■呪術の悪用は神様への冒涜だと思うが、お咎めを受けない彼は特別な存在なのだろうか
Contents
■オススメ度
タイの呪物系ホラー映画に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.7.8(アップリンク京都)
■映画情報
原題: หุ่นพยนต์(魔法によって生き生きとした人形)、英題:Hoon Payon(古代から存在するお守り人形)
情報:2023年、タイ、107分、G
ジャンル:兄を探しに寺院に来た少年が奇怪な出来事に巻き込まれる様子を描いたホラー映画
監督&脚本:ポンタリット・チョーティグリッサダーソーポン
キャスト:
プーウィン・タンサックユーン/Phuwin Tangsakyuen(ターム/Tham:兄を探しに寺院を訪れる青年)
プーンパット・イアン=サマン/Poompat Iam-Samang(テ/Tae:村の案内係)
クナティップ・ピンプラタブ/Kunatip Pinpradub(ジェット/Jate:プンパヨンを作る青年)
タソーン・クリンニウム/Thasorn Klinnium(ミーナー/Mena:村の女性)
Sivanwong Piyacaysin(ルアンナー/Luang NHA:寺院の修道士、住職)
プーリパット・ウェーチャウォンサーデーチャーワット/Bhuripat Vejvongsatechawat(グラ/Monk Gla:寺院の修道士)
Somyos Matures(タット/Monk Tudo: 金を盗む修道士)
ワラティップ・キッティパイサン/Waratthip Kittisiripaisan(ウン/Novice Oul:眼鏡をかけた修行僧)
Pannawit Pattanasiri(ブリーズ/Breeze:ミーナーの弟、修行僧)
Nuttawatt Thanathaveepi(クン/Khun:テをいじめる修行僧)
Pongsakorn Meechai(パパン/Novice Papang:ビビリの修行僧)
Jaturawit Cheawprasit(ジャイ/Novice Jai:肩を怪我する修行僧)
Pratrawi Seekiaw(ティー/Tee:行方不明のタームの兄)
Suriya Yaovasang(村長)
Pan Sitthichairat(?)
Taksunaporn Pummalee(?)
■映画の舞台
タイ:
ドン・シンタム島
テパヨン寺
ロケ地:
タイ:
■簡単なあらすじ
連絡が取れなくなった兄ティーを探しに寺院を訪れたタームは、その寺院の案内係である知的障害のテと行動を共にすることになった
住職のルアンナーは彼を快く迎え、部屋へと案内するように命じる
寺院では、ポープー様を崇めていて、その供養に訪れる人々は後を絶たなかった
ティーの行方に関しては寺院も把握しておらず、忽然と姿を消したと言う
寺院の離れでは、ジェットと言う青年がプンパヨンと呼ばれるお守り人形を作っていて、人々はそれを購入して、無病息災を祈っていた
ある日、村の外れで修行僧の1人が死体で発見される
高い木の上で首を吊っていたクンは、コミュニケーションがうまく取れないテをからかっていじめていた男だった
警察が介入するものの、彼の死は自殺と断定されてしまう
寺院に関しては、誰もが崇拝しているわけではなく、時折、その力を疑う人もいた
タームは否定こそしないものの、ここで行われている「作為的なもの」を敏感に感じ、兄の失踪の原因がこの寺院にあるのでは、と調べ始めるのである
テーマ:言葉にならない呪い
裏テーマ:呪いと感情
■ひとこと感想
タイのホラー映画ということで、ほとんど情報がないまま鑑賞
内容としては、ご当地お守り人形のようなフンパヨンというものが登場し、それは人助けにもなれば、呪いがかけられたものであったりする、というものでした
今回は、呪いを込められた人形という意味になり、その呪いを誰がかけたのか、という命題がありました
ラストは少し捻っていますが、ですよねという感じで、そこまで驚きを感じないものでしたね
雰囲気は良いけど、そこまでのめり込めるものではなく、それはフンパヨンの魔力をどれだけその身に帯びているかということなのかな、と感じました
ミステリーっぽさはあるものの、「お前誰?」みたいなモブキャラが全容を説明する流れになっていて、それで良いのかは何とも言えない部分がありました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
兄の失踪を調べる系のミステリーっぽさはありましたが、結局黒幕は何をしたかったのかはよくわからない構造になっていましたね
ミーナーが好きすぎて呪いをかけるのがテで、彼が事件の真相のように思えますが、本筋のティーの失踪などは、住職ルアンナーの仕業になっていました
このルアンナーが何をしたかったのかがわからず、とにかく人間を使ってフンパヨンを作っていた、というだけの人物になっていました
寺院はそこまで裕福ではなく、信仰を広める意味合いも込めて「悪」を作り出しているのですが、寺院の中で全てが終わってしまっているので、村にどんな影響があったのかはわからないのですね
タームもティーを探しに来たとは言うものの、この寺院に何の引っ掛かりがあって長居することになったのかも説明がなかったように思います
結局のところ、住職がフンパヨンの魔力を使って村人をコントロールしようとしているのだと思いますが、それを上回る呪術使いがいた、みたいな感じになっています
ともかく全編物凄く暗いのと、住み込み修行僧が多くて、誰が誰かわかりにくかったですね
わかった上で見れば判別できるのでしょうが、残念ながらパンフレットはないので、それを脳内補完する手段も限られているように思えました
■フンパヨンとは何か
映画に登場するフンパヨン(หุ่นพยนต์)とは、故人を表現するために使用される象徴的な像の事を言い、通常は石や木から掘られた像の事を言います
基本的に全身像であり、両手を握り合って仰向けに寝ているのが一般的とされています
また、神秘主義の観点からすれば、魔術師の意思と呪文、知識によって神格化されたお守りの一種偕言われています
直訳すると「魔法によって生き生きとした人形」という意味になり、その人形に呪術をかけることで、スピリチュアルな役目を持つことになります
映画では、フンパヨンに呪いを込めるという方法で、ミーナーを操ろうとしたり、天罰を加える様子が描かれていました
フンパヨン自身を死体から作り出している様子も描かれ、かなり禍々しいものになっていたと言えます
村人にはお守りとして販売している(お布施に対して配っている)様子が描かれ、それはもらった人が念を込めるのではなく、すでに住職などの何かしらの意思が宿っているように描かれていました
実際にこのような術があるのかはわかりませんが、信じることが奇跡を起こすとも言えるので、厄介な代物のように思います
フンパヨンに込められた願いや呪いは、その術者の力量によるようで、ミーナーを振り向かせたかったテの能力では足りないように描かれています
彼は祈りに対する力は弱いのですが、呪いに関しては強力なものを持ち合わせていました
それは、彼が虐げられてきた人間だからであって、日常の情念が彼の呪いを強化させるに至っています
ミーナーを手中に収めることは、彼の日常を根底から覆す可能性があると感じていたのではないでしょうか
■勝手にスクリプトドクター
本作は、呪物を使用したミステリー&ホラーになっていて、前半は兄探しをするタームが描かれますが、後半は寺院で起こっている不可解な出来事の真相を探るという流れになっています
タームは招かれざる客ではありますが、機能としては、寺院の秘密を暴露する側で、その手助けをするテが実は首謀者だったという感じに描かれていました
とは言え、テが寺院の何が気に食わなくて、呪いを掛けていくのかが微妙な感じになっていて、私怨が溜まっていて、その相手がたまたま寺院関係者だったということになります
この首謀者の目的がかなりスケールが小さく、さらに誰もがそれに気づくことなく、取り逃してしまっていたというオチになっていました
イヤミスっぽい流れとオチは別に良いと思いますが、その暴露の仕方がかなり安直になっていました
テと行動を共にしていたジャイが全てを語ることになりますが、彼が登場した段階で「誰?」という感じが否めないのですね
かなり存在感の薄いキャラクターが物語の根幹を知っているという感じになっていて、ネタバラシをされても一瞬何のことかわかりませんでした
呪物に関する説明もあってないようなもので、寺院での儀式では「お守り」として機能していましたが、それはビジネスライクのように思えるのですね
むしろ、呪物を金儲けに使おうとしているここに反発するのがテとジャイぐらいというわかりやすい寺院内対立構造があっても良かったと思いました
キャラが思ったよりも多く、死んでいった修行僧たちの方がインパクトが強すぎるのがバランスの悪さになっています
また、修行僧と修道士の違いが非常にわかりづらく、場面も暗いので人物と位を把握するのに疲れる映画になっていました
ちなみに、ミーナーがフンパヨンによる呪術で死にましたが、他の被害者は結構実力行使になっていましたね
ミスリードを誘う意味もあるのだと思いますが、彼自身が可能かどうかというところが「呪術以上に無茶」に見えるのがダメなんだと思います
木の上に登れても、自分と同じくらいの体重の人間をあの場所に引き上げるのは不可能に近く、そのあたりの種明かしも不十分だったように思います
本作は、フンパヨンというものがかなり都合の良いツールになっていて、場面展開のためにその力の強弱も調整できています
実際に呪物の力だとしても、それをコントロールできるほどの術師は相当な能力を秘めていると思うので、そこら辺の修行僧にいじめられるという展開も無理があるように思います
来るべき時に向けて力を温存していたとか、仮の姿でいたということになるのかもしれませんが、真の姿を最後まで見せぬままバンコクに消えていったのは消化不良だったなあと思ってしまいました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、日本での公開が珍しいタイ映画のホラーで、雰囲気だけは抜群だったと思います
見慣れない宗教の儀式の怖さとか、湿度の高そうな映像、そんな中で起こる不可解な事件というのは、物語の導入としてOKでした
問題は、フンパヨンというものが日本ではあまり馴染みがないことで、これは無知というよりは、映画自体が国際展開を考えていなかったことだと思います
このあたりが視野に入っていれば、日常に溶け込んでいるフンパヨンの一般性というものを描くと思うので、もう少し「寺院以外の日常パート」でフンパヨンが土着になっている様子を描いても良かったように思います
映画は、その後はミステリー展開となっていますが、とにかく画面が暗すぎて「何をしているのか」とか、「この人物は誰なのか」というところがわかりにくかったですね
自然光を採用する森の中にある寺院なので仕方ないとは思いますが、映画としては非常に疲れる絵作りになっていました
修行僧が5人(ウン、ブリーズ、クン、パパン、ジャイ)、修道士が2人(グラ、タット)、それに加えて住職ルアンナーとフンパヨン製作者ジェット、案内係のテが寺院にいて、そこに外部からタームが来て、村人としてミーナーがいました
いくらなんでも多すぎだろうと思いますので、もう少し絞った方が良かったと思います
フンパヨンが怖いというよりは「それを扱う人が怖い」という感じになっているのも微妙で、フンパヨンを商売に使う寺院が罰せられるなら、それを悪用している人物も天罰が下る流れの方がスッキリします
このあたりは価値観の違いだと思うのですが、ラストのあの流れだと「続編ありき」という感じになっているので、物語が終わっていない感が凄かったですね
テをちゃんと始末したけど、実は呪術パワーで生き残ったとか、誰かに憑依したという方が、結末感があったように思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101536/review/04016711/
公式HP:
https://www.hoonpayon-movie.com/