■ゼロという言葉の中には、無垢という意味も含まれているように思えてしまいますね


■オススメ度

 

カルトの怖さを体感したい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.12.10(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Club Zero(持続可能な断食を推奨するクラブ)

情報:2023年、オーストリア&イギリス&ドイツ&フランス&デンマーク、110分、G

ジャンル:持続可能な断食を推奨する教師に感化される生徒を描いたブラックコメディ&スリラー

 

監督:ジェシカ・ハウスナー

脚本:ジェシカ・ハウスナー&ジェラルディン・バヤール

 

キャスト:

ミア・ワシコウスカ/Mia Wasikowska(ノヴァク先生/Ms Novak:持続的な断食を提唱する教師)

 

クセニア・デブリン/Ksenia Devriendt(エルサ/Elsa:ノヴァクの生徒、自制心を鍛えたい)

ルーク・バーカー/Luke Barker(フレッド/Fred:ノヴァクの生徒、健康的な食事、糖尿病)

フローレンス・ベイカー/Florence Baker(ラグナ/Ragna:ノヴァクの生徒、脂肪を落としたい、トランポリン)

サミュエル・D・アンダーソン/Samuel D Anderson(ベン・ベネディクト/Ben:ノヴァクの生徒、奨学金を取りたい)

グウェン・カラント/Gwen Currant(ヘレン/Helen:ノヴァクの生徒、環境保護に関心)

 

Andrei Hozoc(コルビニアン/Corbinian:ノヴァクの生徒、原始人ダイエットに興味)

Sade McNichols-Thomas(ジョアン/Joan:ノヴァクの生徒、マインドフルネスに興味)

 

シセ・バベット・クヌッセン/Sidse Babett Knudsen(ドーセット先生/Ms. Dorset:「The Tallent Campus」の校長)

アミール・エル=マスリ/Amir El-Masry(ダール先生/Mr. Dahl:フレッドのバレエの先生)

 

Rebecca Crankshaw(体育教師)

Kyiah Ashton(若い教師、指導員)

Dominic Geraghty(数学教師)

 

Amanda Lawrence(ベネディクト夫人/Ms. Benedict:ベンの母、シングルマザー)

 

Sam Hoare(フレッドの父、フレッドを残して家族で出張中)

Camilla Rutherford(マーサ:フレッドの母)

Luka Caselton(セス:フレッドの弟)

 

エルザ・ジルベスタイン/Elsa Zylberstein(エルサの母)

マチュー・ドゥミ/Mathieu Demy(エルサの父)

Szandra Asztalos(エルサの家の家政婦)

Ty Hurley(エルサの家の運転手)

 

Lukas Turtur(ラグナの父、ヴィーガン)

Keeley Forsyth(ラグナの母)

 

Laoisha O’Callaghan(ヘレンの母)

 

Isabel Lamers(フレッドの主治医)

 

Emily Stride(母親)

Toussaint Meghie(父親)

Chris Wilson(父親)

Steevan Glover(父親)

Samuel W Hodgson(親)

Lee Panchbhaya(親)

 

Megan Hughes(食堂の生徒)

Grace Whitty(食堂の生徒)

 

Felicita Ramundo(オペラの鑑賞者)

Mike Ray(オペラの観客)

 


■映画の舞台

 

ヨーロッパのどこか

エリート校「The Tallent Campus」

 

ロケ地:

イギリス:オックスフォード

セント・キャサリンズ大学/St Catherine’s College

https://maps.app.goo.gl/ndYKqh68CfWbFETZ6

 


■簡単なあらすじ

 

エリート校「The Tallent Campus」では、生徒たちに栄養学を学ばせたいという父母会の強い要望によって、ノヴァクという女性教師が採用された

彼女は「Fasting Tea(断食茶)」などをプロデュースしていて、「意識的な食事」というものを提唱していた

 

彼女の授業を受けることになったのは、自制心を身につけたいエルサ、糖尿病を患うフレッド、スポーツのために体重を落としたいラグナ、奨学金のために参加するベン、環境保護の観点から興味を持ったヘレンなどが参加することになった

