■時代と共に親和性を要し、無関心を引き入れる方策は必要


■オススメ度

 

警察の音楽隊に興味がある人(★★★)

音楽映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.8.31(MOVIX京都)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、119分、G

ジャンル:左遷された元刑事が、慣れない部署で奮闘する様子を描いた音楽&ヒューマンドラマ

 

監督&脚本:内田英治

 

キャスト:

阿部寛(成瀬司:捜査一課から音楽隊への異動を命じられる刑事)

 

【警察音楽隊メンバー】

清野菜名(来島春子:交通課所属、トランペット奏者、一児の母)

高杉真宙(北村裕司:自動車警ら隊所属、サックス奏者)

板橋駿谷(国沢正志:自動車警ら隊所属、チューバ奏者)

モトーラ世理奈(柏木美由紀:県警本部会計課所属、カラーガードリーダー)

渋川清彦(広岡達也:交通機動隊所属、成瀬の指導担当、パーカッション)

酒向芳(沢田高広:警察音楽隊隊長、指揮者)

 

【捜査一課のメンバー】

磯村勇斗(坂本祥太:捜査第一課巡査部長、成瀬の後輩&相棒)

六平直政(井上涼平:警部補主任、成瀬の同僚)

岡部たかし(篠田誠:成瀬の異動を心から嘲笑う刑事部捜査一課長)

光石研(五十嵐和夫:音楽隊の存在を疎ましく思っている県警本部長)

 

【その他】

倍賞美津子(成瀬幸子:認知症を患う成瀬の母)

見上愛(成瀬法子:成瀬の娘)

平田卓巳(法子のバンドメンバー)

相澤大吉(法子のバンドメンバー)

 

城戸晴慶(来島蓮:春子の息子)

高尾悠希(成瀬にドラムセットを譲る広岡の息子)

 

長内美那子(村田ハツ:音楽隊のファンを公言する老女)

高瀬哲朗(騒音クレームおじさん)

 

高橋侃(西田優吾:アポ電強盗グループの一味)

小沢仁志(謎の男)

マシュー・チョジック(牧師)

渡部龍平(音楽フェスに来る一般人)

 

樽崎誠(音楽隊メンバー)

 


■映画の舞台

 

日本のどこかの地方都市

 

ロケ地:

愛知県:豊橋市&豊川市

東田球場(マーチングの練習)

https://maps.app.goo.gl/hoKNXGr2JM4j2d8h9?g_st=ic

 

桜丘高等学校(練習場の教会)

https://maps.app.goo.gl/zV4WXduq1K6hPXbJA?g_st=ic

 

豊橋市公会堂(定期演奏会)

https://maps.app.goo.gl/GvfSCzCCGkxN4Xaq5?g_st=ic

 

こども未来館 ココニコ(音楽フェス会場)

https://maps.app.goo.gl/5JvWKgDGZDNnBQKY7?g_st=ic

 

勢川 本店

https://maps.app.goo.gl/w7HuwLCuoaQ88nRS6?g_st=ic

 

伊勢路 本店(お好み焼き屋)

https://maps.app.goo.gl/11xMUVFYrmqSdg8g6?g_st=ic

 

小野田(バス停)

https://maps.app.goo.gl/PygaZgNKi4e4ebfu5?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

現場一筋30年の鬼刑事・成瀬司は、強引な捜査と部署内のパワハラで孤立している存在だった

ある日、令状なしの家宅捜索の訴えと内部からのパワハラの告発を受けて、成瀬は警察音楽隊に飛ばされることになった

 

警察音楽隊は各部署の寄せ集めで兼任している者も多く、実力は地を這っていた

成瀬も幼少期の和太鼓以来の音楽で、とても満足な演奏ができるほどの実力はありもしない

 

そんな中、成瀬が外された「アポ電暴行事件」が繰り返し報道されてしまう

遅々として進まない捜査に苛立って捜査本部に乗り込むものの、「君はもう刑事ではない!」と突き放されるのであった

 

テーマ:今の自分は過去の自分が作っている

裏テーマ:人生の帰路で舵を切る勇気

 


■ひとこと感想

 

パワハラ刑事が音楽隊に異動と言う出オチのような映画になっていますが、一応は刑事物+ヒューマンドラマと言うカテゴリーになっています

街で起こっている「連続アポ電暴行事件」ですが、なぜか成瀬は犯人の特定をしていると言う不思議な展開になっています

 

特定できても逮捕しなければ意味はないのですが、この逮捕劇を巡る一連のシークエンスが色々とツッコミどころ満載となっています

また、警察ものの比重が重く感じられ、いつになったら音楽隊に行くのか、とヤキモキしてしまいました

 

誰かが新しい場所に行くと言うことは、それまでにいた場所ではその人の不在によって生まれ変わることになり、また新しい場所ではその人の存在によって状況を変える必要性がある、と言えます

これまでいた刑事課は成瀬の不在を促したので、それは前時代の捜査を否定して結果を出すことが求められます

また、新しい場所は停滞する何かを変えることが期待される、と言う感じでしょうか

 

物語の軸として、成瀬の「異動」と言うものは様々な問題が表面化するきっかけになっていったと言えるのだと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

人の異動と言うのは、基本的には個人の感情が波及したものだと言えます

この映画では時代錯誤なパワハラに晒された坂本が、耐えきれずに告発したことで成瀬は左遷されました

 

成瀬にとっては逃避行動で、状況を自分では変えられないために、組織の力を利用するしかありませんでした

また、音楽隊の是非についても、風見鶏的な本部長の感情だけで物事を動かそうとしますが、結局は組織外の力には勝てません

 

知事が心変わりをしたのは、単純に個人に感銘を与えるだけの行動を音楽隊が起こしたからです

音楽隊と事件は何の関連性もないように思えますが、音楽隊もまた警察官であり、音楽隊と同時に抱えている警察官としてのプライドや自負というものがありました

 

本作では、音楽隊の存在意義はもちろんのこと、そこに集う人たちの想いと言うものを汲み取っていこうとしています

左遷される場所と言う扱いはひどく、実際の音楽隊は流刑地ではありません

人と向き合う警察官の存在意義として、正の感情を有する大切な部署であると感じました

 


警察音楽隊の歴史

 

警察音楽隊の歴史は戦前に遡り、日本初の音楽隊は1934年の神奈川県警の警務課内にて8名にて結成されました

その後、1936年に陸軍戸山学校軍楽隊から上羽仙松が参入し、警視庁にて警視庁音楽隊が発足しました

翌年には大阪府警の教養科でも発足されます

それでも、太平洋戦争突入と同時に演奏活動が困難となって、1943年までに解散を余儀なくされています

戦後になって、1945年に大阪府警に再発足がなされ、1947年に宮崎県警が創設、神奈川県警も再発足と拡がりを見せていきました

 

映画でも言及されたように、音楽隊は他の業務と兼務になることが多いのですが、現在では11都道府県にて「専務隊」と呼ばれる「音楽隊専属」と音楽隊もあります

隊員の多くは警察官で、警察学校を卒業して、一般の警察官として配属された後に音楽隊に入隊することになります

この他にも、隊長や楽長、指揮者などの音楽指導者は外部から招聘することもあるとのことですね

 

兼務隊とされる場合、その多くは総務部広報課(成瀬の配属)、交通機動隊(柏木)、管区機動隊、自動車警ら(北村、国沢)などで、警察本部の執行隊あるいは本部周辺の警察署の地域署員である場合が多いとされています

音楽隊には全国警察音楽隊演奏会というものがあり、1956年に当時の警視庁音楽隊長の山口常光の発案にて、実現に至っています

この大会は全国の音楽隊が一堂に会するもので、これまでに48回(2007年)が行われています

 

柏木が所属していたのは「カラーガード隊」と呼ばれるもので、マーチングバンドなどで、フラッグ、ライフル、セイバー(サーベル)などを用いて、視覚的な効果を担うパートになっています

映画ではフラッグのみの使用でしたね

日本のカラーガード隊はほとんどの音楽隊にありますが、一部の皇居音楽隊などには組織されていないところもあるとのことですね

映画では行進しながら演奏する練習をしていましたが、その披露がなかったのは残念でした

それなのに、練習をほとんどしていない仮装演奏などは行ったりと、練習の成果を見せるという意味合いは一貫していなかったように思えました

 


警察音楽隊になる方法

 

警察音楽隊になるためには、まずは警察官採用選考に合格する必要があります

警察学校で教養を身につけ、その課程を修了すると、地域警察官として配属され、一定の実務経験を積んだのちに本人の希望や適正に応じて音楽隊に配属されます(大阪府警の場合)

音楽隊への配属を前提に募集されている県もあり、香川県警では会計年度任用職員として「音楽隊配属を前提として募集」され、その採用試験に合格したのちに音楽隊員に指定というコースもあります

指定はすぐにされますが、警察本部や警察署での勤務をしながら音楽隊の活動にあたるそうです(香川県警のHP参考)

 

音楽専門学校の中では、「公務員音楽隊コース」なるものもあって、警察音楽隊の他に自衛隊音楽隊、消防音楽隊などを目指すコースもあります

この場合は音楽の演技実技の指導と同時に公務員採用試験を目指すことになります

 

警察音楽隊の存在意義としては、「国民と警察の融和を図り、音楽を通じて警察に対する国民の理解と信頼を深めることを目的とする」というものがあります

ざっくりとイメージアップと交流ということになるのですが、映画内でも犯罪撲滅キャンペーンで演奏をして人を集め、そこで注意喚起を促したりと事件に注目を集めてもらうための一定の効果はあると思います

また、市町村でのコンサートなどでは市民が無料で演奏を聴ける機会でもありますし、組織を背負っているという自負から下手な演奏ができないというプライドもあるといえます

 

税金で運用されているので、学生のクラブ活動などとは気合の入り方が違います

映画では「やる気のない寄せ集め」みたいな音楽隊になっていますが、実際にこんな音楽隊は存在しないんじゃないでしょうか

このあたりはフィクションゆえの誇張であるように思えました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は「左遷されることによって過去の自分の行いを俯瞰する」という内容になっていて、理念だけでは誰もついてこないことを描いています

成瀬を音楽隊に追いやったのは坂本の告発ですが、それは成瀬自身の過去の行動であることは明白です

彼は周囲の仲間を敵視し、見下し、自分の思い通りの捜査ができなければ和を見出し、法を犯すことも辞さない警官でした

遅かれ早かれ、彼は警察官の職を解かれる可能性もあり、音楽隊(実際には広報課への栄転扱い)は温情に近い措置であると思います

 

成瀬がそのやり方を貫いて来れたのは、ひとえに結果を残してきたからでしょう

でも、コンプライアンスは時代と共に求められるようになり、彼はその時代の変化について行けていません

対象とする特殊詐欺への捜査が進まないのも、犯罪の多様性と複雑性が法を盾に蔓延り始めているからで、その犯罪者の動きに対して成瀬は後手を踏んでいるだけなのですね

なので、前時代的な「力技」で捜査を展開しますが、それによって捜査員たちの動きを封じることにつながっています

 

犯罪者の方が法に長けていて、規制や法整備の隙をつくというのは常套手段であるといえます

暴力団も姿を変えて見えなくなって、そのシノギ的なものも複雑化していますね

このようなことが複雑化する理由は明白で、それは彼らには明確な目的があるからといえます

彼らは目的に対して最短ルートを行くことを是としていて、また手段を選ばないとしても、一線は越えないようにしています

本作の犯人グループは一線を超えていますが、これは映画的にわかりやすい悪として描いているだけで、実際にはもっと巧妙な手口で強奪をするでしょう

 

暴力的な行為に対して憤りを見せて、それを感情的な捜査を是とするのが成瀬のやり方でしたが、感情的になった瞬間に負けだと思います

実際の捜査がこんな感情的なものだとは思いませんが、犯人側の思考に立って事件を俯瞰して見る方がずっと解決への早道のような気がしました

映画ではそういった捜査の変化というところまでは描かれませんが、そこまで一気に変化する方がおかしいかも知れませんね

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/381310/review/2818633b-88c7-4610-ba17-1a2f5fcab9ab/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/ongakutai/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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