■テレビドラマなので表現の限界はあるが、冷静に見ると結構攻めた編集になっていますね


■オススメ度

 

伊藤野枝に興味のある人(★★)

ドラマを劇場音響で堪能したい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2024.2.12(MOVIX京都)


■映画情報

 

情報2024年、日本、127分、G

ジャンル:女性の人権運動に従事した伊藤野枝の半生を描く伝記映画

 

演出柳川強

脚本矢嶋弘一

原作村山由佳『風よ あらしよ(2020年、集英社)』

Amazon Link(原作本:Kindle 上下巻https://amzn.to/3uwoWr8

 

キャスト:(?=出演情報確認、概要不明)

吉高由里子伊藤野枝:婦人解放活動家、文筆家) 

   (幼少期:湯本柚子

 

永山瑛太大杉栄 :無政府主義者の思想家、後の野枝の内縁の夫) 

山田真歩堀保子:社会運動家、大杉の内縁の妻) 

金井勇太和田久太郎:アナキスト、大杉の同志)

芹澤興人久板卯之助:アナキスト、大杉の同志)

 

松下奈緒平塚らいてう:婦人解放活動家、文筆家、青鞜社の創始者)

成田瑛基(奥村博史:画家、平塚の夫)

 

美波神近市子:婦人解放活動家、ジャーナリスト、大杉の愛人、青鞜社の同人)

栗田桃子(保持研 :俳人、青鞜社の同人)

高畑こと美尾竹紅吉:青鞜社の同人)

福田ユミ(中野初:俳人、青鞜社の同人)

 

玉置玲央村木源次郎:アナーキスト、大杉の同志)

 

音尾琢真甘粕正彦:憲兵大尉)

 

石橋蓮司渡辺政太郎:野枝と大杉を引き合わせた社会運動家、辻潤の知り合い)

山下容莉枝(渡辺八代 (政太郎の妻)

 

稲垣吾郎辻潤:思想家、翻訳家、野枝の高校時代の教師で夫)

朝加真由美(辻美津:潤の母親)

那須嶺(辻一:辻と野枝の息子、1歳)

 

池田倫太朗(末松福太郎:野枝の許婚)

渡辺哲(福太郎の父)

 

みのすけ(田村記者:新聞記者)

池津祥子(立花秀子:旅館の女将)

前原滉(近藤:大杉を見張る巡査)

 

加藤柚凪(大杉魔子:大杉と野枝の娘)

岩川晴(橘宗一:大杉のいとこの息子)

 

石村みか(?)

藤本くるみ(女学院生)

佐藤文吾(?)

生島勇輝(男性記者)

野口俊丞(?)

川畑和雄(?)

湯浅浩史(?)

南部麻衣(デモに参加する町民)

西野優希(デモに参加する町民)

佐々木一平(鮮人狩りの男?)

棚橋ナッツ(?)

松本誠(?)

矢幡晃一(?)

滝佑里(野枝の同級生)

 


■映画の舞台

 

明治44年〜

福岡県:糸島郡今宿村

東京都:上野

栃木県:下都賀郡谷中村

神奈川県:三浦郡葉山村

 

ロケ地:

東京都:豊島区

自由学園 明日館講堂

https://maps.app.goo.gl/6aJXt23jJyP91Dh9A?g_st=ic

 

東京都:渋谷区

青山壱番館

https://maps.app.goo.gl/BFnCbLdcuYcEzmrx5?g_st=ic

 

東京都:文京区

根津神社

https://maps.app.goo.gl/2KH3nKLYZp3NgdJ16?g_st=ic

 

栃木県:鹿沼市

旧粟野中学校

https://maps.app.goo.gl/YbCAUtB2Hc5BQWA58?g_st=ic

 

栃木県:栃木市

渡良瀬遊水地

https://maps.app.goo.gl/NP6j4z1ke3LJxxSi7?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

明治44年、福岡に住む野枝は、15歳で勝手に結婚を決められ憤慨していた

結婚しても、夫は敬意など示さずに、奴隷のように扱うだけ

野枝はそのような生活に耐えきれず、恩師・辻潤の言葉を信じて、単身で上京することになった

 

この行動を起こさせたのは、辻の授業で取り扱われた平塚らいてうの言葉であり、野枝はその言葉を胸に「新しい女」と言う概念を体現しようと思い始めていた

平塚は「青鞜」と呼ばれる婦人月刊誌を出版していて、野枝は平塚の勧めでそこで働き始める

だが、徐々に辻との思想が合わなくなり、ある講演会を機に、二人の仲は最悪の状態になってしまう

 

その講演会には、アナキストの思想家・大杉栄も傾聴していて、彼は「本物がでた」と感銘を覚える

その後、渡辺政太郎の引き合いで会うことになった二人は、思想以外のものを引き合わせていく

そんな二人が気に食わない辻は、さらに野枝へのあたりを強め、その溝はますます深まっていくのであった

 

