コンクリートは、内側から脆く崩れ去る


■オススメ度

 

ディザスター系パニック映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2024.1.5(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:콘크리트 유토피아(コンクリート・ユートピア)、英題:Concrete Utopia

情報2023年、韓国、130分、G

ジャンル:ディストピアにてリーダーに祭り上げられる男の顛末を描いたディザスターパニック映画

 

監督脚本オム・テファ

 

キャスト:

イ・ビョンホン/이병헌(キム・ヨンタク:皇居アパートの代表になる男、902号室)

パク・ソジュン/박서준(キム・ミンソン:ヨンタクに気に入られる若者、防犯隊員)

パク・ボヨン/박보영(チュ・ミョンファ:ミンソンの妻、看護師)

 

キム・ソニョン/김선영(キム・グメ:皇居アパートの女性副会長)

イ・ヒョジェ/이효제(ジヒョク:グメの息子)

キム・シウン/김시운(チョンウ:ジヒョクの友人)

 

パク・ジフ/박지후(ムン・ヘウォン:元903号室の住民、隣人を知る女性)

 

キム・ドユン/김도윤(ドギュン:809号室の住人、糸球体腎炎の家具デザイナー)

 

クォン・ウンソン/권은성(ジョモン:ミョンファが匿うドリームパレス出身の幼児)

イ・ソンヒ/이선희(ジョモンの母)

 

ナチョル/나철(ユ・ドンフォン:国会議員)

キム・ハクソン/김학선(ユ・ドゥヒョン:地域区の国会議員)

キム・ビョンスン/김병순(皇居アパート警備員)

 

パク・ジョンフン/박종환(へウォンをいやらしい目で見る隣人、詐欺師)

カン・エシム/강애심(認知症の母親)

 

パク・ギョンチャン/박경찬(スーパーマーケットのオーナー)

 

クァク・ジャヒョン/곽자형(ワン氏:23年かけて入居した夫婦、外部排除を主張)

イ・ウンジュ/이은주(ワン氏の妻)

 

ナム・ジンボク/남진복(会議の言い合いを宥める1004号の男)

イ・ソファン/이서환(パク所長:アパートの裏切り者)

 

チャンソン/장선(倒壊アパートの生き残り女性)

キム・クォンフ/김권후(倒壊アパートの生き残り女性)

キム・ソンギュン/김선경(倒壊アパートの生き残り女性)

 

オム・テグ/엄태구(肉を食っているホームレス)

キム・ジュンベ/김준배(ホームレス)

チョン・ヨンギ/정영기(ホームレス)

オ・ヒジュン/오희준(ホームレス)

 

【外部関連その他】

カン・イル/강일(ヤン社長)

チョ・ヨンド/최영도(オウ氏:ドリームパレスの住人)

イ・ジヘ/이지해(オウ氏の妻)

キム・ヨンジョン/김용준(イム:部門長)

キム・ドンゴン/김동곤(不動産業者)

 

【皇居アパート関連その他】

キム・サンドン/김상동(皇居アパートの老夫婦)

キム・ボンヘ/김봉희(皇居アパートの老夫婦)

ハン・ジョンナム/황정남(206号室の住人)

キム・ヘサン/김희상(307号室の住人)

ソン・ミンソク/손민석(209号室の住人)

チョンヨン/전영(医療班のリーダー)

チョン・ウンギョン/정은경(チョン夫人)

ペ・ギボム/배기범(韓服の男)

チュ・イニョン/주인영(金浦出身の女性)

キム・イェウン/김예은(コハブの女性)

ビョン・ジンソ/변진수(民間警備員)

クァク・ミンギュ/곽민규(受験生)

キム・ホンクク/김홍국(物物売買の男)

 


■映画の舞台

 

2023年12月13日、

韓国:ソウル

 

ロケ地:

韓国:ソウル

 


■簡単なあらすじ

 

2023年、極寒のソウルにて、原因不明の天変地異が起き、都市は壊滅状態になっていた

そんな中、皇居アパートと呼ばれるマンションの1棟だけが倒壊せずに建っていて、生き残った人々はそこに集うようになっていた

 

住人たちのストレスは溜まり、治安も悪化の一途を辿る

そんな中、住民の代表だけが一部の部屋に集まり、今後どうするかを話し合うことになって

 

軍隊経験のあるミンソンは意見を求められ、彼は「システム」を作るべきだと答える

そのために「命令系統」を一本化する必要があり、「決める人=代表者」を決めた方が良いとのことだった

そして、話し合いの結果、住居を火事の倒壊から救ったヨンタクが選ばれることになった

 

住人たちは「掟」を定め、住人以外の全員を追い出してしまう

そして、食料を求めて治安部隊を設立し、住民のために人々は一体化していくことになるのである

 

テーマ:住民とは何か

裏テーマ:目的と行動

 


■ひとこと感想

 

地球が滅びるレベルの地震のようなものが起きて、その中で奇跡的に1棟だけが残ったらという設定になっていて、その中で生まれる政治というものが主題になっていました

火事を消した男ヨンタクが代表に祭り上げられ、住民のためにをモットーに、合言葉まで作って結束を固めていきます

記録的な極寒という設定があり、その為に人は殺伐とするのですが、食料の中身を考えると、みんな元気に動き回っているなあと思ってしまいます

 

映画は、天災に関する説明は一切なく、どこかの兵器であるとか、隕石であるとか、巨大地震であるとか、色んな可能性が残っていました

そんな中で無事に見える建物がいたらというシチュエーションパニックで、そこまで絶望的な阿鼻叫喚にならなかったのはリアリティに欠けるかなと思いました

何分、儒教と家長制が残っている国なので、その割には女性の扱いはマシに思えてしまいます

 

とりあえずは、生存欲求が最優先されているので、性欲の方には踏み切らないのですが、寒すぎてそれどころではないといことなのかもしれません

食料も保存食が尽きれば終わることがわかっているのに、誰一人「この環境で生きていく為の農業」などを始めないところがすごいですね

都会のアパートとタワマンのいがみ合いのような感じになっていますが、普段の差別意識というものが表面化しているのかなと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

能登半島地震の当週に公開ということで、延期の話が出るのかなと思いましたが、むしろ「比較」「反面教師」的な内容として公開される運命だったのかなと思ってしまいました

国民性が出ているかどうかは何とも言えないのですが、近隣住民トラブルが未曾有の危機で起こっているという設定になっているので、元々遺恨があったもの同士の諍いの延長線という感じになっています

 

物語は、ヨンタクとは何者かを後半に用意していて、それまではわかりやすい隣人トラブルとサバイバルを描いていました

ヘウォンが自分の家に帰ってきたことで「暴露」が始まるのですが、それでも「住民のため」という名目で突き進むヨンタクを否定できる人間が少ないのは驚いてしまいます

 

主人公夫婦は別の安息地を探しにいきますが、そこには倒壊したマンションで暮らす人々がいました

「普通の人」から逃げ延びた彼女にしてみれば、ここで遭遇する普通は奇跡のような場所だったのかもしれません

 


この危機にどう立ち向かうべきか

 

映画では、未曾有の天変地異のような災害になっていて、まるで隕石でも落ちたかのような状況になっています

舞台となる皇居アパートは、ブームの時に作られた集合住宅の一つで、崩壊を免れたのは「103棟」という建物でした

そして、この集合住宅の近辺にタワマンのような高級マンション・ドリームパレスが建っていたようで、そこの住民が流入する騒ぎとなっています

 

被害状況としては、ライフラインの寸断どころか、国の機能が完全に停止しているディストピアで、ここまでの災害というのは近年ではどこでも起こっていません

ある意味、究極の舞台設定を作り上げ、そこで人間はどのような行動を取るかというものを描いているのですね

例えば、通信が生き残っていれば「外界への助け」を求めることになり、この地に留まってどうするかということを描けません

そう言ったものが皆無なので、外界と連絡を取ろうと考える人は皆無で、ディストピア映画にありがちな、SOSを屋上に掲げるみたいなことはしていませんでした

 

国が崩壊しない程度の災害ならば救援を待つということもできますが、この映画における災害は国も崩壊しているだろうと考えられるレベルなので、誰もその方向には向かいません

むしろ、治安というものがない状況で、何をしても逮捕されたりしないのですね

この状況は何でもありの状態になっているので、一線を越えられる人間が強さを発揮すると言えます

 

このような状況になった場合、誰が一線を越えるかわからないので、集団からは距離を置くというのが最適解のように思えます

後半に登場する自助共助の関係になれれば理想ですが、「住民を追い出す」という案が通った段階では距離を置くしかないと思います

集団心理の暴発というのは、いつどこで起きるかはわかりません

むしろ始まってしまってからでは逃げられないので、落ち着いているように見える間に行動を起こすしかないように思えます

 

現代人は情報を外部に置いているので、何かあったときに何もできないという状況になります

スマホが使えるような災害だと知恵も入手できますが、そう言ったものがないと、自分が有している知恵か、運よく書籍などを手に入れられた場合ぐらいしか活路がありません

サバイバル関係のデータをPDFでスマホ本体にでも入れていれば話は別ですが、災害備蓄をしていても、国が滅ぶレベルは想定していません

なので、この映画クラスの災害になった場合は、自力で生きていける場所を体力のあるうちに探すということになります

映画のような一見安全そうに見える建物が一番危険なのは明白で、これまでの人間関係や印象はリセットされるものだと考えておいた方が良いと言えるのではないでしょうか

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作は、閉鎖空間内パニック映画としての設定は面白いのですが、極限状態の割には理性的な動きが多くて驚いてしまいます

特に、韓国では登録制の銃器を警察に預けているという国なので、それを探しに行って制圧しようと考える人がほとんどいないのは不思議でした

また、ある程度の食欲が満たされると、その他の欲求が入る隙が生まれてきます

その最たるものが性欲であったと思います

 

映画では、食らうために人を襲うということもなければ、犯すために異性や同性を襲うということもありません

暴力的な問題もそこまで激しいものではなく、緩やかなものになっていました

個人的には、ミンソンが死んだ段階でミョンファがホームレスに襲われるんじゃないかと思っていたのですが、まさかのコロニーの住人に助けられるという展開になって拍子抜けしてしまいました

この世界を支配するために何が必要かというものが描かれていませんが、暴力や食料というものは直結すべき案件だったはずなのですね

 

ドリームハウスの住人も食うに困り皇居アパートに集っているのですが、一旦は押し出されたとしてもそこからが大人しかったりします

生きるか死ぬかという瀬戸際で柵の外に潜伏しているというのは不思議で、もっと皇居アパートの日常を脅かすような動きが次々に生まれてもおかしくありません

皇居アパートに留まることが良いのかどうかという議論が巻き起こるほどに危険地帯と化し、その攻防に向かうパワーを別のところに流用するかどうかという議論も起こってくると思うのですが、そう言った方向には進みませんでした

映画のオチが「倒壊アパートで自助活動」というところに落ち着いているので、人間が生きていく上で「あえて安全と思われる建物を捨てる」という選択が生まれています

それが起こる段階が遅いのではないかと感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、ヨンタクの正体を後半のミステリーにしていて、担がれた人物の過去を詮索するかという命題に移っていきます

その方面としても掘り下げが甘く、ヨンタク派と反ヨンタク派というものが生まれそうな下地も無視されていました

映画では、その議論に入ると同時に他の住民によるテロが起きてしまい、その命題の答えは出ないまま、ミンソンとミョンファの予後だけが描かれています

 

映画としては、皇居アパートがどうなるのかというところを着地にした方が良いので、それ以外の土地で物語を結ぶのは悪手だと思います

それでももし描くのなら、皇居アパート自体が戦場となって、人の手で倒壊し、例えばグメあたりの世渡りの上手い人間が逃げ出すという展開になると思います

そして、ミョンファと同じように倒壊アパートに辿り着くという流れになるでしょう

彼女としては、これで安住の地を見つけられたと思いますが、実は楽園に見えるところは皇居アパートよりも残酷なところで、グメはあっさりと殺され、植物の養分として再利用されるという流れも悪くないと思います

 

おそらくここまで悲劇的な展開になるとドン引きされると思うのですが、その安住に思える地を作ったのが、皇居アパートに住んでいた人たちだったというオチにすると良いでしょう

グメはそこで自分を知る人物に殺されるのですが、それは皇居アパーチ時代のグメを知るからこそ、混乱をもたらす疫病神的な扱いになるのですね

事実、皇居アパートの崩壊に繋がったのは、彼女がヨンタクを推したからであり、彼女は常に誰かを代表に立たせて自分は甘い汁を吸う人物だったと暴露されることでしょう

このラストの伏線として、ヨンタクの「口だけ出してるのは楽ですね」という言葉になり、それが彼女自身の過去を表していることになります

映画では、その答え合わせをした後に、「皇居アパートから距離を置いた人々が楽園を作っている」という皮肉を描くことで、もう一段面白みのある物語になったのではないかと思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/100065/review/03329746/

 

公式HP:

https://klockworx-asia.com/CU/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA