■枯れ葉になっているのは、木全体に活力がないからではないだろうか
Contents
■オススメ度
古き良きボーイ・ミーツ・ガール映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.3(京都シネマ)
■映画情報
原題:Kuolleet Lehdet(枯れ葉)、英題:Fallen Leaves(落ち葉)
情報:2023年、フィンランド&ドイツ、81分、G
ジャンル:理不尽な解雇を受ける女性とアル中の作業員を描いた恋愛映画
監督&脚本:アキ・カウリスマキ
キャスト:
アルマ・ポウスティ/Alma Pöysti(アンサ:理不尽な理由で失業した女性)
ユッシ・バタネン/Jussi Vatanen(ホラッパ:アル中の板金工場作業員)
ヌップ・コイブ/Nuppu Koivu(リーサ:アンサの友人、同僚)
Mia Snellman(アンサの同僚)
Alma-Koira(チャップリン:アンサの飼い犬)
Mikko Mykkänen(アンサを監視するショップの警備員)
Sherwan Haji(スーパーの店長?)
ヤンネ・フーティアイネン/Janne Hyytiäinen(ハンネ・フオタリ:ホラッパの同僚、カラオケ王)
Matti Onnismaa(板金工場長、ホラッパの雇用主)
Paula Oinonen(工場の同僚)
Jukka Rautiainen(工場の同僚)
Sakari Kuosmanen(ホラッパが泊まるホステルの客)
Martti Suosalo(ラウニオ:アンサが働くパブのマネージャー)
Alina Tomnikov(トーニャ:看護師)
Maria Heiskanen(看護師長)
Simon Al-Bazoon(インターネットカフェの店員)
Toni Buckman(「ゲット・オン」を歌うカラオケ店の客)
Mika Nikander(「セレナーデ」を歌うカラオケ店の客)
Evi Salmelin(カラオケパブの店員)
カイサ・カルヤライネン/Kaisa Karjalainen(バーで歌うデュオ「Maustetytöt」)
アンナ・カルヤライネン/Anna Karjalainen(バーで歌うデュオ「Maustetytöt」)
Misha Jaari(建築業者)
Olli Varja(駅の荷物運搬人)
Sami Muttilainen(ラウニオと絡む怪しい男)
Mitja Tuurala(ラウニオと絡む怪しい男)
Jukka Salmi(映画館の客)
Jaska Väre(映画館の客)
Viljami Penttilä(トラム停留所の若者)
Heikki Rautiainen(トラム停留所の若者)
Jaakko Ranta(トラム停留所の若者)
Leo Laitinen(トラム停留所の若者)
Aapo Penttilä(ガラクタコレクター)
■映画の舞台
フィンランド:
ヘルシンキ
ロケ地:
フィンランド:ヘルシンキ
カリオ/Kallio
https://maps.app.goo.gl/XqQQk9mDrYC5kiJm8?g_st=ic
アルパハリュ/Alppiharju
https://maps.app.goo.gl/KTeLJiua3DvYmY4Y8?g_st=ic
ヴァリラ/Vallila
https://maps.app.goo.gl/cMkwnmNQRAm1aruZ9?g_st=ic
ハカニエミ/Hakaniemi
https://maps.app.goo.gl/LoYFk8iNRUBP3kXZA?g_st=ic
フィンランド:
カルッキラ/Karkkila
https://maps.app.goo.gl/Vi7rJjDPTkoiUV3C6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
スーパーのスタッフとして働く独身女性のアンサは、ある理由からオーナーに監視され、期限切れのパンを持ち帰ったことを理由に解雇されてしまう
ある日、一緒に辞めた友人のリーサと一緒にカラオケパブに行った彼女は、そこで寡黙な工夫ホラッパと出会う
ホラッパはアルコール依存症で、仕事場でも隠し持った酒を持ち込んで飲んでいて、それが発覚したことで解雇されてしまう
カラオケパブでの邂逅後、偶然再会を果たした二人は、映画館で「デッド・ドント・ダイ」を鑑賞し、少しだけ距離を縮める
だが、帰り際に渡された連絡先のメモを失くしてしまったホラッパは、彼女に連絡することができずにいた
ホラッパは映画館で出待ちを繰り返し、アンサはタバコの吸い殻から彼の存在を感じる
そして、ようやく再会を果たし、彼女の家で食事をするものの、アルコール依存症がバレてしまう
そこでホラッパは、依存症克服に向けての努力を始めていくものの、ある事件が起きて、二人は再びすれ違うことになったのである
テーマ:邂逅の一歩先
裏テーマ:巡る岐路
■ひとこと感想
映像的には懐古的な印象が強い作品ですが、ラジオ放送は「ウクライナ戦争真っ只中」で現代ということがわかるようになっています
フィンランドのヘルシンキが舞台で、そこの娯楽はカラオケパブで熱唱することだったりと新鮮な感じがしました
それでも、社交場なのに誰もあまり話さないのが特徴的でしたね
映画は、アンサとホラッパの恋愛を描いていますが、高校生ぐらいのウブな感じに思えました
異性慣れしていないという感じではなく、微妙な空気感から会話慣れしていないのかなと感じていました
でも、「昨日結婚してたかもしれない」と同僚に話したりするので、ステップの踏み方が日本とは違うのかなと思ってしまいます
物語としてはそれほど劇的には動かず、会話の間が独特な感じになっていました
妙に引き込まれる感じですが、話の展開はもどかしいくらいにスローステップでしたね
それを感じさせないところが面白くて、それぞれのシーンが微妙に長めに設定されていたように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
タイトルの意味を考えると、彼らの年齢は結婚適齢期を超えつつあるのかなと想像してしまいます
原題は枯れ葉で、英題は落ち葉という意味になると思いますが、映画のイメージだと「枯れ葉」の方が近いように思えます
しがみついているようにも思えますが、決して落ちてはいないといないし、落ちている葉を拾っているとは思えません
彼ら自身が自分たちを落ち葉と考えている感じもしますが、本当に落ち葉だったら誰にも見向きもされないわけで、そこまで魅力がないと感じません
ただし、人付き合いは苦手なタイプに思えるので、若年期からうまく行くタイプには思えないところはありますね
映画では、二人の「すれ違い」をメインに描いていますが、最終的にアンサがホラッパが働いていた工場に来ていたのは驚きました
人材不足ということもあるのですが、狭い世界だったのだなあと思わされます
■映画登場曲について
【GET ON】THE HURRIGANES
冒頭のカラオケパブで客が歌っていた曲
【SYYSOIHLAJAN ALLA(秋のナナカマドの木の下で)】
フオタリが自画自賛するカラオケの曲
【セレナーデ】
カラオケパブで女性が歌う曲
【SYNTYNYT SURUUN PUETTU PETTYMYKSIN(悲しみに生まれ、失望を身に纏う)】マウステテュット
劇中で女性デュオが歌っている曲
■フィンランドの恋愛事情
映画では、アンサとホラッパの恋愛が描かれていて、1回目のデート後に「昨日、結婚しそうになった」と言うホラッパのセリフがありました
フィンランド独自と言うわけではありませんが、日本のように「告白」のない文化もあり、フィンランドの場合では「何回かのデートを重ねたのちに一緒に暮らす」と言うものがあります
告白よりも一緒にいる時間が快適かどうかを優先しているようで、体の関係が先になっている場合もあります
フィンランドの場合、日本では馴染みのない「事実婚」と言うものが合法的に認められています
婚姻状況は「デジタル人口データ登録事務所(Digtal and Population Data Services Agency」に登録されています
そこには様々な区分があり、事実婚は「パートナーシップ関係がある」と言う状態になります
さらに、パートナーシップ関係には「登記済」「未登記」と言うものがあり、登記済の場合は、一般的な婚姻家庭と同じ扱いになるとされています
この制度が始まったのが2002年頃からで、「性別に関わりなく」事実婚も認められるようになっています
そして、2017年の段階で同性婚も合法化にいたっています
フィンランドでは、結婚後の氏名選択もいくつかあり、同姓にするもの、別姓のままにするもの、複合姓(列記するもの)、創姓(新しく作るもの)が選択できます
これには届出が必要で、届出がない場合は「別姓」と言う状態になるとされています
このあたりの感覚は日本では未到達の部分ではありますが、結婚は個人間の契約であると言う考えが根付いているからだと推測されます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画のタイトルは『Kuolleet Lehdet』で、「Kuolleet」には「死んだ」と言う意味があります
「死んだ葉っぱ」と言うことで「枯れ葉」と言う邦題がついているのですが、英題だと「Dead」ではなくて「Fallen(落ちた)」と言う言葉が付属し、「落ち葉」と言う意味になっています
落ち葉とは、枯れている枯れていないに関係なく、地面に落ちている葉と言う意味があります
枯れ葉は、文字通り枯れてしまった葉と言うことですが、地面に落ちているかどうかは関係ありません
映画に登場する二人が「枯れ葉」なのか「落ち葉」なのかは微妙に思えますが、この場合の幹とか根に当たる部分は「社会」であると考えられます
フィンランドにおける一般的な幸福と言う意味にも捉えられますが、そう言ったものから逸脱している状態になっていて、それにしがみついているのか、手を離しているのかは何とも言えないのですね
フィンランドでは満18歳で結婚することができ、人口統計資料(2022年)では、2019年データで「初婚年齢、夫35.0歳、妻32.7歳」となっていて、二人の見た目の年齢はそこまで行き遅れているようにも思えません
なので、枯れ葉自体に問題があるのではなく、幹(あるいは根)が枯れているから葉も枯れている、と言う状態に近いのだと考えられます
映画のパンフレットの中に監督のインタビューがあり、そこでは「ヘルシンキはパートタイマー労働者で埋め尽くされている」と言う言葉がありました
これは現在のヘルシンキの雇用問題になっていて、アンサも劇中で職を転々とし、すぐに食うのも困る状況になっています
彼女の最初の職場は「ゼロ時間雇用契約」と言うもので、いわゆる残業代は出ない職場になっています
ホラッパの方も住み込みで働いていて、クビと同時に住処も失っていきます
このような社会構造が背景にあり、その中で偶然出会った二人を描いているので、感覚的には「社会構造が腐りかけていて、国民に充分な栄養が行き届いていない」と言う状況に見えてきます
そんな中でも、一緒に暮らす上で「アル中は無理」とアンサは突き放すことになっていて、それは貧しいながらも、寝食を共にする関係としては最低限の条件だったように思います
ホラッパは彼女との生活を夢見て断酒しますが、その後不幸にもトラムに惹かれて意識不明の重体になってしまいます
それでも、アンサの会いたい一心が二人を結びつけ、そして奇跡が起こる様子を描いていました
このような情勢でも愛で何とかなると言う希望が見えてきますが、彼らは自分自身で自分に栄養を与え続けなければならない状況なので、未来が明るいかどうかはわかりません
それでも、自分を変えることができたホラッパならば、何とか頑張っていけるのではないかと思えてしまいます
彼がその気になったのなら、アンサにも決意が生まれると思うし、根底にはお互いを求め合う部分があるので、彼らは土に還って、新しい芽となって育っていくのかなと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99293/review/03301361/
公式HP: