■非日常体験はいつも、過去との決別に寄与している
Contents
■オススメ度
ジュブナイルSFが好きな人(★★)
原作ファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.9.15(T・JOY京都)
■映画情報
情報:2022年、日本、83分、G
ジャンル:「ウラシマトンネル」のある町で、願いを叶えようとする高校生たちを描いた SF風ジュブナイル映画
監督&脚本:田口智久
キャラクター原案:くっか
アニメーション制作:CLAP
原作:八目迷(『夏へのトンネル、さよならの出口(2019年、小学館)』
キャスト:(声の出演)
鈴鹿央士(塔野カオル:事故で妹を亡くした高校生)
(幼少期:中村悠人)
飯豊まりえ(花城あんず:田舎に転校してきた女子高生)
小宮有紗(川崎小春:クラスの女王様)
畑中祐(加賀翔平:カオルの友達)
小林星蘭(塔野カレン:カオルの妹)
小山力也(カオルの父)
照井春佳(浜本先生:クラスの担任)
金澤まい(キィ:カオルが飼っているインコ)
■映画の舞台
都市伝説「ウラシマトンネル」がある田舎町、香崎町
■簡単なあらすじ
妹を事故で亡くして以来、父の酒癖に悩まされてきたカオルは、何気なく時間だけを過ごしていた
町では「ウラシマトンネル」なる都市伝説的な噂が持ちきりだったが、カオルは興味もなく、ルーティンのような日々を過ごしている
ある日、駅で見知らぬ女子高生・あんずを見かけたカオルは、彼女が大事そうに封筒を抱きしめているのを見て、ふと自分の傘を差し出した
その翌日、その女子高生は転校生としてカオルのクラスに登場する
あんずは愛想が悪く、クラスの女王的な存在である小春が突っかかる
「喧嘩を売ってるの?」と訊くあんずに対して、「そうだったらどうする?」と凄んだ小春だったが、次の瞬間には拳で殴り倒されていた
それ以降、あんずの周りから人は消え、彼女はカオルだけに話しかけるようになっていた
カオルの親友・翔平は「二人は付き合っているのか?」などと興味本位だったが、二人の関係はただ一緒にいる以上の進展は見せなかったのである
そんなある日、カオルは父に妹のことを責められ、そのまま家を飛び出してしまう
線路を歩いていたカオルは、接近する列車に驚いて斜面を転がり落ちた
そこには池があって、その奥には奇妙な洞窟があった
カオルは導かれるようにその中に入り、そこで妹が履いていたサンダルを見つけてしまう
さらにその奥には一羽のインコがいて、そのインコは遥か昔に妹と一緒に教えた歌を覚えているインコだった
テーマ:喪失と回復
裏テーマ:欠落と執着
■ひとこと感想
ツンデレ転校生とコミュ障の男子という感じの組み合わせで、そこにSF要素が加わった本作は、どこかで見たような感じの作品群の一つに埋没しているように思えました
印象的なのは「説明しすぎない演出」で、映像で状況を語るという引き算の多い映画だったと思います
キャラクターは平凡で、そこまで印象深いこともなく、キャラデザも突飛なものにはなっていません
いわゆる聖痕があるわけでもなく、本当にどこにでもいる高校生になっていて、彼のキャラ付けは「外的要因」に因るものとなっています
映画内での妹の死が世間にどう思われているのかはわからず、カオルに対して腫れ物をさわるようなクラスメイトたちではありませんでした
ある程度、過去が消化されている現実があって、その中でも家族だけが執着を持っているという感じになっています
父親のキャラが徹底していて、息子のことなど全く考えていない独親になっていましたね
むしろ、働いていない感じなのに生活できてるし、新しい嫁さんは見つけてくるし、やればできるタイプなのか、酒が入ると途端にヤバい人になるのかどっちかわかりませんでした
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
欲しいものが手に入るとされるウラシマトンネルが、実は無くしたものを取り戻せるという設定になっていて、それによってカオルはあんずを置き去りにして一人でトンネルを入ることになりました
その前段階でも、カオルの喪失と渇望は具体的なものでしたが、あんずの渇望が曖昧なままだったので、この展開を予感できた人は多かったかもしれません
1回目にトンネルに入った時には、サンダルとインコというこれまた具体的なもので、あんずがここに入っても得るものがないことはわかります
欲しいものが手に入るなら、直線的に物事が進みそうですが、このトンネルは「存在の確かさ」とか、「効能」を少しずつ見せているという感じがしたので、なんとなく「トンネルを作り、カオルを呼び寄せたのは妹である」と感じました
トンネルが具現化するタイミングがあんずとの出会いの後で、それはカレンの代わりにカオルを愛する人が出現した、とも読み取れます
でも、この段階のカオルはカレンに執着を持っている状態なので、「時間が進む」という現実を見せることで、カレンはカオルに本当に大切なものは何かを考えさせたかったのではないでしょうか
■時間が与えるもの、奪うもの
彼らが住む街には都市伝説があって、それは「ウラシマトンネル」という「通ると願いが叶うトンネル」というふれこみでした
実際には「無くしたものが見つかる」というもので、「特別な才能を欲しがったあんず」が行く意味のないものでした
このトンネルがどうやってできたとか、どんな理屈だとかは関係なくて、ほとんどスピリチュアルな設定でも問題ないレベルだと言えます
一応は「何分=何時間」みたいな時間のズレが生じることになっていて、その対価を払ってでも奥へ進むかということが試されています
このトンネルは言わば「時間逆行」を生じさせるトンネルで、カオルの過去を辿る旅を誘発します
最初に見つけたサンダルはカレンが最後に身につけていたものだったり、さらに奥を進むと「カレンと一緒に飼っていたインコ」にたどり着きます
そして、最終的には楽しく過ごしていた日常になっていて、そこで留まるか否かという選択を迫られます
