■歴史の細かな発見から紡ぎ出されるものも、史実に敬意があれば問題ないのかもしれません
Contents
■オススメ度
コメディ時代劇が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.10(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2024年、日本、119分、G
ジャンル:吉良邸討ち入りを題材に描くコメディ時代劇
監督:河合勇人
脚本:土橋章宏
原作:土橋章宏『身代わり忠臣蔵(幻冬舎文庫)』
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キャスト:
ムロツヨシ(吉良孝証:殺された吉良上野介の身代わりをする坊主)
ムロツヨシ(吉良上野介:殺された殿、孝証の兄)
永山瑛太(大石内蔵助:赤穂藩長老)
【吉良家関連】
川口春奈(桔梗:殿を支える侍女)
寛一郎(清水一学:仕事人気質の剣客)
林遣都(斎藤宮内:身代わりを思いつく家臣)
板垣瑞生(加藤太右衛門:家臣)
真白るか(加藤太右衛門の妻)
本多力(堀江半右衛門:門番)
【赤穂藩関連】
星田英利(原惣右衛門:赤穂藩の武士)
廣瀬智紀(片岡源五右衛門:赤穂藩の武士)
濱津隆之(奥田孫太夫:赤穂藩の武士)
野村康太(岡野金右衛門:赤穂藩の武士)
入江甚儀(間十次郎:赤穂藩の武士)
森崎ウィン(堀部安兵衛:赤穂藩の武士)
真島光平(大野九郎兵衛:赤穂藩、次席家老)
柴田善行(赤穂浪士?)
いわすとおる(赤穂浪士?)
東山龍平(橋本平右衛門:赤穂浪士)
太田雅之(神崎与五郎:赤穂浪士)
峠蘭太郎(赤穂浪士?)
野波麻帆(りく:大石蔵之介の妻)
尾上右近(浅野内匠頭:吉良に切り掛かった殿)
【幕府関連】
北村一輝(徳川綱吉:犬将軍)
柄本明(柳沢吉保:フィクサー的存在)
【その他】
橋本マナミ(高尾太夫:遊郭 No.1の遊女)
加藤小夏(春凪:遊女)
紅壱子(孝証に恵む町民)
曽我麺屋八十吉(孝証を揶揄う町民)
桑原良二(通行人A)
田川ヱリナ(若草:町民)
高田幸季(江戸の少年)
大西ユースケ(町民)
江島千智(江戸の町民)
本持華名(江戸の町民)
岡内学(江戸の町民)
塚本加奈(江戸の町民)
野村昌嗣(江戸の町民)
茂田優斗(江戸の町民)
吉野智貴(江戸の町民)
森七菜(ナレーション)
■映画の舞台
元禄14年〜
日本:江戸
ロケ地:
京都市:左京区
金戒光明寺
https://maps.app.goo.gl/ZAYpLqo2VFHbq6229?g_st=ic
京都府:宇治市
萬福寺
https://maps.app.goo.gl/Z6v7oc5aN6crjsVb9?g_st=ic
京都府:長岡京市
西山浄土宗 粟生光明寺
https://maps.app.goo.gl/h4FHXUAKCBvoAPur5?g_st=ic
京都市:右京区
大覚寺
https://maps.app.goo.gl/7qcXJiVyaMfUhWDn8?g_st=ic
京都市:下京区
佛光寺
https://maps.app.goo.gl/sEwECYpegPXvzfbHA?g_st=ic
滋賀県:大津市
日吉大社
https://maps.app.goo.gl/aDJShwuSRPnprVSS9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
嫌われ者の吉良上野介は、ある日、赤穂藩の浅野内匠頭に、松の廊下にて斬りかかられてしまう
幸い傷は浅いと思われたものの、背中に傷があったことで「不名誉な逃げ傷」について釈明する必要があった
だが、吉良の傷は思ったよりも深く、居候状態の末弟・孝証が尋ねてきた際に帰らぬ人となってしまう
どうしたものかと慌てふためいていたところ、孝証を身代わりにして切り抜けようと、家老の斎藤宮内は思いついてしまう
吉良家のお取り潰しなどには興味を示さなかった孝証だったが、斎藤から金銭の話が出たことでそれに釣られてしまう
その後、柳沢への申し開きを凌いだ孝証だったが、吉良家の当主としての居心地の良さと下心が芽生えてしまい、つい身代わりを長引かせてしまうことになる
一方その頃、幕府の方針に意を唱える赤穂浪士たちは仇討ちの準備を始めていた
テーマ:武士の魂
裏テーマ:命と魂
■ひとこと感想
コメディタッチのもしも時代劇シリーズで、歴史上ありそうと思わせる巧妙なセッティングになっていました
実際に五男の孝証という人物がいるところが歴史の妙で、この設定でこんな話はどうでしょうという展開になっていました
基本的にコメディ要素が強すぎるのですが、孝証が決断に至るまでの綿密な過程は意外と緊張感を保てていたと思います
超有名な話なので、一般教養として知っていれば話にはついていけますし、少し詳しい人ならば、この人がこの浪士の役をやっているのか、などという細かさところに目がいくのかなと思いました
個人的には、日本史にはそこまで興味がないので一般教養レベルですが、その視点だと「面白いことを考えるなあ」と思ってしまいます
映画は近くのシネコンで観たのですが、まさかの火災報知器が鳴って映画が中断するという貴重な経験をしてしまいましたね
ものの1分で「安全」がわかったのでホッとしましたが、その後10分ほどで、5分程度巻き戻して再開ということになりました
観ていた映画がコメディで、ちょうど「柳沢から囮になれ」と言われた直後でしたので、ちょっと長いCMが入ったなあと思ったくらいでしたね
その後、外に出たら「次の映画待ちの人で溢れかえっていた」ので、映画館のスタッフは大変だっただろうなあ、と思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、もしも吉良邸討ち入りが芝居だったらというものですが、思惑のようにはいかず、あれで誰も死んでいないは無茶だったりします
とは言え、そこを突っ込む映画ではないのですが、全体的にゆるーい感じに仕上がっていましたね
ラストの生首ラグビーは相当練習したんでしょうけど、生首がリアルで笑えない感じになっていました
物語は、穀潰しが改心するという流れと、上野介の悪行が暴露される流れになっていて、「人が変われば国も変わる」というものを体現しているような映画でした
国(藩)のトップがどんな人物かで庶民の生活は変わるという典型的な物語ですが、現代の日本を重ねて、はよ辞めてくれないかなあと思う人が続出しそうな気がしないでもありません
とは言え、映画としては「暇つぶしに観るにはちょうどいい」という感じなので、ムロツヨシのアドリブ芸が嫌いでなければOKではないかと思いました
■実際の吉良邸討ち入りについて
本作は、いわゆる「赤穂事件」を取り扱っている歴史改変コメディになっていて、この事件は実際に起こったもので、その後「人形浄瑠璃」「歌舞伎」などの演目となって、世間に認知されたものでした
基本的には「赤穂事件」と言われていますが、「文久赤穂事件(森家の攘夷派が家老・森主税を暗殺した事件)」「正保赤穂事件(池田家・藩主の池田輝興が狂乱して正室などを殺した事件)」との区別をつけて「元禄赤穂事件」と呼ばれている場合があります
人形浄瑠璃・歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」以降は忠臣蔵と呼ばれることが多く、赤穂義士伝と呼ばれることもあります
吉良を討ち取った47人の赤穂浪士を取り扱った大佛次郎の小説『赤穂浪士』にて、「赤穂浪士」が一般化されたとも言われています
この事件は元禄14年3月14日に赤穂藩主浅野内匠頭長矩が江戸城の松の廊下にて、高家吉良上野介義央に斬りかかった事に端を発しています
この時に江戸城では、朝廷の使者を接待している真っ最中で、場所柄をわきまえずに斬りかかった浅野内匠頭に対し、徳川綱吉は大激怒し、浅野は即日切腹、浅野家は没収の上改易され、吉良にお咎めはなかったとされています
これに反発した家臣たちは大石内蔵助を筆頭に協議を重ね、まずは赤穂城を明け渡す事になります
一方の江戸に詰めていた家臣たちは強硬派が多く、吉良を討ち入る事にこだわりを見せていきます
大石は彼らを宥めるために何度も江戸に出向きますが、大石の弟・大学の閉門が決まり、お家再興の道が事実上閉ざされたのを機に「円山会議」にて吉良邸に討ち入ることを決定します
仇討ちの意思を確認するために血判を同志に返し、それを拒否したものだけを討ち入りに参加させる事になります
そして、元禄15年12月14日、彼らは吉良邸に侵入して、吉良上野介の討ち取りに成功します
この時に参加したのが47人だったとされ、1名(寺坂)を除いた46人は幕府に報告し、幕府の指示に従って全員切腹することになりました
■吉良孝証とは何者か
吉良孝証は、吉良上野介の弟で、末っ子の五男坊でした
Wikiなどもない人物で、ググってもほとんど情報が出てこない人物でもあります
わかっていることは「僧になった」ぐらいのもので、この存在を知って歴史改変もののアイデアを練ったものと考えられます
この物語の構図としては、「上に立つものが愚かだと、それを支える人々は不幸になる」というもので、さらに「最上級の人物の判断の重さ」というものが描かれています
赤穂浪士が討ち入りをしたのは、義憤に駆られてということもありますが、これを実行しないと末代までの恥であるという武士の心得があったものと推測されます
そして、そんな彼らの本当のところを描くために、史実にいるが情報のない的役を見つけ、その内面を掘り下げるという内容になっています
このような見方もあるのか!という視点の面白さがある一方で、実際に起きたことは何ひとつ変えないことで、そのリアリティを強めている、と言えます
孝証に関してはよほど詳しい人でないとその実情はわからないと思いますが、この事件に僧侶の視点が加わるというのは面白いと思います
言わば、お家騒動の対極にいる人物で、そこから見える景色は滑稽以外の何者でもありません
お家が取り潰しになったのなら、出家すればいいじゃない?というテイストで向かえる人物で、しかも市井に近い視点を持っている
この効果も相まって、町民たちの思いを汲み取ることに成功しています
一方の大石は史実に準えて部下たちを説得しますが、最後まで武士として生きることを決めていて、その機会をずっと伺う人物として描かれていました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、コメディ時代劇ですが、描かれている内容はシリアスそのものだったと思います
原作は未読なのでテイストはわからないのですが、劇中でかなりの人間が死んでいるので、それをコメディにしてしまうのにはかなりのハードルがあったりします
とは言え、かなり昔のことで、武士道が存在していた時代でもあるので、命の重さというものの認識が今とは違うと言えるでしょう
現代では仇討ちそのものが禁止されていますが、日本が銃社会だったら、もっと殺伐として世界になっているのでは?と危惧されるほどに、その精神は根底にあると言えるでしょう
映画では、悪政によって虐げられた者たちの行き場のなさを利用している幕府が描かれていて、柳沢が標的にならないところが面白いところでもあります
孝証も大石も柳沢の暗躍というものは承知なので、状況を利用している柳沢は一番の癌のような存在だったでしょう
歴史を思いっきり改変しても良いのなら、全てのことが終わった後で、孝証が柳沢を暗殺する、という筋書きも描けるように思えます
吉良家は孝証の出現によって明るさを取り戻す一方で、大石の悲壮感は行き場のないところへと家臣たちを誘っていきます
大義名分として、吉良邸への討ち入りを決行しますが、彼自身は46人を巻き込んだ側にも思えてきます
実際に吉良を殺すためには相応の人数がいることがわかりますが、犠牲になるのは自分だけで良いと考えることもできるのですね
でも、吉良を殺した後に自分が切腹する事になっても、残された人たちはどのように生きていけば良いかわからないと思います
それゆえに、事を成し終えて死んでも良いという人物の絞り込みというものには相当な苦労があったように思えました
映画では、すでに吉良が死んでいるけど、部下たちの気持ちを汲んで一芝居を打つ事になりますが、あの状況で犠牲者を出さないというのは無理があるように思えます
その後は生首ラグビーという品のない演出になっていくのですが、このあたりの暴走が原作者が行ったというところに一種の闇を感じてしまいますね
吉良家をこのような状況に置いた人物でもあり、赤穂浪士の念願でもある首なのですが、それを足蹴にしたりする演出が爽快かと言われれば微妙なのだと思います
そこは品性を持って接する方が武士的かなという感じが否めないのですね
そう言った意味において、あの場面は素に戻る感じがして、暴走が過ぎるなあと思ってしまいました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99885/review/03468330/
公式HP:
https://migawari-movie.jp/(江戸の町民)