ノヴァクは自身の提案をわかりやすい言葉で説明し、生徒たちに自主的に「意識的な食事」というものをさせていく

 

だが、有害な食事をしないとか、資本主義の犠牲にならないというあたりまでは賛同できた生徒も、単一食事(Mono Diet)や「断食」に入ると脱落者が出てきた

それでも5人はノヴァクを信じてついていくのだが、子どもたちの異変に気付いた父母たちは校長のドーセットに様子を伺いにきてしまう

 

校長はノヴァクの提唱する理論を支持している立場で、父母たちの心配を意に介さない

だが、あるオペラ観劇ににてノヴァクと生徒が親密な関係であることがバレてしまい、思わぬ方向へと進んでしまうのである

 

テーマ:洗脳と啓蒙

裏テーマ:自主性の抑制

 


■ひとこと感想

 

映画の予告編からヤバい内容だろうなあと思っていたら、案の定、直視できないシーンも登場する作品となっていました

冒頭から「行動統制」と「摂食障害」に関する注意喚起が登場し、それでも映倫区分Gというのは大丈夫なのかと思ってしまいました

エログロはないけど、PG12が妥当な内容のように思えます

 

映画は、持続的な断食を目指すノヴァクの精神に感化される生徒たちという感じで、当初は懐疑的だった生徒も率先して行動に移して行く様子が描かれます

理屈っぽいことを並べていますが、実際には中身スッカスカで、あれで騙されるのは情弱な人か、深く物事を考えられない人のように思います

 

ノヴァクの手法は、生徒たちの自主性を重んじて、そのタイミングに寄り添うというものでしたね

いわゆる良き相談相手となりつつ、絶対的な支配者になっていくのですが、その過程が絶妙のように思います

両親たちは絶妙な距離感を保っているように見えて自分の思想の押し付けをしているように見えるのですが、それはノヴァクが引き算の接し方をしているからかな、と感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画のタイトルでもある「Club Zero」は本当にあるのかわからない団体で、ある種のノヴァクの思想体現の場であるように思います

4人がその思想に感化したことで認定を受けることになっていて、この団体の代表がノヴァクであると言っても過言ではありません

自分の思想がどこまで世界を変えられるかを試しているというよりは、妄信的にできると考えてる節がありました

 

生徒たちは、理論的に思えるノヴァクの提言に抵抗しつつも寛容になっていきます

それはノヴァク自身が強要することなく、彼女の思想に感化した生徒が説得に回るからなのですね

冒頭でこのクラスを受ける理由を言い合うシーンがありましたが、大きく分けて3つの理由になっていました

 

一つ目は「両親との関係のため」で、二つ目は「自身の向上のため」で、三つ目は「興味本位」ということになります

この中で誘導しやすいのが実は「両親との関係のため」というもので、これに該当するのがエルサとベンになっていました

エルサは「自制のため」と言いますが、母親の少食を真似ているのに父親の反発を喰らうという環境にありました

どちらを立てるかという苦悩があり、やがては反発していくことになります

ベンも当初は理由が不明でしたが、シングルマザーに育てられたことがわかり、それが突破口になっていました

 

基本的には、悪用してはいけない心理学大全みたいな映画なのですが、そのまま真似てもうまくはいかないでしょう

それは、映画は結論ありきでキャラクターが動いているからなのですね

なので、ノヴァクと同じような行動を起こしても、心理学を熟知して修正ができないと思わぬ方向に向かうのではないでしょうか

 


意識的な食事とは何か

 

本作では、意識的な食事(Conscious  Eating)という概念が推奨され、少しの食材でも精神的に満たされる、みたいなトンデモ理論が跋扈していきます

確かに暴食はいけませんが、必要最低限の栄養素を摂る必要はあり、ノヴァクが推奨する食事というのは、健康的には害でしかありません

彼女がその方向に向かうのには理由がありますが、その思想に向かうために生徒たちを誘導していく様子が描かれていたと思います

 

ノヴァクの考える意識的な食事というのは、持続可能な社会の実現のために必要なもので、今ある色んなSDGs絡みの胡散臭さに乗っかってしまう人を揶揄している部分があります

彼女は、そういった思想に傾倒しやすい生徒を選んで指導しているのですが、その思想に染まる人には特徴がありました

無論、反発を受けることも想定内で、ついていけなくなる生徒がいても構いません

ノヴァクは、全ての人をそうさせたいとまでは思っておらず、自分の思想を理解してついてくれる人がいればそれで良いと考えています

 

ノヴァクの方法は極端ですが、意識的な食事というのは必要だと思います

何も考えずに食べたいものを食べて死にたいという人もいると思いますが、食べたい期間を延ばすことにも意味があると思います

そんな中で、自分の食生活をどう考えるのかというところが肝要で、行き過ぎなければ、誰もが意識的な食事をした方が良いと思います

 

昨今では、さまざまな情報が溢れ、体に良い食事とか製品などを勧めたり、ダメなものを罵倒したりするものが散見されます

そんな情報シャワーの中で何を信じるかは人それぞれですが、盲信というのが一番ヤバイと思います

映画でも、この「盲信」のヤバさというものを描いていて、生徒たちが洗脳されていく様子を描いていました

ノヴァクの思想を他の思想に置き換えるとわかりやすく、食事になっているから受け入れやすくなっているという側面もあると思います

 

私が考える意識的な食事とは、何をどのようにどれだけ食べるかということに意識を置くことだと考えています

全てを有機農法のものに変えろとか、化学調味料などの人工物を摂らないということではなく、なぜ自分がそれを食べるのかぐらいは考えようというものなのですね

1日に食べるものをどのようにして確保するとか、色んな制限はあると思うし、経済的に可能な領域というものも限られてくると思います

そんな中でも、自分の命を形作るものを疎かにしないことで、最大限に自分の体のためにできることしたということは胸を張っていたいと思います

そして、そのような思考習慣はやがて体にも良い影響を与えると思うし、何も考えずに食べたいだけ食べていた頃に比べると変わっていくのだと思います

 

個人的な話だと、今は糖尿病の治療薬でマンジャロ(Mounjaro)という薬を使っているのですが、これは2型糖尿病の治療薬の一つで、GLP−1(グルカゴン様ペプチド-1)及び、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の受容体作動薬と言います

これを週に1回皮下注射を行うということで、血糖値のコントロールや体重減少効果を促すというものになっています

この薬を使って3週間目に入るのですが、とにかく「ずっと気分不良状態」で、「食事の量が一気に減る」ことになりました

食べてもすぐにお腹いっぱいに思えるし、食べすぎると気分が悪くなります

 

これは消化器系の副作用が出ている状態なのですが、特に油っこいものを受け付けなくなるのですね

これまでに率先に近いほどの頻度で食べていた揚げ物は3週間食べていないし、消化不良を起こしやすいので「胃腸風に罹った時のような食事」を続けていたりします

でも、食事を見直す良いきっかけになっていて、少ししか食べられないのなら、その中で栄養価の高いものとか、体が受け付けるものを食べようと考えることになります

ある意味、何でも食べられる状態よりは、体の言葉を聞ける機会にもなっているので、そう言ったことが意識的な食事に繋がっていると言えます

効果が出るかは先のことだと思いますが、この食事改善が体にどのような変化をもたらすのかは興味があるところだと思います

 


Autophagyについて

 

本作には、「Autophagy」という概念が登場し、これは「自己貧食」と呼ばれる「体の自然な浄化プロセス」としてノヴァクが提唱した考え方でした

実際の「Autophagy」はギリシャ語の「Auto(自己)」「 Phagy(食事)」を語源とした言葉で、生物の細胞内で起きる自己分解・再生の仕組みのことを言います

細胞内で不要になったタンパク質や壊れた細胞小器官を分解・再利用するメカニズムのことで、これによって細胞の機能を保ち、ストレスや飢餓など環境に適応できるとされています

 

その仕組みとしては、「不用物を囲む膜(オートファゴソーム)の形成」「リソソームとの融合」「中の成分が酵素で分解」「再利用」という流れになっています

この理論の解明にて、2016年に大隅良典がノーベル生理学・医学賞を受賞し、広く知られるようになっています

この理論では、老化細胞の除去や新陳代謝の促進、細胞の異常増殖の抑制(がん治療)、アルツハイマー病やパーキンソン病などの異常タンパク質の蓄積の防止、食事制限によってオートファジーが活性化する、というものが発表されています

 

ノヴァクはこの理論を極端に解釈して使用していて、極端な食事制限や断食を行おうとしていました

オートファジー自体は自然な生理機能ではありますが、個人差や体調、年齢、疾患などによって大きく影響を受けるので、「◯時間食べればオートファジーが起こる」などというダイエット理論は眉唾に近いと言えます

自然にこの流れに持っていくためには「医師や栄養士と相談すること」が前提ですが、一般的に言われているのは「断続的断食(インターミッテント・ファスティング)」と呼ばれるものになります

これは「16時間断食・8時間食事」と言われる「16:8法」と呼ばれるもので、「夜8時に夕食を終えたら、次は翌日の正午に昼食を摂る」というものです

また、「5:2法」と呼ばれる、週に2日は摂取カロリーを500〜600kcalに抑える、というものもあります

 

この他には、「ゆるやかな糖質制限(糖質を控えてタンパク質や野菜、脂質を摂る)」「過度ではないカロリー制限(満腹するまで食べない)」などがあります

タンパク質を摂るには「大豆製品」「鶏むね肉」「卵」「魚」になりますし、良質な脂質を摂るには「アボガド」「ナッツ類」「オリーブオイル」「えごま油」、発酵食品としての「納豆」「ヨーグルト」「ぬか漬け」、抗酸化物質として「緑茶」「ウコン」「ベリー類」「ブロッコリー」、食物繊維として「海藻類」「きのこ」「玄米」「根菜」などがあります

これらをうまく組み合わせて、糖質を減らしつつも、腹8分目で抑えるというのが無理なくできることかな、と思いました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、行き過ぎた断食を行う様子が描かれ、さながらカルトに傾倒するような感じで物語が進んでいきます

親たちの心配をよそに生徒たちはノヴァクを信奉し、彼女と一緒にどこかに消えてしまいます

それが絵画の中という感じになっていて、どこに行ったのかはわからない感じに紡がれていました

親たちも当初は学校に殴り込む勢いですが、自分たちが捨てられたと観念しているような結びになっていました

 

あの断食をそのまま続けたら、さすがに死んでしまうと思うので、ある種のゆるやかな自殺のようにも思えます

大真面目に理論を語りつつ、オリジナル飲料まで作っているので、ノヴァク自身はその理論に傾倒しています

彼女自身が実践者として成功しているのかは分かりませんが、そう言った裏の面を見せないことが、さらに不気味さにつながっているように思えました

 

生徒がここまでノヴァクに傾倒するには理由があって、両親の不和だったり、ダブルスタンダードだったり、自己啓発、興味本位など色んなものがありました

全く違う思考がありながら同じ場所に行く着くのは、彼らにはまだ確立されたアイデンティティがないからだと思います

動機づけをしたり、目的意識を持たせたりする中で、自分たちで考えてその結論に至るというところが大事で、反発すらも利用することになります

違う考えの人を論破したりすると、さらにその思想は強固なものになるし、不確かで危うい一面性の自信が生まれてしまうのも厄介だと思います

彼らをうまく誘導することに成功したノヴァクですが、彼女が純粋すぎるからこそ、生徒たちもついていった部分があると思います

子どもたちはそう言ったところに敏感なので、思想の中に営利とか恣意的なものが混ざる方が避けられる問題のようにも思えてしまいます

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/99291/review/04549546/

 

公式HP:

https://klockworx-v.com/clubzero/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA