■軍規からの解放、秘密からの解放、そして執着からの解放
Contents
■オススメ度
LGBTQ+の映画に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.12(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Firebird
情報:2021年、イギリス&エストニア、107分、R18+
ジャンル:空軍パイロットと二等兵の禁断の恋を描いた自伝映画
監督:ペーテル・レバネ
脚本:ペーテル・レバネ&トム・プライアー&セルゲイ・フェティソフ
原作:セルゲイ・フェティソフ/Sergey Serebrennikov『ローマンについての物語(Firebird:The Story of Roman)』
Amazon Link (洋書)→ https://amzn.to/49xJRZT
キャスト:
トム・プライヤー/Tom Prior(セルゲイ・フェティソフ/Sergey Serebrennikov:ソ連軍の若い二等兵)
(少年期:Romek Uibopuu)
オレグ・ザゴロドニー/Oleg Zagorodnii(ローマン・マトヴィエフ/Roman Matvejev:新しく赴任する戦闘機のパイロット)
Diana Pozharskaya(ルイーザ:セルゲイの友人、軍部の記録係)
Jake Henderson(ヴォロージャ:セルゲイの親友)
Margus Prangel(ズベレフ少佐:セルゲイたちを監視するKGB)
ニコラス・ウッドソン/Nicholas Woodeson(クズネツォフ大佐:基地の責任者、司令官)
【軍部関連】
Kaspar Velberg(セレノフ:ローマンを敵視するパイロット)
Rasmus Kaljujärv(パイロット)
Lauri Mäesepp(パイロット)
Karl-Andreas Kalmet(パイロット)
Vladimir Nadein(若い兵士)
Markus Luik(ジャニス軍曹)
Anatoli Tafitsuk(イワン:メカニック)
Nils Mattias Steinberg(カラマジン:兵士)
Sten Karpov(当直担当)
Carmen Mikiver(軍医)
Mihkel Kabel(ポポフ:国境警備隊)
Ilja Toome(レーダーオペレーター)
Kuldar Kritjan Kurg(兵士)
Karl Markus Antson(二等兵)
【親族関連】
Henessi Schmidt(オルガ:ルイーザの友人、赤ん坊の母)
Catherine Charlton(ルイーザの叔母)
Monika Jallajas(ルイーザの母)
Vadim Sehvatov(ルイーザの父)
Gregory Kibus(ディーマ:セルゲイの幼少期の友人)
Marge Sillaste(セルゲイの母)
【モスクワ演劇学校関連】
Ester Kuntu(マーシャ:セルゲイのモスクワ時代の友人、女優)
Deni Alasaniya(イリヤ:セルゲイのモスクワ時代の友人、俳優)
Sergei Lavrentyev(演劇の教授)
Imre Sooäär(劇場監督)
Markus Habakukk(ギルデンスターンの同級生)
Jaanika Arum(ボヘミアンな同級生)
【ファイアバード関連】
Thomas Edur(ファイアバードの振付師)
Alena Shkatula(ファイアバード役の女優)
Anatoli Arhangelski(コシチェイ役の俳優)
Jevgeni Grib(王子役の俳優)
Inessa Glazõrina(王女役の女優)
【その他】
Kaie Körb(アンナ:?)
Eduard Toman(トーストマスター)
Britta Soll(カティア:?)
Luule Komissarov(家主)
Anne Paluver(車掌)
Aavo Pekri(KGBの男)
Deniss Bogosjan(郵便屋)
Artur Tjulenev(荒くれた労働者)
【ダンサー】
Andrea Fabbrix
Marcus Nilson
Anna Roberta Lahesoo
Christina Krigolson
Kersti Kuuse
Karina Laura LeshkinDancer
Ksenja Seletskaja
Maia Shutova
Benjamin Gareth
Edward Thomas
Konstantin Belokhvostik
Nikolaos Gkentsef
■映画の舞台
1900年代前半
ソ連領エストニア
ロケ地:
マルタ共和国
エストニア
ロシア
エストニア:
ソンパ/Sompa
https://maps.app.goo.gl/MnLEWWSM6GRNVSK76?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1900年代、ロシア領エストニアにて、少年セルゲイは、友人のディーマを海で亡くしてしまう
それから十年後、セルゲイは空軍に入り、司令官クズネツォフ大佐の元で働いていた
大佐は軍に残ることを切望していたが、セルゲイは故郷に帰って、母の面倒を見たいと考えていた
彼には書記係をしているルイーザとヴィロージャという友人がいたが、その関係はパイロットのローマン・マトヴィエフの赴任によって大きく変わってしまった
二人のマドンナ的存在だったルイーザはローマンと親密になり、セルゲイはその関係を恨めしそうに眺める
だが、それはルイーザを奪われたことではなく、ローマンが異性と親密になっていたことが原因だった
ある日、ローマンと共に劇場に出かけた帰り道、二人は距離を劇的に縮めてしまう
だが、当時のロシアは軍部内の同性愛は懲罰の対象として厳重に監視されていた
そして、KGBへの密告を機に、二人の間に障壁ができてしまう
やがて、舞台に感銘を受けたローマンはモスクワの芸術学校に入学し、ローマンは軍への申し開きと言わんばかりにルイーザと結婚してしまう
セルゲイは彼女への愛が本物かを疑っていたが、それを確かめる術はもうなかったのである
テーマ:愛と衝動
裏テーマ:禁断の果実
■ひとこと感想
ポスタービジュアルからガッツリ同性愛映画であることがわかり、R18+ならではの過激な絡みがたくさんありました
最近は慣れてきたのでノンケでも嫌悪感はありませんが、いつも思うのは「美男子同士だから観るに耐えるのだろうな」というルッキズム全開の考えなのですね
かつて、アダルトグッズ売り場で働いていた経験からすれば、最近のLGBTQ+は美化されすぎていて、それで良いのかどうかは悩んでしまいます
とは言うものの、ガチのLGBTQ+だとノンケの人は瞬間で劇場を出てしまうと思うので、映画として成立させるには、このようなルッキズムに傾倒しなければビジネスとしては成功しないのでしょう
物語は、上官に恋をした二等兵の目線で描かれていて、これは実際にセルゲイの中の人が書き残した回顧録をベースに物語が作られています
なので、彼目線でローマンを見ながら、彼に降りかかる理不尽さと激情を体感するようなつくりになっていました
LGBTQ+の映画ではありますが、『エゴイスト』に近い印象があり、たまたま好きになった人が同性愛者だった、と言う延長線上で綴られていましたね
なので、特別視する必要はなく、純粋なれない映画として鑑賞するのは問題ないと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画ブログ作成の最短距離のために映画のパンフレットは必ず購入するのですが、家にあるどのパンフレットよりも大きなサイズにびっくりしてしまいました
これまでは『BLUE GIANT』のLPレコードサイズが最大でしたが、本作のパンフレットはおそらくA3かB4サイズなんだと思います
カバンに入らないし、紙が脆い感じなので、少しでも雑に扱うとボロボロになってしまいそうに思います
映画は、ガッツリ絡みありの恋愛映画で、軍規に逆らえば懲罰では済まない世界で、それをいかに隠していくか、と言う流れになっていました
少佐は内部を監視するKGBで、冒頭のルイーザとセルゲイの会話ですらすべて盗聴されていましたね
そして、密告によって問題が表面化し、少佐が様々なシーンで「確認」を来ると言う展開になっていました
物語としては特筆すべきものではなく、彼の幼い頃のトラウマとどう向き合うのかとか、禁断の恋をどう生きるのかという選択が描かれていました
後半にルイーザがある写真を見つけるのですが、この時の絶望感は想像するだけでゾッとする内容でしたね
さらに追い討ちをかけるようにアフガンへの派兵が決まり、その機会は永遠に失われることになりました
映画は舞台の引用がメインで、タイトルにもその劇の主人公の名前が使われています
個人的には「まさかの空中で火の鳥になってしまうのでは?」と恐れていましたが、それを匂わせるシーンがきちんとあるところに伏線の効能があったように思えました
■劇中舞台『L’Oiseau de feu(The Firbird)』について
映画内で観劇するのは、イーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)が作曲した『L’Oiseau de feu(英題:The Firbird)』でした
1909年から1910年にかけて作曲されたもので、1910年のパリ・オペラ座にて初演がなされています
振り付けはミッシェル・フォーキン(Michel Fokine)、指揮はガブリエル・ピエルネ(Gabriel Pierné)でした
物語は、主人公のイワン・ツァレヴィチが金と炎の鳥を見つけるところから始まります
捕まえることはできませんでしたが、その羽をひとつだけ引きちぎる事に成功します
それによってイワンは、恐ろしい半神のコシチェイのところに連れて行かれます
そこでイワンは、コシチェイの娘たちと彼の捕虜になっている13人の王女を救おうとします
やがてそこに火の鳥がやってくると魔法は解け、コシチェイの城は消滅し、若い娘たちや王女、イワンが開放され、騎士は黄金のリンゴを奪って逃げる、という感じになっています
これらのストーリーは徐々に変化を見せ、火の鳥を捕まえることに成功するパターンとか、イワンと王女が恋に落ちるなどがありますね
19の楽曲から構成されていて、コシチェイの生活の様子、イワンが火の鳥を追うシーン、黄金のリンゴで遊ぶ王女たち、宮殿にイワン登場、火の鳥が追ってきて解放、という流れになっています
↓Youtube検索「The Firebird Opera」の検索上位
■さらっとエストニアの歴史
17世紀のエストニアは「バルト帝国」と呼ばれたスウェーデンの支配体制に入っていました
でも、エストニアとリヴォニアは支配体制が行き届かず、バルト・ドイツ民族が力をつけるようになります
1700年に始まったスウェーデンとロシアの「大北方戦争」にエストニアも巻き込まれる事になり、ロシア皇帝ピュートル1世はスウェーデンを弱体化させるためにエストニアで焦土作戦を行います
これによって、エストニアは破壊、飢饉、疫病などの深刻な被害が出て、1721年のニスタット条約によって、ロシア帝国に編入される事になりました
ロシア統治下に入ったバルト地方は、1719年から1775年までの間「エストラント(エストニア共和国北部)」と「リヴラント(旧リヴォニア)」にそれぞれ総督が置かれ、1775年には統轄されることになります
旧バルト帝国内のスウェーデン色を一掃するために、バルト貴族を優遇したため、エストニア農民との貧富の差が拡大してしまいます
その後、アレクサンドル1世が皇帝に即位し、バルト地方に啓蒙思想が広がり始めました
さらに、1802年にはエストラント、1804年にリヴラントの農民に財産権が認められるようになります
19世紀に入って、自由化政策によって実施された農奴の解放、教育水準の向上、西欧思想などは、500年以上にわたるバルト・ドイツ貴族の支配に不満を抱いていたエストラント、リヴラントの先住民であるエストニア人やラトビア人に民族意識を与えていく事になります
1845年、バルト総督に任命されたエヴゲニー・ゴロヴィンはこれまでの政策を一転させ、貴族に対して強硬な路線へと切り替えていきます
また、この頃からロシア正教への改宗運動も高まり、1860年にはエストニア人によるエストニア語の教育施設ができるようになりました
これらの動きは、1917年のロシア革命によって一変します
1918年2月24日にエストニア共和国として独立を宣言、その後イギリスを含む連合国のロシア内戦に巻き込まれていきます
1939年に第二次世界大戦が勃発すると、独ソ不可侵条約及び秘密議定書に基づいて、ドイツとソ連がポーランドに侵攻します
スターリンは、エストニア、ラトビア、リトアニア(バルト3国)に対して最後通牒を行う事になります
そして、1940年6月、エストニアはソ連に占領される事になりました
この後、エストニアが独立を果たすのは、ベルリンの壁崩壊後で、1989年の「人間の鎖」運動に波及する運動の機運が高まってからでした
1991年9月6日、ソ連が独立回復を承認し、国連への加盟がなされます
映画は、後半になってロマンがソビエト・アフガニスタン戦争に行く事になっていて、これは1979年〜1989年の間のいずれかになります
なので、ソ連によるエストニア支配の末期の状態になっていて、もう少し時代が違えば、ロマンはアフガニスタンに行くことはなかったのだと推測されます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作のタイトルは『Firebird』で、これは劇中でセルゲイとロマンが一緒に観に行ったオペラの演目のことでした
セルゲイは、この観劇によって俳優への道を再度歩む事になっています
でも、このタイトルにはもう一つの暗喩というものが込められているように思えました
映画の途中で、ロマンの乗る戦闘機がトラブルに見舞われて不時着を果たすのですが、これが後半のアフガン出撃の結末を仄めかしているように思えます
ソ連・アフガニスタン戦争では、スティンガーの登場によってムジャヒディーン側が優勢になり、ソ連の航空機はヘリを含めて451機もの機体が撃墜されたとの報告があります
このスティンガーの登場が1986年ぐらいのことで、これは携帯型の赤外線ホーミング地対空ミサイルでした
撃墜率は70%とも言われていて、この兵器によって350機以上が撃墜されたという記録があります
セルゲイは、ロマンの死を聞かされたのちに、二人の思い出としての『The Firebird』を観劇する事になりますが、この時に観た「火の鳥」は、二人で観た「火の鳥」とは似て非なるもののように思えます
「火の鳥」は解放の象徴ではありますが、それはこれまでの軍部における抑圧、幼少期のトラウマからの解放とは違って、ロマンの死からの解放のようにも思えるのですね
いつまでも彼の事に想いを馳せていても始まらず、新しい人生に向かわなくてはなりません
そういった意味において、彼はロマンとの別れを惜しみつつも、同じ劇を観ることで過去から解放される事になったのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/98671/review/03478127/
公式HP:
https://www.reallylikefilms.com/firebird