■外から人が来すぎて、ワンシチュエーションとしては一貫していないのは致命的でしたね
Contents
■オススメ度
ワンシチュエーション・スリラーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.3.9(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Ach Du Scheisse!(クソッタレ!)、英題:Holy Shit!
情報:2021年、ドイツ、90分、PG12
ジャンル:仮設トイレで動けなくなった男が脱出を試みるワンシチュエーション・スリラー&コメディ映画
監督&脚本:ルーカス・リンカー
キャスト:
トーマス・ニーハウス/Thomas Niehaus(フランク・ラム:仮設トイレに閉じ込められる建築家)
ギデオン・ブルクハルト/Gedeon Burkhard(ホルスト・ヴォルフ:次期市長に立候補する男、フランクのビジネスパートナー)
Yuki Iwamoto(タケシ:日本人の出資家の声)
Rodney Charles(ボブ:建設現場の爆破担当者)
オルガ・フォン・ラックヴァルト/Olga von Luckwald(マリー:フランクの恋人)
フリーデリッケ・ケンプター/Friederike Kempter(ドルテ・グリュン:自然保護活動家)
Björn Meyer(フーバー:フランクのコールで駆けつける警察)
Uke Bosse(ストーラー:警官)
Micaela Schäfer(ミカ:ストリッパー、広告の女)
■映画の舞台
ドイツ:バイエルン州
ブラスデッテン(架空)
ロケ地:
スタジオ内セット
■簡単なあらすじ
土地開発に携わっていた建築家のフランクは、ある場所で気を失って倒れていた
ストリッパーが踊る妄想が尽きた彼は、次第に状況を把握していく
プラスチックの壁に、大きな穴、色んなレバーがあって、救命道具なども備え付けられている
視界が生き返るごとに、その場所の不明瞭さが浮き彫りになってくる
意識がはっきりと戻った時、フランクは額にできた傷と、腕を貫通するスチールバーを認識する
そこで彼は、激痛とおびただしい流血を目の当たりにするのである
外からは何かのセレモニーのマーチングバンドの音が聞こえ、聞き覚えのある声が鳴り響く
フランクはそこがどこであるかを少しずつ思い出し、何があったのかの記憶を辿ろうとする
そして、ここが友人ホルストと開発していたリゾートホテル予定地であることを思い出し、仮設トイレの中にいることが判明する
現場では撤去予定の邸宅を爆発させる手筈になっていて、そのカウントダウンが近づいていたのである
テーマ:野心と暴走
裏テーマ:愛の行先
■ひとこと感想
この映画にテーマなんてものがあるのかわかりませんが、ともかく理不尽な仕打ちに耐えていく中で、状況を把握していく流れになっていました
このシチュエーションでどうやったら面白くなるか、というネタの凝縮になっていて、さまざまなアイデアがありました
ただし、最初からやっていることの本質はほとんど同じなので、少しばかりダレる展開になっていました
リアリティを考える意味はほとんどありませんが、とにかく「痛い」映画でしたね
冒頭のストリッパーのご褒美シーンはアレですが、なんで仮設トイレにあんなチラシが貼っているのか謎でしたねえ
ワンシチュエーション・スリラーということで、どうやって窮地を作り続けるかが鍵になっていますが、ボブがホルストを連れてくるところがピークでしたね
その後のグダグダな展開と、恋人とのラブラブなやり取りは「この期に及んで何をしているのか」とツッコみたくなってしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
どこまでがネタバレか分かりませんが、痛くて汚い時間が延々と続く中、後半は「犯人」の登場によって猟奇的な展開に向かいます
ここまで来てしまうとワンシチュエーションから逸脱してしまっているので、ネタが尽きたけど勢いで走り切ろうという意欲だけは理解できました
色々と考えてはいるものの、基本的には出血と爆発で余談を許さないという感じになっているのですが、致死量に達する出血はあるし、爆発によるダメージも無茶苦茶な感じになっていましたね
ボブは木っ端微塵なのに、トイレの中はセーフとかもそうですし、同じように外にいたグリュンは大丈夫だったりと、ほとんどギャグにしか思えない展開が続いていました
ガチの脱出劇というわけでもなく、コメディに振っているわけでもなく、リアル路線を行こうとしているわけでもなく、というように、目指す先がよくわからない感じになっていました
コメディに寄せるとしても、もっとアホらしい展開になった方が良かったでしょう
個人的には、すごく中途半端なものを見せられたなあという感じで、マンホールと比較だと、判定勝ちかなという評価になってしまいます
■どうしたら助かるか考察
工事現場の仮設トイレに入ったことがないので想像できないのですが、使えそうなものはほとんどないという印象があります
仮設トイレにも色んな種類が合って、「ポンプ式簡易水洗タイプ」「水洗タイプ」「簡易水洗タイプ」「非水洗タイプ」というものがあります
巡回させるもの、給排水工事を要する常設向け、ボットン式みたいな感じですが、映画の感じだと「ボットン式に手洗い場のみ水洗」という感じになっていました
映画の中だと、救命道具がありましたが、その他にはフランクが持っていたものしかありません
彼は建築士という職業なので、折りたたみ式のメジャーがありましたが、普通の人なら持ち歩いていないでしょう
あとは、なぜか体の下に転がっていたカナヅチがありましたが、これは工事現場にたまたまあったものという認識で良いと思います
状況はスチールバーが腕を貫通しているというもので、出血が継続中、かつ動脈性のものだったと思います
この状況だと、動くと出血量が増えるので、腕の根本をネクタイか何かで縛る必要があります
スチールバーは長さが不明で、抜くのは無理、切るのも無理という感じでしょう
また、スマホはボットンの中に落ちていて、かろうじて折りたたみ式の定規が届く距離になっていました
スマホは爆破のために障害電波が流されているために外部への連絡は不可の状態になっていましたが、後半に復活した際にかけるのは「110よりは119」の方が良いでしょう
そこで「事故で腕にスチールバーが貫通している」とだけ告げればOKで、日本の場合だと緊急通報は即時に位置情報が送信されます(119は同時に110にも通知がいく)
スマホの種類がわかりませんでしたが、緊急通報に関しては「パスワード不要」で、ロック画面から通報することが可能です
映画のように外部への連絡が遮断、爆破まで30分という状況だと、選択肢は「腕を捨てる」以外にないと思います
なので、貫通している腕を観察して、骨のない側を切るしかないでしょう
それが無理な場合だと、爆破に備えるしかないと思います
仮設トイレがそれに耐えうるのかはわかりませんが、時間と状況を考えるとできることがほとんどないのですね
なので、随分と無茶な設定をしたものだなあと思いました
ワンチャンあるとしたら、障害電波が流される前に「110コール」で「時限爆弾を発見した」で切った後に「119コール」で怪我の状況を訴えるしかないと思います
警察に根掘り葉掘り聞かれて答えている時間はないので、要件だけ伝えて切る
その後に救急に詳細を伝えて、再度110通報をする、という流れになります
ドイツの救急のシステムが日本とどう違うのかは分かりませんが、「110コールはいたずらを想定する」「119コールは状況把握を優先する」というふうに思って、自分本位で状況を伝えるしかないと思います
■勝手にスクリプトドクター
映画は前半はワンシチュエーションスリラーで、後半は猟奇殺人ホラーに様変わりしていました
おそらくは「仮設トイレの中から動けない」という設定だけ決めて、あとは「外部の人をどう動かすか」ということを考えた結果だと思われます
仮設トイレ内でできることはほとんどないのですが、トイレの鍵を切れるヤスリがあるなら、スチールバーを時間の限り削るしかないのですね
なので、ひたすら地味な展開になってしまうのはやむを得ません
映画では、市長候補の友人の暗躍ということで、その空間に追いやられた理由というものが徐々にわかってきます
それと同時に、閉じ込められた状況も少しずつ思い出していくことになり、肝心な情報は最後にわかるというテイストになっていました
これらの流れはそこまで悪くないのですが、ボブが来たあたりからかなり雑な展開になっています
ボブはなぜか警察などに連絡をせずにホルストを現場に連れてくるのですが、彼が近づいてフランクの状況を確認しない理由がわかりません
ボブは爆破装置の確認をするために現場に来ましたが、ホルストへの連絡手段としてトランシーバーすら持っていないのですね
それによって、現場を知っているホルストによって、さらなる犠牲者が出ることになりました
その後、警察が来てからもグダグダの展開が待っていて、目の前にトイレで倒れている男がいて、死体が2つある状況でホルストの話を聞くというのが意味不明なのですね
あの状況だと、ホルストが犯人であろうとなかろうと警察は彼を拘束するでしょうし、現場に駆けつけた段階で救急なり応援なりを呼ぶことになります
このような、普通なら起こすであろう行動を完全に無視しているので、とにかく窮地を作り込もうということだけに集中していて、整合性というものが全く考えられていないのが難点だと思います
これらを変えるとしたら、ホルストの犯行はもっと緻密で隠蔽が完璧でないとダメだと思います
特に活動家のグリュンを殴ったまま放置というのがあり得ないので、同じトイレの中に投げ込まれている、という方がしっくり来ます
はじめはグリュンが認知できていなくてもOKで、カバンを自分の方に落とした際に一緒に落ちてくるでも良いと思います
カバンの奥に何かひらひらしたもの(グリュンの服の一部)が見えて、それがはずみで落ちてくる
もしくは、死んでいるように見えるグリュンと同じトイレの中に閉じ込められているというのはアリでしょう
閉鎖空間スリラーなので、外部の人間は最後まで出てこない方が良いと思います
仮設トイレの中に「死体と一緒に閉じ込められている」という絵面の方が緊迫感がありますし、二人分の道具で何とか駆使して出るとか、足の引っ張り合いになる方が話が膨らんだかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は閉鎖空間スリラーの王道で、そこに閉じ込められていた理由を思い出すという展開を迎えます
工事を強行しようとしていた強欲な市長候補にハメられる展開で、その因果はあっても、フランク自体に落ち度はない理不尽な物語になっていました
エンディングとして考えられるのは、ホルストに仕返しをするというパターンで、今回は爆破を促すというアクロバティックな方法になっていたのは残念でしたね
絵面としては派手ですが、それでは何の解決にもなっていないように思えます
この因果を最大限利用するには、「政治生命を断つ」というものになるので、安着なシナリオだと「SNSなどのライブ配信で全世界に暴露される」というものになります
本作では、その方向に行かずに「ホルストを始末する」のですが、爆破を促す際の運任せが結構微妙な感じに仕上がっています
映画では、噛み切った動線をくっつけるという荒技になっていて、通電=爆破になっているのがファンタジーなのかギャグなのかわからない感じになっていました
ホルストを物理的に抹殺するというシナリオならば、彼の欲がピークになっている状態から落とすことになります
なので、会場から姿を消したホルストを探しに他のスタッフとか、観客がやってきてしまい、社会的抹殺が彼に迫る中、カウントダウンはそのまま進むという流れになった方が「立場の逆転」が起こって爽快感があるように思えました
会場には誰もいないし、観客もセレモニーが始まらずにイライラするでしょう
そこでホスストたちのところに人が来てしまい、状況を忘れて自分も隠れようとする
ホルストは一番惨めでバカな死に方をする方が良いので、彼が穴の中に隠れた瞬間に爆破が起こる(時間が来て)というのがシニカルな笑いを誘うと思います
とは言え、この内容で面白くなるかは微妙なラインでもあるので、もしこのシチュエーションで作るなら、ということを覚書程度に書いている感じになっていますね
個人的には設定に惹かれたけど、とんでも展開に呆れてしまったので、色んな感性が世の中にはあるのだなあと遠い目をして劇場を後にすることになりました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386720/review/f76225d6-dea1-43e9-baff-c3dc4ec6aa0d/
公式HP: