■リンダの記憶を埋める冒険は、もう少し可愛げがあっても良かったのかも知れません


■オススメ度

 

フランスのアニメに興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.4.18(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Linda veut du poulet!(リンダはチキンが食べたい!)、英題:Chicken for Linda!(リンダのためのチキン!)

情報:2023年、フランス、76分、G

ジャンル:父の味を求める娘が巻き起こす騒動を描いたコメディ映画

 

監督&脚本:キアラ・マルタ&セバスチャン・ローテンバーク

 

キャスト:

メリネ・エクレール/Mélinée Leclerc(リンダ:チキンが食べたい8歳の少女)

クロチルド・エム/Clotilde Hesme(ポレット:リンダの母、未亡人)

ピエトロ・セルモンティ/Pietro Sermonti(ジュリオ:リンダの父)

(ガッツァ:リンダの愛猫)

 

レティシア・ドッシュ/Laetitia Dosch(アストリッド:ポレットの姉、ヨガの先生)

 

エステバン/Estéban(セルジュ:新人警察官)

ジャン=マリー・フォンボンヌ/Jean-Marie Fonbonne(巡査長)

 

パトリック・ピノー/Patrick Pineau(ジャン=ミシェル/ジャン=ミミ:トラックの運転手)

クロディーヌ・アクス/Claudine Acs(ジャン=ミミの母)

 

アントワーヌ・モメイ/Antoine Momey(ケヴィン:養鶏場の息子)

 

スカーレット・ショルトン/Scarlett Cholleton(アネット:リンダにベレー帽を貸す少女、管理人の娘)

 

アレンザ・ドゥス/Alenza Dus(カルメン:パプリカを任されるリンダの友人)

ミラン・スリズィエ/Milan Cerisier(フィデル:カルメンの兄、サッカー少年)

ナヒル・モステファ/Nahil Mostefa(カストロ:カルメンの兄)

アンナ・パラン/Anna Parent(パブロ:カルメンの弟)

 

アナイス・ウェラー/Anaïs Weller(アフィア:大型犬を飼っているリンダの友人)

(ゾロ:アフィアの愛犬)

 

【その他の声】

Yannis Amouroux

Laurent Mothe

Thierry Garet

Lola Norda

Catherine Giron

Noémie Pasteger

Manon Kneusé

Carolina Saquel

Nathalie Kousnetzoff

June Diaz Stoinea

Jean-Christophe Laurier

Guillaume Verdier

Clement le Glatin

 

【日本語吹替】

落井実結子(リンダ)

安藤サクラ(ポレット)

リリー・フランキー(ジャン=ミシェル)

 


■映画の舞台

 

フランスのどこか

 


■簡単なあらすじ

 

幼い頃に父を亡くした8歳の少女リンダは、父の記憶として「パプリカ・チキン」のことしか覚えていなかった

 

ある日、母・ポレットの指輪を友達の帽子と交換したと思い込まれたリンダは、その罰として、母の姉・アストリッドのところに預けられることになった

だが、それは母の思い過ごしで、指輪は愛猫ガッツァが飲み込んでいたことがわかり、母は罪滅ぼしのためにリンダの願いを聞くことになった

 

リンダは、父の得意料理のパプリカ・チキンを食べたいと言い、そこで母と一緒に鶏肉を買いに出かけるものの、街はストライキが起こっていて、どの店も閉まっていた

 

失意の二人だったが、帰り道に養鶏場を見つけた母は、生きている鶏を捌こうと考え始める

だが、ストライキのために管理者はストライキに出ておらず、そこで母は何を思ったか、養鶏場から鶏を一羽盗んでしまうのである

 

テーマ:記憶にないものの存在証明

裏テーマ:状況の受容

 


■ひとこと感想

 

フランスの一風変わったアニメということで気軽に参戦

各キャラクターが単色で描かれているという、誰にでも識別可能な描かれ方は特徴的でしたね

個性的なキャラクターがたくさん登場しますが、そこまで混乱することはないと思います

 

物語は、わがままなリンダの願いを叶えるために母親が奮闘すると言えば聞こえが良いのですが、モラルの欠如が凄くて、行動に関しては同情の余地はありません

きちんと逮捕されて、娘の前で手錠を嵌められていたり、それを見た近所の人から「大変なことになってるねえ」で終わっているところも価値観の違いを感じます

 

おそらくは、貧困層が住むパリ郊外のマンション群が舞台になっていて、そこの治安は元々良くはないのでしょう

ひと騒動が起きたという感じですが、結構な出来事が起こっていましたね

母親も約束したからと言って養鶏場から盗むという短絡的な行動になっていて、母娘ともに日本だと「関わってはいけない人」みたいな感じになっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

本作は、「唯一残っている父の記憶」をパプリカ・チキンをきっかけに思い出すというもので、幼少期に父を亡くしたリンダの不安定な記憶というものが描かれていました

彼女はチキン探しをする中で色んな人と出会い、その過程の中で、父が確かに存在したということを確信していきます

 

このテーマ自体はとっても重いものですが、映画のタッチとしてはかなり軽めで、キャラクターの行動は無茶苦茶なものがありました

母親が盗むところから始まり、娘も言うことを聞かないし、姉のアストリッドもかなり破天荒なキャラになっていました

それに引き換え、リンダ以外の子どもたちは意外と冷静なのですが、どこか抜けたキャラばかりで、多重事故を引き起こしています

 

あの流れでハッピーエンドになるところが強引なのですが、母もトラック運転手と良い感じになるし、姉も警官と良い感じになってしまったのはビックリしてしまいます

鶏一羽であれだけのパプリカ・チキンができるのかはわかりませんが、誰かの家にお肉がたくさんあったので何とかなったのでしょうか

 

ちなみに特典のカードの裏に「パプリカ・チキン」のレシピが載っていましたね

味が想像できないのですが、美味しそうに見えないのは美的感覚の違いなのかもしれませんねえ

 


記憶の奥底に眠るもの

 

本作は、幼少期に父を亡くしたリンダが、「唯一残っている父との思い出」の再現に固執する様子が描かれています

その想いを理解しているのか、自分がしでかしたことへの贖罪なのかはわかりませんが、犯罪行為をも厭わず、チキン探しをする母を描いていました

リンダは9歳なので、そこまで分別がついているとは思いませんが、母親の方は大概ヤバい風にしか思えません

土地柄なのか、国民性なのかわかりませんが、街でストライキが起こっていることも知らないし、常に自分本位の行動を起こしていました

 

後半になって、リンダがパプリカ・チキンにこだわる理由が描かれ、「父が本当にいたのかわからない」という不安を吐露することになります

曖昧な記憶の中にしか存在しない父親が本当にいたのかを悩むのですが、これは自然なことだと思います

父親は物心がつくかどうかぐらいの時期に亡くなっているので、父との記憶に結びつくエピソードも少ないのですね

なので、母や周囲の人が話す父親像というものが、リンダにはリアルに感じられません

 

パプリカ・チキンはリンダの味覚の記憶にあるもので、それによって、リンダは父親が存在していたことを再確認することになります

彼女の中にいる父親は、パプリカ・チキンを作ってくれる父親で、それが味覚とともに記憶に刻まれているのですね

この体験と結びつく記憶というのはとても強固なもので、それによって、彼女は不安を打ち消すことに成功しています

そういった意味において、幼少期の記憶を何らかの感覚と結びつけることができれば、より鮮明なものが残ると言えるのではないでしょうか

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作は、テーマとしては良いと思うのですが、いかんせん倫理的にどうなのという行動が多かったように思います

これがフランスの下層のデフォだと言われればそれまでではありますが、さすがにこれではイメージが悪すぎるように思いました

映画は子ども向けでもあるので、道徳的なものを少し考慮するだけで、母親の行動が無茶苦茶ではなくなると思います

 

物語の導入は「結婚指輪騒動」で、無くなったものに対して「有無を言わせず犯人扱い」はともかく、「自供の強要」にまで至るので、さすがにそこまで無茶な親もいないだろうと思います

なので、紛失に関してはガッツァが飲み込んだとしても、その指輪に対する母親の行動は、もっと道徳的である方が良かったでしょう

彼女が指輪に固執していたのは、夜の予定でつけていく必要があったからですが、映画ではそれが何なのかわかりません

姉に懲罰をお願いして、リンダを押し付けてまでどこに行っていたのかもわからず、この一連の行動だけを見ると、相当な毒親のように見えてしまいます

 

これを少し緩やかな感じにするならば、その日の予定の大切さを娘に説くことでしょう

貸してあげられない理由を説明することと、リンダが指輪をつけたがる理由を話し合うことも必要になってきます

その指輪に込められた意味がリンダと母のそれぞれにあって、単に綺麗だからとかではないのですね

リンダからすれば、それは自分がこの世にいることのきっかけでもあるので、チキンに固執するのと同等の意味があるように思えます

 

その後は、養鶏場での盗難を何とかしないとダメなのですが、これは警察官を絡ませる必要があるので、何らかの事を起こす必要はあると思います

その後、ケヴィンと姉との会話で「盗んだことが発覚して、セルジュがキレる」という展開があるのですが、母親の盗みの動機が「何としてもチキンを獲得したい」というよりは「自分が疑ったことに対する罪滅ぼし」の意味合いの方が強いのですね

なので、負の動機で盗みをさせるのではなく、リンダの想いをわかった上で動く方が良いと思います

母親は悪者に見えますが、娘想いが強くて動いているという方向に転換できればOKで、映画のテイストだとただの自己保身のようにしか見えないのが残念なのだと思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、カラーの使い方が特徴的な作品で、キャラは全て単色で表現されています

主要キャラは色被りがなく、リンダ=黄色、ポレット=オレンジ、アストリッド=ピンクとなっていて、アネット=バイオレット、カルメン=緑、パブロ=黄緑、アフィア=赤と友人たちがいて、ジャン=ミミが紺、ジャン=ミミの母は青紫、セルジュは水色という感じになっています

規則性があるわけではなく、色に意味を見出せたのが、アネットが持っていたベレー帽がリンダと同じ黄色だったというところでしょう

また、アネットとガッツァが同じ色で、ニワトリはアフィアの犬ゾロと同じ色になっていました

 

これらの法則性はもしかしたらあるのかも知れませんが、ぱっと見ではわからない感じになっていましたね

色の持つイメージがキャラの性格と繋がっているという感じもせず、画面の中に収まるキャラの風味を整えたのかなと感じました

映画は、子どもが見ても楽しめるようにとなっていて、主人公が一番目立つ色で、その家族(女性)は同系統の色にしていることで、区別がつきやすくなっています

物語のキーとなるセルジュとジャン=ミミは同系統でまとめられていて、大人の女性と大人の男性も対比になっているように思えます

 

個人的にも、キャラの名前までは覚えられなくても、黄色が主人公でとか、この色はさっきの友人かなどと感覚的に観ていた部分がありましたね

幼い子どもたちも瞬間的にしか呼ばれない名前を覚えるのも難しいので、固有名詞を捨てて色で表現というのは斬新で効果的だったように思いました

映画は、物語に首を傾げる部分は多かったのですが、全体的には大団円に向かう流れになっていたのは良かったですね

大人の色恋の終着点も仄めかしているのは何とも言えませんが、ポレットも新しい出会いを求めていたと思うので、この着地点も許容範囲なのかな、と思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/100269/review/03729659/

 

公式HP:

https://chicken-for-linda.asmik-ace.co.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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