■他人の怒りをコントロールすることも、アンガーマネージメントのひとつだと思います
Contents
■オススメ度
詐欺師映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.11.22(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2024年、日本、120分、G
ジャンル:怒りを溜め込んだ公務員が詐欺師と組んで復讐を果たすミステリー映画
監督:上田慎一郎
脚本:上田慎一郎&吉田悠子
原作:ハン・ジョンフン『元カレは天才詐欺師 ~38師団機動隊~(38사기동대)』
キャスト:
内野聖陽(熊沢二郎: 真面目な公務員、中野北税務署の職員)
岡田将生(氷室マコト:天才詐欺師)
川栄李奈(望月さくら:二郎の部下、国税に栄転予定)
吹越満(安西元義:二郎の上司、署長)
森川葵(白石美来:マコトの仲間、スリ)
後藤剛範(村井竜也:マコトの仲間、当たり屋)
上川周作(丸健太郎:マコトの仲間、道具屋)
真矢ミキ(五十嵐ルリ子:闇金の元締め)
鈴木聖奈(五十嵐薫:マコトの仲間、狂犬、ルリ子の娘)
竹井洋介(栗木:ルリ子の護衛)
川口貴弘(桃木:ルリ子の護衛)
小澤征悦(橘大和:脱税王、橘コーポレーションの代表)
神野三鈴(酒井恵美子:橘の司法書士)
香川幸允(ルリ子の手下)
須永慶(ルリ子の手下)
矢柴俊博(岡本:熊沢の元同僚)
結城さなえ(岡本の妻)
松井彩華(岡本の娘)
淺場万矢(税金納める居酒屋の店長)
朔太郎(居酒屋の店長の息子)
イッキ(税金納める工場の社長)
重岡漠(車の売主)
黒木俊穂(間違えられる男)
森恵美(チャリティーの施設長)
上野郁弥(クラブのナンパ男)
野田英治(中園:モミジ不動産の社員)
佐藤あみ(春日部:モミジ不動産の社員)
松﨑謙二(税務署員?)
■映画の舞台
東京都:中野区近辺
ロケ地:
東京都:中野区
中野税務署
https://maps.app.goo.gl/7vs3zmLKfiNgDDgU7?g_st=ic
神奈川県:横浜市
THE BAYS
https://maps.app.goo.gl/FraCRvjCEESqvpHx6?g_st=ic
東京都:八王子市
八王子日本閣
https://maps.app.goo.gl/DqYgfnTXUmewbNpw6?g_st=ic
東京都:杉並区
ザムザ阿佐ヶ谷
https://maps.app.goo.gl/EuESGacSAp3RvwJw7?g_st=ic
東京都:中央区
銀座 尹家
https://maps.app.goo.gl/wXFpSTjEpTRjPo6J8?g_st=ic
東京都:新宿区
PABLIC LOUNGE SHINJYUKU
https://maps.app.goo.gl/H5F7S6mBCi9eatj4A?g_st=ic
東京都:渋谷区
Dining&Kitchen KITSUSNE
https://maps.app.goo.gl/QP88cugzEg7dmyPQ7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
中野北税務署に勤める熊沢は、妻の尻に敷かれながら日々をつつがなく生きてきた
部下の望月は国税への栄転が決まっていて、署長の顔色を疑いながら、時には納税者に助け舟なども出していた
ある日のこと、妻に頼まれて中古車を買うことになった熊沢は、なりすましの詐欺に引っかかってしまう
友人の刑事・八木に助けを求めると、相手は有名な詐欺師であることがわかった
金を取り返せればと思うものの、相手は先手を打って熊沢に会いにきた
彼の名は氷室と言い、脱税王として名高い橘をターゲットにしていると言う
氷室はある闇金に金を返す必要があり、そのために橘と面識のある人物を探していた
そこに現れたのが熊沢で、彼は熊沢の過去の因縁についても調べ尽くしていた
当初は気が進まなかったものの、部下の栄転の邪魔をしたり、過去の出来事を覚えていなかったことなどから、氷室の誘いに乗ることになったのである
テーマ:詐欺師と復讐
裏テーマ:人道を越えるもの
■ひとこと感想
韓国の人気ドラマのリメイクということで、今流行りの地面師ネタをぶっ込んでいる内容になっていました
脱税王から取り立てるというための仕込みをしていて、どこまで事態を想定していたのかは巧妙に隠していたように思います
映画は、『カメラを止めるな!』の上田監督の得意のスタンスになっていて、どうしてそうなったかを暴露するパートが後半に存在していました
映画を最後まで観るとタイトルの意味がわかるのですが、アクシデントをどこまで読み込んでいたのかは何とも言えない感じに調節していましたね
全てを紐解くよりは、余裕を持たせて考察する隙を与えている、という感じになっていました
物語としても面白くて、全てのk楽りを知ってから観ると、意外なところにネタが仕込んでありました
伏線の張り方も面白くて、それがそこで出てくるのかという面白みもあります
前半で貯めるだけヘイトを貯めているので、後半のネタバラシがスッキリする感じになっています
ラストで熊沢が語る言葉こそ、橘を奈落に突き落としたのかな、と感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
地面師詐欺を全面に押し出して、悪い奴らから金を奪うという物語で、タイトルの「アングリー」を持つ人物が熊沢だけではなかったことがわかります
詐欺師は7人ということで、この人数が足りないことにいつ気づけるかということになっていました
タイトルは「公務員(熊沢+八木)と7人の詐欺師」なので、氷室、白石、村井、丸、五十嵐親子の6人に、氷室の母である酒井を加えることになります
映画内ではしきりに「熊沢は詐欺師だ」という植え込みをしていたので、熊沢が7人目だと疑わなかったのは制作サイドの思うツボということになります
止まっている時計も実は止めている時計だったり、橘被害に遭った闇金が協力したりする中で、脱税王にやり返すことが正義のように見えてしまいます
そんな中でも、最後まで非暴力として、怒りをコントロールする熊沢は立派なものだったと思います
公務員と反社に癒着があること自体が最悪なことですが、だからこそ巨悪というものは生まれやすい下地があるのでしょう
橘がどのように安西を取り込んだのかはわかりませんが、相当なキックバックを用意していたのだと思います
それでも、末端には関係のない話なので、「聞いてないことにする」と言って動くというのはわかりやすい動機になっていたと思います
ちなみに警察に連行されるシーンでは助手席に制服姿の狂犬女が座っているのですが、遠巻きにでもわかるので、そう言ったわかるように作っている描写を楽しむのも本作の醍醐味のように思えます
■怒りのコントロールする方法
最近、よく取り沙汰されるのが「アンガマネージメント」というもので、ググれば色んな方法が出てくると思います
怒りの持続時間が何秒だから待つとかが有名なところですが、そもそも怒りというのは「相手の行動が自分の想定と違うから起こる」ということが多いと思います
相手に何かを期待したけど、全くその期待に応えないとか、ありえない行動を取ったことで、それが自分の価値観と違うので許せないというようなものですね
自分の中に湧き出た怒りの正体がわかれば、瞬間的に出るものでも、冷静になるまでの時間が短縮されることがあります
起こってから対処するためには反射神経が必要ですが、理屈になっていない部分が残っていて、どこまでも理不尽であるように感じます
でも、自分が何に対して怒るのかとか、怒りそのもののメカニズムを理解することによって、多くのことを「想定内」にすることができます
想定内であれば、「怒りに続く呆れ」という感情に向かうのが早く、それを心理学などでは「相手に期待をしない」みたいな言い方になってしまいます
夫婦仲の継続問題でも、想定外の怒りの行動の連鎖というものが感情を悪化させるので、そう言った怒りに向かうものを事前に把握しておいた方が良いのですね
怒りは瞬間的に自我を無くしてしまうので、自分が怒っているかどうかを俯瞰して見ることができません
でも、自分に起こることのどんな種類のことが怒りにつながるのかということを知っておけば、瞬間沸騰になる前に「このまま行くと自分は怒りモードになるな」ということがわかったりします
例えば、自分自身がきちんとした性格だと「相手にも同等のことを求めてしまう」のですが、それができないことが怒りに繋がったりします
子どもに対して怒る場合でも、自分の子ども時代を棚に上げて、大人の自分ができていることを子どもができていないみたいな理由で怒りに繋がったりします
こう言った場合には、自分自身の経験の上で有意義なことだという固定概念があって、それが「ちゃんと勉強しないと後で大変だ」という思考になり、それを強迫観念のように子どもに伝えてしまう、みたいなサイクルになってしまいます
個人的な対処方法だと、他人は常に自分をイラつかせるだろうという想定をしていて、自分がイラつくのはどんな時かを平時に分析しています
たいていのことは「自分が普通に思っていることをしない場合」なので、逆説的に考えると「自分が普通にできていること」の反対側の行動が怒りにつながるのですね
時間を守る人なら守らない人にイライラするし、整理整頓をする人は片付けない人にイライラするでしょう
自分が相手の話をじっくり聞く人なら脊髄反射する人にイライラするし、理論的だと感覚的な人にイライラするのだと思います
自分の属性を把握するのが一番速いのですが、それは日々の積み重ねによると言えます
なので、限りなくある怒りの感情のルーツを考えるだけでも、瞬間沸騰後の対処というものがルーティンになってくるようになるので、そこまで来るとある程度のコントロールができるようになっているのではないでしょうか
■権力の癒着の剥がし方
本作では、癒着構造があった中で、その煽りを喰らってしまい、それに対して反撃をする、という内容になっていました
税金逃れをしている男がいて、それが野放しになっている状況がありましたね
直属の上司が絡んでいることもあり、それをなんとかしたという思いがあり、そこに振って沸いたのが、同じ男に対して同じような感情を持っている人物の登場だったという流れになっています
当初は、マコトは単なる自分を騙した詐欺師で、金を持っている橘から金を奪いたいと思えるだけの人物でした
でも、実際には、橘によって人生をメチャクチャにされた過去を持ち、自分の復讐のために「同じ目線でいられる人間」を探していたことがわかります
マコトも橘包囲網には苦慮しているところがあって、一見すると橘を崩すのは難しいように思います
そこでマコトが考えたのが、内部にスパイを仕込みつつ、相手の視点を常に外に向ける、というやり方だったのですね
マコトは自分の母親を事務員として送り出し、熊沢を始めとした様々な人間を接近させていきます
そのどれもが胡散臭いゆえに裏を取らざるを得なくなり、内偵者にその解決をさせていきます
それを何度も行うことによって信頼を得て、それが右腕的な存在になった段階でことを起こすと決めていたのだと思います
癒着構造は内部に入らないと実態がわからないもので、橘の場合は懐に入るより仕方ないと思います
そこで、送り込んだ人物をどのように信頼させるかが鍵となりますが、マコトは橘自身のウィークポイントを補える人物を送り込むことになります
わかりやすい例だと「金儲けは率先するけど、金の管理は大雑把な相手」だと、その管理をきちんとしつつ、自分の金儲けに寄与してくれる自分となります
他には、雑務的なことを一手に引き受けて、1を与えれば10を返すような存在を有り難がったりします
そういった「何を欲するタイプ」なのかを吟味した上で送り込むことになり、マコトの母が送り込まれたということは、彼自身が若者をあまり信用していないとか、肩書を重視するという側面があったからなのでしょう
そして、内部に目立たない核を作った後は、その核が活躍する場面を作りまくって信頼を重ねていきます
活躍=得意ということもあるので、その誘導は意外と簡単なものだったりします
もともと、橘本人がアウトソーシングしたいものを受けているので、その本人の苦手分野の案件はそのまま「核」へと流れていくことになります
なので、橘自身のウィークポイントや趣向を押さえた上で、半分は成功していると言えます
そこからは、彼自身の目立ちたがり屋なところと負けず嫌いという性格を刺激し、公務員に裏の顔があるという路線で攻めていきます
彼の周りにいる公務員も裏の顔があるので、熊沢自身もそっち側の人間なのだろうという思い込みが生まれやすいのですね
そして、「目立つこと」と「橘が疑念を抱くこと」をわざと起こすことによって、内部犯の活躍の場を広げていきます
この時点で橘視点はほとんど外側に向いているので、内側には疑念を抱かなくなっています
癒着を剥がすのはこれと同じ理屈になっていて、ベッタリ張り付いているものの視点を別の方向に向ける事だと思います
それが金銭でベッタリならば「もっと得をする方法」に目線を動かすことになり、そこで剥がれた隙間にスッと何かを噛ませる必要があります
そう言った場合には、相手側にも目線を反らせるための仕込みということになるので、双方の粘着を同時に剥がす必要があります
そうした隙間というのを相手の疑念の種にしてしまうことで、粘着度は弱くなり、さらに「もっと得する方法」の方に視線が泳いでいくことになるのですね
もともと共闘相手だったはずが、いつの間にか利益相反の関係になりつつある
この状況にさえ持っていければ、元々大した粘着でもないもの(血縁とかではない)なら、あっさりと引き剥がすことができるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、元々遺恨のあった詐欺師が自分の計画のために公務員を巻き込むという話になっていて、かなり盤石な計画を立てていました
それをどのタイミングでバラすかというのが醍醐味で、それはうまく機能していたと思います
タイトルにもあるように「7人」をどう考えさせるかというところで、熊沢を詐欺師と捉えるかどうかというのがポイントでした
結局のところ、熊沢も騙されていた側であり、ある種の被害者的な立場になり、7人目はマコトの母親だったというオチがついていました
熊沢を詐欺師とカウントさせつつ、実はそうではなかったというのが核心なのですが、これが意外と難しいと思うのですね
熊沢自身は自分が騙されているとは思っていないので、自分が詐欺に加担する葛藤を持っています
その葛藤が彼を7人目だと誤認させるのに効果的となっていました
また、彼が一番怒りを抱えている人物であると描写することで、その葛藤が打ち砕かれて闇堕ちしていく様子を描くので、なおのこと、7人目っぽくは思えてしまいます
この映画が面白いのは、熊沢の怒りというものがものすごく伝わりつつ、相手がかなりイラつくキャラに仕立て上げているところなんだと思います
キャスティングがとてもうまくて、感情をむき出しにするキャラの間に無感情に見えるマコトが入ることによって、さらに陰影というものが生まれていました
でも、見えている部分とは違い、マコトの中にある強い憎悪というものがあって、彼と母親自身が「見事なアングリーマネジメントをしていた」というものがありました
熊沢が抱える葛藤を凌駕するものを持ちながら、それをほとんど見せることなく冷静に計画を進めていく
マコトと母が背景に徹する事ができるのも、熊沢という一歩間違えばブチ切れそうな人物だったということもあったのだと思いました
映画は、繰り返し見ても面白い作品なので、7人目が母親だと分かった上で観るのも面白いですね
彼女の暗躍のそばで安全地帯にいる橘を見るのも滑稽なので、そう言った見方も面白いでしょう
熊沢がいいように扱われているのも面白いし、それを絶妙にコントロールしているマコトの狡猾さというのもあるので、この記事を読んで思い出した人は配信などが始まった段階で見返しても良いのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101788/review/04493739/
公式HP: