■発見者を通じて考える、大金を得た時の所作について
■オススメ度
絵画を取り扱った映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2025.1.16(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Le tableau vole(盗まれた絵画)、英題:Auction(オークション)
情報:2023年、フランス、91分、G
ジャンル:第二次世界大戦前に行方不明になった名画を巡るミステリー映画
監督&脚本:パスカル・ボニゼール
キャスト:
アレックス・リュッツ/Alex Lutz(アンドレ・マッソン/André Masson:スコッティーズの競売人、鑑定士)
レア・ドリュッケール/Léa Drucker(ベルティナ/Bertina:アンドレの元妻、鑑定士)
ルイーズ・シュヴィヨット/Louise Chevillotte(オロール/Aurore:スコッティーズのインターン)
Alain Chamfort(オーロルの父、元古書籍商)
ノラ・ハムザウィ/Nora Hamzawi(シュザンヌ・エゲルマン/Suzanne Egerman:マルタンの弁護士)
アルカディ・ラデフ/Arcadi Radeff(マルタン・ケレール/Martin Keller:絵を見つける青年、工場の夜勤労働者)
ロランス・コール/Laurence Côte(シーヌ・ケレール/Mme Keller:マルタンの母)
マチュー・ルッキ/Matthieu Lucci(パコ/Paco:マルタンの友人)
イリエス・カドリ/Ilies Kadri(カメル/Kamel:マルタンの友人)
Vincent Nemeth(フランシス・ド・ヴィエルヴィル/Francis de Vierville:アンドレの同僚)
アレクサンダー・ステイガー/Alexandre Steiger(アンリ・ダンブルーズ/Henri Dambreuse:スコッティーズの雇われ社長)
Olivier Rabourdin(エルべ・カン/Hervé Quinn:スコッティーズのオーナー
ダグ・ランド/Doug Rand(ボブ・ワルベルグ/Bob Wahlberg:エゴン・シーレの「ひまわり」の元持ち主の子孫)
Valérie Abecassis(ボブの妻)
Jesse Guttridge(ワルベルグ家の一員)
アドリアン・ド・ヴァン/Adrien de Van(マスター・ロシュブール/Maître Rochebourg:ワンベルク家の弁護士)
Yun-Ping He(ドミニク・ロシュブール/Dominique Rochebourg:ロシュブールの妻)
ピーター・ボンク/Peter Bonke(サムソン・コーナー/Samson Körner:オーストラリア人の美術商)
Arthur Toupet(アーサー・ケンプ/Arthur Kemp:古書籍オークションの入札者)
Philippe Dusseau(ダミアン・ヴァン・フーヴ/Damien Van Hoove:古書籍オークションの参加者)
マリサ・ボリーニ/Marisa Borini(マダムX/Madame X:「ドゥルオ」の競売の受付人)
Axelle Bossard(「ドゥルオ」の受付)
Lucia Sanchez(マリア/Maria:シーヌの友人)
Lisa Landro(シルヴィア/Silvia:マリアの娘)
Romaric Filliau-Wagner(絵画をアンドレに託す老婦人)
Eric Marcel(ローラン/Laurent:老婦人の甥)
Delphine Clairice(老婦人の介護士)
Joël Lefrançois(「café des mineurs」の店長)
Christophe Paou(タートルネックの男/L’homme au col roulé)
Taddeo Kufus(展覧会の通訳)
Morgane Lombard(展覧会の専門家)
Gilles Louzon(倉庫作業員)
Luc Matard(フロアのボーイ)
Bastien Pujol(高級レストランのウェイター)
Renan Cholet(入札代行者)
Pierre Garcier(入札代行者)
Adriane Grünberg(入札代行者)
Pauline Testud(入札代行者)
■映画の舞台
2000年初頭、
フランス東部の工業都市ミュルーズ
ロケ地:
フランス:パリ
Hôtel des Ventes Drouot
https://maps.app.goo.gl/6bm7JDrnvgAwyb6J6
Rue Rossini
https://maps.app.goo.gl/ytsvhXJ36M6uxs6t9
Hotel Pullman Tour Eiffel
https://maps.app.goo.gl/KGVZfkA6CSNPF4iZA
28 Avenue Junot
https://maps.app.goo.gl/mt5oex9vtKxnqRv17
■簡単なあらすじ
2000年の初頭、パリで美術の鑑定士として活躍しているアンドレの元に、ミュルーズから一通の手紙が届いた
それは、ある青年の家にある絵画が「エゴン・シーラのひまわり」ではないかと言うもので、その鑑定依頼だった
アンドレはインターンのオロールとともに手紙の主に会うことになった
手紙の主は発見者マルタルの弁護士エゲルマンで、マルタルは工場の夜間従業員だった
引っ越してきた今の家に元から飾られていたもので、街角の美術誌がきっかけで、その絵がエゴン・シーレのものではないかと考えていた
アンドレは元妻のベルティナに相談し、その絵が第二次世界大戦時に盗まれた絵画であることを突き止める
彼らは元持ち主の子孫であるボブ・ワルベルグと会って、絵画をどのように取り扱うかを相談することになった
ワルベルグは好意的にその取引を考えていたが、ある日を境に彼の態度が一変してしまう
そんな折、オロールは展示会での美術商サムソンの行動を不審に思い、ある提案をアンドレに持ちかけることになった
だが、オロールには虚言癖があり、アンドレと衝突してしまう
さらにオロールは因縁の男を見つけることになり、さらに事態はややこしくなってしまうのである
テーマ:誠実な取引
裏テーマ:良心ある行動
■ひとこと感想
予告編の情報ぐらいしか調べている時間がなく、盗まれた絵画を取り戻すためにオークションを行うのかな、ぐらいに考えていました
主人公は発見した青年で、大人の嘘と対決するのかなと思っていましたが、まさかの鑑定人が主人公で驚いてしまいました
元妻との関係とか、インターンの親子喧嘩など、あまり必要ではない物語もたくさんありましたが、オークションのシーンはなかなか面白かったですね
エゴン・シーレにどんな価値があるのかは分かりませんが、ゴッホの「ひまわり」に独自の解釈を加えた絵のように思えました
映画は、嘘で騙しあう競売界の中で、主人公がどのように立ち振る舞うかと言う物語で、発見者の青年の行動にも大きな意味があると思いました
生き馬の目の抜く世界で、どこに敵がいるのかは分かりませんが、いろんなところで通じていて裏情報が飛び交うのも面白かったと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
実話ベースのフィクションと言うことで、おおまかな流れは良く似たものになっていると思います
コレクターが戦争を生き延びる中で手放すことになった絵画が、数十年の時を経て、全く絵に興味のない家庭に飾られていたと言うのは良くあることのように思います
マルタルの一家はあの家に移り住んでいて、その時からあの絵画は飾られていて、70年間手入れも何もされていませんでした
鑑定人は慌てて保護しようとしますが、その動きをマルタルの友人は訝しがっていましたね
でも、お金を持つと変わる人物でもあるので、マルタルが公言せずに「自分用のエレキ」と「母の家」だけを買ったのはよかったと思います
お金を得た時に幸福になる人と不幸になる人がいるのですが、その秘訣というものがさらっと描かれていましたね
大金が飛び交う世界ではわからない変化させないというのは、彼の金銭感覚をじっくりと育てて、生きたお金を使えるように育てるのではないかと思いました
■エゴン・シーレについて
劇中に登場するエゴン・シーレ(Egon Schiele)はオーストリアの実在する画家で、19世紀末から20世紀初頭に活動した画家でした
10代でウィーンの美術アカデミーに入学するものの、伝統的なアカデミック画風に馴染めずに、グスタフ・クリムトの支援を受けて独自路線を歩んでいきます
仲間たちと共に「新芸術集団(Neukunstgruppe)」を結成しましたが、1918年28歳の若さでこの世を去っています
人物表現が独特な画家であり、「痩せこけた体」「ぎこちなくねじれた姿勢」「誇張された手足」などを描いていて、これらは「肉体の不安や生々しさ」というものを強調していた、とされています
さらに女性や自画像を描き、性的な欲望や死についての存在を表現するに至ります
当時のウィーンではスキャンダラスな受け取り方をされていて、実際に未成年のモデルを使って投獄されたというエピソードもありました
1909年に「ひまわりⅡ」、1910年に「裸の少女」、1916年に「死と乙女(Der Tod und das Mädchen)」を描き、1918年の「家族像」が最期の年の作品となっています
ちなみに映画の実話となる作品は、2000年代初頭にミュールズ郊外に見つかったシーレの「枯れたひまわり(Les Tournesols fanés)」という作品のことでした
これは映画で描かれるように、ナチスに強奪されたもので、発見後に法的補償とオークションを通じて大きな話題になった作品とされています
作品は1914年に描かれたもので、2006年のオークションにて「2170万ドル」にて落札されています
この絵画は、太陽とは逆の方向に向いているひまわりを描いていて、「衰退、老い、終焉」をモチーフに組み込んでいると考えられています
この時代は第一次世界大戦開戦の年でもあって、その破局的な予兆を作品に込めた、とされています
■大金を得て幸福になる方法
絵画は主人公アンドレ・マッソンの計らいによってオークションにかけられ、発見者マルタンにちゃんとお金が渡るようになっていました
その紆余曲折のスリラー部分を楽しむ作品でありますが、本作のメインテーマはそのスリラー部分ではないように思います
映画では、マルタンが大金を得ることになりますが、そのことを家族にすら言わないという流れになっていて、必要とされる最低限のものを贈るというエンディングを迎えます
マルタンは仕事を辞めることもなく、今まで通りの生活を続けるのですが、大金を得た時にこのように暮らせる人は稀のように思います
よく宝くじを当てた人は不幸になると言いますが、その要因はいくつかあるとされています
それは「急な大金の獲得による環境の変化」が起こることにより、「生活スタイルの変化、人間関係の変化」というものが起こり、それがストレスになってしまうからだと思います
急に親戚が増えたみたいな話になっていて、お金を工面して欲しいなどの圧力がかかってきます
これまでに信頼関係にあった間柄も利害関係になってしまうことによって壊れてしまったりします
さらには金銭感覚というものがおかしくなってしまいます
史実のように2000万ドルもの大金(おそらくはその一部)を得てしまうと、日銭を稼いできたマルタンにすれば「働かなくても良い」と考えてしまいがちなのですね
そして、これまでに行わなかった投資などに手を出して失敗したり、浪費癖がついてお金がどんどん無くなってしまいます
一度上げてしまった生活レベルを下げるのは容易ではなく、それを維持するために借金をするようになったりしてしまいます
また、心理学的な側面としては「幸福のセットポイント理論(Hedonic set point / Hedonic treadmill theory)」というものが発動してしまうのですね
これは「人は長期的には一定の幸福度の基準に戻る」という考え方で、大金を得た一時的な幸福度が上がっても、それに慣れてしまい、以前の不安や不満というものは変わらずに顔を出してしまうことを言います
セットポイントとは「本人が持つ一定の水準」というもので、ここに戻ってしまうことを「快楽順応(Hedonic Adaptation)と呼び、ポジティブなこともネガティブなことも「慣れによって」効果が薄れてしまいます
この理論は1970年代の心理学者ブリックマン(P Brickman)たちが調査した内容に基づくもので、「宝くじの当選者と事故で障害を負った人」に対する「幸福度の調査」というものを行ないました
結果として、宝くじ当選直後は幸福度が高まるが、およそ1年ほどでも平均的な水準に戻り、障害を負った人も時間と共に以前の水準に近い幸福度を回復する、というものが得られたそうです
どうして戻るのかについては、前述の「快楽順応」もありますが、刺激が薄れたり、基準が変わってしまうことが挙げられています
さらに人格特性として、楽観性や神経症傾向などの「個人の性格」というものが「幸福度の基盤を決める」と考えられていました
ちなみに現代の研究では少し修正がなされていて、「ある程度は変わる」という結論が出ています
遺伝子的要因が40〜50%、環境要因(収入、健康、人間関係)が10%、意識的な行動習慣が40%という構成になっていて、日頃の習慣や心の持ちようによっては幸福度を上げられると考えられています
大金を得た場合でも、物よりも経験にお金を使うと幸福度が持続しやすいと考えられていて、日常でも「感謝日記」「瞑想」「親しい人との交流」などがセットポイント自体を上げる効果があると考えられていて、逆に浪費や孤立によって幸福度のセットポイントが下がる傾向がある、と考えられています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、失われていた絵画に価値を取り戻させるという側面があって、その価値を社会的に認知させるためにオークションが行われ、その利益を発見者と元の持ち主が享受するという内容になっています
美術品の多くはオークションにかけられるのですが、これには理由があると言われています
それは「唯一無二のもの」なので「需要と供給の力で値段を決める」というのが理に適っているとされているからなのですね
これを公開式にすることによって、美術品の価値というものを世に知らしめることができます
また、公開されることによって、価格形成のプロセスが透明化されています
密室取引よりも買い手が安心しやすいという側面があり、オークションは椅子は鑑定や来歴の調査も行うことによって、美術品そのものの信頼度というものも補強しています
美術品の多くは「投資対象」として取引されるのですが、場の雰囲気などによって値段が変わるという特性もあります
それによって売り手のメリットも増えるし、買い手としてもコレクター仲間へのアピールにもつながっていきます
ある種のステータスシンボルという側面もあると言えるのでしょう
この他にも「美術館などに直接寄贈される美術品」というものがあります
オークションは資産としての現金化が目的ですが、寄贈の場合は「公共財」としての保存と公開というものを目的とし、個人の名誉、文化貢献、社会的評価というものが意味あるものとなります
永続的に展示してほしいという希望がある場合は寄贈されるのですが、美術館には保存、修復のプロがいるので、長期的に人々が鑑賞できるという側面があると言えます
また、寄付することによる税制の優遇などもあったりします
映画では、商機的なことを考えるサムソンと持ち主と発見者に還元したいアンドレの対立が描かれていて、後者が勝利するという流れになっていました
絵は持ち主の元に戻りますが、それが今後どうなるかはわかりません
それでも、ある程度の時期を経て寄贈されそうな気がしますね
これによって、商機的目的だったサムソンとコレクターはギャフンという感じになりますが、映画はそこまで描いてなかったように思います
ちなみに、映画に登場した「枯れたひまわり」は現在ウィーンのアルベルティーナ美術館に所蔵されています
寄贈か購入かというのははっきりしていないようですが、アルベルティーナ美術館に集められているシーレの作品は様々な方法で収集されたとされています
なので、おそらくは購入された可能性が高いと言われています
このあたりを調べるためには美術館の所蔵目録などを調べる必要がありますが、あまり本作と関わりは薄いので、このあたりで留めておきたいと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/102804/review/04673300/
公式HP:
