■華やかなパリの光は、3人の女の人生を色濃く捉えていく
Contents
■オススメ度
渋めのミステリーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.3.29(京都シネマ)
■映画情報
原題:Maigret
情報:2022年、フランス&ベルギー、89分、G
ジャンル:身元不明の女性の死体遺棄事件を追う警視を描いたミステリー映画
監督:パトリス・ルコント
脚本:パトリス・ルコント&ジェローム・トネール
原作:ジョルジュ・シムノン/Georges Sinemon『Maigret et la jeune morte(邦題:メグレと若い女の死、1954年)』
キャスト:
ジェラール・ドパルデュー/Gérard Depardieu(ジュール・メグレ/Jules Maigret:事件を追う警視)
ジャド・ラベスト/Jade Labeste(ベティ:メグレに万引きを見つかる貧乏な女)
メラニー・ベルニエ/Mélanie Bernier(ジャニーヌ・アルメニアウ:女優志望の女)
ピエール・モウレ/Pierre Moure(ローラン・クレルモン=ヴァロワ:富豪の息子、ジャニーヌの婚約者)
オーロール・クレマン/Aurore Clément(ヴァロア夫人:ローランの母)
クララ・アントゥーン/Clara Antoons(ルイーズ・ルヴィエール:身元不明の殺された女)
Jean-Paul Comart(アルベール・ジャンヴィエ:メグレの部下、警部)
エルベ・ピエール/Hervé Pierre(ポール医師:解剖医、警察外科医)
フィリップ・ドゥ・ジャネラン/Philippe du Janerand(コメリオー裁判官、メグレの友人)
ベルトラン・ポンセ/Bertrand Poncet(ラポイント:メグレの主治医、警察の医師)
エリザベート・ブールジーヌ/Élizabeth Bourgine(イレーネ:ドレスのレンタル屋)
アンドレ・ウィルム/André Wilms(カプラン:ルイーズを知る老人)
Ludia Gentil(ルイーズの下宿先の大家)
アン・ロワレ/Anne Loiret(ルイーズ:メグレの妻)
Pascal Elso(クレルモン家の顧問弁護士)
Louise Loeb(クレルモン家のメイド)
Norbert Ferrer(レストランのオーナー)
Edith Le Merdy(ビストロのウェイトレス)
Moana Ferré(サロンの女)
John Sehil(墓地の管理人)
Alan Gueneau(ルイーズを乗せたタクシー運転手)
Estelle Galarme(ルイーズを知る薬剤師)
Benjamin Wangermee(広場で証言する男)
Eric Paradisi(婚約パーティーのカメラマン)
■映画の舞台
1953年、
フランス:パリ
モルマントル
バンティミーユ公園
https://maps.app.goo.gl/9nvkYHJETXRaZVQ38?g_st=ic
ロケ地:
フランス:パリ
ル・ベジネ
https://maps.app.goo.gl/KxyAwK92n8Q1ytvz9?g_st=ic
Quai de Bourbon(ブルボンの桟橋)
https://maps.app.goo.gl/6c8rCeZjckF1d67K7?g_st=ic
Rue Saint-Vincent(St ヴィンセント通り)
https://maps.app.goo.gl/694YemAqaeR2pumL6?g_st=ic
Sq. Alboni(アルボーニ広場)
https://maps.app.goo.gl/QGFz8jkyh5XQvEhH8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1953年、フランス・パリにあるヴァンティミーユ広場近くで、身元不明の死体が発見された
若い女はイヴニングドレスを見に纏い、複数箇所ナイフか何かで刺されていた
メグレ警視がこの事件を担当することになったが、被害者の身元特定は困難を極めた
司法解剖が終わり、メグレはポール医師から「死因は刺し傷ではない」と言われ困惑する
どこかで殺された後に遺棄され、そこで死んだ状態で刺された可能性が浮上してくる
身の丈の合わない高級な装飾の被害者はどうして殺されたのか
そんな折、メグレは万引きをしようとしていた若い女ベティと出会う
彼はベティに親身になり、妻ルイーズも彼女に優しく接していく
そして、ようやく被害者の身元が割れ、彼女がある一家と関わりがあることが判明するのである
テーマ:親の寵愛
裏テーマ:親の偏愛
■ひとこと感想
かなり昔の小説だったので、これまでに何度もメグレ警視を色んな俳優さんが演じてきましたね
今更感があって、懐かしの映画リバイバル上映なのかなと思っていましたが、昨年に作られた新作とあって、少し驚いてしまいました
映画は、ある不審死の謎を追う物語ですが、殺害方法を推理するのではなく、被害者がどんな人生を歩んできたのかを紐解く流れになっています
そして、同じように「パリに憧れを持つ女性ベティ」が登場し、関連がない2人に関連性を持たせていくラストは興味深いものがありました
作品自体はかなり暗めのテイストで、パリの女三人(ルーイズ、ベティ、ジャニーヌ)が同じような境遇にありながら分岐していく様を追って行きます
ミステリーと言うよりはヒューマンドラマに近い印象があって、「メグレにとっての若い女とは何か」と言うものが描かれていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
犯行が起こった日が「ジャニーヌとローランの婚約発表の日」になっていて、そこに参加した女性が不審死を遂げると言う流れを汲んでいます
身元を示すものがなく、彼女の存在がパリでは認知されていませんでしたね
ようやくニース出身と言う言葉が出てきましたが、土地勘がないと意味がわからないかもしれません
ニースは南仏の地中海に面した街で、パリからすれば南の田舎者と言う感じになると思います
田舎から出てきた女たちはどのように成り上がっていくのか、と言うのが描かれていて、女優として御曹司をゲットしたジャニーヌは勝ち組で、彼女が抜けたところに来たのがルーイズと言う感じでしょうか
そして、その道にすら入れないのがベティと言う人物のように見えます
メグロと妻の間にも娘がいましたが、原作だと幼少期に亡くなっていますね
本作でメグロ夫妻がベティに固執するのは娘がもし生きていたら、と言う「もしも」の世界を想起させているように思えました
映画は「出てきた瞬間に怪しいのがわかる系」ではありますが、子どものために人生を投げ出すと言う意味を履き違えた顛末は恐ろしくもあり、悲しくもあると思います
■当時のパリあれこれ
映画の舞台は1953年、フランス共和国・第四共和政の時代で、ヴァンサン・オリオール政権の時代になります
第二次世界大戦後の後始末をしていた時期で、多くの植民地で独立闘争の蜂起が始まった時期になります
1950年の朝鮮戦争勃発において、東西冷戦が激化した時期で、いわゆる混沌とした時代に入ったばかり、と言えるかと思います
映画の舞台の翌年にルネ・コティ大統領に代わり、1957年にEEC(のちのEU)の結成に着手しますが、アルジェリア問題が再燃して、クーデターが起こっていますね
映画はまだそこまでのややこしさはないものの、貧富の差が戦後で広がったまま、と言う状況になります
殺されたルイーズはニース出身ということで、ニースは南フランスの地中海に面する都市ですね
そこからフランス中心部のパリに上京し、そこで成功を夢見ますが、ジャニーヌは成功を収めたものの、彼女はうまくいかなかったように描かれています
ジャニーヌは女優として成功し、富豪のローランと婚約に至りますが、ルイーズとの生活は黒歴史認定しているように思えました
婚約発表の場に背伸びした格好で登場したルイーズでしたが、彼女を見るや否や、外に追い出し、ローランも「金が目当てなのか?」と数枚の紙幣を彼女に押し付けているシーンがありました
事件はこの時にローランがルイーズを押したことで勃発、彼女はその反動で階下に落ち死亡したとされています
そのことを知ったヴァロワ夫人が隠蔽を工作し、ラストでも罪を被るという感じになっていました
記憶が正しければ「新婚旅行に送り出すまでは待ってほしい」みたいなやり取りがあったと思います
■メグレが若い女に執着を見せるのはなぜ?
ジュール・メグレはジョルジュ・シムノンによる架空のキャラクターで、パリ市警の警視というポジションになります
1931年の『The Strange Case of Peter the Lett』で登場し、国際的な詐欺師であるピーター・ザ・レットを追う物語となっています
最後に登場したのは1972年の『Maigret and Monsieur Charles』で、引退間近のメグレが警部として登場しています
内容はパリの弁護士の夫の失踪に関わるというものでした
この期間に、メグレに関する75作の小説と28の短編が出版されています
これらは50以上の言語に翻訳されて、世界各地で読むことができます
メグレのモデルは実在したフランス人探偵マルセル・ギヨームという説が有力ですが、彼はそこに至ったインスピレーションを覚えていないと語っています
メグレのキャラクターは「大柄な男」で「無愛想」、妻はルイーズという女性ですが、多くの作品では「メグレ夫人」と表記されています(本作も同じ)
彼の友人として登場するのが、検察官のルーカス、部下のジャンヴィエ、主治医のラポイントで、警察の外科医ポールや治安判事のコメリオー裁判官が登場しています
メグレの年齢は50歳前後となっていて、45〜55歳の間で描かれています
そのキャリアは、20代でパリ市警に入り、30代で殺人課、40代で課の主任警部になっています
メグレとルイーズの子どもはいませんが、幼い頃に亡くなったとされています
ちなみに、原作者のジョルジュ・シムノンの娘マリー=ジョーは、20歳の時に自殺したとされていて、それが小説の設定に影響を与えているという見方もあるようですね
ちなみに、この映画の原作である『Maigret et la Jeune morte』は45作目となっています
内容は「若い女が死体で発見される」というところは同じですが、その背景に当たる部分はかなり改変がなされています
メインは「若い女」に肩入れするメグレという構図ですが、それが亡き娘を彷彿させているように見えないことはないという感じになっています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は「ほぼ犯人がわかるスタンス」で始まり、メグレがどのようにして到達するかを描いていきます
本作では、被害者の背景を洗っていく中で、浮上する人々に話を聞いてたどり着くのですが、大体3日間ぐらいの話だったと思います
殺人が認知され、解剖結果をポールと話し、ラパポルトと本当の死因にたどり着くという流れなのですが、ポールとラパポルトのビジュアルが似過ぎていてちょっと混乱してしまいました
また、冒頭のルイーズの着替えシーンと、後半のベティの着替えシーンでも同じようなカットを使っていて、このあたりはわざとなのかなと思いました
映画は登場人物が少ないのですが、ほとんどの場面で相手の名前を呼ばないので、キャスト欄を見ても一致しないキャラが多くて焦りました
このあたりが一見さんお断りみたいな感じに思えて、ある程度「メグレ」を知っている人向けなのかなと思います
推理の過程は実にロジカルで、情報を集めてくるジャンヴィエが優秀だなあと思ってしまいました
一歩一歩進んでいく系で、ジャニーヌの関与が間接的だと見抜いてから、ベティを使うくだりが秀逸だなあと思います
映画は、パリで夢を見た三人の女性の悲哀を描いていて、ジャニーヌは狡猾に富豪をゲット、ルイーズは無惨な死、そしてベティはおそらくは地元に戻るのかなと思わせてくれます
パリの華やかさの裏側にある闇は深く、そこで生き残るために何が必要なのかを純粋に紐解くとするならば、自己主張が激しく、手段を選ばない覚悟が必要になると言えるのでしょう
このあたりの悲哀が3人の女性の生き様として描かれていて、さらに事件の首謀者であるヴァロア夫人の胆力というものが描かれていきます
このまま突き進むとしたら、ジャニーヌは彼女のような女性になるのかもしれませんが、パリの映画界で成功するためには、あれぐらいの胆力がなければ難しいのかなと感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385637/review/0f575de7-f1df-4f0f-b082-47d9a7f1d310/
公式HP:
https://unpfilm.com/maigret/index.html