが、おそらくそれは「別れる直前に渡せなかった音声」が残っていることになります

それはこの恋愛に対する未練のようなものだと思うのですが、それに上書きをせずに次のトラックに録音しているところに美海の何らかの意図があるのでしょう

でも、そのあたりはスルーされていて驚いてしまいました

あのMDを琉晴が拾ったのですが、彼はあの音声を聞いていないのかなど、気になる点がたくさんあったように思いました

 


トラック2から再生させる意味

 

映画内では「トラック1」の内容については言及がありませんが、「トラック2」を再生させるという意思はありました

「トラック1」の内容がわからないので、単に録音をしようとして失敗したのか、「トラック1」の消し方がわからなかっただけかもしれません

でも、わざわざ「トラック2」から再生させることには意味があったと思います

 

トラックを指定するという行為は「自分が伝えたいメッセージを選出する」という意味があり、その他のトラックよりも優先される、ということになります

「トラック2」には、2024年の2月29日に美海が録音したメッセージが録音されていて、それが湊に伝えたかった本音であることがわかります

それが琉晴を経て、美海と湊の子どもである陽葵へと繋がっていきます

このトラックを湊に伝えようと考えたのは琉晴であり、それは彼の中で燻っていたものをはっきりとさせたかった部分があったのでしょう

 

ちなみに、映画では言及されない「トラック1」ですが、そこに録音されている可能性が高いものは、湊から別れを告げられた直後の美海のメッセージ、もしくは娘あるいは夫に残したメッセージの可能性もあります

でも、そのトラックを残したまま、同じディスクの「トラック2」に録音する内容とは思えない部分がありました

なので、湊と自分を結びつけた曲が入っていた、というものだと思います

 

楽曲にも想いは込められていると思いますが、それ以上に自分の言葉で伝えたいことがあったのでしょう

「トラック2」が強調されたことによって、「トラック1」の存在はとても印象深いものになると考えられます

それを考えると、やはり二人の出会いの時の楽曲であり、それは「トラック2」のメッセージを補完し、強調する意味合いがあるのかな、と感じました

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作はHYの楽曲「366日」をモチーフにした楽曲ですが、いわゆる「男女の入れ替わり」というものが起こっています

原曲では「女性が別れを告げる」というもので、その元ネタとされるテレビのインタビューなどは界隈でバズったこともありました

そこに「病気」という理由をつけて、さらに「男性が別れを告げる」という内容にしているので、ほとんど別物のように思えました

インスピレーションとも言えない内容で、366日というワードだけが一人歩きしているように思えます

 

そのあたりは特に問題ではないのですが、本作では病気設定を多用したために、その病気も軽く扱われている印象がありました

湊は白血病という診断があり、それを理由に美海と別れを決意しますが、美海自身がどのような病に罹っているのかは一切ふれられていません

若くして徐々に衰弱していくことを考えれば癌か何かだと思いますが、死を考える時間があるという部分には大きな意味合いがあります

それは、彼女が突然死だとメッセージを残せないからなのですね

 

また、美海は妊娠したことを隠して、彼の別れを受け入れるのですが、その後シングルマザーになるのかと思えば、まさかの琉晴が彼女を子どもごと引き受けるという展開になっていました

琉晴としては、好きな女性と結婚できるから良いのかもしれませんが、妻の心は皆とのところにあるし、子どもにも自分の遺伝子は宿っていません

それでも、彼との間に子どもが生まれれば救いもありますが、そんなこともないままに美海は病気で他界してしまいます

この流れがあまりにも酷いので、美海と湊の恋愛としては美しく見えるかもしれないのですが、ただ単に良い人が犠牲になっただけ、のように思えました

 

