■執着の先にある絶望は、影が抱えるジレンマに似ている
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■オススメ度
推理系サスペンス映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
https://youtu.be/XGlBMenJlYw
鑑賞日:2023.11.20(アップリンク京都)
■映画情報
原題:风中有朵雨做的云(風の中に雨でできた一片の雲)、英題:A Rain Cloud in the Sky(The Shadow Play)
情報:2018年、香港、129分、G
ジャンル:広州の再開発の背景で起きた担当者の転落死を紐解いていくミステリー映画
監督:ロウ・イエ/娄烨
脚本:メイ・フォン&チウ・ユージエ&マー・インリー
キャスト:
ジン・ボーラン/井柏然(ヤン・ジャートン/楊家棟:転落死を捜査する若手刑事)
チャン・ソンウェン/张颂文(タン・イージエ/唐奕傑:転落死する広州再開発責任者、役所の主任)
ソン・ジア/宋佳(リン・ホイ/林慧:タンの妻、ジャンの元恋人)
マ・スーチュン/马思纯(シャオ・ヌオ/唐小諾:タンとリンの娘)
(10歳時:サン・チェンシー/孙晨曦)
(15歳時:クオン・カイリュウ/黄凯璐)
チン・ハオ/秦昊(ジャン・ツーチョン/姜紫成:不動産開発の社長、タンの友人)
ミシェル・チェン/陳妍希(リエン・アユン/连阿云:失踪したジャンのビジネスパートナー、元台湾のホステス)
エディソン・チャン/陳冠希(アレックス:香港の探偵)
ワン・ウェイシェン/王维申(ワン・ズー/王助:タンの助手、現場で女を目撃する)
チェン・ワイロン/陈伟榕(ヤンの父)
■映画の舞台
1989年から2013年
中国:広州「都会の村」
白雲区&天河区
ロケ地:
中国:広州市
洗(シェン)村/Xiancun Residential District
https://maps.app.goo.gl/XEXWAFoUqTHRyAwA9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
2006年、広東省白雲区北江にて、ある死体が見つかる
身元不明のその遺体の捜査は難航し、それから数年の時が経っていた
2013年、広州にある「都会の村」では、再開発に反対する住人と機動隊で衝突が起き、再開発の責任者であるタン主任は現場に駆けつけて、住人の説得にあたることになった
タンはこの街の出身だと言い、再開発は住民のためであると訴える
そして、タンは助手のワンとともに現地の調査を続けるものの、その直後に悲劇が起きてしまう
タンは屋上から転落して死亡し、その事件を若手刑事のヤンが担当することになった
ヤンは警官の息子で、父はある事件の捜査中に事故によって半身不随の身になっていた
ヤンは死亡したタンの妻リンとその娘ヌオから事情を聴取する
また、地区の不動産を牛耳るジャン社長からも話を聞き、一連の事件と父が追っていた事件に繋がりがあるのではないかと勘ぐる
そんな折、リンと体の関係を持ってしまったヤンは、その動画がネットに流出してマスコミに追われる身となる
そして、タンの助手ワンも不慮の死を遂げ、ヤンはワン殺害容疑で指名手配されてしまう
そこでヤンは父の友人であるアレックスの元に転がり込み、香港を拠点として黒幕を探し始めるのであった
テーマ:愛憎の連鎖
裏テーマ:愛憎の果てにある自由
■ひとこと感想
予告編の段階から気になっていましたが、検閲に引っかかったと言うパワーワードが気になってしまいました
どうやら香港の探偵アレックスのくだりがまるまるアウトで、「都会の村」での暴動鎮圧あたりもNGだったようですね
なんでダメだったのかは当局に聞かないとわかりませんが、お国柄(時期が時期だけに)と言うことなのかもしれません
映画は推理系サスペンスになっていて、若手刑事ヤンが色んなトラブルに巻き込まれると言う内容
任された事件は闇が深くて、そして謎の勢力によって貶められ、捜査から外されてしまいます
黒幕が読めないことはありませんが、それを読む意味はあまりないかもしれません
いわゆるラスト数分でひっくり返る系で、伏線はきちんと張られていますが、あのからくりに気づくのは無理だと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、時系列入り乱れる系で、途中から回想なのか現実パートなのか混同する感じになっています
30年ぐらいの時代の変化がありますが、現代パートが10年以上前なので、全部が回想に見えてしまうのが厄介でしたね
一応は、ヤンが知り得た情報が再生されるのが「回想」で、ヤンが登場するシーンが「現在」と言う感じになっています
この現在と回想の切り替え方がオシャレで、注意して観ていないといつの間にか「回想になってた!」と泣きそうになると思います
終わってみれば凄く単純な物語で、ヒントは「ヌオのブログ」と言うことになりますね
わざわざ字幕表記まで出ていて、その後ほとんどスルーされていたので気にはなっていました
要は、両親&実の父&憧れの人にまつわる謎を解こうとしていたのがヌオで、それを知ったことによって、アユンの仇を取っていくと言う感じになっていましたね
刑事であるヤンを手の内に入れて逃げ切るところまで来ましたが、最後にはヤンが一歩抜きん出たと言う感じになっていました
■「都会の村」とは何か
映画では「都会の村」と表記される再開発地区ですが、一般的には「城中村」と呼ばれ、「中国で侵攻する都市化の過程で見られる特有の現象」とされています
1978年の「改革開放政策(社会主義から資本主義への移行政策)」から約30年、珠江デルタ、長江デルタをはじめとした「経済先進区域」において、急速に都市化が進んでいきました
そんな中、既存の農村が都市の中に取り込まれて、周辺を高層ビルに囲まれた「都市の中の村落」というものが生まれました
映画の舞台である「広州」のほかに、天津、重慶、上海、武漢、深圳などでも同様の現象が見られています
城中村の中は違法建築が多く、インフラも整備されていません
都市の管理体制を悩ませる要因となっていて、再開発と称して城中村をなくそうという動きがあります
映画のモデルとなった暴動事件は、2010年8月13日の洗村(西安村)の旧市街の再建と解体に対する暴動でした
2009年に始まった村の取り壊しは、2007年の広州市計画局が決めたものでした
このときは「洗村を含む5つの村」で、取り壊された村は地元の役人と開発業者が共謀して低価格で売却・譲渡をする汚職事件を助長することになりました
2013年に調査が入り、広州の元副市長の曹建寮と彼の利益団体が摘発されています
そして、同年の12月19日に曹建寮は広州省規律検査委員会によって裁判がかけられます
また、村の幹部7人も同じように裁判にかけられることになりました
裁判所は「非国家公務員による賄賂を受け取った罪」にて、村幹部7人に有罪判決を下します
曹建寮に関しては、2016年1月29日に深圳中級裁判所に出廷を命じられ、検察は7600万元を超える9つの賄賂を受け取ったと主張、この公判は1年続き、無期懲役、終身政治的権利の剥奪と罰金刑が課せられています
この曹建寮がタン・イージェのモデルになるのではないでしょうか
■原題『风中有朵雨做的云(風の中に雨でできた一片の雲)』について
原題の「风中有朵雨做的云」は、1993年にリリースされたメン・ティンウェイ(孟庭苇)の楽曲の名前になります
以下、歌詞と簡単な意訳をつけておきます
风中有朵雨做的云 一朵雨做的云(風の中には雨でできた雲がある たくさんの雨でできた雲)
云的心里全都是雨 滴滴全都是你(雲の心は雨でいっぱい、一滴一滴があなた)
风中有朵雨做的云 一朵雨做的云(風の中には雨でできた雲がある、たくさんの雨でできた雲)
云在风里伤透了心 不知又将吹向哪儿去(雲は風に心を傷つける 、どこに吹くのかわからない)
吹啊吹吹落花满地 找不到一丝丝怜惜(吹け吹け散る花、地面一面に散り、哀れみの痕跡も見当たらない)
飘啊飘 飘过千万里 苦苦守候你的归期(浮かぶ、浮かぶ、浮かぶ何千マイルも君の帰りの日を待っている)
每当天空又下起了雨 风中有朵雨做的云(空にまた雨が降るたびに、風の中に雨でできた雲ができる)
每当心中又想起了你 风中有朵雨做的云(君を想うと又、風の中に雨の雲がかかる)
吹啊吹 吹落花满地 找不到一丝丝怜惜(吹け 吹け 吹け散る花 地面一面に散らばれ、哀れみの跡が見当たらない)
飘啊飘飘过千万里 苦苦守候你的归期(浮かぶ、浮かぶ、浮かぶ何千マイルも君の帰りの日を待っている)
每当天空又下起了雨 风中有朵雨做的云(空にまた雨が降るたびに、風の中に雨でできた雲ができる)
每当心中又想起了你 风中有朵雨做的云(空にまた雨が降るたびに、風の中に雨でできた雲ができる)
每当心中又想起了你 风中有朵雨做的云(空にまた雨が降るたびに、風の中に雨でできた雲ができる)
カラオケ版がありましたゾイ
監督が本当につけたかったタイトルは『一場遊戯一場夢』ですね
映画の中でライブをしているのがご本人たちで、王傑と言うグループだそうです
同じ楽曲を2022年アレンジ版でリリースするそうなので、気になる方はググってみてはいかがでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は拗れた人間関係と汚職が混ぜ合わさった形になっていて、それによってタンの転落死が起きた経緯を紐解いていく流れになっていました
時系列シャッフル系なので、初見でわかりにくいところも多かったように思います
以下、記憶が正しければの前提付きで、時系列にまとめてみました
【1989年】
タンとジャン、リンがパレスホールのパーティで出会います
リンはジャンと恋仲ですが、そこにタンの猛アプローチが入ります
【1990年〜1992年】
ジャンには当時妻子がいたために、リンはタンと結婚することに決めました
その2年後、リンとタンの間にヌオが生まれますが、実はジャンとリンの子どもでした
【1998年】
香港に出張に行ったジャンは、そこでアユンの歌に魅了されます
アユンを共同経営者にして、出世して副主任になったタンと再開発事業の談合を初めていきます
【1999年〜2000年】
リンの精神疾患が起こり(原因はタンによるDV)、精神病院に隔離になってしまいます
翌年に退院し、アユン、ヌオ、ジャン、タンが彼女を迎えにきました
【2006年】
アユンとリンで揉め事が起き、リンは彼女をハサミで刺してしまいます(その後、車が事故を起こして、その傷が致命傷になります)
そこにジャンとヤンがやってきて、アユンの死体を森の中に埋めることになりました
アユンの失踪事件の担当にヤンの父が抜擢されます(アレックスが助手になると思います)
その捜査中に、ヤンの父は車と激突して半身不随になってしまいます
深圳にてカップルが腐敗した死体を発見、DNA鑑定にかけられますが、その資料は何者かによって隠蔽されることになりました
【2010年】
洗村周辺の開発が進み、天河区に巨大なビルが立ち並んでいきます
同時に、洗村での暴動も過熱化していきました
そんな頃、リンは精神的に追い詰められ、自首を考えるようになります
ヌオ、アユンの死について、母に問い正します
【2013年】
暴動が拡大し、それを抑えるために主任になっていたタンが村を訪れます
その最中にタンの転落死が起こります
転落死の捜査担当にヤンが抜擢され、周囲を洗っていきます
そんな中、体の関係を持ったリンとのスキャンダルとタンの秘書ワンの死によって、ヤンは香港に逃亡することになりました
ヤンはアレックスと合流しますが、そこでアレックスの部下は何者かに殺され、アレックスは九死に一生を得ます(ここでアユン失踪のDNA鑑定の話が出てきたと思います)
ヤンはさらに捜査を進め、付随になった父とも会いにいきます
リンは自首し、獄中にて自殺を図り、それがニュースになります
ジャンとタンの癒着も発覚し、それによって事件は幕引きを迎えると思われました
ヤンの元にワンが撮った写真の画質調整版が届きます
それを見たヤンは慌てて、当日のホテルの監視カメラを調べます
そこに写っていたのは、アユンの格好をしたヌオでした
以上が簡単な時系列順のまとめとなります
一回しか観ていないので、うろ覚えのところが多いのですが、おおよそこんな感じの流れだったと思います
アユンを殺害したのがリンで、それを隠蔽したのがジャンとタン
その事実を知ったヌオが3人に天誅を下す中で、捜査担当のヤンを取り込んでいこうとします
アユンからの問い詰めでリンは精神的に崩壊して自首して自殺
ヌオの誘導によってヤンはジャンを捕まえることになり、法で裁かれることになります
そして、母への虐待を含めた様々な罪によって、ヌオはタンに制裁(転落死)を加えることになりました
この時のヌオはアユンに見える格好をしていて、タンとしては亡霊が出たと思って、屋上から転落したのかなと思いました
結局のところ、アユンのことを慕っていたヌオの復讐劇だったというオチで、うまいこと利用されたのがヤンだったと言うことになりますね
こんなことがあの子一人でできるのかは謎ですが、彼女のブログには「人の殺し方」みたいな危ない記事がたくさんあったので、アユン失踪後から着々と準備をしてきたのかなと思いました
リンもヌオも刑事を操るために体を持って近づいていくのですが、そこはやはり母娘と言うことなのかなと思ってしまいましたね
ちょっと理解するのに疲れるタイプの映画ですね
あらすじが合っているのかはあまり自信がないので、参考程度にしてくださいね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385712/review/4e87ac4e-b1e5-44c0-a903-2d923ff5fa7a/
公式HP:
https://www.uplink.co.jp/shadowplay/index.html