テーマ:思想と信念

裏テーマ:権力闘争の悲劇

 


■ひとこと感想

 

伊藤野枝と言えば甘粕事件と言う印象で、彼女の激動の歴史を紐解くと言う流れになっていました

NHKのBSのドラマで全3話だったものを編集してまとめたもので、いわゆるTVドラマと言うカテゴリに入ります

なので、映画的な過激な表現などはほとんどなく、甘粕事件もさらっとしかふれていませんでした

 

基本的にドラマの延長線は観ない主義なのですが、まるまる映画でやるならば良いかな、と思って鑑賞

パンフレットも作られていたし、予告編から吉高由里子の演技が良い意味でやばそうなので期待していました

 

映画としては、かなりダイジェスト感が強く、野枝の半生の中の男女問題と青鞜にフォーカスしていた印象があります

かと言って、この映画で野枝の何がわかるのか?という感じになっていて、ドラマだけ見ると貞操観念の低い女性を自由恋愛だと擁護しているようにも見えます

当時の男尊女卑が垣間見えるとは言うものの、野枝が何を成した人なのかと言うのは伝わりきらず、甘粕事件もあったのかなかったのがぼやけたような印象になっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

劇場版ということで、追加の撮影などが行われるのかと思っていましたが、おそらくはそのまま編集されたもののように思えました

野枝が福岡から逃げて辻の元に行き、そこで折り合いがつかなくなったら大杉のもとへ行き、さらに自由恋愛の実験の道具となって憤慨するというもので、神近の起こした刺傷事件などによって、青鞜は廃刊に追いやられていました

 

いわゆる同人誌的な思想本を作っていたのですが、それが世間ではあまり浸透していない時代だったようですね

かなり女性の内面に踏み込んでいたようですが、その本を読んでいるところを夫に見られたら、という躊躇いが起こってもおかしくないほどに過激だったように思えました

 

関東大震災にて朝鮮人差別などの背景があり、甘粕率いる憲兵が事件を起こすのですが、その様子もとてもマイルドなものになっていました

彼が首謀した云々は今となっては諸説ありますが、野枝が殺されたシーンを描かないのは、映画としてはナンセンスなように思えました

 


伊藤野枝について

 

映画(ドラマ)の主人公・伊藤ノヱは、1895年1月21日に、福岡県糸島郡今宿村(現在の福岡市西区今宿)に生まれた女性で、7人兄弟姉妹の3番目の長女でした

父は海産物問屋を営んでいましたが、ノヱが生まれた頃には没落していて、鬼瓦を彫りながら放蕩していたと言われています

ノヱは口減らしのために叔母マツのもとに預けられていました

 

1909年に周船寺高等小学校を卒業し、約9ヶ月の間は地元の郵便局に勤務しながら、雑誌に詩や短歌を投稿していました

その後、東京への憧れを抱き、叔母一家と共に東京に行くことになります

翌年、ノヱは上野高等女学校に合格し入学、在学中に英語教師の辻潤と知り合います

卒業後、帰郷した際に、すでに両親が結婚を決めていて、相談もなく仮祝言まで済ませられていたと言います

ノヱは渋々末松家に入るもの、結婚8日目に出弄して再上京し、辻の元に転がり込むことになりました

辻は周囲から非難され、1912年4月末に教師を辞職して、ノヱとの結婚生活に入ったとされています

 

その後、ノヱは平塚らいてうの女性文学集団「青鞜社」に通い、「新しい女」と親交を深めていきます

彼女は「野枝」と名義を変え、「東の渚」などの作品を発表し、頭角を表し始めます

平塚の「原始、女性は実に太陽だった」という言葉の対になるのが「吹けよ、あれよ、風よ、嵐よ」という野枝の言葉になっているとされています

この時期に野枝は、アメリカのアナキストであるエマ・ゴールドマンの「婦人解放の悲劇」を翻訳し、足尾鉱毒事件に関心を高めていました

 

1915年、それまでに何度も販売・発禁処分を受けて経営難になっていた「青鞜」を平塚から引き継ぐことになります

この頃から、一般女性にも誌面を開放し、情熱的に創作・評論・編集を行うようになっていて、文芸誌だった「青鞜」は女性評論誌、女性論争誌と呼ばれるものになっていました

野枝はこの頃に辻との間に長男・一(まこと)、次男・流ニを出産しています

「青鞜」はその後、1916年の2月号を最後に無期休刊となり、野枝は大杉榮とともに無政府主義として行動を共にするようになっていました

 


その後の大杉との生活、甘粕事件について

 

1916年、野枝は辻と離別して、家族と仕事を捨てることになります

翌月から大杉榮との文通を開始し、秋には同棲を始めることになりました

でも、この時には堀保子が内縁の妻として、神近市子が愛人としてすでにおり、自由恋愛主義として、苦し紛れの生活に入り、一時は四角関係となってしまいます

その後、神近は大杉を刺し、「日蔭茶屋事件」が発生、翌年には保子と離別することになります

 

野枝は多角恋愛に勝利した格好となり、9月に生まれた娘は「悪魔」呼ばわりされてしまいます

二人はそれを逆手にとって「魔子(のちに眞子と改名)」と名付けます

生活は困窮を極め、官憲に監視される日々が続いていきました

 

1923年9月1日に関東大震災が発生し、それによって戒厳令が敷かれるようになります

その最中、9月16日に、野枝は大杉と彼の甥っ子・橘宗一と一緒にいたところ、麹町に張り込んでいた憲兵隊に連行されて消息を断つ事になりました

その後、憲兵大尉の甘粕正彦らによって、大杉、宗一と共に殺害され、遺体は古井戸に投げ捨てられた、とされています

 

その事件から53年後に発見された死因鑑定書によれば、野枝は大杉と共に肋骨が何本も折れており、胸部の損傷具合から激しい暴行を受けていたことが発覚します

軍法会議の法廷にて、甘粕は「野枝らが苦しまずに死んだ」と陳述していましたが、その後の調べで「虐殺の命令を出したのは甘粕ではなく、憲兵隊上層部または大日本帝国陸軍上層部であると推認された」とされています

殺害された宗一はアメリカとの二重国籍で、駐日アメリカ大使館からの厳重な講義を受けて狼狽した第2次山本内閣にて大問題へと発展していた、という経緯もありました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、テレビドラマ3話分を127分にまとめたもので、120分のドラマ(120分)とプレミアムドラマ(49分*3回)を再編集したものになります

どうやら追加撮影はしていないようで、そのままドラマ分と捉えて良いのだと思います

テレビと映画の違いは放送倫理区分の違いで、テレビドラマは誰でも見られることが前提なので、表現方法は限られています

本作だと、これだけの子どもがいるのに性交を匂わせるシーンすらなく、甘粕事件で何が起きたのかもわかりません

 

これらの表現が必要かどうかは個人の見解になりますが、伊藤野枝と大杉榮を取り扱った映画で、甘粕事件をほぼスルーというのは微妙な感じがして、殺害シーンなどがなくても、井戸に放り投げるシーンぐらいはあってもよかったように思えます

映画の構成としては、井戸の中から空を眺めるショットで始まり、同じショットで終わっているのですが、これは「暴行されて生きたまま井戸に投げ捨てられて、これまでの人生を俯瞰している」という構図になります

なので、冷静に考えると、暴行の末に死体を井戸に遺棄したという風説よりもエグい死に方をした、という事になるので、それは裏付けがあるものなのか仮説なのか、という問題もあるように思えました

 

実際にどうだったかはわからないと思いますが、甘粕の陳情だと「苦しまずに死んだ」ということになっていて、しかもそれが甘粕の単独的な行動ではないところまではわかっています

それゆえに、この生きたまま井戸に放り投げたというふうに思える表現は、結構攻めているなあと思ってしまいました

映画では、伊藤野枝が何を成し得て、後世にどのような影響を与えたのかまでは描かれていないので、現在とどう繋がっているのかが読めてきません

 

日本における女性の参政権は昭和21年の4月10日で、これは戦後のダグラス・マッカーサーが行った5大改革の「参政権賦与による日本婦人の開放」によるものでした

1945年11月21日に、勅令によって治安警察法が廃止され、女性の結社権が認められるようになります

そして、同年12月17日の改正衆議院議員選挙法公布によって、女性の国政参加というものが認められるようになります

女性の国政参加としての初めての選挙(衆議院選挙)が昭和21年4月10日に行われ、これによって日本初の39名の女性議員が誕生する事になりました

 

その年の5月16日に第90特別国会の審議が行われ、それによって大日本帝国憲法の全面改正案が成立し、第14条の「法の下の平等」にて、女性の参政権が明確に保障される事になります

これらの起草となっているのが「新婦人協会」で、それを立ち上げた人物の一人が平塚らいてうでした

その後、1922年に治安警察法5条2項改正という成果をあげた後に市川房枝と平塚らいてうが去り、「新婦人協会」の婦人運動は「婦人参政権獲得期成同盟会」へと引き継がれる事になりました

パンフレットには、「平塚らいてう」「大杉榮」と共に「世界情勢」というものが併記された年表があるので、どのような時代だったかというのがよくわかりますね

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/100592/review/03478128/

 

公式HP:

https://www.kazearashi.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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