■概念に囚われた先にある、思考実験だったのかもしれません

 


■オススメ度

 

カンフー映画が好きな人(★★★)

ややこしい話が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.3.6(TOHOシネマズ二条 IMAX)


■映画情報

 

原題Everything Everywhere All at Once

情報2022年、アメリカ、139分、G

ジャンル:突然、世界を救うためにマルチバースを接続することになった主婦を描いたファンタジー&アクション映画

 

監督&脚本:ダニエル・クワンダニエル・シャイナート

 

キャスト:

ミシェル・ヨー/Michelle Yeoh(エヴリン・クァン・ワン:コインランドリーのオーナー。マルチバースの様々なエヴリンから力を得ることになる女性)

ステファニー・スー/Stephanie Hsu(ジョイ・ワン/ジョブ・トゥバキ:エヴリンの娘。多元宇宙全体の脅威)

 

キー・ホイ・クアン/Ke Huy Quan(ウェイモンド・ワン:離婚を考えているエヴリンの夫、アルファバースのアルファ・ウェイモンド)

 (少年期:Dylan Herry Lau

James Hong(ゴンゴン:エヴリンに厳しい父親、アルファ・ゴンゴン、司令官)

 

ジェイミー・リー・カーティス/Jamie Lee Curtis(ディアドラ・ボーベアドラ:IRS 検査官、メタバースではコインランドリーの顧客、ジェニー・スレイト

ハリー・シャム・Jr/Harry Shum Jr(チャド:別の宇宙で別のエブリンと一緒に働く鉄板焼きのシェフ)

 

タリー・メデル/TallieMedel(ベッキー・スレガー:ジョイの恋人)

Biff Wiff(リック:コインランドリーの顧客)

Jenny Slate(デビー:犬を連れた大鼻の女性、コインランドリーの客)

 

スニタ・マニ/Sunita Mani(ミュージカル映画の女王)

アーロン・ラザー/AsronLazar(ミュージカル映画の戦士)

 

アンディ・リー/Andy Le(アルファ・ジャンパー、アナルトロフィー)

ブライアン・リー/Brian Le(アルファ・ジャンパー、スキンヘッドの警備員)

Cara Marie Choolijian(ジョガー:アルファ・ジャンパー)

Randall Archer(エッジロード:アルファ・ジャンパー)

Efka Kavaraciejus(SWAT:アルファ・ジャンパー)

 

西脇美智子(エヴリンのカンフー対戦相手、マルチバースにおける師匠)

Li Jing(カンフーマスター)

 

Randy Newmanピクサーのアニメーション映画『ラタトゥイユ』のラッカクーニーの声)

 

Narayana Cabral(セキュリティガード)

Chelsey Goldmith(セキュリティガード)

Craig Henningsen(セキュリティガード)

 

Anthony Molinari(コンフェティ:警官)

Dan Brown(サルサ:警官)

Panuvat Anthony Nanakornpanam(ルチャドーレ:警官)

 

Peter Boon Koh(産婦人科医)

 

Audrey Wasilewski(アルファ RV オフィサー)

Peter Banifaz(アルファ RV オフィサー)

Peter Banifaz(アルファRVのオフィサー)

Audrey Wasileewski(アルファRVのオフィサー)

 


■映画の舞台

 

アメリカのどこか(ロケ地はカリフォルニア)

 

ロケ地:

アメリカ:カリフォルニア州

Simi Valley/シミバレー

https://maps.app.goo.gl/KJi69j9MjcByhotV6?g_st=ic

 

アメリカ:サンフランシスコ

San Fernando Majers Coin Laundry(エヴリンのコインランドリー)

https://maps.app.goo.gl/9ZFaJzBttN9WtJGL6?g_st=ic

 

アンザ・ボレゴ州立公園

https://maps.app.goo.gl/T5LLZZM4RFYZTEWm6?g_st=ic

 

400National Way(IRSのビルディング)

https://maps.app.goo.gl/fdN2d2UPEMvtgncn7?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

コインランドリー店を経営しているエヴリンは、仕事と税金に追われる日々を過ごしていた

気難しい父ゴンゴンが店に現れることになっていたその日、夫ウェイモンドは何かの書類を訴えるだけで手伝ってくれないし、娘ジョイはレズビアンの恋人ベッキーを同伴させてくる

父は厳格な家父長制の化石で、同性愛に理解があるはずもなった

 

みんなが揃ったところで、昼間の用事「IRSへの税金申告」に向かったエヴリンたちだったが、そのエレベーター内にてウェイモンドは意味のわからないことを話かけてくる

相手にしている暇もなかったが、彼の言う「用具室」に気を取られるエヴリン

そして、IRSによる監査が始まってしまう

 