この件を直すとするならば、美海と琉晴の間にも子どもが産まれ、その子どもと陽葵が「MDの存在を知って湊を訪ねようとする」という方法しかないと思います

ある日見つけてしまったMDを聞いてみると、そこには母のメッセージが録音されていた

どうやら父宛ではないらしいということがわかり、陽葵と弟(もしくは妹)がその真相を辿ろうとする

過去の日記やアルバムなどから「湊」という男性の存在がわかり、父に問い詰めることになる、という流れになるのでしょう

彼らは未成年なので単独行動をさせるのはリスクがあり、そこで琉晴が二人を連れて湊の元へとやってくるという流れになります

 

二つのメッセージを事前に聞いてしまった陽葵は、湊に「トラック2」を聞かせるという「仕掛け」を施すことになります

そして、湊は「トラック1」の存在に気づき、それを琉晴に教えるのですね

「トラック1」には美海から琉晴へのメッセージがあり、自分を支えてくれたことへの感謝が綴られている

そして、陽葵は疑問を湊にぶつけることになります

 

湊は笑顔で、「君のお父さんは琉晴だ」と言い、それが3人が突き通す嘘であることを知るという結びになるのでしょう

真実を暴露するよりも、それ以上に価値のあるものを守ること

それを3人の関係から陽葵が学べれば、それで良いのではないかと感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、かつての名曲にあやかって映画を作ろうとするシリーズなのですが、楽曲の世界観をそのまま物語にしているケースは少ないように思います

楽曲がヒットする要因は様々だと思いますが、「366日」の場合は歌詞だと思うのですね

この歌詞に共感できる女性の支持があったからヒットしたと思うので、それだと「女性の気持ちをそのまま再現すること」の方に意味があったように思います

 

ここで男女逆転をしてしまうと、「理由があって彼氏をフラざるを得なかった女性のジレンマ」から、「理由なくフラれた女性の葛藤」へと意識がシフトしてしまいます

映画の世界だと、その後も湊のことを思い続け、それでも一人では育てられないから琉晴に甘えつつ、そんな自分も好きにはなれないまま、自己嫌悪に陥ってしまうでしょう

琉晴が聖人だからこそ辛いというのはデフォのようなもので、それによって疲労が蓄積して病気を発症してしまうという不幸路線になってしまいます

 

これを楽曲のイメージのまま「女性がある理由で彼氏に別れを切り出した」というものにすれば、その理由は何なのかという物語の引きというものが生まれます

それを楽曲制作の裏話のままにすると勝手すぎる女になりますが、そこは濁しつつも「仕事や夢のため」にすることもできたでしょう

それが「後悔」となるというのが物語の骨子で、それは「恋愛を捨てたことによる経験値の不足」というものを呼び起こしてしまう方向へと向かいます

 

どんな仕事をするかは設定にもよりますが、美海が仕事で壁にぶつかった際に感じることや、上司や同僚からされるアドバイス、もしくは辛辣な意見の中に「恋愛もろくにしていない奴が語れるのか」みたいなことを突きつけられることになるんですね

このシチュエーションにしっくりくる職業はウェディングプランナーなどの男女の結びつきに関わるとか、女性誌の編集者などになると思います

 

この路線で物語を組み立てることは、恋愛は必ずしも人生の足を引っ張らないというもので、それは多くの悩みに応えることになります

どちらかを捨てなければならないという選択がもたらす弊害というものを描き、それが空虚な人生を生むきっかけになっているとしたら、という問いかけなのですね

これは社会に出て自立を急ぐ現代人へのアンチテーゼにもなるし、仕事だけが生きがいでもなく、人生を豊かにするためには「どっちも得るためにはどうするべきか」を考えることへもつながります

 

何かを犠牲にしないと成し得ない夢に価値はあるのか?と問うことで、それが裏話や楽曲を否定することになるかもしれません

でも、改変をするのならば、意味のある改変の方が良いと思います

なので、無理に恋愛で感動を作る路線に行くよりは、人生における恋愛の価値を再確認させるというテイストで物語を組み立てた方が良かったのではないか、と感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/102311/review/04650737/

 

公式HP:

https://movies.shochiku.co.jp/366movie/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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