これは実際にトンネルの中に入らなくても起こる現象に近く、現在を生きているのにも関わらず、過去の出来事に囚われ続けているという人は世の中にたくさんいます
トンネルの中は現実から切り離されていて、しかも時間の流れが速いためにあっという間に現実に取り残されてしまいます
その時間の経過を入った本人が認知していますが、現在の価値よりも過去の一点の価値の方が優っているために、カオルはあの部屋に居続けようとしました
現在に何かしら生きる意味があれば戻ることを考えますが、カオルには帰るべき価値のある現実がありません
でも、あんずにはカオルと歩む時間の価値を感じているので、現実に戻ってほしいと考えていました
それでもあんずは「カオルが囚われる過去」を否定することなく「待つ」という選択をします
今自分がどうなっているのかというのをメールで送り、返信の有無に関わらず「あんずは一生懸命生きていく」のですね
この強い想いは、やがて現実世界のカオルの生きる意味を思い出させることに繋がっていました
■欲しいものと取り戻したいものの違い
欲しいものも取り戻したいものも「今現在手元にないもの」というところは共通しています
ですが、欲しいものは過去において持っていなかったもので、取り戻したいものは過去において持っていたものという違いがあります
執着の質が違い、漠然としたものと具体的で明確なもの、という違いもあります
欲しいものが具体的である場合もありますが、これまでに誰かもものだったものを手にしたという以外には抽象的であることが多いですね
それに比べて、手にしていたものというのはその時間や歴史、体験というものが染みついている場合がほとんどでしょう
本作における「欲しいもの(=あんずの才能)」はかなり漠然としていて、「取り戻したいもの(=カオルにとっての妹)」は明確に思えます
でも、「妹そのものを取り戻したい」ということもありながらも、それが叶わないと分かった段階で「妹と過ごした過去」というものを手に入れたくなります
でも、それは過去もしくは思い出の中にしかなく、新しいものを重ねることはできません
やがて、何度も繰り返していくうちに、そのものの価値というものが薄れていくと言えます
なぜ繰り返される過去の価値が薄れていくかというと、その過去そのものに価値があったわけではなく、妹と一緒に過ごした時に起こった「妹の反応と自分の反応」というものに価値を持っていたからだと言えます
なので、妹との時間に新しいものがないと、反応は起きませんので、そこからは「妹がいたら」という妄想に突入してしまいます
こうなった場合、そこで生まれた妄想には本物はありません
全て、カオルが脳内で描く理想であり、妹の反応の一部分の投影なのですね
そうなったとき、おそらくカオルの中で何かが弾けて、そのステージに価値を見出さなくなると時期は必ずやってきます
カオルが本当に欲しかったのは、愛する人と過ごす時間の中で生じる「正負の反応」であると思います
そう考えると、「正負の反応」をするのは生きている人間でしか起こらないので、必然的に妹に変わる何かを欲するということになります
でも、誰かは妹の代わりにはなれないので、カオルと妹の関係性の再現は不可能な領域だったりします
カオルがそのことに気づいたとき、初めて過去からの呪縛が解け、新しい一歩を踏み出せるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作のタイトルは「夏へのトンネル、さよならの出口」となっていて、「出口」は過去との決別を意味します
となると、「夏」というキーワードは何を指しているのかということになるのでしょうか
この映画の季節感はひまわりが示す通り「夏」となっています
「夏」は日常とは違う体験という意味を含み、特に学生・生徒は夏休みに入るために、それが非日常のようになっています
彼らは「夏にできたトンネルに入り、秋になって出てくる」というキービジュアルがあって、季節が移り変わったところでカオルは元の世界に戻りました
でも内外の時間差があって、二人には数年の時間差がありました
この時間の差は精神の成長の差になっていて、数年分社会に出た分だけあんずは成長しています
カオルには「戸籍上大人ですが高校中退という学歴」になるので、通常の感覚だと高専などに入り直すか、定時制に通って「高卒」の学歴を手に入れるところから始まっていくことになるでしょう
外の世界の父がどうなったかはわからないのですが、数年ぶりに失踪した息子が帰ってきたとして、新しい生活を始めている父との生活が再開できるかはわかりません
13年間もの間カオルは失踪していたのですが、生存確認ができるかどうかは置いておいて、あんずだけはカオルの行き先を知っています
実際にあんずがカオルの父にウラシマトンネルに入って帰ってこないということを告げても、その理解を得られることはないでしょう
さすがに親権者である父が失踪宣言をすることはないと思いますが、出てきた時は30歳を過ぎているので、親権者という枠組みから外れているような気はします
現実問題と絡めるのはナンセンスではありますが、ウラシマトンネルから出た後の現実的な苦労は相当でしょうね
とりあえずはあんずのアシスタント(ほとんどヒモ)をしながら高専にでも行って高卒認定を取り、そして大学に向かうかあんずの作業場で本格的に働くことになるのかもしれません
高専の費用などを誰が出すかとか色々問題がありますが、なんとか生きてはいけるのかなとは思えます
ファンタジーにマジで突っ込むのもアレですが、余計なことを考えてしまう設定であることは間違いありません
13歳年上になったあんずとの恋愛がうまくいくのかは微妙ですが、「愛があれば」なんとかなるものなのでしょうか
そのあたりは「できる」というのが原作のスタンスなのかもしれませんね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/380639/review/49dc428c-6ef0-46b7-b255-56918bfcb41e/
公式HP:
