■国王にとってのジャンヌ、ジャンヌにとっての国王とは一体何だったのでしょうか
Contents
■オススメ度
ジャンヌ・デュ・バリーに興味がある人(★★★)
ストーリー性を求めたい人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.6(京都シネマ)
■映画情報
原題:Jeanne du Barry
情報:2023年、フランス、116分、G
ジャンル:ルイ15世の最期の愛人であるジャンヌ・デュ・バリーを描いた伝記映画
監督:マイウェン
脚本:マイウェン&テディ・ルシ=モデステ&ニコラ・リベッチ
キャスト:
マイウェン/Maïwenn(ジャンヌ・デュ・バリー/Madame du Barry:労働者階級から成り上がる女性)
(幼少期:Emma Kaboré Dufour)
(10代時:Loli Bahia)
ジョニー・デップ/Johnny Depp(ルイ15世/Louis XV:フランス国王)
バンジャマン・ラベルネ/Benjamin Lavernhe(ジャン・バンジャマン・ド・ラ・ボルド/Jean-Benjamin de La Borde:国王の従弟、ジャンヌの側近)
Caroline Chaniolleau(マダム・ド・ラ・ガルド/Madame de la Garde:ラ・ガルドの娘、詩人)
Gabriel Arbessier(ラ・ガルドの息子)
Guilhem Arbessier(ラ・ガルドの息子)
メルビル・プポー/Melvil Poupaud(バリー伯爵/Jean-Baptiste du Barry:地元の名士、のちのジャンヌの夫)
ロバン・ ヌルーチ/Robin Renucci(ムッシュ・デュムソー/Dumousseaux:ジャンヌの母の雇い人、バリーに紹介する男)
マリアンヌ・バスレール/Marianne Basler(アンヌ・ベキュ/Anne:ジャンヌの母親)
(若年期:Erika Sainte)
ピエール・リシャール/Pierre Richard(ルイ・フランソワ・アルマン・ド・ヴィニュロ・デュ・プレシ/: Louis François Armand de Vignerot du Plessis:第3代リシュリュー公爵、国王にジャンヌを紹介する貴族)
パスカル・グレゴリー/Pascal Greggory(エマニュエル・アルマン・ド・リシュリュー公爵/Emmanuel-Armand de Vignerot du Plessis:リシュリュー公爵の甥、デギュイヨン公爵、外務大臣)
インディア・ヘアー/India Hair(アデレード・デ・フランス/Adélaïde de France:ルイ15世の4番目の娘)
シュザンヌ・ドゥ・ベーク/Suzanne De Baecque(ヴィクトワール・ド・フランス/Victoire de France:ルイ15世の5番目の娘)
Capucine Valmary(ルイーズ・マリー・ド・フランス/Louise de France:ルイ15世の7番目の娘)
ローラ・ル・ヴェリー/Laura Le Velly(ソフィー・ド・フランス/Sophie:ルイ15世の6番目の娘)
Patrick d’Assumçao(シュワズル公エティエンヌ・フランソワ/Étienne-François de Choiseul:リシュリュー公爵の政敵、ジャンヌを嫌う高官、陸軍大臣)
Coralie Russier(ショワズルの妹)
ノエミ・ルボフスキー/Noémie Lvovsky(アンヌ・ド・ノアイユ伯爵夫人/Anna de Noaille:ジャンヌを忌み嫌う女官)
ディエゴ・ルファー/Diego Le Fur(王太子/ルイ16世/Louis XVI:ルイ15世の孫、のちのルイ16世)
ポリーン・ポールマン/Pauline Pollmann(マリー・アントワネット/Marie-Antoinette:のちのフランス王妃、ルイ16世の妻となる女性)
Djibril Djimo(ザモル/Zamor:ジャンヌと関わりを持つインドの奴隷)
(幼少期:Ibrahim Yaffa)
Aurélie Vérillon(アデレード・ラビル=ギアール/Adélaïde Labille-Guiard:画家)
Laurent Grévill(画家)
Luna Carpiaux(エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン/Elisabeth Vigée-Lebrun:画家、思春期)
(成人期:Marie Bokillon)
Edouard Decker(シャルル・ジョセフ/Prince de ligne:リーニュ公、ハプスブルグ帝国・オーストリア帝国の元帥)
Stanislas Stanic(ナレーション)
【その他】
Micha Lescot(メルシー/Mercy:?)
Marine Boca(ジャンヌの友人)
Yann Frisch(マジシャン)
Thibault Bonenfant(アドルフ/Adolphe:ラ・ボルドの従者)
Vincent Colombe(性病チェックをする婦人科医)
Edouard Michelon(産婦人科医の助手)
Teddy Lussi-Modeste(ジェルマン・ピショー・ラ・マルティニエール:外科医師)
Éric Denize(ローリー:医師)
Raphaël Quenard(フランス侍従長)
Grégoire Oestermann(ニコラ・ルイ・モードゥ/Abbé Maudou:修道院長、司祭)
Vincent Schmitt(牧師長)
Nathalie Richard(マダム・ド・ラ・ロシュ・フォンテニール/Madame de la Roche Fontenille:パリの司祭)
Bernard Nissile(ゴマール神父)
Jürgen Doering(衣装係)
Tom Pecheux(ボシュネ/Bossuet:メイク係)
Manon Rony(フェリシティ/Félicité:?)
Alexandre Styker(エドゥアール/Edouard:第一夫人の従者)
Jean-Noël Martin(ラテン語を話す司祭)
Matteo Di Capua(チェロ奏者)
■映画の舞台
1700年代(18世紀)
フランス:パリ
ロケ地:
フランス:パリ
フランス:ヴェルサイユ
■簡単なあらすじ
フランスのシャンパーニュ地方の貧しい家で育ったジャンヌは、母アンヌと共に地元で暮らしながら、修道院に入ることになった
だが、素行の悪さから追い出されてしまい、パリへとたどり着く
そこで母の勤め先のデュムソーから、デュ・バリー伯爵を紹介される
デュ・バリーの読書担当になったジャンヌは、リシュリュー公爵の勧めで、ルイ15世と会うためにヴェルサイユ宮殿を訪れる
ルイ15世は彼女の目の前で立ち止まり、やがて彼に招かれるようになる
奇妙なしきたりに苦笑するジャンヌは、ルイ15世の側近ラ・ボルドから多くのことを学びながら、ルイ15世のそばに使えることになった
彼女の噂は瞬く間に宮殿中に響き渡り、ルイ15世の娘アデレード、ヴィクトワールは露骨に反抗的な態度を取る
だが、るい15世の孫・王太子はジャンヌのことを慕い、ジャンヌは四面楚歌の状態から逃れていた
だが、そんな幸福な時間も長くは続かなかった
ルイ15世が病に倒れ、彼女は身の振り方を考えなければならなくなったのである
テーマ:自分の居場所の見つけ方
裏テーマ:歴史が引き合わせた余白
■ひとこと感想
王政のドロドロ不倫劇みたいなものを想像していましたが、主演&監督ということで察してしまいましたねえ
美術は豪華で、キャストもすごいですが、このドレス着たかったんかなあという感じに思えてしまいました
生まれるところから処刑されましたよという人生丸ごと映像化したような作品で、前半のナレーションで説明して、あっさりとヴェルサイユ宮殿に来ていました
読書でエロスを覚えて、殿方を陥落させていったのですが、セックスシーンがバックで1回だけ、完璧な防御を張っている高級娼婦映画というのは驚いてしまいましたね
映画はそんなシーンが無くても成立するのですが、本作の場合は物語の抑揚がほとんどないので、紙芝居か何かでジャンヌの人生を学んだ、という感覚に陥りました
ジョニー・デップ主演(助演かな)なのに単館系以外は完全スルー状態なので、前評判がそれほどでもなかったのでしょうか
ともかく豪華なヴィジュアルと壮大なオーケストラを堪能するならアリですが、劇伴はずっと鳴りっぱなしなので結構うるさいなあという印象も持ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画というよりはジャンヌを学ぶための映像教材のような印象があって、底辺が王宮に駆け上がっていく様子がほぼダイジェストになっていたのはびっくりしました
修道院で学んだ官能小説をそのまま御仁に披露したらウケて、トントン拍子で偉いさんの股間を駆け上がっていったという感じになっていて、それで良かったんかなと思ってしまいました
いつの間にかフェードアウトした母親がしれっと復活して、またいつの間にかフェードアウトしていったのには物悲しさを感じてしまいます
映画は、幼少期、10代、成人期でキャストが変わりますが、年の重ね方が唐突なので、一気に老け込んだ感じになっていましたね
ルイ15世に紹介されたのが26歳で、その前のバリーの愛人時代が17歳からなので、そりゃあ一気に飛びすぎだなあと思うのは当然で、10代の役者で老けメイクさせるのは無理があります
映画では、この年齢の刻み方がよくわからない感じになっていて、50歳の人生を2時間でまとめるのは無茶という感じになっています
王室時代のエピソードもたくさんあると思うのですが、主演&監督とするならば、いきなり王宮から始めた方が良かったかもしれません
■ジャンヌ・デュ・バリーについて
ジャンヌ・デュ・バリーことデュ・バリー伯爵夫人は、1743年生まれの女性で、のちにフランス王ルイ15世の最後の侍女として知られる人物でした
フランス革命にて、反逆罪に問われ、移民の逃亡を幇助した疑いでギロチン刑になっています
1768年、ルイ16世はジャンヌを侍女にしたいと望みましたが、王宮の作法により、高級廷官の妻でなければならないというものがありました
それにより、ギョーム・デュ・バリー伯爵と結婚し、公式愛人として認められるようになりました
彼女は低俗な生まれの娼婦だったために、王宮の女性は反発を起こします
特にルイ15世の娘たちから嫌われ、マリー・アントワネットも娘側についたとされています
ジャンヌは裁縫師のアンヌ・ベキュの私生児で父親に関しては候補が何人かいるものの不明扱いになっています
その後、母の雇い主であるデュムソーによって、ギョームに紹介されるのですが、デュムソーも父親の候補に上がっているのですね
ジャンヌは15歳のとき、修道院に入りましたが、あっさりと追い出されてしまいます
これによって母も一緒に追い出されることになり、パリへとやってくることになりました
装飾品などを路上で売ったりして日銭を稼ぎ、その後は美容師手伝いや帽子屋で働いたりしていました
1763年、ジャンヌはマダム・キズノワの売春宿兼カジノにて働くようになります
その美しさはギュームの兄ジャン=バティストに見そめられ、それによってギョームの目にも止まるようになりました
彼女はその後も交流の場を広め、ルイ15世に紹介することになったリシュリュー元帥も恋人だったとされています
その後、ヴェルサイユ宮殿に入ることになり、ルイ15世に止まるという流れになっています
■勝手にスクリプトドクター
本作は、ジャンヌの幼少期をかなり端折っていて、その後は監督自らが演じるルイ15世時代の愛人時代が描かれていきます
この構成自体は問題ないのですが、登場人物がかなり多く、宮殿内のパワーバランスとか、当時のフランスの情勢などが完全に排除されています
それゆえに、ある程度詳しくないと、誰がルイ15世の娘なのかがわからなかったりします
特にアデレード、ヴィクトワールあたりは「数多くいるルイ15世の愛人」にも見えてしまうので、このあたりの説明は必要な感じに思えてしまいます
映画は、後半に入るとルイ15世の病状にフォーカスされ、ルイ15世ともに過ごすジャンヌが描かれていきます
この辺りも史実ベースになっているのですが、時代背景をほとんど挿入しないので、この時点で「フランス革命カウントダウン」が起こっていることがわからなかったりします
フランス革命はリシュリュー元帥がルイ13世に仕えていた頃からあった旧体制「アンシャン・レジーム」というものが起点になっていて、これらから派生した「絶対主義」というものがありました
これらの憤懣というものが市民の間に溜まっているのがルイ15世の時期で、華やかな王宮の外側というものは阿鼻叫喚の渦が巻き起こっています
ルイ14世の晩年期にはフランスの国家財政は逼迫しつつあり、これがルイ15世の時代に悪化し、ルイ16世の時に行き詰まることになりました
映画内ではルイ16世は王太子と呼ばれていて、ジャンヌを慕う存在になっています
ルイ15世の死去により、ジャンヌは王宮を追い出されることになるのですが、この直前にルイ15世はジャンヌのために200万リーヴルとも言われる贅沢なネックレスの作成依頼をかけていました
このネックレスはルイ15世が死んだ後に完成され、それが様々なスキャンダルを引き起こしています
マリー・アントワネットとの不仲についてもサラッとしたものになっていて、もっとドロドロしたものがあったのではないでしょうか
映画は、ルイ15世とのラブラブ生活と天然痘の看護などがフォーカスされていましたが、本当はもっと多くのことに関わった人物でした
なので、最終的に投獄・裁判などを経た処刑まで描いた方が良いように思えています
王宮を追われた彼女がなぜフランス革命の余波で処刑されることになったのか?
このあたりが数行の字幕で表現されているのは微妙なのですね
華やかな王宮での綺麗な部分だけを抽出しているのですが、これがジャンヌの一生だと言われると少しだけ抵抗があるように思えます
また、娼婦&愛人だったのに全くセックスにふれないところも大人の事情が垣間見えるように思います
まるで、装飾を施した上辺だけの印象が強く、それゆえにドレスアップをしたかっただけなのかな、と勘繰ってしまえるのかなと思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ビジュアル面の凄まじさが強調されていますが、実際のジャンヌがどんな人物だったのか、というのがあまり伝わらなかったように思えました
彼女は愛人となって何がしたかったのかとか、国王を裏で支えようとしていたのか、それとも地位を使って何かを企んでいたのかなど、彼女の内面がほとんどわからなかったように思えます
誰かの愛人になることを良しとするのか、生きるために仕方なく甘んじてきたのか、そもそもルイ15世の愛人というポジションが世間的にどのようなポジションになるのかもあまり見えてきません
王宮内ではその出自などが標的になって嫌われていましたが、国王の愛人になることのステータスというものがあまり感じられず、その影響力もわかりません
ルイ15世のジャンヌへの思い入れが強く、それによってフランスの財政が悪化してきた背景もスルーで、その背景のなさが表面的に思えてしまうのだと思います
それはジャンヌの人格造形にも繋がっていて、彼女の喜怒哀楽というものがヴェルサイユに入ってからはそこまで強調されていないのですね
王太子との絡みで母親っぽさが出たりはするものの、愛人と言っても劇場的でもなく、嫉妬深くヴェルサイユで孤立しているという感じもなかったりします
女性は嫉妬と憧憬のどちらも浴びる存在だと思いますが、彼女の場合はどのように見られていたのかというところが弱くて、さらにヴェルサイユ以外ではどのように思われていたのかとかもあまり伝わってきませんでした
下剋上を果たした英雄である反面、市民生活を脅かす存在でもあったので、市井の人々の反応が財政悪化と共に変わっていく様子などがあった方が良かったと思います
華やかな宮殿の外側からじんわりと忍び寄る革命への下火
そう言ったものを後半のルイ15世の天然痘と絡めながら不穏さを描いていく、というのも良かったでしょう
映画は、ほぼ時系列に説明するだけのものになっていますが、いっそのこと「処刑シーンを最初に持ってくる」という構成で、ジャンヌの回想録にしても良かったように思います
彼女は人生の中で何を想い、どの時代にこだわりを持っていたのか、など、彼女の走馬灯こそが彼女を表す全てだと思うので、それを強調することで、物語性というものが生まれます
冒頭でジャンヌの脳裏を示し、後半にそのシーンが登場することによって物語のピークというものがわかります
そこがミドルポイントとして機能し、後半は処刑に向かう階段を一歩ずつ歩んでいく
そうした中でルイ15世は彼女にとって何者だったのか、を描くことで、もっと物語に厚みが生まれたのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100835/review/03455744/
公式HP:
https://longride.jp/jeannedubarry/index.html