IRSのディアドラは「カラオケ機器の領収書」について詰問するものの、答えに窮して泥沼にハマるエヴリン

なんとか「時間内に再提出」と言うことで猶予を与えられる

だが、店に戻ろうとした矢先、こちらに向かってきたディアドラをエヴリンが殴り倒してしまう

現場に警備員などが集結し、万事休すと思われたが、エヴリンに「謎の声」が聞こえるのである

 

テーマ:視野を広げる方法

裏テーマ:誰もが孤独と戦っている

 


■ひとこと感想

 

マルチバースと言う概念がわからないと難解な作品ですが、単純に考えると「インカムみたいな装置を装着して、普段しない行動をすると行ける」みたいな感じになっていました

並行して存在する世界、すなわち「自分が歩んでいたかもしれない世界」から力を拝借すると意味合いになるのだと思います

 

アカデミー賞にノミネートされている作品で、機会があったのでIMAXで観ましたが、そこまで必要性を感じなかったと言うのが本音ですね

ものすごく単純な物語を、ものすごく複雑に描いていると言う感じになっていて、さらに「下品なパフォーマンスが全開」と言う、人に勧めづらい作品になっていました

 

アクション映画と言うよりは、ドタバタコメディと言う感じで、いろんな世界に生きているミシェル・ヨーさんを楽しむ映画なのかなと思います

個人的には「石同士の追いかけっこ」がツボでしたねえ

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ラスボスが父親になっていて、敵だと思われていた娘ジョイはエヴリンを導く役柄にシフトしていきましたね

夫ウェイモンドの存在も含めて、現実世界のエヴリンが自由になるための儀式だったように思えます

また、娘との諍いであるとか、夫との不仲などを解消していく流れになっていて、店のことで手一杯だったエヴリンの視野が広くなると言う物語になっていました

 

現実世界のエヴリンは最悪の選択をしまくった挙句のエヴリンで、他の世界の多くは「夫と駆け落ちしていない世界」になっていました

コックになっている世界、指がソーセージの世界、駆け落ちを回避する世界、アクションスターになっている世界などは夫との関係によって訪れなかった世界のように思えます

石になっている世界はエヴリンとジョイがいる世界で、この世界には夫はいないけど娘はいるという不思議な世界になっていました

 

エヴリンの世界を構成しているのは「父、夫、娘」となっていて、その根幹は「父」なのですね

なので、幼少期から始まる父との関係によって、夫と出会って選択が変わり、それによって娘に出会う世界と出会わない世界が生まれています

現在進行形の問題も、追い詰められて視野狭窄になっているエヴリンの余裕のなさから来ていて、それが冒頭の一連のシーンに凝縮されていたように思いました

 


マルチバースとは何か

 

マルチバースMultiverse)とは、宇宙に同時に存在する複数のユニバースの総称で、平行宇宙、多次元宇宙とも言われています

映画の中だと、ある地点における選択の違いによって生まれた世界線という意味で、「駆け落ちをしなかった世界」「そもそも人類が生まれなかった世界」などと「繋がる」というテイストで説明されていました

他のマルチバースの認知は基本的には不可能なのですが、それを可能にした世界は「アルファバース」と呼ばれている世界で、そこにいたエヴリンによって拓かれた技術によって、ジョイがジョブ・トゥバキとして覚醒することになった、という感じになっていました

 

これらのマルチバースの概念は、ソクラテスの時代からあって、ギリシアの哲学者アナクシマンドロスAnaximander)によって、最初に提案されたとされています

その後、紀元前5世紀頃からレウキッポス、デモクリトス、ルクレティウスなどの思想体系を得ていきます

紀元前3世紀の哲学者クリシュッポスChrysippus)は、「世界が永遠に消滅と再生を繰り返す」と考え、「時を超えて複数の宇宙が存在する」と提唱しました

 

その後、アメリカの哲学者かつ心理学者のウィリアム・ジェームズWilliam James)は1895年の段階で「マルチバース」という言葉を書籍の中で引用します

これらの概念は、1895年にルードビッヒ・ボルツマンLudwig Boltmann)とエルンスト・ツェルメロErnst Zermelo)の間で行われた討論の過程にて、現代科学の文脈に初めて登場することになりました

1952年のダブリンにて、エルヴィン・シュテレンガーErwin Rudolf Josef Alexander Schrödinger)は講義の中でマルチバースという言葉を引用し、「選択肢ではなく、全てが同時に起こっている」と提唱し、「Quantum Superposition(=重ね合わせ)」という概念を導き出しました

 

これらの研究は盛んに行われていて、概念上の存在は為されてきましたが、科学的な証拠というものは見つかっていませんでした

2010年に入って、スティーヴン・M・フィニー率いる科学者グループによって、「ウィルキンソン・マイクロ波異方性プロープ(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe=WMAP、マイクロ波を放射して上空の温度差を測定する装置)」のデータを分析し、この宇宙が遠い過去に他の並行宇宙と衝突したことを示すデータが見つかったと主張しました

しかし、WMAPの3倍の解像度を持つプランク衛星のデータ分析では、このような証拠については否定されることになりました

なので、現在では「科学的な証拠」とされているものは存在しないという段階のまま進んでいないことになっています

 


家父長制がもたらす現代世界との乖離

 

映画の中ではマルチバースは存在するのですが、これらの分岐とされるシークエンスの多くは「エヴリンとゴンゴンの関係性」に集約させています

のちにラスボスとして現れることになるアルファ・ゴンゴンを含むマルチバースのゴンゴンは、全ての世界のエヴリンと対立しているように思えます

映画の中で中心視される「不幸が積み重なったエヴリンの世界」でも、ウェイモンドとの関係性の障害になったのはゴンゴンの存在で、映画の冒頭でも「ジョイとベッキーの関係性」の障壁となっていました

 

これらの根底にあるのが「家父長制」で、絶対的な家長の存在が時代にそぐわなくなってきています

でも、この家父長制に一番とらわれていたのがエヴリンという存在で、ゴンゴンはそこまで感じていなかったかもしれません

エヴリンの夫ウェイモンドはかつての慣習からすれば家長たる感じはしませんので、エヴリンだけがいつまでも怯えている、という感じになっていました

 

エヴリンはジョイとベッキーの関係性をゴンゴンに伝えることができません

これに対して、エヴリンは「ゴンゴンが理解しないから」と考えていましたが、実際には「ゴンゴンと話すことが嫌だから」という問題に行き着きます

これらの思想は、エヴリンが長年抱えてきてきたゴンゴンに対する抑圧につながっているように思えます

時代が移り変わり、家父長制から逃れた結婚をしているのに、いまだに前時代の価値観が残っていると思い込んでいる

これが映画におけるエヴリンのマインドになっていました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は非常に難解な作品のように見えますが、物語は実にシンプルな構成になっています

「エヴリンとゴンゴンの関係性(家父長制の名残)」「エヴリンとウェイモンドの関係性(家庭内ヒエラルキーの理想と現実)」「エヴリンとジョイの関係性(多様性の理解)」

この3つが三本の柱になっていて、エヴリンがマルチバースを経験することによって、彼女の思い込みというものが解かれていく様子が描かれています

この3つの問題に対して、相手に理由を求めていたのがエヴリンという人物で、彼女が一番「固定概念」に囚われていたことがわかります

 

ジョイの暴走によって危機に陥ったマルチバースですが、その根源となるのは「全ての可能性を考えて行動に移したジョブ・トゥバキ」と「全ての可能性を否定して閉じこもったエヴリン」という構図になっていました

ウェイモンドはマルチバースへの開放を促し、ジョブ・トゥバキはエヴリンの固定概念を壊そうと誘います

これらの行動は「ゴンゴンに立ち向かうための布石」としてエヴリンに与えられたもので、ウェイモンドもジョブ・トゥバキも物語の構造的には「贈与者」という扱いになります

そして、精神的なパーティーを組んだことでエヴリンは覚醒を起こし、本来倒すべき相手であるアルファ・ゴンゴンと戦うことになったと言えるのではないでしょうか

 

エヴリンはジョイの感性に疎く理解力が低いのですが、忙しさを理由に後回しにして、見ないようにしてきました

娘と向き合えないエヴリンがジョイをジョブ・トゥバキにさせたとも言えますが、マルチバースは元々存在していた世界(ウェイモンドと駆け落ちした時から)なので、平行に走っていたはずのものが、エヴリンの逃避行動によって収束するハメになったのでしょう

そうした危機に際して、アルファ・バースは動き出すのですが、アルファ・バースでさえも「概念」のように思えてきます

そう言った意味においては、エヴリンの脳内の思考の衝突のようにも見えますね

これらの脳内逃避に至ったのはジョイの概念ではありますが、それぐらいエヴリンにとっては衝撃的だった、ということなのかもしれません

 

この解釈があっているのかは何とも言えませんが、単純な話を複雑に見せて、考察厨に水を与えた手法は賞賛に値するのかなと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384594/review/f3398522-539e-4b83-b566-343d28ec5f25/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/eeaao/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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