■識別をすることよりも、状況を理解し、変えられないものを知ることのほうが重要であると思います
Contents
■オススメ度
発達障害との向き合い方を学びたい人(★★★)
「はざま」について考えたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.5.29(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、103分、G
ジャンル:発達障害の画家と出会う雑誌編集者を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:葛里華
キャスト:
宮沢氷魚(屋内透:「青い絵しか描かない」発達障害の画家)
小西桜子(小向春:屋内の特集記事に関わる雑誌編集者)
細田善彦(間宮尚樹:春の恋人、雑誌編集者)
戸田昌宏(寺澤隆夫:春の上司、「Maybe」の編集長)
平井亜門(中西俊介:春の同僚、春の企画を助ける後輩)
葉丸あすか(沢瑞希:フリーライター、春の企画のインタビュアー)
芦那すみれ(及川百合:フリーカメラマン、春の企画の撮影担)
田中穂先(瀬川史:編集部にくる人?)
鈴木浩文(塩原逸斗:編集部にくる人?)
タカハシシンノスケ(皆川雄太:編集部にくる人?)
椎名香織(春の企画のスタイリスト)
黒川大聖(カメラマンの助手)
斉藤千穂(ガラス工芸工房の店員)
小倉百代(水族館の受付)
渡辺潤(スタジオスタッフ)
ボブ鈴木(屋内が落書きするマンションの管理人)
■映画の舞台
日本の都心のどこか
ロケ地:
東京都:杉並区
Blue Glass Arts(ガラス工房)
https://maps.app.goo.gl/o5ZBZtPn8ydBEn1M9?g_st=ic
東京都:港区
PACE ITARIAN ROUNGE
https://maps.app.goo.gl/FWGPvatYJwTTrhCr6?g_st=ic
地域活性プランニング(ロケーションジャパン編集部)
https://maps.app.goo.gl/NzRsKXsXuhmKa9iSA?g_st=ic
東京都:渋谷区
デザインフェスタギャラリーWEST&EAST
https://maps.app.goo.gl/6pTucnYHPzF4otPT9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
情報系の雑誌の編集者をしている春は、恋人・直樹と同棲しているものの、仕事がうまくいかずにモヤモヤする日が募っていた
仕事のグチを溜め込むタイプの春だったが、ある日厳しすぎる編集長・寺澤から、発達障害の画家・屋内透の記事を書けと使命される
編集長と一緒にインタビューに同行した春だったが、屋内の一挙手一投足に困惑し、記事の構成やコピーもありきたりのものしか生まれなった
春は、屋内を理解するためにたくさんの資料を読むようになり、後輩の中西と一緒に「特集」に向けての考察を始める
そんな中、いきなり屋内から電話がかかってきた
急いで駆けつけると、彼はマンションの外壁に絵を描いていて、「光を閉じ込めたかった」という
その騒動によって、二人の距離が近づくものの、それはとても危うい関係に見えてくる
屋内と近づくごとに、直樹との距離を感じ始める春は、取材対象以上の関係を求めていく
だが、屋内は彼女の気持ちに気づくことはなく、誰とでも同じように接していることがわかるのである
テーマ:はざまの正体
裏テーマ:障害の境界線
■ひとこと感想
青しか使わない画家と、生きづらさを感じている編集者の出会いを描き、不器用で察しの悪い春が傷ついていく様子が描かれていきます
「はざま」とは、発達障害と診断されていない「同じような症状を有する人」という意味で、春もそれに近いものがありました
唯一違うのは集中力の無さで、共感力の低さなどは合致している感じになっていました
映画は、いわゆるラブロマンスで、恋の障壁は「病気」のように見えますが、そうではありません
春が発達障害を軽く見ている部分はありますが、彼女自身の自己中心的な性格が自分自身を苦しめているようにも思えます
本作で発達障害が登場するのは、関わり方を学んだり、病気の本質と向き合うというよりは、世間が持つイメージよりも曖昧な部分の多さの指摘のように思えます
映画が進むにつれて、屋内との付き合い方はわかってきますが、逆に春とはどう接したら良いのかわからなくなってしまいます
このあたりの「はざまと普通のはざま」みたいなところを描きたかったのかな、と思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
春は恋人がいるにも関わらず、屋内との関係を深めようとするのですが、屋内には女性の「察して!」を察することができないので、全くと言って良いほど関係は進みません
春は自分の気持ちをうまく伝えられず、相手が理解してくれることを望むのですが、それがわがままであることがわかります
映画では「青で安らぎを得る屋内」を描いていて、彼は「落ち着くから」という理由で青だけを使用しています
それは「落ち着くこと」が人生をうまく動かしてきたからなのですが、人間関係はそこまで穏やかなものではないのですね
屋内が春に贈った絵は当初は春がいないのですが、個人的には「青で表現される混沌」という感じで、屋内にはそう見えているのだなと思いました
でも、それでは春に伝わっていないので、色を重ねるのですが、その色は春ではなく屋内そのものなのですね
青をいう春と向き合うことで屋内には乱れが生じていて、それはこれまでは怖いものだと思っていたけれどそうではないものでした
春は自分の居場所から動けない人間ですが、屋内の方が世界を広げていこうと努力していることが伝わってきました
この行動こそが、春に対する気持ちとなっていましたね
■発達障害について
発達障害(Developmental Disability)とは、「身体や、学習、言語、行動のいずれかに置いて不全を抱えている状態」のことを言います
発達障害は早期に発見され、生涯にわたって持続するとされています
一般的な症状は、
運動障害(脳性麻痺)
学習障害(失読症、トゥレット症候群、書字障害、アーレン症候群、算数障害)
コミュニケーション障害(自閉症、アスペルガー症候群)
遺伝子疾患(ダウン症候群)
知的障害を引き起こす脆弱X症候群
広汎性発達障害(社会的なコミュニケーション、行動に問題を及ぼす可能性があるもの)
胎児性アルコールスペクトラム障害(母親が妊娠中にアルコールを摂取したことで起こるもの)
知的障害(精神薄弱、IQ70未満の適応機能に制限があるもの)
注意欠陥多動性障害(ADHD、実行機能障害を特徴とする神経発達障害)
などがあります
原因については不明な部分が多く、病因がわかっていても「原因と結果の境界線は必ずしも明確ではない」とされています
遺伝的な要因、早産によるものなど、多くの可能性があります
世界における発達障害の割合は1.4%で、男性の方が女性よりも2倍ほど多いとされています
発達障害の人に付随する問題として、精神的健康問題というものが重視されています
これは、トラウマ的な出来事に遭遇しやすいとか、社会的な機会損失による影響などによって、精神疾患を起こしやすいとされていて、医療提供者の管理、訪問などが必要になっているケースが多いですね
映画の屋内は精神的にはどちらかと言えば安定していて、自分自身が発達障害であることをちゃんと認識していました
その上で、どのように生活したら良いかと過去の体験から学んで実践していると言えます
■青にこだわる理由
屋内が「青」にこだわる理由として、「安心するから」というふうに答えていました
これは「色彩心理学(Color Psychology)」という研究分野の派生になります
色彩心理学の歴史は古く、紀元前2000年頃から治療などに「色」を使っていたことがわかっています
古代エジプト人は「セラピーのために塗装された部屋や水晶などを通じて太陽光などを利用し、治療を行った」と記録しているのですね
中国の古い書物「黄帝内経」にもカラーヒーリングについて実践した記録などが残っています
1810年、ドイツのヨハン・ヴォルトガング・フォン・ゲーテは、『色彩論(Theory of Colors)』という書籍を出版し、そこには「黄色=静寂」「青=興奮と休息の混合色」などと表現しているのですね
その中で「ゲーテのカラーホイール」というものがあり、これは色彩の円を作り出して、自然の秩序に則って配置されたものになります
「赤→オレンジ→黄色→緑→青→紫」のような感じで一周するホイールになります
赤、青、黄の三原色の、それぞれの中間にある色を明暗のスペクトルで表し、6色に分かれているように見えるホイールは、実はもっと繊細な色合いによって、次の原色へと向かっていきます
ゲーテの分類によれば、「Purpur」「Rot」「Gelbrot」「Orange」「Gelb」「Grun」「Blau」「Violet」「Blaurot」の9つになります
それぞれの象徴性として、「Purpur&Rot=Beautiful(美しい)」「Gelbrot&Orange=Noble(高貴)」「Gelb=Good(良い)」「Grun=Useful(便利)」「Blau=Common(一般的)」「Violet&Blaurot=Unnecessary(不要)」という言葉を当てはめています
色彩心理学には、「色には特定の意味がある」「色の意味は生物学的に生得的な意味に基づく」「色の近くは、知覚者によって自動的な評価を引き起こす」「評価プロセスでは、色に基づいた行動が強制される」「色は、自動的に影響を及ぼす」「色の意味と効果は状況に関係する」という基本原則があります
なので、屋内が「青が落ち着く」というのは、一般的な人が認知する青のイメージと印象、行動に付随し、それは彼だけの特別なものではない、という意味になると言えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では、「グレーゾーン=はざま」という言葉が使われていて、これは「注意欠如、多動症、多動性障害(ADHD)」がある場合に、「診断基準は満たさないが、ADHDの傾向がある」というふうに言われる場合のことを意味します
ちなみに、ADHDとは「注意欠如、多動性、多動性障害」のこと意味します
他にもASDと呼ばれる「自閉症スペクトラム」では、対人関係の難しさ、興味・関心の限定、特定の行為を繰り返すなどの行動が見られます
またLDと呼ばれる「限局性学習症=SLD」などのような「読み、書き、計算」などの特定の領域だけが苦手というものもあります
ADHDのグレーゾーンとされる人は、「人からの頼み事を忘れる」「ケアレスミスが多い」「落ち着いて座れない」「あれこれ気になる」などの状況で周囲とトラブルになりやすいと言われています
ASDのグレーゾーンとされる人は、「曖昧な指示の理解に苦慮する」とか、「興味や関心のない業務に集中できない」とか、「相手の意図を汲めず誤解や齟齬を生じやすい」などの傾向があり、仕事や対人関係にで問題を抱えやすいとされています
SLD/LDのグレーゾーンの場合は、特定のこと(読み、書き、計算)に困難があって、それによって特定の業務に支障が出るとされています
グレーゾーンは確定診断がされていないだけで、症状は発達障害と同じとされていて、発達障害の人が実践している方法を取り入れることで、工夫を凝らして日常を過ごすことができます
これに関しては、自分の状況を正確に認知することが最良の方法で、状況を否定しても何も始まらないのですね
自分がもしグレーゾーンなら、それを正しく認知して、対処法を考え、必要に応じて周囲の人に伝えることでトラブルが減ります
また、周りにそのような人がいたら、その人が正しく認知しているかどうかを察することが重要だと思います
症状を受容していると拒否している人とでは対応が変わるので、いきなり踏み込むことはできないと思うので、少しずつ「相手の認知度」を理解していくことから始めれば良いと思います
この映画でも、春は「自分のままならない屋内」に心を苛立たせていましたが、屋内を少しずつ理解し始めてから、自分の行動を変えていきます
これは「発達障害の人を相手にしているから」ではなく、どのような人に対しても、同じようなアプローチになると思います
グレーゾーン診断のようなものが劇中で登場しましたが、濃度は違えども、誰にでもよく似た傾向というものはあるものです
なので、「グレーだ」などと敢えて規定する必要もなく、「正確な認知の先に、相手の行動を変えられないが、自分の行動は変えられる」という基本原則に則って接していけば、人間関係に困ることはないと思います
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/387173/review/14a40a4f-e058-4bad-8863-b53afb313db3/
公式HP:
