■イエメン内戦の歴史だけはググらないと何が起こっているのかわからない映画になっていると思います
Contents
■オススメ度
リアルな戦争映画が好きな人(★★★)
イエメン内戦に興味がある人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.4(T・JOY京都)
■映画情報
原題:Al Kameen(待ち伏せ)、英題:Ambush(待ち伏せ)
情報:2021年、アラブ首長国連邦&フランス、111分、G
ジャンル:内戦中のイエメンにて奇襲を受けた部隊を救出する作戦を描いた戦争映画
監督:ピエール・モレル
脚本:カーティス・バーテル&ブランドン・バーテル
キャスト:
マルワン・アブドゥッラ・サーリフ/Marwan Abdullah(アリ・アルミスマリ:囲まれるUAE軍の兵士)
ムハンマド・アフマド/Mohammed Ahmed(アル・ヒンダシ:囲まれるUAE軍の軍曹、最初の負傷者)
ハリーファ・アルジャースイム/Khalifa Al Jassem(ビラル・アル・サーディ:囲まれるUAE軍の准尉、アリの長年の親友)
Abdullah Bin Haider(アル・マズルーイ:大佐、現場指揮官)
【本部】
マンスール・アルフィリ/Mansoor Al-Fili(ジャマル・アル・カトリ:大佐、司令官)
Juma Mubarak(アルジャブリ:レスキュー・オペレーター)
マイサ・モハメッド/Maitha Mohammed(リーム:巡査、女性オペレーター)
Ahmed Bin Huwaiden Al Ketbi(ナディル:LJAVオペレーター)
Ibrahim Almusharaakh(マンスール・カシム::JTACオペレーター/航空爆撃担当官)
Saoud Al Kaabi(UAVオペレーター)
Maijd Al Jasmi(基地の戦術担当官)
【制空関係】
Talal Alasmani(戦闘機Fー16のパイロット)
マヒラ・アブデル・アジズ/Maheira Abdel Aziz(アパッチのパイロット)
【現地の兵士】
Khalifa Albahri(アル・サヤリ:1−1号車の運転手)
Hassan Yousuf Alblooshi(アブドラ・アルブローシ:1−1号車のパイプ好き軍曹)
Saeed Al Harsh(サイード・アル・シェヒ:1−2号車に乗る准尉、マズルーイの副官)
Salem Altamimi(サーレム:2号車の軍曹)
Mohamed Faisal Mostafa(2号車の運転手)
Abdella Ouksih(3号車の軍曹)
Majid Al Jasmi(オシュコシュ:軍曹を救出する兵士)
Abdullah Almaqbali(マタル・アルカトリ:車両ドライバー)
Abdullah Al Rashidi(ザカリヤ・アル・ファラシ:備品を粗雑に扱う兵士)
Hussein Saeed Salem(アブドラ・アル・ザヨッド:兵士)
Abdulrahim Ahmad(アルシャムシ:兵士)
Abdullah Almhairi(若い兵士)
Yaaqob Thabit(若い兵士)
【家族関係】
Nazia Chaudhry(アリの妻)
Shamma Yahya Alzaabi(アリの娘)
Amir Maen Mousa(アリの息子)
Reem Sulaiman(ビラルの妻)
【テロリスト関係】
Omar Bin Haider(アル・アルアリ:テロリストのリーダー)
Talal AlBloushi(テロリストのスナイパー)
Salim Musabah Khamis Alnaimi(スポッター、狙撃手の助手)
【その他】
Fares Bin Mazid(イエメンの兵士)
Khalid Al Maani(現地の牧師、指導者)
Abudulla Almhairi(現地の少年)
Saqr Ali Al Shaibah(現地の少年)
Mariam Alasmani(記念式典の訪問者)
Ghanim Nasser(野党の指導者)
■映画の舞台
2018年2月18日、
内戦中のイエメン南部
ロケ地:
アラブ首長国連邦
ラス・アル=ハイマ/Ras Al Khaimah
https://maps.app.goo.gl/cWdqzCizw1AnXVHu8
アブダビ/Abu Dhabi
https://maps.app.goo.gl/s4SLomsHGiueGU2i7
■簡単なあらすじ
2018年2月18日、イエメン内戦が続く中、現地民への物資補給のためにパトロール隊が峡谷へと差し掛かった
イエメン軍は車両故障で立ち往生している中、現地民からヤギを撃つ銃声を聞いたとの知らせを受け、アリ軍曹率いる部隊は峡谷の奥深くへと進んでいる
だが、そこは反政府テロリストが密かに牛耳る地域で、対戦車ロケット弾の砲撃を受けて、パトロール隊は立ち往生してしまう
2号車も被弾する中、何とか知らせを届けた1号車のアリたちだったが、仕掛けられた地雷を踏んで横転してしまった
UAE軍はレスキューチームを派遣し、カトリ司令官はマズルーイ大佐に現地の指揮を任せる
マズルーイはサイード副官に追加メンバを招集させ、現地へ向かう
サイードは敵の罠にワザと突っ込んで、対戦車砲の位置を確認する
さらに無人機を現地に飛ばし、対戦車砲の無力化のためにアパッチを要請することになった
テーマ:絆と約束
裏テーマ:目的と戦略
■ひとこと感想
イエメン内戦が舞台で、現地民への補給車が狙われるという内容で、当初は地味なのかなと思っていました
立ち往生して、撃たれまくるだけかと思っていたのですが、意外なほどに次々と画が変わっていきましたね
ほぼ同じ地点での攻防なのに、奥行きのある見事な内容だったと思います
物語性はほとんどなく、主人公のアリの背景がチラッと映る程度になっています
その他にもキャラはたくさんいるのですが、軍服にヘルメット、褐色の肌に髭と似たようなビジュアルが多すぎて、見慣れていないので誰が誰だかわからなくなってきます
通信も「1−1」みたいな暗号的なものでのやり取りになっていて、キャラの名前がほとんど呼ばれません
それゆえに「名前」すらわからないキャラがたくさんいて、違いが「何人に載っているか」ぐらいしかなかったりします
キャスト欄は何とか仕上げましたが、おそらく顔と名前が一致できる猛者はほとんどいないと思います
なので、参考程度に眺める感じでお願いいたします
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
イエメン内戦の余波を受けて、峡谷に住む現地民のために配給を行なっていたのですが、その舞台が攻撃の対象となっていました
敵のテロリストの目的がイマイチ不明で、武器を強奪したかったのか、単純にUAE軍出ていけなのかよくわからないところがありました
主人公はアリになると思いますが、結構な序盤で退場してしまうので、どちらかと言えば群像劇に近いのでしょうか
最初に地雷を踏んだ0-1号車?の3人と0−2号車の4人、第2救護装甲隊の2台、その後に5台ほどが突入し、合計9台が出撃して、最後に残ったのは2台だったように思います
マズルーイ大佐の「装甲車を壁にする作戦」が奏功し、さらに空域を支配できたのは大きかったですね
最後の空爆「全弾投下」は爽快さを超えて、悲しみを和らげるための過剰すぎる攻撃になっていたように感じました
■イエメン内戦について
イエメンの内戦は2015年から進行中の内戦で、最高政治評議会(フーシ派)とハーディー政権派&有志連合&南部暫定評議会、AQOP傘下のアンサール・アル=シャリーアによる「3つの勢力」が主導権をかけて戦っているものです
ハーディー政権(イエメン軍)にはUAE、サウジアラビアなどを含む十数か国が支援し、対アルカイーダに対してのみアメリカが参入しています
アブド・ラッボ・マンスール・ハーディ大統領を中心とする政権を認めないムハンマド・アリ・アル・フーシを大統領とする「フーシ派」がいて、アラビア半島からアルカイーダ(AQOP)が参入しています
2017年8月時点で、約5万人が死傷し、200万人以上が国内難民状態となっています
この戦いは、ハーディ政権を主軸とするイスラム教スンニ派と、シーア派(フーシ派)の代理戦争とも言われています
ハーディ大統領率いる「暫定政府」が南部アデンなどを実効支配していて、フーシ派は首都サヌアなどの北西部を実行支配している状態になっています
サウジアラビアなどのスンニ派はこの暫定政府を支援して、フーシ派に対する空爆などを起こしています
これに対して、フーシ派はイエメン国軍から奪った武器などを使用し、イランから供給されていると噂される弾道ミサイルなどをサウジアラビアに向けて発射しているとされています
これらは「アラブの春」の余波を受けて、2011年にイエメン騒乱が起こったことを起点としています
この時の大統領アリー・アブドッラー・サーレハには国内外から批判が集まり、彼の負傷によりハーディが一時的に権利を委譲されていて、大統領選には彼のみが立候補して2012年2月25日に大統領として正式に就任していました
フーシ派はこの選挙をボイコットし、その後2015年1月22日にフーシ派によるクーデターが起こります(映画の3年前)
これによって、ハーディ大統領とハーリド・バハーハ首相が辞任する事態に至っています
これによって、2月6日にフーシ派が政権掌握を宣言しています
その後の経緯については割愛しますが、今なお上記3勢力が政権掌握のために戦っている状態が続いていて、日本では2015年の段階で在イエメン大使館を閉鎖するに至っています
■モデルとなった事件について
本作のモデルとなった事件は、2018年にイエメンの港町モカ近くの峡谷で実際に起こった「フーシ派戦闘員」による待ち伏せ攻撃のことを言います
支援車両への攻撃は7時間に及び、兵士1名が死亡、多数の負傷者が出ています
この攻撃に対する司令官として、モハメッド・アルマズルーイ大佐が指揮を執り、映画の試写会の後にインタビューに答えていました
3人の軍人を乗せた支援車両は指定された場所に向かい、そこで待ち伏せ攻撃に遭っています
亡くなったのはアリ・アルメスマリ軍曹で、スナイパーによって銃殺されていました
この作戦には19人が参加していて、彼らの命を救ったことで英雄視されているが、マズルーイ大佐は「そのようなものではない」と語っています
なお、この戦闘が引き金になっているのかはわかりませんが、UAE軍は2019年10月にイエメンから撤退することになっていて、その後は数億ドルの人道支援を提供すると言う立場に変わっています
ちなみにイエメンのモカはタイズ県にある都市で、モカ・コーヒーで有名な都市になります
現在はフーシ派に占領されている地域になり、事件が起こったのは、モカの内陸部にある峡谷とされています
https://maps.app.goo.gl/S8988kh4M9FpetjL9?g_st=ic
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、史実をベースにした内容になっていて、約7時間の戦いからピックアップして描いていることになります
映画的な演出も多数あり、目撃証言が元になっているとは言え、目線は「UAE軍」に限られています
事件に至る経緯などはほぼ無視されていて、UAE軍が現地に関与している理由などは描かれていません
映画では、モカ周辺に暫定基地を置いているUAE軍が現地民への支援物資を送ると言う状況になっていて、その先で不穏な動きを感知して、パトロール隊が近づくと言う流れになっています
この情報というものが「偽の情報」で、嵌められていたのですが、映画に関してはスルーされています
歴史背景がわかれば敵がフーシ派のテロリストということがわかりますが、映画では全く説明されていないので、さすがに事前情報を入れておく必要がある内容になっていました
物語としたは、殉職したアリを主軸に置き、彼の背景などがサラッと説明されます
彼は支援部隊として、最初に現地に入ったパトロール隊で、このパトロール隊は2台の装甲車で編成されていました
その後、被弾を受けた2号車を救出する形で地雷を踏んで横転することになり、被弾した2号車は動くに動けない状況になっていました
その後、サイード率いる救援隊が現地入りし、対戦車砲の位置などを確認し、アパッチ投入(UAE軍)、その後のF-16による空爆(おそらくサウジアラビア軍)が行われたものだと推測されます
このあたりの流れを把握するのが難しいほどに激しい戦闘が繰り広げられていて、とにかく逃げるのに必死という感じに描かれていました
相手の持つ武器が思った以上に強力なのですが、このあたりはイエメン軍やイランから流入したものを使っているのかなと思います
今後、どのような闘争になるのかは読めませんが、イスラム教内の派閥による代理戦争である側面を考えると、永遠に続くイメージがありますね
宗教対立が根底にある闘争に日本が参加する意味はあまりないのですが、イエメンから石油やコーヒー、魚介類などを輸入している現状があります
また、イエメン側も日本から機械類や自動車などを輸入している状況なので、無関係とは言えないのは実情のように思えます
現在は「レベル4:退避勧告」地域に指定されていて、情報はほとんど入ってきませんが、現状で渡航する地域ではありません
また、コレラが蔓延している地域でもあるので、日本も人道支援を継続的に行なっています
2017年から毎年5000万ドル程度の援助を行なっていて、現在では約2億ドルを超える支援を行なっていることになります
これらの支援に批判が高まっている現状ではありますが、対外輸出入の関係を考えると無視できない状況なのだと推測されますね
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100571/review/03306920/
公式HP:
https://klockworx-v.com/ambush/