■野獣であることを隠さずとも、時代の流れが自分の存在を隠してくれる
Contents
■オススメ度
韓国ヤクザものが好きな人(★★★)
泥臭い騙し合いが好きな人(★★★)
■公式予告編
https://youtu.be/Jh75Oe1nU88
鑑賞日:2023.1.23(シネマート心斎橋)
■映画情報
原題:뜨거운 피、英題:Hot Blooded
情報:2022年、韓国、120分、G
ジャンル:陰謀に巻き込まれる若手ヤクザを描いたクライム映画
監督&脚本:チョン・ミョングァン
原作:キム・オンス/김언수、『뜨거운 피(2016年)』
キャスト:
チョン・ウ/정우(パク・ヒス:養護施設出身の若手ヤクザ)
チ・スンヒョン/지승현(チョ・チョルジン:ヒスの幼馴染で、クアムからヨンドに寝返った男)
【クアム】
キム・ガプス/김갑수(ソン・インスン:ヒスの面倒を見ているクアムのボス、ホテル経営者)
チェ・ムソン/최무성(ヨンガン:誰もが恐れる札付きのワル、洗濯会社の裏で麻薬の密売・管理をする男)
イ・ソンウ/이홍내(チョンべ:洗濯会社の管理・運営、ソン社長のいとこ・トダリの部下)
キム・ヘゴン/김해곤(ヤンドン/バケツ:ヒスと娯楽産業を始める実業家)
チェ・ホンイル/최홍일(ハン社長:ヤンドンにゲーム機を卸す社長)
イ・ヨンソク/이영석(ダルジャ:ヒスの忠実な部下)
イ・ホチョル/이호철(タンカ:ヒスの右腕、運転手)
チャ・スンベ/차순배(オク社長:高利貸し、ヒスに50万ウォンを貸している男)
ホ・ドンウォン/허동원(トダリ:ソン社長のいとこ、カンボジアに逃亡中)
イ・ホンネ/윤지혜(ジュ・アミ:ヒスの恋人インソクの一人息子)
ユン・ジヘ/윤지혜(インソク:ヒスの恋人)
ペク・スヒ/백수희(ジェニ:アミの恋人)
ホ・ジウォン/허지원(ジェニの友人)
ヒョン・ボンシク/현봉식 (バドゥク:ヒスの友人、クジラを釣り上げる漁師)
チョン・ヨンジュ/정호빈(ヨン夫人:クアムで飲食店を経営する女性)
【ヨンド(永都)派】
キム・ジョング/김종구(ナム会長:ヨンドのボス、クアムの港を手に入れたい男)
チャ・ソンべ/차순배(オク常務:ナム会長の腹心)
チョン・ホビン/정호빈(チョン・ダルホ:チョルジンの上役)
チョン・ギソプ/정기섭(ファン・サンム:ヨンドのNo.2、チョルジンが軽蔑する男)
ペ・ミョンジン/배명진(デヨン:チョルジンの部下、ヒスをショットガンで撃つ男)
チェ・グアンジェ/최광제(チョ・ドンヨル:ヨンド派のチンピラのボス)
キム・ガンイル/김강일(パク・ガ:ドンチルの部下、アミをナイフで刺すチンピラ)
ソン・ナギョン/성낙경( ホジュン:ドンチルの部下)
【その他】
ユ・スンウン/유순웅 (チェ:ヒスに忠告する議員)
■映画の舞台
1993年、
韓国:釜山の外れ
クアム/Gwam
https://maps.app.goo.gl/c9WziJMerUVkusYx7?g_st=ic
ヨンド/
https://maps.app.goo.gl/7KUTZE6oG9fAonWz7?g_st=ic
ロケ地:
韓国のどこか
■簡単なあらすじ
釜山の外れにあるクアムにて漁港を取り仕切っているソン社長率いる一派と、それを狙おうとするヨンドのナム会長の一派は、その覇権争いの渦中にあった
ソン社長の経営するホテルの支配人を務めているパク・ヒスは、同じ孤児院育ちのチョルジンとの激突は避けたったが、チョル人はヨンド派が優勢と睨んで鞍替えしていた
ソン社長一派の荒くれ者ヨンガンは洗濯会社を隠れ蓑にしてドラッグを売り捌いていたが、その工場からドラッグ入りのカバンを盗んだ男がいた
この事件を機に両派の激突は激しさを増し、そんな中ソン社長は「この騒動を収めるにはチョルジンを殺すしかない」とヒスに告げる
だが、ヒスはどうしても彼を殺すことができず、事態は思わぬ方向へと向かっていく
ヒスはソン派から孤立してしまうものの、戦争を避けたいと考えていた
そんな折、ヒスの恋人インソクの息子アミが服役を終えて娑婆に戻ってくるのである
テーマ:仁義なき選択
裏テーマ:下剋上に必要な犠牲
■ひとこと感想
韓国版『アウトレイジ』なんていう声もチラホラ聞こえてくる「仁義なき韓国ノワール」で、近場の映画館では「夜の時間帯」しかやっていなかったため、急遽「TCGメンバーズ」特典を利用するために大阪の心斎橋「シネマート心斎橋」まで足を運ぶことになりました
パンフレットが売っていなくて残念で、鑑賞中は「誰が誰だかわからん」と感じに「登場人物が入り乱れまくる」と言う展開になっていましたね
主要なのは、ソン社長&ヒスVSナム会長&チョルジンと言う構図で、この戦いの鍵を握っているのがヨンガンということになっています
映画の冒頭は、沖合のタンカーでソン派(クアム)とナム派(ヨンド)の手打ちの場面で、そこでヨンガンがあるものをヒスに手渡すことになりました
そこから物語は回想録のような感じに進み、両派の派遣争いと沖合に向かうまでの道程を切り取って行ったと言う感じになっていましたね
キャラクター紹介派ネタバレを避けて通れない程に、「大勢のよく似た顔の人たち」が登場しています
何がネタバレになるのかは分かりませんが、識別可能な程度の説明を付け加えているのはご容赦くださいませ
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ともかく土地勘がないと話にならない感じになっていて、当初は「ヨンドとクアムは人名なのか?」と混同していました
そのどちらもが釜山の町の名前で、外れにある漁港の街がクアムで、そこを狙うナム会長たちのアジトがヨンド(内陸部)にあると言うことになっていました
登場人物は圧倒的にソン社長派が多いのですが、インパクトあるキャラが限られているので、ぶっちゃけ「ヒス、チョルジン、ソン社長、ナム会長、ヨンガン」の5人が認識できていればOKかなと思いました
上にあるキャラクター紹介に関しては、ハングルのサイトなどを駆使しながら作成しましたが、完全一致しているかは少し怪しい感じになっています
ハングル版ウィキも英語版ウィキもあらすじはサラッとしか載っていないし、無論スクリプトが落ちていると言うこともありません
映画はヨンガンのセリフに集約されていて、「ヒスはクズ中のクズになるのか、てっぺんを目指すのか」と言う問いかけになっていましたね
冒頭はラストシーンに繋がるのですが、冒頭で発砲と対象がわかってしまうのが残念なのか、分かりやすく演出しているのかは何とも言えない匙加減になっていたと思います
■てっぺんに登るために越えなければならない壁
本作は2つの地区のヤクザが陣地争いをしていて、トップの思惑に踊らされる若手を描いていきます
ヨンドとクアムという二つの地区があって、ヨンドが内陸でクアムが海沿いという感じでしょう
ヨンドがクアムを制圧したい理由は「漁港をドラッグの密輸に使いたい」というもので、ドラッグに否定的なクアムのボス・ソン社長となんでもありのヨンドのボス・ナム会長は話し合いにはなりません
この2つの勢力の矢面に立たされているのが、パク・ヒスとチョ・チョルジンなのですね
チョルジンはもともとヒスと同じ施設の出ではありますが、クアムに見切りをつけてヨンドと手を組んでいます
ヒスは自分を拾ってくれたソン社長への恩義に厚く、それゆえにクアムに攻め込もうとするチョルジンと戦わざるを得なくなります
二つの勢力は拗れ切っているので、ソン社長としては「誰かが犠牲にならないと終わらない」と考えていて、そこでヒスにチョルジンの始末を命じます
でも、幼馴染のよしみなのか、ヒスはチョルジンを殺すことができず、それゆえにその諍いが更なる暴力への布石となってしまいました
ヒスが非情になれないことで事態を悪化させてしまい、その甘さが連鎖的な悲劇を生みます
彼の優しさはヤクザの世界では重しでしかなく、それを解き放つために多くの犠牲が必要な男だったと言えます
ヒスたちの平穏は「緊張状態」では得られず、抗争状態を抑え込むしかありません
ソン会長には「勝負の分かれ目」というものがわかっていて、おそらくは最終的に自分が裏切られるということも理解していたでしょう
彼にとっての最善策はヒスがチョルジンを殺すことでしたが、それは叶わぬ夢となり、それによってヒスはソン社長を裏切る道へと向かってしまいます
ヒスがこの流れで抗えるとすれば、より広い視点で物事を見るしかありません
チョルジンに見えていた未来と、ソン社長に見えていた未来の質は違っていて、トップに立ったことがあるソン社長が見えていたものはチョルジンの描く理想とは全く違います
それでも、チョルジンはそこに行こうとしたために、自分がトップならばという視点でこの街を俯瞰していきます
それは「根本解決に向かう方法」に通じていて、それは「この争いに関わる全ての人の欲望を理解する」ということが必要になってきます
■野獣として覚醒することの意味
映画では、ヒスが多くの人に見透かされていて、その弱さと利用されるという流れを組みます
ソン社長は「機会」を与えますが、はじめからヒスが成し得るとは思っていません
同じようにインソクもヒスの弱さを見抜いていて、それでも虚勢を張る彼に対して、「信用できない」と言い切られてしまうのですね
チョルジンも大局的に「自分とヒスのどちらかが死ぬこと」がキーポイントであることはわかっていますが、ヒスが自分を殺せないことも、彼の視界が恐ろしく狭いことも見抜いていました
ヒスの中にある野獣性、いわゆる闘争心は、彼の心の奥底に沈んでしまっているもので、本来の彼はこの世界で生きる人間ではないのでしょう
ソン社長やナム会長のように歴戦の末の落ち着きとは違って、本当の死線を潜り抜けてはいません
ヨンガンのように欲望に忠実に生きるでもなく、彼の言葉を借りるなら「トップにも行けずにクズにもなれない中途半端な存在」ということになります
それでも彼が今の地位にいるのは、ソン社長に可愛がられたという「虎の威を借る狐」だったからだと推測できます
ソン社長が糾弾に倒れ、瀕死の重傷を負った瞬間にヒスの部下のほとんどは反旗を翻します
社長の力で部長になったけど、部下からは信頼されておらず、ソン社長のそばにいながら守ることもできない、という状態
これまでにヒスが積み上げてきたものがあればついてくる人間もいたと思いますが、それすらないためにとことん追い詰められてしまいます
言わば、ヒスは窮鼠であり、その辺をチョロチョロしていただけなんですね
中間管理職としての「チョロチョロ」は有効なのですが、結局は誰からも慕われない
そして、全てを失った時に暴走をするのが、この窮鼠的中間管理職であると思います
実社会だと「会社以外で暴発するパターン」になりがちで、今回の場合は「会社以外(プライベート)」で起きた事件によって腹を括ることになっていました
自分で自分を爆発させることができない弱みが、守るべき人から見限られるという事態を招いているのは皮肉以外の何物でもありません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
ヒスの持つ人情はヤクザの社会では重要で、人を惹きつけるものがあります
でも、それは「立場」によって変わるもので、これまでのような中間管理職だったら問題なかったかもしれません
また、時間軸としても、「今を生きる」ということだったら通用していて、ヒスが何も望まないのなら問題なかったと思います
でも、時代というものは変わっていくもので、ソン社長とナム会長はその時代の風というものを作り出していきました
これらの動きの起点となっているが、チョルジンの上昇志向になっていて、上を目指したい彼がうまくナム会長を焚き付けることに成功しているのですね
おそらくは同じ動きをクアム時代にも起こしていたけど、ソン社長は彼の思惑を見抜いていて乗せられなかったのでしょう
そして、チョルジンはソン社長を見切る意味合いも含めて、ヨンド側につくことになったのだと思います
ナム会長の欲望を刺激し、うまく乗せることで自分の影響を強めていくのですが、ヨンド自体の上昇志向が強かったこと(これまではクアムに良いようにやられていた?)がマッチしたのだと思われます
ヒスは上役に気に入られ管理することに長けている上司で、チョルジンは同じように気に入られますが管理よりは刺激を与えるタイプだと思います
その刺激の視点がトップに近いものだからナム会長も動くわけで、視点が下のままだと誰も動きません
ソン社長が「チョルジンを殺せ」と言った意味が理解できていないヒスは、その時点でソン社長と同じ目線には立てず、大局観を共有できていないのですね
でも、ソン社長のこれまでの教育がヒスとして結実しているので、ヒス自身の資質もありますが、ソン社長の教育の限界というところもあったように思えます
ヒスの最終的な決断は、ナム会長に銃を向け、チョン・ダルホにトドメを刺させるというものでした
劇中でほとんど存在感のなかったチョン・ダルホを抜擢したのは、あの場にいた中で「唯一ヒスがコントロールできそうな人物だった」ということもあります
結局のところ、ヒス自身は覚醒はしておらず、ヨンガンの自由を保証する代わりに武器を得たということになっていて、今後ヒスはヨンガンを制御することはできなくなるでしょう
なので、実質的には「ヨンガンが両地区の影のドン」になっているわけで、ヒスはヨンガンの飾りで、チョン・ダルホはヒスの飾りでしかありません
そう言った意味において、ヨンガンこそが本当の野獣(見たまんまだけど)だったということになるのだと言えるでしょう
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385765/review/64a84826-bfa4-440a-9122-be5306849727/
公式HP:
https://yajunochi.com/