■最後のステージに二人を呼び寄せたのは、永遠の別れを決めていたからなのだろうか
Contents
■オススメ度
アイドルのセカンドステージの葛藤に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.4(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、85分、G
ジャンル:アイドルグループの卒業イベントに集う元メンバーの今を追うヒューマンドラマ
監督:吉野竜平
脚本:吉野竜平&戸梶美雪
キャスト:
水上京香(大石万理花:「ファンファーレ」結成時のメンバー、ダンス教室の先生&振付師)
野元空(須藤玲:「ファンファーレ」結成時のメンバー、服飾デザイナー)
喜多乃愛(西尾由奈:アイドルグループ「ファンファーレ」のリーダー)
橋口果林(武地凛:「ファンファーレ」のメンバー)
松崎未夢(有川桜子:「ファンファーレ」のメンバー)
白井美海(辻千波:「ファンファーレ」のメンバー、振り付け担当)
外原寧々(尾関あずさ:「ファンファーレ」のメンバー、玲のファン)
松浦慎一郎(内田淳平:「ファンファーレ」のマネージャー)
土居志央梨(辰巳加奈子:玲の上司)
中島歩(君塚斗馬:万里花のダンススクールのオーナー)
安達葵紬(玲の同僚?)
吉松磨黎(玲の同僚)
小澤雄志(玲の取引先?)
小野哲平(玲の取引先?)
■映画の舞台
都内某所
ロケ地:
東京都:新宿区
もつ家 大西
https://maps.app.goo.gl/4btuaUy4WPnTi3nYA?g_st=ic
東京都:中野区
サイクルセンターヤマグチ
https://maps.app.goo.gl/LDiN569UwFz5nP3t7?g_st=ic
SoyLatte Studio
https://maps.app.goo.gl/KeeTNVEZj2KHoYir7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
アイドルグループ「ファンファーレ」の創設メンバーであり、現在のメンバーでもある由奈は、自身の卒業ライブの楽曲の振り付けと衣装デザインを、創設当時のメンバー万理花と玲に依頼しようと考えていた
万理花はダンススクールでキッズ相手に教えていて、自身の夢は置き去りになっていた
玲は服飾デザイナーとして働き始めるものの、理想と現実のギャップに悩んでいた
創設メンバーとの仕事とは言え、会社を通したプロジェクトでもあり、それぞれには責任が生じてくる
だが、万理花のダンスは古臭いと言われ、玲のデザインはありきたりと衝突が始まってしまう
そんな中、由奈は最高の卒業ライブにしようとして、与えられた課題をメンバーとともにブラッシュアップさせていた
本番を2週間後に控えた頃、創設メンバー内で言い合いに発展し、それが原因で万理花は「降りる」と言い出す
だが彼女は、裏方である二人は「ファンの方向を向いていなければならない」という玲の言葉を受けて、その決意を固めていく
そして、本番当日を迎えることになったのである
テーマ:夢のその先にあるもの
裏テーマ:仕事の先に見るべきもの
■ひとこと感想
アイドルの第二の人生がうまく行っていない系の物語で、旧友のために奮闘する内容になっていました
現在のメンバーはほぼ10代後半で、その中にアラサーが一人混じっているような感じになっていて、このアイドルグループが10年存続していたのは奇跡のように思えます
どこかのグループの誰かを想定しているのかは分かりませんが、色んな意味でキツいだろうなと思っていました
映画では、10年を区切りに卒業を決意する由奈を中心に描いていますが、実質的な主人公は万理花と玲ということになります
この二人のセカンドステージが暗雲が立ち込めている感じなのですが、社会人経験がなく、アイドルとしてチヤホヤされていたらは、普通の会社でもハードルが高いのは当たり前のことだと思います
どんな世界でも、3年くらいはやってみないとわからないもので、彼女たちの会話からすれば「新生活2年目突入」くらいだと思います
アイドルから転身したことで目立つ時期が終わり、文字通りに能力が試されていくのですが、一度夢が叶った人には、叶った人なりのハードルというものが生まれていたのではないでしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
アイドルの「卒業」という言葉に違和感を持っている世代ですが、その後、彼女たちがどんな生活をしているのかほとんどわからないことの方が多いですね
知名度がゼロでフェードアウトなら無傷なのでしょうが、10年続いたグループの創設メンバーなら全く違う業界に行くのは厳しいと思います
ダンススキルを活かして、留学の前にスクールでお金稼ぎのつもりが、いつの間にか夢を置き去りにしている
憧れた業界に入ったけど、2年目では雑用ばかりで花形には行けない
社会人経験者からすれば「で?」という甘えにしか見えませんが、彼女たちとしては精一杯頑張っているということになるのだと思います
アイドル時代もかなり厳しかったと思いますが、その華やかさの裏側に対して、どれだけ感謝できていたのかは気になりますね
ファンの方を向いていないと言われる始末では疑問視されるレベルですが、これまでのマインドをうまく転換させることが難しいのも理解はできるかなと思いました
■セカンドステージという新世界
映画は、アイドルを続けている女性と既に辞めてしまった女性が再会するという内容で、続けているアイドルも卒業することになっています
活動期間が10年間、2年前に二人が辞めてから新メンバーが4人増えて、3人→5人の体制に変わっていることがわかります
映画のステージが終われば新メンバーだけの4人体制になるので、実質的には別のグループになると言えるでしょう
創設時のメンバーは、それぞれダンススクールの先生、服飾デザイン会社で働いていて、いわゆる「第二の人生」を歩んでいることになります
万理花はダンサーとして生きていきたいけれど、日常に埋没している状況で、玲は理想の会社に入ったけど、現実に晒されている段階ですね
二人はアイドルという社会人経験がありますが、これまでの「エンタメ企業のパフォーマー」も会社組織の中の歯車のようなものだったと言えます
とは言え、自分の実力で這い上がっている感があり、成功というものがどのように導き出されたのかは理解していないのでしょう
万理花はダンサーとして芸能界での別の人生を歩むことを考えていて、玲は裏方として関わっていくのですが、どちらも芸能界というものに見切りをつけてはいません
自分はアイドルダンサーではないと思っている万理花と、アイドルとしては適齢期を過ぎたので、自分の得意なもので関わりたいと考えているのが玲、ということになるのでしょう
でも、それはこれまでのステージとは全く異なる世界であり、それまでの能力では生きていけない世界になっていました
ダンサーとして生きるには「ダンサーの技術」が必要で、それはオーディションなどを主体としたものから、誰かを育てた実績、現在だとSNSなどでバズるなどの要素が必要になってきます
現在では、ダンスグループが歌唱なしに音楽番組に出るという時代になりましたが、その一角に食い込むのはダンススキルだけではダメだということがわかっています
玲はこれまでに自分のグループの衣装のアイデアを出してきて、それが採用されたことで面白さを感じていますが、実際の衣装デザインの会社には他にやるべきことがたくさんあります
彼女がフリーランスとして、デザイナー1本でやっていけるかというと難しくて、今の会社で実績を積んで、玲のデザインだからという状況にならなくてはなりません
いわゆる自分をブランド化するという状況が必要になっていて、これは万理花も同じ状況になります
そして、二人はセルフプロデュースをしながら、セルフマネジメントをしていくようにならないと、本当の夢には辿り着けないのではないでしょうか
■顧客の方を見つめつつという現実
映画の中で、玲は万理花に対して「自分のスタイルだけを貫いている」という趣旨の、顧客やメンバーの声を聞かない独りよがりのダンスであると断罪します
これまでは「自分が踊りたい踊り」というものをグループに取り入れてきて、それは他のメンバーにも踊ってほしいというものがあったでしょう
でも、今回は由奈のためというものも抜けていて、他のメンバーのことも考えていない
さらに、「ファンファーレ」のファンが何を求めているかというところも見失っていたように思います
どのような職種でも、最終到達点は「顧客との会話」になり、今回の場合は「配信先のファン」ということになります
しかも、由奈を最後に観るライヴという前提があるので、由奈から新メンバーへの役割の移譲というものもダンスに組み込まなければなりません
由奈が現在のグループでセンターなのか脇なのかもわかりませんが、その現在の状況を踏まえた上でサプライズを仕掛けていくことになります
由奈の現在のグループ内役割を理解し、そしてラストライブとしての存在感と意味を持たせる
ここまでできてようやくスタート地点であると言えます
これは玲の仕事にも関係していて、これまでのファンファーレの衣装を全て考慮し、由奈の衣装の変遷というものを見ていかなければなりません
玲と万理花にも卒業ライブがあったと思いますが、その時にどのような衣装が用意されたのか
グループの成長とともに変わってきたものは何なのか
このあたりを理解して上での最高到達点を見ていかなければなりません
ファンファーレのファンは「これまでの歴史」を演者よりも理解している存在で、由奈のラストライブは「言い換えればシリーズの映画の最終章」のようなものなのですね
なので、ファンはこれまでのシリーズの全てが伏線になっていることを期待し、独自の解釈を持って期待を膨らませている状況にあります
そして、仕掛ける側はそれらの思惑を超えて、ファンとの対話をステージで行うことになります
ダンスには「これまでのファンファーレの歴史」が詰まっていて、衣装も同じ素養が必要になる
そういった懐古的なものも踏まえつつ、バトンタッチをしていくことで、今後のグループの方向性というものを宣言する立場になります
これらの要素を念頭に置いておけば、衝突している時間などなく、それらに専念するための時間をもっと作らなければなりません
映画はそこまで厳しい世界としては描かれていませんが、パフォーマーとしては「何度も見たいものを作るよりは、一夜限りの伝説を作る」という命題があるので、それに向かっていない新メンバーを叱責する、ぐらいの役回りになっていないとダメなんだと思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、アイドルのその後を描くという面白い内容になっていて、現在1万人もいるとされる大多数のアイドルが迎える未来を予見しているようにも思えます
10年アイドルを続けることも奇跡のレベルで、国民的アイドルと呼ばれる人たちでも、50人ぐらいの一軍で一人いるかいないかという感じになっています
一般企業などと違い、適齢期というものが存在するので、特に女性アイドルの活動期間というのは短くなっています
男性アイドルグループだと10年越えはチラホラいますが、女性アイドルグループがそのまま残っていることはほとんどありません
ファン層が求めるものというのが男性と女性では違っていて、それが残酷な結果を生み出していることもありますが、アイドルとしての振る舞いに耐えられないというのがあるように思えます
この辺りは個々のビジュアルによると思うのですが、それよりは世間の常識や小言に耐えられるかの方が問題なのだと思います
アイドルはルッキズムが重視されるのですが、加齢というものを誤魔化すのに限度があります
また、加齢とともに体が動かないのも必然的で、中にはマジか!という魔境に住んでいる人もいますが、新陳代謝が激しいグループだと、世代が違うメンバーと同じ動きをすることが求められます
このあたりに限界点があるのだと思います
映画は、一度脚光を浴びた人が再生する様子を描いていて、もう一度同じ舞台で輝きたい人と、全くの影に潜みたいという人がいました
映画内では確定しない由奈の引退理由ですが、彼女自身の言葉をそのまま受け取ると、「疲れた」「この業界は無理」というものだと思います
このように思う人も多い業界だと思うし、アイドル業界自体が理想と現実のギャップだったという人もいると思います
ステージに上がるまで到達できる人は、それらのファーストステップをクリアしてきた人でもあるでしょう
でも、その世界に無理に自分を嵌め込んでいる人は少しずつ疲弊していくものだと思います
映画ではほぼふれられない由奈の苦悩ですが、見ていると感じるのは「万理花と玲が抜けたこと」が最大の理由であると思います
新しいメンバーのお姉さん的な存在として頼られる一方で、自分の悩みを打ち明けたり、普段の何気ない会話をが通じる相手がいない
この孤独に耐えられたのが2年間というもので、それが噴出した結果が「田舎に帰って休みたい」というものでしょう
万理花と玲に遠慮をする形で言葉を選んでいますが、二人からも距離を置きたいという意味になるので、その疲弊の度合いはとても強いものなのだと思わされます
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99777/review/03306926/
公式HP: